マイスターです。
突然ですが皆様は、「クロスセル」という言葉を聞いたことがありますか?
これはマーケティング用語のひとつで、簡単に言えば
「何か商品を買ってくれるお客様に対し、その商品に関連する別の商品を同時に勧めること」です。
クロスセルを説明する際よく引き合いに出されるのが、マクドナルド。ハンバーガーを買おうとすると、
「お飲み物はいかがですか?」
「ご一緒にポテトはいかがですか?」
……と勧めてきますよね。あれがクロスセルです。ハンバーガーを買う人なら、これも一緒にほしがる可能性が高いぞ! という組み合わせをお店側が提案してくるわけです。結果として、ダイエットするつもりで単品を注文したのに普段通りポテトまで食べてしまい、後で後悔するハメになったりします。
でも、商売としてはうまいですよね。
もうちょっと高度な例としては、例えば紳士服売り場でスーツを買うときに
「シャツはお持ちですか? このスーツですとこのようなシャツが合うと思うのですが、いかがでしょうか?」
「冠婚葬祭用のネクタイを同時に買っていただくとお得ですよ」
「よろしければベルトもあわせていかがでしょうか? よろしければいくつかデザインの合うものをお持ちしますが」
などと営業さんが勧めてきたりしますよね。あれもクロスセルです。
おかげでマイスター、紳士服店でスーツだけを買って出たことがありません。
どうやら自分は、クロスセルに弱いみたいです。
クロスセルを成功させるコツは、関連の強い商品、同時に使う可能性の高い商品を勧めるということです。
「ついでにこれも買っちゃおうかな。その方がお得みたいだし」とか、
「あ、これも一緒にあると便利だな」とか思わせたら勝ちです。
Amazon.comの「この商品を買った人は、別のこんな商品を買っています」というあのおなじみの表示はある意味、クロスセルの究極の姿のひとつと言っていいでしょう。
昔ながらの営業トークからネットビジネスまで、実は広く活用されている手法が、クロスセルです。
↓こんなニュースを読みながら、そんなマーケティング用語を思い出していました。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「関大、近大…『全入』迎え、私立大“併願割”など続々」(読売オンライン)
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20070127p102.htm
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「大学全入時代」を迎え、入試の受験料を割引する私立大が急増している。今春は近畿大(大阪府東大阪市)や早稲田大(東京都)などが導入、割引制度を設ける私立大は全体の半数を超える。複数の学部や学科を併願したり、同じ学部を大学入試センター試験利用の入試でも出願したりした場合などに本来かかる受験料を割り引く方式で、受験生の負担を軽くして志願者増につなげようというのが大学側の狙いだ。
近畿大は、一部の日程に1回の試験で法、経済、経営学部のうち2学部が受けられる方式を導入。受験料は3万5千円で、2学部なら計7万円だが、2万5千円安い4万5千円となる。
(略)
関西大(大阪府吹田市)は1回の試験で2学部が併願できる日程があり、計7万円が5万円に。立命館大(京都市)理工、情報理工学部では、受験1回の「2学科併願制」で計7万円が4万5千円になる。
(上記記事より)
同じ学部内の学科や、学問領域が似ている学部などを一度の試験で併願できる仕組みですね。最近では、あまり関連してない学部でも一度の試験で併願できるような、大胆な併願システムを導入する大学も出てきているようです。
この
「経済学部を受けるなら、経営学部にも出願してみない?
その方が受験料もお得だよ!」
……という制度で受験生の受験回数を増やそうという試み。これって、ちょっとクロスセルの発想に似てるかもなぁと、記事を見ながらマイスターは思ったわけです。
正確に言うと、「受験機会」という商品を売る段階で、「こちらだけじゃなく、こちらもついでにどうぞ」というクロスセルの手法を用いているのですね。関連のある商品を同時に勧めることで顧客一人あたり購買品目数を増やすというアプローチです。
ただ、その後にやってくる「入学&4年間の学生生活」という商品は、どちらもというわけにはいきませんよね。上記の例の場合、実際に受け取れる商品(=入学後の4年間)は、経済学部か経営学部かのいずれかひとつ。最終的に受験生が選べる進路はどちらか一つです。ですからここはクロスセルの発想が使えません。普通の二者択一です。
ですので全体を見れば、厳密にはクロスセルとは言い難いのですが、部分的にクロスセルっぽい発想が取り入れられているなぁ、などと感じた次第です。
併願に関するこうした工夫からは、受験機会を多様化させて顧客獲得の機会を増やそうという、各大学の涙ぐましい努力を感じます。
しかしながら、これのアプローチって、やりすぎるのもあまりよくないように思います。
だって、
「○○学部を受けるんなら、こちらの△△学部もいかが?
さらに□□学部も、一度の試験で併願できますよ。
あ、××学部を同時に受けていただいたら、受験料がさらにお得ですよ」
…っていう説明は、すなわち
「どの学部に入ってもあんまり変わりませんよ」
…と言っているのと同じなんですもんね。
上で挙げた記事にあるような「経済と経営」「理工と情報理工」くらいならまだいいのですが、「全学部併願可能」みたいなことになると、正直、疑問を感じないでもありません。こんなに露骨に併願を勧めてくるってことは、つまりそれぞれの中身は大差ないってこと!? と考える受験生もいるんじゃないでしょうか。
もちろん、「将来やりたいことはまだ漠然としか決まってないので、大学4年間を通じて色々な可能性を探っていきたい。だから入り口はどちらの学部でもいい」という方もおられることでしょうから、こうしたアプローチが必ずしも悪いというわけではないでしょう。ただ、「あまりやり過ぎると、不信感を覚える人もいる」という視点も持っておいた方がいいのではと思います。
受験生を増やすために、現実としてこういった工夫が必要であるという事情もわかります。ですから、なるべく受験生の興味関心に沿ったナビゲートをしながら、受験料も確保できるようにしなければなりません。
入試関連業務を担当される方々は、さぞ大変だと思います。「受けてくれれば誰でもいい」というわけでもないでしょうし……。
以上、そんなことをぼんやり考えたマイスターでした。
涙ぐましい大学の者です。記事中の併願、理工学部内でも近い分野の学科間でのみ併願可であったり、情報理工学部は学部内でのみ併願可能といったように、やはりそれなりに最後の一線は超えないようにしています(しているつもりです)。あとは受験生がどう受け止めたかが気になっております。さ、受験本番。我々も頑張ってまいりましょう。
某さま:
こんにちは。マイスターです。
コメントありがとうございました。
そうですよね、「最後の一線」の雰囲気、伝わってきました!
私の職場も同様に、あれこれと涙ぐましい工夫を凝らして受験生をお待ちしているようです。うまくいったかどうか、この2、3月で結果が出るわけです。どきどきですね。
お互い、頑張りましょう!
遅いコメントで恐縮です。学科間、学部間の垣根を取り払うというカリキュラムが流行しているように思います。入試でのこういった手法はその影響もあるのではないでしょうか。