愛校心のカタチ(3):自校教育の取り組み(国立大学)

今日は「日本高等教育学会」の大会が都内で開催されるということで、久しぶりに学会に参加したマイスターです。

学会大会は、大学院生時代に発表しに行った「日本建築学会」以来です。
考えてみればマイスター、建築学においては(一応)学会発表もしたし、審査付きの学会誌論文も(1本だけ)通っていますが、教育についてはまだ何にも学術的貢献はしていませんから、アカデミック世界の住人から見れば、まだまだ「建築学の人」なんでしょうね。

「4つの大学の関係者」ということで、面白い経験をしてきたと思っているマイスターですが、全然違う学問領域の学会に参加するのも、オツなものです。

さて、本日、日本高等教育学会に参加してきた理由は、先日書いた通りです。

・愛校心のカタチ(1):愛校心って何?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50201462.html
・愛校心のカタチ(2):自校教育の取り組み(私立大学)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50202356.html

私立大学では、愛校心を育成するということを主な目的として、様々な「自校教育」が行われていました。
大学創立者を知る、OBと意見を交換する、大学のイベントに参加する、学校の教育理念や精神を学ぶ、などの行動を通じて、学園構成員としてのアイデンティティーを共有するということが、多くの大学のねらいのようでした。
では特定の創立者がおらず、私学ほどハッキリとした建学の理念や精神がない国立や公立の大学ではどうなのか?
それが気になっていました。

何しろ、産経webの記事

■「薄れる愛校心 講義に「自校教育」取り入れ鼓舞 ≪大学の歴史や校歌…早慶戦観戦必修まで≫」(産経web)
http://www.sankei.co.jp/news/060521/sha004.htm

によると、国立大学の4割が、自校教育を展開しているというではないですか。

「意外に多いじゃないか!」 と、産経の記事を読んで感じたわけです。
で、「待てよ、国立大学では、いったい自校教育をやっているの? どうやって愛校心を育てるの?」と不思議に思ったのです。

そんな記事を書いたおり、今回の学会で、産経webの記事でも引用されていた研究、秋田大学大川一毅氏の「大学における自校教育授業の実施状況について -国立大学を主対象とした『自校教育実施状況調査』をもとに-」の発表が行われると知りまして、参加したというわけです。

さて、発表を聞いてわかったことは……

国立大学の自校教育は、愛校心の育成にあまりフォーカスしてない

ということです。

大川氏の調査によると、回答があった国立大学68校のうち、40%に当たる27校が2005年度のカリキュラムで、何らかの自校教育授業を実施しており、2006度に実施を予定しているのが3校。調査範囲内では、確かに4割です。

でも、「自校教育授業の目的」を調べた質問を見ると、面白い結果が出ています。

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【自校教育授業の目的(複数回答可)】

■愛校心・帰属意識の涵養
 国立大学:27%
 私立大学:73%

■自校史・沿革の理解
 国立大学:38%
 私立大学:64%

■日本や世界の大学状況の学習・研究
 国立大学:14%
 私立大学:36%

■自学の目的・理念・使命の周知
 国立大学:59%
 私立大学:64%

(大川一毅「大学における自校教育授業の実施状況について -国立大学を主対象とした『自校教育実施状況調査』をもとに-」2006 より。強調部分はマイスターによる)
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このように、「愛校心・帰属意識の涵養」を目的としているかどうかで、国立と私立の間に、非常に大きな差が出ているのですね。私学では、<「自校教育」=「愛校心」>と言ってしまってもほとんど差し支えないくらいですが、国立ではむしろ少数派です。「自校史・沿革の理解」「日本や世界の大学状況の学習・研究」も、私学に比べると国立大学の回答は少ないです。

「自学の目的・理念・使命の周知」という目的は意識されているようですから、「大学メンバーとしてのアイデンティティーを学ぶ」ということが、軽視されているわけではないのです、おそらく。しかし「愛校心」、いや、敢えて「学校を愛する心」と言い換えてもいいですが(笑)、そういった共同体意識の共有にはつながっていないのですね。

では、国立大学は一体何のために、自校教育を展開しているのでしょうか?

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【自校教育授業の目的(複数回答可)】

■学習意欲の促進や学習方法の指導
 国立大学:59%
 私立大学:27%

■自己探求を深める機会の提供
 国立大学:50%
 私立大学:38%

■キャリア・プランニング教育の一環
 国立大学:27%
 私立大学:9%

■教養・基礎教育の一環
 国立大学:55%
 私立大学:64%

■自学の特性や現況の理解
 国立大学:45%
 私立大学:38%

■大学が立地する「地域」の理解
 国立大学:23%
 私立大学:27%

■専門教育の一環
 国立大学:18%
 私立大学:9%

■その他
 国立大学:5%
 私立大学:18%

(大川一毅「大学における自校教育授業の実施状況について -国立大学を主対象とした『自校教育実施状況調査』をもとに-」2006 より。強調部分はマイスターによる)
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このように国立大学では、自己探求、キャリアプランニングなどで、私学よりも多くの回答を集めています

大学を知るというよりも、「自分を知る」という面に重心が置かれているということでしょうか。

私学は「他大学との違い」を意識させることで、共同体意識を共有させる内容になっているけれど、国立はあまりそこを意識せず、あくまで自己探求のためのキッカケと位置づけている。
そんな言い方もできるのかな? なんて、個人的には思いました。

(大川氏の研究では、上記でご紹介した調査結果の他にも様々なデータが分析されており、いずれも非常に興味深いものでした。自校教育の実態について興味がお有りの方は、取り寄せてご覧になると良いかも知れません。発表の内容は「秋田大学教養基礎教育年報 11-21(2006)」として、まとめられています。こちらの研究は、あくまで「国立大学の自校教育の実態」について調べたもので、「愛校心」は中心テーマではありませんので、そこだけご注意を)

ただ、以上は2005年度の話ですので、今後どうなるかはわかりません。

最近は、私学だけでなく国立大学でも、大学基金を設立する動きが増えてきています。
企業やOB、および地域コミュニティから寄付金を集め、基金を運用し、大学の財政を安定させるという戦略ですね。
法人化の影響が最もわかりやすく出てきている部分でしょう。

アメリカの大学でも、愛校心は重視されています。
もっとも、今回ご紹介したような「自校教育」のような授業があるかどうかは知りません。ただ、各種の大学スポーツの活躍や大学ランキングでの順位などに卒業生は一喜一憂し、そうした部分で涵養される愛校心が、寄付金に影響を与えているという話は聞きます。

さて、日本の大学も今後、寄付金戦略を強化していくでしょう。
その時、国公私立の別を問わず、「卒業生に愛されているかどうか」は、寄付金に大きな影響を与える要因になるはずです。
良いことかどうかはともかくとして、自校教育をそうした寄付金戦略の一環として位置づける大学が、今後出てこないとも限りません。

母校への愛を感じにくい現代。
大学関係者は果たして、愛校心をどう扱うべきなのでしょうか。

以上、外出先からのご報告ゆえ、今日は短めなマイスターでした。