大学を脅かす新型インフルエンザ 感染者への対応は?

マイスターです。

新型インフルエンザ、ここしばらくでまた猛威をふるい始めていますね。
大学関連でも、感染者の拡大と、それに伴うイベントの中止などが毎日のように報道されています。

【今日の大学関連ニュース】

福井市江上町の福井医療短期大学は5、6日に予定していた学園祭とオープンキャンパスを中止した。一部の学生に新型インフルエンザの兆候が見られたためで、担当者は「学校の見学会は個別で対応し、学園祭は後日行うか検討中」とした。
「【福井】新型インフル警戒ムードの文化祭 各学校中止、短縮/マスク姿で」(中日新聞)記事より)

関東学生陸上競技連盟は5日、新型インフルエンザの影響を考慮し、今年度の箱根駅伝予選会(10月17日、東京・立川)出場チームの登録選手枠を、現行の14人から20人に広げることを決めた。感染者が出た場合に柔軟に対処できるようにするためで、今年度限りの特例措置という。
「箱根駅伝:予選会で新型インフルエンザ対策」(毎日jp)記事より)

5日に開幕する福岡六大学野球が2日、新型インフルエンザの影響で試合前に予定していた開会式を取りやめると発表した。福岡六大学野球連盟によると、複数の大学で野球部員が新型インフルエンザを発症。感染拡大を防ぐため中止を決めたという。大学名などは公表していない。
(略)8月29日に開幕した九州六大学野球リーグでも新型インフルエンザが原因で開会式を取りやめている。
「新型インフルで福岡六大学開会式中止」(Sponichi Annex ニュース)記事より)

9月現在、ほとんどの大学はまだ夏休み中です。
それなのに上記のような状態なのですから、授業開始とともに感染が急激に拡大するのではないか……と心配する声も出ている模様。

実際、厚生労働省は感染のピークを10月上旬と想定しているようです。
10月は学園祭のほか、AO入試を実施する大学も非常に多く、各大学はどのような対応をするか、判断を迫られそうです。

ちなみに↓こちらは、先日AO入試を実施した女子栄養大学についての報道。

新型インフルエンザの感染拡大を受け、坂戸市千代田の女子栄養大学は、6日に実施した試験で、受験生全員にマスクを配布し、着用を義務づけた。
この日行われたのは、多面的な視点で選考するアドミッションズ・オフィス(AO)入試で、全国20都道県から173人が受験。
付き添いの保護者らを含め約500人分のマスクを用意し、正門の受付で、受験生に消毒液で手を洗わせた後、手渡した。受験生たちは、試験のリポート作成だけでなく、面接などでもマスクをつけたままだった。
「入試 マスク面接  女子栄養大  インフル対策」(読売オンライン)記事より)

マスクをしたまま面接。

試験を運営される教職員の皆様は、マスクを着用されたのでしょうか。
いずれにしてもお互い、やりにくかったことでしょう。
今年は、こんな光景が多くの大学で見られるのかも。

AO入試でこれですから、数多くの受験者が全国から1カ所に集まる一般入試ではどうなるのか。
冬から始まる一般入試について、各大学はどのように対応すればいいのか、政府を中心に議論が始まっています。

文部科学省は、新型インフルエンザ流行時に大学入試を円滑・安全に実施する方法の検討を始めた。幹部職員6人から成るプロジェクトチームの下に、医療の専門家や学校関係者らで構成する作業部会を設置。9月4日に初会合を開き、試験当日に感染していた受験生に追試験などの救済措置を取ることが可能かどうかなどを含め、対応策を協議する。
(略)大学入試センター試験では、病気やけがなどやむを得ない事情で受験できなかった場合に追試験を受けることができる。だが、国公立大の2次試験や私立大入試の多くでは、こうした措置はない。新型インフルエンザ患者が無理をして試験会場を訪れれば感染の拡大も懸念され、「受験する権利」を尊重することとの兼ね合いも問題となる。
(上記「新型インフルエンザ:大学入試の対応検討 文科省が部会設置」(毎日jp)より)

新型インフルエンザの感染拡大を受け、文部科学省は4日、大学入試での対応策を話し合う有識者会議の初会合を開いた。感染によって試験を受けられなかった受験者に対し、追試験を実施するかどうかが主な検討課題。この日の会合には大学や高校の関係者ら10人が出席、追試験について「各大学に実施を要請するなら早めにすべきだ」などの意見が出た。
今後は感染した受験生が入試会場に来た場合の対応などについても話し合い、11月にも一定の結論を出す方針という。
「大学入試の追試験検討、新型インフル対策で文科省有識者会議」(NIKKEI NET)記事より)

