今では、インターンシップは多くの大学で導入されていると思いますが、問題が無いわけではないみたいですよね。例えば、大学は教育の一環として学生を企業に送っているのに、企業は学生を「無給のアルバイト」であるかのように扱う、などというケースもあると聞きます。
一方、企業の側には、「人材獲得のためにインターンを受け入れているのに、そちらの大学からは誰も学生が入社してきてくれない! 時間とコストのムダだから、もうインターンは今後、受け入れたくない!」なんて想いを持つところもあるようですね。
学生さんは、おそらく、両方でしょう。教育体験の一つとしてインターンを受けるんだという意識と、「あわよくば就職志望先にアピールしたい」という考えとが、ケースバイケースで混在しているのではないでしょうか。
このように、お互いの思惑が絡み合って、どこが主導権を握ったものだか複雑なインターンシップ。大学としては、あくまでも「教育」と位置づけているわけですが、企業は学生を受け入れてくれる貴重な存在ですので、あまり強く言えない、というのも現状なのでしょう。
というわけで、今日は一つのワードをご紹介します。
【コーオプ教育(Cooperative Education)】
「従来のインターンシップと異なり、大学が主導的に企業での研修内容の管理運営にかかわり単位の認定も行う、産学連携型の実践的なキャリア教育を指す。」
(日経ビジネスオンライン記事より)「コーオプ教育とは、教室でのカリキュラムと専門分野に関連した職業体験とを統合させた教育戦略である。学生、教育機関、雇用者という3つの立場からの協力を必要とすることから、『コーオプラティブ教育』とよばれる。従来のアカデミックなカリキュラムに、学んだ知識の現場への適応・実践を組み合わせることにより、批判的思考能力の強化と発達をはかるものである」
科学技(術振興機構 産学官連携海外トレンド報告より)
「コーオプ教育」、この言葉、ご存じでしたか? マイスターは恥ずかしながら、つい先日まで知りませんでした。
「大学主導型のインターンシップ」…というよりは、
「大学の教育カリキュラム内に、企業での経験を位置づける試み」
くらいの意味合いで考えた方が近いのかな、と思います。
インターンシップの場合、インターン中に学生がどんな業務を行い、どんな経験を積むかは、基本的に企業任せじゃありませんか?
また、インターンシップ自体の位置づけも、「3年生の夏休みに、行きたい人が参加する、就業体験」くらいのノリでやっているところ、まだまだありませんか?
それに対し、コーオプ教育の場合は、
○大学の教育カリキュラムの中での位置づけを明確にする
○大学での学びと、企業での体験とをしっかり連動させる
というあたりが、ポイントになっているようです。
このコーオプ教育の取り組みで先行しているのは、例によってアメリカの大学ですが、アメリカのコーオプ教育と日本のそれとでは、違いもあるようです。
■「米国における産学連携教育の現状(PDF)」(世界コーオプ教育協会理事 NPO法人産学連携教育日本フォーラム代表 斎藤敬子氏)
http://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/subcommission/15th/15-6.pdf
■「産学連携教育プログラムにおける教育手法調査(PDF)」(特定非営利活動法人 産学連携教育日本フォーラム)
http://www.monobiz.jp/index.php?_module=default&_action=img&img=411063&mime=application/pdf
上記の2つのPDFファイルはともに、アメリカのコーオプ教育についての概要をまとめたものです。これらから、アメリカのコーオプ教育に見られる特徴的な点を挙げてみますと、↓こんな感じ。
○基準以上の成績を、コーオプ教育プログラムへの参加条件にしている大学が75%
○受け入れ先の割合は
・政府:17%(4,409社)
・NPO:19.5%(5,081社)
・企業:63.5%(16,540社)
○米国でのコーオプ教育は、1970年以降1998年まで続けられた連邦政府の助成金制度により飛躍的に普及(コーオプ教育に絞り助成金を支給したことで、運営ノウハウを持った専門人材が育ち、彼らが助成金カット後のコーオプ教育の発展を支えた)
○米国のコーオプでは学生を被雇用者と位置付け、長期間の従事と報酬の支払が基本であり、企業と学生の独立した関係を築く傾向がつよい(契約も企業―学生が直接行う)。一方で米国企業は大学に対し、補償協定への署名を求める動きが出てきている
学生の派遣先として、NPOが2割くらい存在するのは、いかにも米国らしいですね。日本では、インターンシップを就職課が扱っている大学も(たぶん)多く、そのため、インターン先はほとんどが営利企業だと思います。数人、地元の市役所に行く学生がいるかな?くらいではないでしょうか。
教学部門が中心となってコーオプ教育を展開するとなったら、そういった派遣先の内訳ももしかすると、変わってくるのかも知れませんね。
さて、日本では立命館大学や京都産業大学が、コーオプ教育の取り組みを行っています。
<京都産業大学>
■「教育の特色:コーオプ教育(Cooperative Education)」
http://www3.kyoto-su.ac.jp/feature/ce/index.html
■「O/OCF(オン/オフ・キャンパス・フュージョン)」
http://www3.kyoto-su.ac.jp/feature/ce/oocf.html
※平成16年度 現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)採択
<立命館大学>
■「文理連携型コーオプ教育(総合大学モデル)」
http://www.ritsumei.ac.jp/mng/gl/koho/rs/051017/005.htm
※「派遣型高度人材育成協同プラン」採択
京都産業大学の、「サンドイッチ方式」の図は、コンセプトが非常にわかりやすくていいですね。
ちなみにこの京都産業大学の試み、文科省による現代GPの選定理由は、以下の通りです。
(選定理由)
大学が主体になって編成した正規のカリキュラムに基づき、学内での勉学と実社会での体験とを多層的(サンドイッチ方式)に融合され4年間の一貫教育を行う本取組は評価できます。
また、明確なカリキュラムの位置づけのもとに、低年次からの段階的・系統的なキャリア教育を一貫して行っており、教職員による実施体制や評価システムが構築されていることも、評価に値します。
高年次での学生自身が自分の企画を持って受入先を交渉するシステムは、学生の自主性を高めるのに有効であると考えられますが、各大学への波及効果という点で如何に様々な知見を蓄積していくか注目されます。
(「平成16年度現代的教育ニーズ取組支援プログラム選定取組の概要及び選定理由」(文部科学省)より)
インターンシップだけが独立した存在として用意されているのではなくて、大学での他の教育と融合され、きちんとしたカリキュラムの中で明確に位置づけられているところが、GPの採択につながったようです。
このように、しばしば企業に「丸投げ」することもあった従来のインターンシップとは違い、きちんと教育効果を測りながら大学主導で展開されるコーオプ教育の取り組みが、少しずつですが行われ始めています。
しかしおそらく、日本ではこの「コーオプ教育」は、まだまだ知られていない言葉なのではないでしょうか。
ちゃんとコーオプ教育を展開するのは大変だと思います。
時間も手間もかかります。企業との調整も大変です。そういった業務を手がけるコーディネーターの育成も、容易ではないでしょう。
しかし学生や保護者、そして企業の採用担当者からは、こういった教育スタイルを採用する大学は、今後さらに注目されてくると思います。
大学人としては、今のうちにぜひ、おさえておきたいワードでありましょう。
というわけで今日は、【コーオプ教育】の用語解説をお届けしました。
以上、マイスターでした。