総裁選の結果次第で、国立大学が「9月入学」に!?

マイスターです。

総裁選を控え、ポスト小泉の座を巡って、自民党の政治家達が互いに政策構想をアピールしあっているようです。

その中でも現在のところ優勢と言われている安倍氏は、「教育改革」を自分のPRの柱にしようとしている模様。既に、メディアを通じて様々な教育改革構想をブチあげています。

■「首相主導で教育改革 安倍氏当選なら『推進会議』設置へ」(産経web)
http://www.sankei.co.jp/news/060830/sei034.htm
■「教育改革へ識者会議 首相直属、安倍氏が構想」(北海道新聞)
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20060831&j=0023&k=200608307629

なんだか盛り上がっているなぁ、と思いながら、毎日報道を見ていたマイスター。
そんな中、なんだか捨て置けない内容の記事を発見しました。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「国公立大を9月入学に 『安倍政権』で検討」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2006083001005554.html
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安倍晋三官房長官は30日、首相に就任した場合に政権公約の柱として掲げる「教育再生」の一環として、国公立大学の入学時期を現在の4月から9月に変更し、高校卒業から大学入学までの間にボランティア活動に携わることを義務付ける教育改革案の検討を始めた。若者の社会貢献を促すとともに、入学時期を欧米と同様に9月として学生が留学したり、留学生が国公立大学に入復学しやすい環境を整備する狙いがある。
(上記記事より)

な、なんとー!

ずいぶん思い切った構想が飛び出しました。「国立大学、9月スタート」プランです。

プランの意図はわかります。
欧米では、学校は9月に始まるのが一般的とされています(そうじゃない国ももちろんありますけれど)。日本がそれに合わせることにより、確かに、国家間の学生の移動はスムーズになるかもしれません。
海外から留学生を呼びやすくなりますし、今よりは海外への留学もしやすくなる……んじゃないかと思います。

ただ、なんだかちょっと苦しい部分も多いような気がします。

だって、諸外国で9月から大学の新学期がスタートする理由は、単に高校が7月くらいに終わるからじゃないですか。
なのに日本だけ、「高校は3月で終わるけど、大学は9月からスタート」って、どう考えても変でしょう。不自然でしょう。

それと、

高校卒業から大学入学までの間にボランティア活動に携わることを義務付ける教育改革案の検討を始めた。

……という記述から推察するに、これはどうやら、

「大学入試は従来通り1~3月に実施して、入学時期だけ半年遅らせる」

ということを前提にしている案みたいですよね。
でも、現在すでに新入生の基礎学力低下が大問題になっているのに、受験から半年も時間をおいたら、なおさら大学の授業が成立しなくなりませんか?

大学入試というのはそもそも受験生の選抜という意味の他に、「本学で教えている内容を理解するには、これくらいの問題を解ける学力が必要ですが、大丈夫ですか?」という、大学による確認という意味も持っているのです。
試験を受けてから半年後に入学、なんてことになったら、その意味合いは薄れますよね……。なんだか、この点でも疑問です。

(「高校3年生の夏頃にAO入試で進学先が決まった」なんていう話とは、似て非なる問題です。こちらの場合は、進路をさっさと決めて、高校での本来の学問に打ち込めるという大義名分が一応ありますから)

ボランティア云々も、ちょっと本来の主旨と違っている気がします。

そもそも、ボランティアって、人に言われてやるものではありません。
「ボランティア活動をしない若者が多いから問題なんだ。だから、強制的にボランティアをするような仕組みにしよう」
という解決法は、なんだか違っている気がします。

マイスターは、「本当はボランティアとか、海外青年協力隊とかに興味がないわけじゃない」という若者は、現時点でも多いんじゃないかと思っています。
でも、「キッチリ4年間で卒業しないと日本社会ではマイナス評価を受けるし、親を始め周囲も反対するから、参加できない」とか、「休学中も少なからぬ学費をとられる」とかいう事情があってできないんだというのが、実態に近いんじゃないかと思うのです。
そう、大学生は、中長期の活動が、とてもしづらい環境におかれているのです。

ですから若者にボランティアをさせたいというのでしたら、
「大学に在学しながら、経済的な負担なしに休学してボランティア活動に行けるようにする」
ということを考えた方が得策なんじゃないかな? なんて思ったりします。

……と、あれこれ思うところは多いものの、こういった大胆な構想が首相候補の口から語られるというのは、悪いことではないと思います。国内の議論が活性化されますからね。

冒頭でご紹介した2つの記事には、↓こんな記述もありました。

下村博文自民党副幹事長は29日、9月の自民党総裁選で安倍晋三官房長官が当選し、首相に就任した場合、首相直属の「教育改革推進会議」(仮称)が設置されるとの見通しを明らかにした。東京都内で開かれた教育基本法改正シンポジウムで語った。
教育行政の方針は文部科学相の諮問機関である中央教育審議会で審議されてきたが、安倍氏は教育再生を政権の最重要課題と位置づけており、既得権益を排した大胆で迅速な改革のため首相直属機関の設置を総裁選の公約に盛り込む方針だ。
安倍氏に近い下村氏は「文科省だけに任せずに、かつての教育改革国民会議のような首相主導で教育改革を行う組織を、新政権が発足したらすぐに設置しなければならない」と述べた上で「新政権発足から半年以内に結論を出すくらいのことが必要だ」とスピーディーな審議を訴えた。
推進会議が設置されれば、安倍氏が主張する(1)学力の向上(2)教員の資質向上(3)児童・生徒が学校を選択し、自治体などが配布する利用券を授業料として納める教育バウチャー制度の導入-などが論議されるとみられる。
(産経web記事より)

