これからの大学職員 -大学で生き残るには?-

ちょっとまじめに、大学職員としての未来を考えるシリーズ第2弾!

昨日の続きで、今日は事務職員をゼネラリストとして、組織内ローテーション人事で養成することの問題を述べます。
目立つ問題は、以下の3点かな、とマイスターは考えています。

●第一に、一口に「職員」といっても、昨日の記事で挙げたように職種は多様です。
それらすべてを「事務」という名の下、職員のローテーションでやりくりしている状態では、各部署で、本当に高度な業務を遂行することができません

大学の入試業務なんて、本気で成果をあげようと思ったら、プロとしてのかなり高い知識とスキルが問われると思います。
広報、留学生支援、奨学金、みんなそうです。
でも、数年間しかその業務につかないのでは、本当に事務処理程度の能力しか身に付かないでしょう。

(私はこの業務の日本一になるぞ!なんて目標も、これじゃあ持ちようがないですしね)

それでは、本当に成果を出す広報や、世界中からの学生を支援できる留学生支援、あらゆる学生を救済できる奨学金は、実現できないと思うのです。

●第二に、社内ローテーションを繰り返して養成されている現状では、一人一人の大学職員に、業界全体で勝ち抜ける競争力がつきません

組織内のことには詳しい人材になると思いますが、本当の専門スキルを持っているわけではありませんし、チームリーダーとしての問題解決能力や、大学経営能力が磨かれたわけでもありません。ただ、いくつかの部署の事務処理や、組織内の人間関係に詳しくなっただけです。

そうした競争力のない人材が年功序列で順番に管理職になる体制は、大いに問題だとマイスターは思います。
古きよき時代はそれでよかったのでしょうが、この競争時代にそうした大学が勝ち残れるとは思えないからです。

悪いことに、このように組織内だけを見た人事制度の下では、外の競争をあまり意識する機会が生まれませんので、自分の本当の市場価値や、雇用の危機に気づくチャンスすらも失われがちです。

「ゼネラリスト」養成というなら、業界全体で通用する本当のゼネラリストを目指すべきです。
組織内だけでしか通用しないゼネラリストであってはなりません。

結果的にこうした管理職の実力不足は、

教員>>>職員

という意識を、教員側にも、職員側にも生むことになります。

●第三に、こうした「組織内でしか通用しないゼネラリスト」を育てる環境では、大学職員が外部に出てどんどん挑戦していく環境が、業界内に生まれません

本当に、特定分野で高い能力を発揮する人材は、きっとどこかにはいるはずです。
そうした方が、したい仕事をさせてもらえず、組織内でくすぶったままでいるのは、日本の高等教育全体にとって大きな損失です。

競争できる市場が生まれ得ない現状では、大学職員という職種が、高度な職能を持ったスペシャリストとして認知されることもないでしょう。

それでは、誰もがんばらなくなるよなぁ、とマイスターは考えます。

日産のゴーン社長の成果や、松下のV字回復など、強く生き返る組織にはかならず、意欲と能力を持った特定の人材がいます。
そんなヒーローが出ない業界は、やがて業界ごと倒れてしまうのでは。

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以上が、マイスターが気になっている、大学人事の3つの問題です。

慶應義塾大学の孫福弘氏(故人)は、現在の「教員、職員」という単純な二分法には無理があると分析しています。
(参考:SD(スタッフ・ディベロップメント)が変える大学の未来 大学事務職員から大学経営人材へ―筑波大学大学研究センター短期集中公開研究会より

大学は、残念ながら近代化に取り残された組織である、
本来、大学は多元的で多様な難しい組織なのに、それを教員、職員という2つのカテゴリーで運用しようという発想自体が、前近代的だと

そうした現状を踏まえ、孫福氏は、大学で働く教職員はやがて以下のような職種に分類されていくのではないかと自らの考えを述べています。

<近代化した、大学の運用チームに求められるプロフェッショナル>

・行政管理職員
 (大学の各部門で経営のプロとして業務にあたる、アドミニストレーター)

・学術専門職員
 (教育を高度にサポートする学術情報のプロ、
  高度な研究チームのプロデューサー、等)

・教育職員(教育、研究を担当する教員)

・事務・技術職員

言うまでもなく、最も重要なのは、行政管理職員です。
米国の大学にいるアドミニストレーター職には、教員出身、管理職員出身、民間のコンサルティング業出身など、様々な人材がいます。

そうして経営スキルのある人間を集めて、広報業務、教務業務、学生募集業務などのトップにすえるわけです。

日本でも、現在事務職員として働く人材から行政管理職員が数多く生まれるようになるのが、望まれます。
また、学位を持った学識者を、教員ではなく行政管理職員として組織に入れるのもいいでしょう。

「学術専門職員」は、図書館職員がより高度になったような職だとお考えいただければいいのですが、もちろんただの事務員ではありません。

教員の研究チームに入っていって、あらゆる研究分野の橋渡しをできるような人材です。
さらに、外部からお金を引っ張ってこれるような経営センスも期待されます。

図書館業務についても同様で、従来の狭い分野の図書館学ではなく、様々なメディアに通じ、必要な学術情報を世界中から持ってこれるようなレベルの知識と実務能力が求められるようになるでしょう。