大学入試センター試験の場合、病気で受けられなかった受験生は「追試験」を受験できますが、各大学が個別に実施している独自の一般入試については、特に統一された決まりはありません。
阪神大震災のときに、被災された方に特別日程を用意した大学はありますが、それ以外の年で、「病欠者のための追試」を設けた大学は、ほとんどないようです。

病気になったのは気の毒ですが、正規に用意された別日程の試験を受験するか、来年また挑戦してください……といった対応が一般的でしょうか。

ただ、追試の機会がないとなれば、病気を隠し、無理をして入試を受けに来る受験生だって当然、出てきます。
一般入試は、各大学の試験日程が近いですから、一度インフルエンザにかかっただけで、5校くらいの受験チャンスを失ったりすることもありそう。そうなると、体のためにも4校は病欠するけど、第一志望の1校だけは無理をしてでも試験に行きたい……なんて受験生もいるでしょう。

新型インフルエンザの拡大を止めたい政府としては、それはマズイ。
政府として大学側に何らかの要請をしたほうがいいのでは……ということで、上記のような検討が始まっているようなのです。

……というと、「受験生が気の毒だから、大学は追試をすべきだ」と思われる方も多いでしょう。
でも、試験問題作成だけをとっても、追試の準備って、簡単ではありません。

(過去の関連記事)
・進む「過去問題」の活用(1) 全国75大学の他、センター試験も過去問利用を検討

毎年、自校はおろか他大学の過去問題までもを詳細に調べ、出題されていない「オリジナル」の問題を作るというのは、非常に大変。
しかも近年、一大学当たりの入試の回数は増加の一途をたどっています。なぜなら受験の機会を増やして受験者数を稼ぐために、入試日程を何度も設けているから。当然、作業量も増えています。

現状でさえ、何回もの入試の問題を作成するために多大なコストと時間が費やされており、大学教員の方々に負担がかかっているわけです。追試を行う余裕は、あまりないでしょう。
(特に小規模の大学や単科大学では、負担の集中度合いも大きいのでは)

現時点でも複数回の受験機会が用意されているわけですから、例えば

「あなたはインフルエンザでA日程入試を病欠してしまったから、追加費用なしでB日程を受験して良いですよ」

……といったように、別の日程に誘導するというくらいが、リアルに対応できる範囲なのかなという気もします。
あとはサテライト会場よろしく、「インフルエンザの人のための試験会場」を別に用意するとかでしょうか。

でも、いずれにしても「病気を隠し、無理をして試験会場に行く」という受験生を思いとどまらせ、ちゃんと違う選択肢を提示してあげないと、大変なことになりそうです。
受験生の側も、大事な体ですから、インフルエンザの対策をまったくしていない大学の入試会場にはなるべく行きたくない、という心理が働くかもしれません。

ちなみに、ちょうど現在、入試シーズンを迎えている法科大学院は、

新型インフルエンザの患者を受験させるかどうか――。2010年度入学者の選抜試験シーズンを迎えた法科大学院の対応が分かれている。「法曹の卵」たちにとっては人生の一大事だが、受験をやめるよう呼び掛ける大学が多く、「別室受験」などの救済策を講じるのは少数派だ。
「新型インフル患者の受験、法科大学院の対応割れる」(NIKKEI NET)記事より)

……とのこと。

職を辞して進学する人も少なくない、法科大学院。
大学によって、司法試験の合格率や合格者数が全然違うことは、周知の事実です。
インフルエンザの疑いがあっても、それを隠して試験を受ける人は、間違いなくいるんじゃないかな、という気はします。

ちなみに海外の大学も、インフルエンザには悩まされています。

新型インフルエンザ拡散速度が速まり、全国小・中・高校はもちろん、大学の休校が続いている。教育科学技術部は「24日、全国22の小・中・高校が休校か、始業を延期することにした」と明らかにした。休校または始業延期した学校が38となった。また教科部は最近、遠足、運動会、修練会、修学旅行など団体活動の自制指針を送った。培材(ベジェ)大学は国際サマーキャンプ参加者5人が新型インフルエンザ患者と確認されると当初31日から来月14日に開講を2週間延期した。大田の牧園大学も1週間延期した。大田大学と忠南大学も校内診療所に発熱相談センターを運営することにした。
「『新型インフルエンザ休校』大学に拡散」(中央日報)記事より)

