レポートの「アウトソーシング」をする学生、それを見破ろうとする大学

小学生の時は、夏休みの宿題を親に手伝ってもらっていたマイスターです。

特に工作系の宿題は、ほとんど父との合作だったと言って差し支えありません。器用なお父さんを持った子供って得だよね。
(その節はありがとうございました、父よ)

でも、小学校の宿題を家族でやるというのは、わりと普通みたいです。
っていうかもはや、ニッポンの夏の風物詩ですらある気がします。
(もちろん、ホントはいけないんですけれど…)

マイスターはweb広報プロデューサー時代に、某メーカーの総合学習支援サイトの企画立案・プロデュースをやっていました。
そのサイトには「お問い合わせ」のリンクがあるのですが、夏休みの後半になると、全国のお父さん達から、工作やら自由研究やらについての質問が、ぞくぞくと寄せられていました。

「そちらのサイトで紹介されている○○工作なのですが、部品はどういったお店で購入できるのでしょうか」
「サイトの説明通りに作ってみたのですが、うまく動作しません。いったい何故なのでしょうか?」

などなど、どう考えても小学生が書いたものではない文面のメールが、山ほど届きました。マイスターも、そのための回答文面を作成したりしていました。8月20日以降が質問のピークでした(^_^)
(企業のサイトは大体、そういった質問にもひとつひとつ丁寧に答えます)

小学生くらいだと、そんなやりとりもまだほほえましく思えますが、
これが大学生だと、かなり話は違ってきます。

【教育関連ニュース】—————————————-

■「大変な宿題、お金で解決するという手はアリか」(exciteニュース)
http://www.excite.co.jp/News/bit/00091119799905.html
■「【ファンキー通信】宿題代行サービス、卒論は30万~」(livedoor NEWS)
http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__1348985/detail
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大学生が、図書館の本の丸移しレポートを、あたかも自分の著作物であるかのように提出するというのは、昔からあった手口なのでしょう。インターネットとworld wide webの登場で、検索&コピーペーストが楽になり、いっそうそういうレポートが増えたんだろうなぁと思います。「自分の専門分野については、本の丸写しなんてすぐ見破れるわい!」と豪語する方も、さすがに世の中のwebサイトすべてをチェックするのは無理があるでしょうし、今の時代の教員は大変だなぁと常々気の毒に思っておりました。

でもまさか、堂々とレポートを代行する企業があるなんてことまでは、知りませんでした……。

宿題代行業務はどのように行っているのでしょうか?

「現在は僕の設立した会社の業務としてではなく、あくまでも宿題HELPに登録した大学生個人とお客様のやりとりで行っています。ニードフォーチェンジ(マイスター注・企業名です)はあくまでホームページの運営のみです。依頼の仕方は、ホームページにある電話番号かメールにて、まずお問い合わせいただくことで、こちらからコンタクトをとります」

卒論も代行するとのことですが、どのように制作するんですか?

「教授の意向など詳しい情報をもらった上で制作に入ります。しかし、あくまで依頼者の理想の参考論文としての制作。そのまま提出することはお勧めしていません」
「【ファンキー通信】宿題代行サービス、卒論は30万~」より

「ニードフォーチェンジはあくまでホームページの運営のみ」
「あくまで依頼者の理想の参考論文としての制作。」

というあたり、確信犯的な巧妙さを感じます。これって、出会い系サイトを運営してもサイトの運営会社自体は罪に問われないのと同じ理屈なのでは……。

卒論まで正式に引き受けるというくだりに至っては、もはや、マイスターもリアクションのとりようがありません。4年次の学費が30万円値上がったうえに、その対価であるはずの学習機会すら手に入らなくなっているようなものですからね…。

でも、世の中のブログを見てまわってみたら、こうしたニュースを、「面白いビジネス」「画期的」「忙しい大学生にオススメ」みたいに評しているサイトが少なくありませんでした。どう思うかは人それぞれなのでしょうが、マイスターは、卒論を丸投げして「買う」なんてのは、わざわざ大金をドブに捨てて、恐ろしくムダな一年間を人生に刻んでいるようなものだと思いますよ。
日本では未だに、多くの人々にとって、大学の学びはイヤイヤ受けるものなのでしょうか。あるいは、受けた教育そのものよりも、どの大学を出たかが重要な社会、ということでしょうか…。

