【履修逃れ校問題】 対策を巡って、様々な混乱が起きています

いちおう、自分の高校時代の単位取得状況を調べてみたマイスターです。

理工系大学の付属校で、しかも2年生から理系進学コースにいましたが、むしろ余分に地歴公民の単位を履修しておりました。受験を過度には意識していない学校だったのかも知れません。
そういえばマイスターの得意科目は国語と世界史でした。理系の受験ではほとんど役立ちませんでしたが、少なくともこのブログには役立っていると思います。ありがとう、母校の先生方。

さて、世間では早くも「飽きてきた」という空気が漂っている気がする、「履修逃れ校」問題です。(こういう空気って、怖いですよね)
「俺の職場は大学キャンパス」は、ac.jpドメインからのアクセスが非常に多い特異なブログですので、世間の動きは気にせず、堂々と教育関連の話題をご提供できます。ありがとうございます、皆様。

ところで、今現在の被害はどのくらいになっているのでしょうか?

■「必修漏れ、公立私立合わせ7万3千人に」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200610310460.html

必修科目が履修漏れとなっている高校3年生は公立、私立合わせて461校で、少なくとも7万2516人にのぼることが31日、文部科学省の調べでわかった。同日午前4時現在の速報値で、私立の履修漏れの割合は公立の2倍以上だった。
私立は全1348校のうち1110校が調査済み。このうち履修漏れがあったのは172校で、割合は15.5%。公立校の7.1%に比べて倍以上だった。
(上記記事より)

朝日新聞はこの問題を「履修漏れ」と表現し、読売は「履修逃れ」と記述していることに最近気づきました。学校が意図的にやっていたんだから「漏れ」じゃないんじゃないかなと思うのですが、それはさておき、現在の状況です。
私立の15.5%に問題があり、これは公立の倍以上である、という記述が目を引きます。やっぱりこういう数字には説得力がありますね。世間で言われているように受験重視の姿勢が履修逃れを生んだとするのであれば、私学は公立に比べて受験偏重の教育をしている割合が高いということになるのですが、さて、いかがでしょうか。

さて、このように拡大した履修逃れ校問題、その対策で、色々と混乱が起きている模様です。今日はそのあたりをご紹介したいと思います。

【県の中で混乱】
■「『冬休みに補習するな』 富山県教委が高校に指示」(朝日)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200610310194.html

高校の必修科目の履修漏れ問題で、富山県教育委員会は30日、「補習は冬休みにはせずに、卒業式の延期も検討すべし」という方針を該当校に伝えた。高校側は卒業式の日程を変えずに終えるつもりだった。県教委の要求に各校は、保護者に説明をし直したり、計画を見直したりと対応に追われている。
(略)とりわけ困ったのは、この問題の発端となり、この日、いち早く補習を始めた高岡南高。3年生197人全員が、70回の授業のうち12回分を冬休みか国公立大2次試験後の2月下旬か選ぶ計画だった。篠田伸雅校長は「冬休みの補習は撤回しなくては」と困惑し、3月2日に予定していた卒業式も延期を決めた。
(上記記事より)

問題の発端となった高岡南高校では、既に補習計画を発表していたのですね。ところがそこに、県から待ったがかかりました。方針の内容はともかく、生徒や保護者、そして現場の教員は混乱してしまいますよね。

こういった対策の最終決定権がどこにあるのか、マイスターは詳しくは知らないのですが、非常事態においてはこういった混乱は起こりうることです。要は、これくらい今、全国の校長や教員、教育委員会が、混乱の極みに絶たされているということです。

ところで高岡南高校の問題が発覚したのは24日頃だったと思うのですが、それから一週間かからずに同校は補習を実施したことになりますね。文科相の言葉じゃありませんが、スピーディな動きです。最初は今回の「履修漏れ」、あたかも同校だけの問題であるかのように報じられましたから、校長が自分の判断で早期の補講を決定したことは、その時点では正しかったんじゃないかと個人的には思います。

【大学も混乱】
■「虚偽記載判明なら合格取り消し 山形大医学部」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/tanni/news/20061031k0000m040104000c.html

高校の履修単位不足問題で、山形大医学部は30日、同学部の推薦入試(募集数・医学科25人、看護科15人)に出願した生徒の調査書について、合格後に虚偽記載が判明した場合は入学を取り消す方針を明らかにした。
過去に同学部の推薦入試に出願したことがある高校に対し、調査書に未履修の科目を記入しないように求める通知を出す。
(上記記事より)

大学側がこのような方針を発表したケースは、現時点ではまだ珍しいです。ほとんどの大学は事態を静観しているか、もしくは「卒業までにちゃんと単位を取得してきてくれれば問題ない」という方針を打ち出しているようです。