「教育改革推進会議」も気になりますが、個人的には最後に言及されている「教育バウチャー制度」に興味を引かれました。

教育バウチャー制度とは、簡単に言えば、「現在、補助金という形で学校に配布されている税金を、生徒に学費クーポン券のような形で直接配布する」というものです。

例えば、学費20万円の公立高校と、学費70万円の私立高校があるとします。高校生のいる家庭にバウチャーが年間20万円分配布されたとすると、公立高校にはタダで行けます。私立高校に行く場合は、バウチャーで20万円払い、残りの50万円を家庭で負担するということになります。
これが、アメリカの一部地域で実際に導入されている、教育バウチャー制度の大ざっぱな説明です。この制度によって、公立学校と私立学校の間の競争が促進される……とされています。

アメリカでは、子供を私立学校に行かせられる中流以上の家庭と、経済的な理由で最初から公立学校しか選べない貧困層の家庭との間で、大きな教育格差があります。したがって教育バウチャーの仕組みは、貧困層の家庭に私立学校進学への道を開くものと考えられています。
(ただ、宗教立学校への進学にバウチャーを使われたら政教分離の原則に反してしまうのではないか、などの批判意見もあります)

日本でも「私立学校に子供を通わせる親は、税金払い損ですか?」みたいな問題がありますから、教育バウチャー制度を議論のテーマにして、あれこれとあるべき教育のあり方について論争するのは、良いことなんじゃないかなと個人的には思います。

ただしここだけの話、この教育バウチャー制度、選挙受けがいい政策であるのも事実なんです。実際、アメリカのブッシュVSゴアの大統領選において、論戦のネタの一つにされていたくらいですからね。
総裁選を前に、今、このネタを持ち出してくるあたり、安倍氏陣営はよく海外の教育改革の動きを研究されているなぁという印象です。
(上記の記事に出てくる下村博文議員は、日本へのチャータースクール制度導入を目指しているグループなどから、よくお名前を聞いていました。こういう分野を得意にしている刀のです。安倍氏の教育政策の知恵袋はこの人なんじゃないかな……なんて、勝手に想像するマイスターです)

しかし、現在国民が最も関心を抱いているテーマは教育改革であると考え、そこに絞って構想をアピールしてくる安倍氏は、うまいなぁと思います。
こりゃ総裁戦に勝ったら、ホントに、国立大学が9月入学になるかも知れませんねぇ。
(国立大学が9月からになったら、私立大学の中で、それに引っ張られて9月からになる学校と、引っ張られない学校とが出てくるのでしょうか。そうなると、企業の新卒一斉採用試験のあり方なんかも、変わっていくかもしれませんね)

いっそ、中学校を3.5年間に延長して、高校入学から9月にしてしまう、なんてのはいかがでしょうか? >安倍さま

これだと、国公私立大学がすべて、欧米標準の9月入学になります。しかも、ゆとり教育ですり減った学習内容も、中学の延長分でしっかり学べちゃいます!

また大学を卒業するのが6~7月頃になりますから、「大学をきちんと卒業してから就職活動をする」というアタリマエだけど日本ではなぜかそうなってなかった流れも実現できます! 早めに就活が終わった方は、余った期間を、ボランティアでもなんでも好きに活用すればいいのです。

大学を出て社会人になる年齢が、これまでより一年遅くなっている気がしますが、あんまりそこは気にしない方向で。昨今の社会情勢を見ていると、一年伸びるくらいでちょうど良いんじゃないかな、なんて気もしませんか? はっはっは。

この構想をブログで知った安倍氏が、「教育改革推進会議」のメンバーとしてマイスターを招聘!
……なんてことには、なりませんか。なりませんね。うん。

まぁ何はともあれ、こうした機会にあれこれ議論が盛り上がるのは良いことです。
せっかくですので、各陣営からどんな構想が出てくるか、じっくり見てみようじゃありませんか。

以上、マイスターでした。

3 件のコメント

  • 大学9月入学>半年間にボランティア活動を義務づけ・・・
    大学入学予定者を、ボランティアで受け入れる体制が、今の日本の社会にあるんでしょうか?
    「義務」というなら、そのボランティアの内容やレベルを、ある程度判定・認定する必要もあるでしょうし。アルバイトをさせて、「働くこと」の大変さを味わわせた方が効果的であるような気もしますが?

  • ボランティアって・・・
    ちゃんと「強制労働」とか「強制収容所」と正しい日本語を使ってくれないと。安倍のじいさんも「敗走」を「転進」といってた連中の一味だったような。

  •  かつて、臨教審においても9月入学について議論が行われたが、結局のところ半年間は収入がないという経費的なことについて財政的な裏付けがないのでボツになった。
     税金を投入してでも実行する気があるんでしょうかね、懐疑的です。