しかし実はこうした動き、日本だけのことではありません。

【教育関連ニュース】—————————————-

■「学業課題をネットで『外部委託』処理、英大学が警告」(CNN)
http://www.cnn.co.jp/business/CNN200606140012.html

■「アメリカ大学カンニング事情(レポート編)」(ブログ中を青で染めろ!@Everything in Life is Only for Now)
http://sabretooth.exblog.jp/2054840
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大学生が自分で学業課題に取り組まず、アウトソーシング専門のサイトで入札にかけ、処理を「外部委託」する新手の不正行為が広がり始めているとの調査結果を、英バーミンガムのセントラルイングランド大学が12日、発表した。
調査に当たった同大学ビジネス・スクールの講師らは、インターネットで他人の論文を盗用する行為はこれまでも問題となっているが、今回判明した不正行為は、大学教育の価値低下につながりかねない、と懸念している。
(略)
英国の他、米国、カナダ、オーストラリアの46大学の学生が利用していたことも分かった。
「学業課題をネットで『外部委託』処理、英大学が警告」より)

って、英語圏の国がほとんど入ってます!

二つ目の記事は、さらに興味深いです。アメリカの大学における不正行為を紹介する内容ですね。

楽して大学卒業しようという気質は洋の東西を問わないようですね。アメリカの大学の学部レベルでは、その手口にはいろいろありますが、そのうちの一つがインターネットを通じて買うなどして手に入れることです。。

ええ?インターネットでそんなの売っていいのぉ!?

と思われた方。もちろん、そうした業者はレポートを買ってそのまま提出しなさいなんてことはいいません。彼らはそれらを「参考用レポート」として売るのです。売るほうは「これはあくまで参考用として売るのであって、そのまま提出してはいけません。」とサイトのどこかに書いてあるはずです。でも、もちろん、彼らは買った人がそれをそのまま提出するのをしっています。つまり、手に入れたレポートをどうするかは買った方の自己責任というわけ。(「アメリカ大学カンニング事情(レポート編)」より)

……なんだか、ついさっき聞いたような話が……。
日本でもアメリカでも、大体同じようなことを思いつく人はいるものですねー。

具体的なサイト名を挙げるのは、さすがに日本語のブログとはいってもためらわれますので、”Term Papers”でぐぐってみてください。そういうサイトが死ぬほど出てきます。
「アメリカ大学カンニング事情(レポート編)」より)

というわけで、マイスターも試してみました。
確かに、死ぬほど出てきました、そういう検索結果が。
っていうか大胆にも、各社、Googleのアドワーズ広告に出稿して競ってます!
「Term Papers」のワードでアドワーズ広告出してる時点で、完全に確信犯じゃないかぁー。

だがしかし。

現代では、このウルトラ商業主義に対抗するのも、やはり、商用サービスの力だったりするのです。

【教育関連ニュース】—————————————-

■「佐藤渡辺通信 No.42 査察ロボット・盗作発見」(株式会社佐藤渡辺)
http://www.watanabesato.co.jp/authorspage/inforecords/inforecords042.htm
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昨年8月頃から、TurnitinBotというロボットが来るようになりました。たまに来て、数百ページを持っていきます。
(略)
さて、この TurnitinBotですが、ある日500以上のファイルを持っていったので、一体、誰のロボットだろうと、調べてみました。会社名は Turnitin.comということになっていて、一般消費者向けの会社ではありません。何をしているかというと、大学の学生が書いた論文、レポートの類がネットから探してきた資料の丸コピーでないか、チェックする会社で、世界中の大学の先生などが、顧客になっていて、学生のレポートをこの Turnitin.comに調べてもらうと、それは、ネットの中のこのページのコピーである、とかを査察して、それで商売をしているわけです。(「佐藤渡辺通信 No.42 査察ロボット・盗作発見」より)

ここで言う「ロボット」とは、世の中のwebサイトを調査し、検索エンジンの検索結果などに反映させるプログラムの一種のことを指します。

Turnitin.comを運営しているのは、どうやらiParadigmsという企業のようです。この企業が、こうしたロボットプログラムを放って世界中のwebサイトの情報を精査し、独自のデータベースを構築しているのですね。
(このロボットの詳細はこちら)■「TurnitinBot General Information Page」(iParadigms, LLC)
http://www.turnitin.com/robot/crawlerinfo.html