と思ったら、今度はこんな報道が。

■「高校必修逃れ、推薦入学合格者も救済へ…文科相」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20061030it07.htm?from=top

伊吹文部科学相は高校の必修逃れ問題で、必修科目を履修していない卒業生や改ざんされた内申書ですでに推薦入学が決まった生徒の扱いについて「権利にかかわることであり、内閣法制局と協議している。スピード感をもって対応したい」と述べた。
(上記記事より)

■「未履修救済案、補習70回で不足→リポート提出でOK」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20061031it06.htm?from=top

伊吹文科相は同日の衆院教育基本法特別委で、必修逃れの学校が推薦入試などで大学に虚偽の内容を記載した内申書を提出している問題については、週内にも統一見解をまとめ、都道府県教委や国公私立大学長などに通知を出す方針を明らかにした。(上記記事より)

このように推薦志願者についても、国が何らかの方針を打ち出すようです。場合によっては、山形大医学部の発表も撤回されることになるかも知れません。大学も高校も受験生も、みんな混乱するはめになります。

もっともこのケースの場合は、大学側の発表が若干性急すぎたようにも思われます。文科省が対応を協議しているさなかだったわけですから、「文科省の対応を見た上で方針を検討する」くらいの発表でもよかったのかもしれません。

【今後の国全体の教育政策も混乱(?)】
■「受験重視、指導要領と溝 『必修漏れ』拡大」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200610270201.html
■「与党、高校教育課程の見直し検討・履修漏れ問題」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20061031AT3S3102D31102006.html

与党は31日、教育再生に関する検討会を開き、高校必修科目の履修漏れ問題の再発を防止するため、必修科目の削減など高校の教育課程を見直すことで一致した。履修漏れの生徒への救済策として文部科学省は最低70回(1回は授業50分)の補習で卒業を認める案を軸に検討しているが、与党は負担軽減を主張している。
(略)与党が教育課程を見直すのは、学習指導要領が定める必修科目と大学受験に必要な科目にずれがあることが履修漏れを生んだ要因と判断したためだ。
(NIKKEI NET記事より)

もしやこういう展開になるのではないかと気をもんでおりましたが、やっぱりなっちゃいました。
高校の必修科目が大学受験に必要な科目と合っていないから、学習指導要領を受験の実態に合わせましょう、という主張が与党から出ています。

大学の人間であるマイスターがこんなことを言うのもなんですけれど、これは非常におかしな論理なのではないでしょうか。
今まで世界史を必修にしてきたのは、その知識や考え方が中等教育を実践する上で重要だと考えられていたからでしょう。新しく「情報」が必修になったのは、これからの社会においてその知識やスキルが求められるはずだ、と国が考えているからでしょう。
なのに、受験の実態に合わせてどうしますか。

これはいずれ改めて書きたいと思うのですが、大学の入学試験問題は、testingの専門家が作っているわけではありません。入試を良い点数で通った学生が入学後も良い成績を取れるかというと、実はそうでもなかったりする、かなり改善すべき点のあるテストが一般的に行われているのです。試験科目についても同様で、文系の「英語、国語、社会」、理系の「英語、数学、理科」という組み合わせが本当に適切なのかどうかすら、実は怪しいものです。
いずれ大学入試問題にも大きな変革が訪れ、大学ごとにオリジナルの試験を実施するところが増えてくるのではないかとマイスターは考えています(例えばICUのように)。
そうなったら、なおさら大学入試に合わせて国家の統一ルールを変えることの意味が薄れてきます。

この程度のものだったのであれば、いっそ学習指導要領そのものを撤廃すればいいのではないでしょうか。

以上、様々な報道の中から、混乱している様子を報じたものをご紹介しました。

カリキュラムというものは、教育の根幹に関わる、非常に重要な存在です。
何をどのように教えるのが、生徒や学生達にとって最もいいことなのか。それを忘れずに議論していくことが大切かと思います。

以上、マイスターでした。

2 件のコメント

  • 「履修逃れ」っていうと、生徒が意図してやったみたいでおかしな感じがしますね。
    不正をしたのは高校の側なので、「授業不開講」「必修非実施」とか、「成績改竄」とか言うほうがぴったりくるように思います。

  • robbie21さま:
    コメントありがとうございます。
    なるほど、確かに「履修漏れ」「履修逃れ」どちらにしても紛らわしいですね。
    一言ですべてを言い表すのに、ぴったりくる言葉はなかなかありませんね。
    ちなみに記事のタイトルでは、「履修逃れ校問題」という表現を使ってみております。自分でちょっとくどい気もしているのですが、ご指摘の点に関しては、この表現の方が誤解がないかもしれませんね。