上記は韓国の話題。状況は、日本と似ていますね。

↓こちらはアメリカ。

米北西部のワシントン州立大学(Washington State University)で、学生2000人あまりが新型インフルエンザA型(H1N1)の症状を訴えていることが、大学側の発表で明らかになった。
同大のあるホイットマン郡(Whitman County)の州立研究機関が前週末に検査した結果、大学内でインフル感染が広がっていることが確認されたという。米国内の大学における感染例としては最大規模となる。
(略)学校側は、秋学期が始まってからの10日間で、約2000人の学生がインフルエンザの症状を発症していることを確認したという。
「米ワシントン大で学生2000人が新型インフル感染」(AFPBB News)記事より)

秋学期が始まり調べてみたら、なんとびっくり、二千人。

ノースカロライナ州のウェークフォレスト大で100人超、インディアナ州のパーデュー大でも85人が同様の症状を訴えた。全米大学保健協会のまとめでは、8月22~28日の1週間に同協会に報告された大学での症例は2千例を超える。
8月20日に米疾病対策センター(CDC)が出した高等教育機関向けの対応指針は、今春と同程度の流行であれば感染者が寮や自宅で回復を待つことを対処の柱とし、さらに流行がひどくなった場合のみ休校を検討するとしている。ワシントン州立大では5日にスタンフォード大とアメリカンフットボールの対抗戦が予定されているが、「リスクはほとんどない」(州保健局)として開催される見通しだ。
■「米の大学で2千人、新型インフル集団感染か」(Asahi.com)記事より)

集団感染する大学が次々と。
別の記事によると、少なくとも17の大学にて、最初の数週間で数百人にのぼる学生がインフルエンザに罹患したとのことです。

二千人の感染者がいても、フットボールの試合は予定通り行う、という点が、日本と違うところでしょうか。
でも、大学が何もしていないわけではありません。
↓こちらの記事には、アメリカの大学が行っているインフルエンザ対策の事例が紹介されています。

ミシシッピ州立大学では7月15日以降、250人以上がインフルエンザ様症状を訴えており、カンザス大学の患者数は100人強、テネシー大学は8月19日の授業開始時以降、インフルエンザの症状の学生が最低100人はいるとみている。
アリゾナ州立大学で保健サービスを担当するアラン・マーカス氏は、大学生は「インフルエンザが重篤な病気だと考えていないため、予防接種を受ける必要はないと思っている」と指摘。同大学では新学期開始直後の週に季節性インフルエンザの予防接種を開始したが、学生が接種するかどうかは保護者の説得にかかっているという。
カーネギー・メロン大学でコンピューター・サイエンスを専攻するJBフェルドマンさん(21)は、女子学生寮の寮生は1週間、団体で旅行して各寮を訪問しなければならないため、女子寮への勧誘がインフルエンザの感染拡大につながった、との見方を示した。
デューク大学のフットボール部では今月、選手25人の具合が悪くなった。同大学の広報担当、マイケル・ショーンフェルド氏は、インフルエンザ感染でリスクの高い学生らを収容するために、大学側が敷地外のアパートに約30床のベッドを用意したことを明らかにした。
ミシガン大学は学生会館から公共医療サービスの場所まで病気の学生を輸送するための「インフルエンザ・バス」の運行を開始。同大学保健責任者のロバート・ウィンフィールド氏は、大学の敷地が大きいため、大学側は公共の乗り物での感染拡大を避けたい意向だと語った。
アリゾナ大学(ツーソン)は9月終わりに予防接種のためのドライブスルー形式の病院設置を計画している。同大学では学生が夏季休暇から戻って数週間で25の感染例が出たという。
「【新型インフル】米大学で猛威 学生寮やアメフト練習で集団感染」(MSN産経ニュース)記事より)

アメリカの場合、キャンパス内の寮で集団生活を行っている学生が多いという事情があります。
休校ではなく、学生の隔離やワクチン接種などに力を入れているのは、その辺りも関係しているのかも。
(「予防接種のためのドライブスルー形式の病院」って、どんな感じなのでしょう……?)

アメリカの場合も、秋学期のスタートが、インフルエンザの急激な感染者増を引き起こしている様子。
その割に大学側の対策が早いなという感じもしますが、そこはさすがです。
日本の学校関係者にとっても、参考になる部分があるかもしれません。

以上、ここ最近の、新型インフルエンザ関連のニュースをまとめてみました。
皆様のご参考になればと思います。

マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。