このような学術専門職員が、あるフェーズでは教育職員として働くことがあってもいいでしょう。
逆に教育職員が、学術専門職員として活躍したり、行政管理職員としての業務に専念することがあってもいいでしょう。

本当のプロとは、このように自分の知識をスキルを使って、教育や、経営、学術支援と、様々な分野で活躍できる人材のことです。教員も職員もありません。

このような組織の姿こそが、近代化された大学だと、孫福氏は述べています。
なかなか、刺激的な意見ですが、マイスターもいずれ大学はこのような組織になるだろうと思います。

実は孫福氏は、4つめの「事務・技術職員」は、専任職員としてはいずれ職を失っていくだろうとも述べています。
パートや契約職員でもできる仕事、機械化できる仕事をやっている職員は、近代化された組織では必要ありません。

時代のニーズに合わせて学部学科を激しく再編成していくような事態がくれば、なおさら、こうした事務員を専任で雇用していることは、足かせになります。

現在、事務職員として働いている者全員が行政管理職員や、学術専門職員になれるわけではないし、すぐに、事務の専任職員が不必要になるわけではありませんが、しかし、組織の近代化を進めていく中で、真っ先に職を追われていくのは、スペシャリティのない事務職員だろうということです。

ね、他人事じゃないでしょう?
マイスターも、がんばらなければいけませんね。

情報システム課をはじめとする技術職員の皆様も、本当に基幹業務に必要な人材以外はアウトソーシングすればいい訳ですから、安心はできませんよ!

そうした方は、「学術専門職員」として生き残る道もありますから、図書館情報学の分野を学んだり、メディアに関する学位を取得するなどして、能力をアピールすれば、かえって今までより仕事の幅と深さが広がって、活躍できるかもしれません。

こうした変化を、ピンチと捉えるか、チャンスと捉えるかは人それぞれだと思いますが、チャンスと思える人には、きっと輝かしい未来が待っています!!

さぁ、その日を待ちながら、がんばりましょう!

5 件のコメント

  • 面白いエントリーでした。
    まったくおっしゃるとおり、基本的には専門の部署の仕事をしながら、数年に一度別の部署での経験をし、元の部署に戻ってきてその経験を生かすという形にしないとせっかく得た知識や技術を生かせないですよね。

  • こんにちは。マイスターです。
    「学校関係BLOG更新チェックサイト(RNA::Recent Sites/Entries)」よく拝見しています。
    また、そちらから、このブログにきてくださる方も増えてきているようです。
    色々とお世話になってます!
    ご指摘の通り、まずは自分の専門、ベースになる仕事を自覚できるような仕組みを作るところから、人事改革をすべきかなと思っています。
    いきなり「大学ビッグバン」みたいな大改革をしようとしても、反対にあうでしょうし…。
    いや…逆に大変化にさらされないとダメなのかな?
    私は他業種を経験しているので、こうした問題が特に気になってしまうんです…。
    そんなわけで、こんなトピックばっかりがこのブログにはアップされますが(笑)、たまにお立ち寄りください。
    他の皆様のブログとは、また違った特色が出せればと思っています。

  • こんにちわ
    私も常々思っていたことですが、学内の事務職は課によってかなり業務内容が違い渡り歩けるものではないと思っています。
    特にここでは大きく取り上げてはいないようですが、図書館職員が一般事務と同等に扱われローテーション内に組み込まれることが最近起きています。(逆も有る)
    それぞれの業務を知ることは大学全体の運営上必要なことだと思いますが、最終に戻る場所を決めずころころと部署替えをすることには反対です。(最後は教務課に戻るが1年づつ学生課と入試に携わるなど、あちこちから自分の部署に対する問題意識を持つ目ができて有効であると思われる)

  • こんにちわ その2(長くなってしまったので分けました すみません)
    最近他の掲示板でも盛り上がっている職員研修会の意義についてですが、これも部署が変われば、また1から人間関係を築かなくてはならず、せっかくの研修も本当に無意味なものになってしまいます。
    上層部はこの辺の意識改革を早急に行い、運営を正常化させて欲しいと思っています。

  • nabeさん、こんにちは、マイスターです。
    コメント、ありがとうございます!
    本学でも図書館職員がローテーションに組み込まれていて、私も大いに疑問に思っています。
    図書館業務に関して熱意も能力も知識もある方はいらっしゃるのですが、本人の意に関わらず、いずれは他の部署に出て行かざるを得ない仕組みなのですよ。
    学生にとっても、教員にとっても、本人にとっても大変な損失ですよね。
    ある程度学内をまわったら、たとえば「教務系」「企画広報系」「法務・経理系」といった程度の幅で、専門分野を自分で選択する仕組みがあればいいなぁ、と思うのですが…。
    研修についても、まったく同感です!
    構築した人脈って、個人の、ひいては組織の財産ですよね。
    簡単に失っていいものではないと思うのですが、その辺、大学ではあまり重要視されていないように思います。