何のためにそんなことをしているかと言えば、大学向けに、剽窃探知サービスを売るためです。

具体的には↓このような感じのサービスのようです。

…カルフォルニア大学バークレイ校でシステム開発の教義を取っていたジョン・ベアリー氏がそこでデータベースプログラムを完成させる。構内にあるコンピュータルームより、どこからダウンロードし、カット&ペーストを行ったという記録を抽出し、レポート内の何処から何処までの部分がどのようなサイトから、ダウンロードされ、カット&ペーストされた部分なのかがわかるというものだ。

それが turnitin.com

turnitin.comで彼らのレポートをスキャンさせると、なんとカット&ペーストした部分が赤色で表示される。その赤色で表示された部分は、彼らが独自に考え出した文献ではなく、様々なサイトから、カット&ペーストされたものだというのがばれてしまうのである。
さらに、そこから、解析ツールがあり、その画面では画面左部分に生徒のレポート内のカット&ペーストそして、右部分にその文献がどのサイトから引っ張ってきたものなのかが解析され、アドレスが引っ張り出される。
turnitin.comでスキャンされるレポートの数はなんと、1日に5万件らしい。
「cell-phone, i-paq and turnitin.com」(lah-di-dah)より)

この記事は2004年5月に書かれたもののようですから、現在はおそらく、1日5万件じゃきかないでしょう。

■「Turn it in:Plagiarism Prevention」(iParadigms, LLC)
http://www.turnitin.com/static/plagiarism.html

↑iParadigms社による宣伝ページがありますから、ご興味のある教員の皆様はどうぞ。「Sample Report」をクリックすると、サンプルイメージが出てきますが、確かに良くできているようです。

このサービス、日本語にも対応しているのでしょうかね?
ロボットが巡回しているのですし、ちょっと工夫をしてプログラミングすれば、マルチランゲージなシステムにできるような気もしますけれど。
ちなみに、キャンパス単位や学科単位など様々なライセンス体系が用意されているようですが、残念ながら参考価格は掲載されていませんでした。

しかし……なんていうか、いたちごっこですね…。
剽窃する側の学生もチェックする側の大学も、お互いに余計な出費ばかりが増えていて、大変です。得しているのは企業だけときています。

それでも残念ながら、代行サービスをアテにしてしまう学生は、世界中で現れ続けるのでしょう。

ただ、ちょっと考えれば、レポートの代行を頼む行為が、ワリに合わないということは、すぐわかると思うのですね。

冒頭のニードフォーチェンジ社へのインタビュー記事によれば、レポート代行サービスを請け負って実際にレポートを制作しているのも、やはり大学生なんだとか。
そういう学生達はおそらく、一人で何本ものレポートを「製造」するのではないでしょうか。量産ですね。

マイスターの推測ですが、そういう学生はおそらく、かなりの確率でweb上の表現を剽窃していますよ。だって、数をこなすことが彼らの目的なんですから。

少なくとも、剽窃が行われている確率が、ゼロとは言い切れませんよね。

turnitin.com のような剽窃発見プログラムにかけたら、問題が発見される可能性は高いと思われます。しかし、そんな剽窃をしたという事実を、代行業者があなたに教えてくれることはありません。
また、悪質な剽窃が見つかっても代行業者はお金を返してくれません。自分達がやっているのは「あくまでホームページの運営のみ」だと言っているんですからね。代行に出した学生が、泣き寝入りするだけです。
そして、失格になった単位を、誰かが恵んでくれることもありません。

はっきりいって、楽しようと思った学生さんが担うリスクは、金額に見合わないくらい高いです。
余計なお金を払った上、こんな大きなリスクまで犯してレポートを人にやってもらうなんて、バカらしい行為ですよ。

以上、色々と書きましたが、金額などの話だけでなく、学ぶことの意味を知るためにも、自分を高めるためにもやっぱり、自分で課題をやらないなんてもったいないですよと言いたい、マイスターなのでした。

1 個のコメント

  • かなり遅いレスポンスですが、
    名前の通った大学に通っていると「お客様の要望を聞き入れたが、スタッフ=書き手がいない」専門的な注文が、友人から友人へローカルネットワーク(笑)で定期的に入ってきます。
    他人の論文やレポートを代行して稼ごうとは思わないので、その類のスタッフに登録などはしていませんが、「友達の頼み」は断りにくいもの。不快感を露にする事もできませんし。
    依頼者がリスクを正確に認識し、足りない自力で頑張る学生にこんな依頼が来ないようになればいいな、と思います。
    感情論ですみませんでした。