ワーキングホリデーでシンガポールに行けるのは11大学の学生・出身者だけ

先日、シンガポールに行き、現地で活躍されている4人の日本人に会ってきました。

内訳は、

・日本の企業にお勤めで、現地の支社に出向されている方(×2人)
・日本の大学を休学し、ワーキングホリデーという形で、現地の企業で働いている学生の方
・シンガポール国立大学で、研究者として働いている方

……です。

その様子は、先日の「大学の見方」でも、現地の写真などを交えて語りました。
よろしければ、ご覧ください。

■進路マイスター倉部史記の「大学の見方」【第18回】:1月18日

500万人近くの人口が、東京都とだいたい同じくらいの面積に暮らすシンガポール。一人当たりGDPでアジア1位を誇る、都市国家です。
ニューヨークやロンドン、東京、香港などに次ぐ金融センターであり、中心部には名だたる銀行や投資機関などのビルが建ち並び、独特の風景をつくっています。IT産業も盛んで、物流の拠点でもあります。

数々の税制優遇策をとり、また英語が使える優秀な人材を多く抱えることで、外資を誘致。ものづくりの拠点が開発途上国に移っていったら、日本はどうなっていくのだろう……と考えたときに、参考になる部分が多い国です。

もちろん良いところばかりでもありません。国民のおよそ8割は国が用意した国営住宅で生活。独立以降、与党が変わっていない事実上の一党独裁制体制で、聞けば野党の政治家を当選させたエリアの住民には、色々な手続きが後回しにされるなどの「やんわりとした懲罰」があるそうです。
街中は監視カメラだらけ。「ガムを道に捨てると罰金、そもそもガムが売られてない」ということで、街の美観を大事にするというイメージで知られる国ですが、逆に言えば、ガムのポイ捨てすら見逃さないよ、というプレッシャーを感じさせる社会でもあるわけです(道に唾を吐いても罰金だそうです)。

綺麗な街に様々な民族が共存し、経済的に成功している一面と、それを成立させるために存在する影の一面の両方を持つシンガポール。色々と刺激的な国ですので、まだ行ったことがない皆様、よろしければどうぞ。

せっかくなので、大学に関連して、シンガポールらしいニュースを一つご紹介します。


「ワーキングホリデー」という制度があります。二つの国同士の協定に基づき、概ね18〜30歳前後の方を対象に、現地で一定の仕事をしながら一定期間、生活することを認める仕組み。その国のことを深く理解することが目的です。

(参考)■「ワーキング・ホリデー制度」(外務省)

ワーキングホリデーのためのビザを発行してもらうことが条件なのですが、シンガポールでは2012年12月から、外国人に対するワーキングホリデー・ビザの発行の仕組みが変わりました。

もともとシンガポール政府は、日本、オーストラリア、フランス、ドイツ、香港、ニュージーランド、イギリス、アメリカの大学生、もしくはこれらの国の大学出身者にしかワーキングホリデー・ビザを発行していませんでした。
これだけでも色々と意図を感じますが、今回の変更によって、上記に加え、こんな条件が新たに追加されたのです。

以下のいずれかの世界大学ランキングで200位以内の大学の学部在学生または学部卒業生であること。

・Quacquarelli Symonds World University Rankings
・Shanghai Jiao Tong University’s Academic Ranking
・Times Higher Education World University Rankings

詳細は、以下のブログをご覧ください。詳しく解説されています。

(参考)■「シンガポールのワーホリ制度が大きく変更されます」(シンガポール留学・ワーホリ・就職ブログ 〜シンガポール留学支援センター〜)

日本の大学で、現在この条件をすべて満たしているのは、以下の11大学だけです。

・東京大学
・京都大学
・大阪大学
・名古屋大学
・北海道大学
・東北大学
・九州大学 (↑ここまで旧帝大)
・東京工業大学
・筑波大学
・早稲田大学
・慶應義塾大学

世界的に評価されている大学の出身者しかワーキングホリデーを認めない、という、学歴による線引きです。「将来、シンガポールにとって有益な若者だけを受け入れます」という意図が垣間見えます。とてもわかりやすいですね。

政治や経済など、社会情勢が悪くなって国民の間で不満が募ってくると、そこから目をそらすために外国人に対して厳しい政策が行われる……というのは他の国でもよく起きていることですが、今回のワーキングホリデー・ビザの制度変更にも、そんな背景があると関係者の間では捉えられているそうです。

なお、早稲田大学・慶応大学は、指標となる3ランキングのうち、「Quacquarelli Symonds World University Rankings(2012年度)」のみでランクイン、早稲田大学が198位、慶応大学が200位と基準の200位以内ぎりぎりでのランクインです。もし次年度で201位以下になった場合、他の2ランキングで200位以内にランクインしない限り、対象大学から外れてしまうことになります。
「シンガポールのワーホリ制度が大きく変更されます」(シンガポール留学・ワーホリ・就職ブログ 〜シンガポール留学支援センター〜)より)

早稲田、慶應もギリギリのライン。危ないです。

というか、こうしたランキングは基本的に、「研究成果が評価されている大学」が有利になります。例えば国際基督教大学(ICU)や、立命館アジア太平洋大学(APU)などのように、実際にはシンガポールを始め世界中に出身者を送り出しているであろう大学も、この線引きの仕方では対象外になってしまいます。うーむ。

もっとも、ワーキングホリデー・ビザで働いている人は、実際には2000名程度に過ぎず、一般的にシンガポールで働く日本人の多くが取得しているエンプロイメントパス(就労パス)では、そこまで学歴の比重は大きくないそうです。逆に言えば、影響力がそんなに大きくないワーキングホリデー・ビザだからこそ、ガス抜きにはちょうど良かったのではないか、とも。
(参考)■「シンガポールではワーホリビザが最も学歴を重視するビザに」(シンガポール留学・ワーホリ・就職ブログ 〜シンガポール留学支援センター〜)

また、一部ワーキングホリデー・ビザの代わりとして使われる可能性がある「トレーニングエンプロイメントパス」(文字通り、トレーニング・研修目的のビザ)にも、大学生の場合はやっぱり「シンガポール政府が認めた大学であること」という条件があるそうです。
ただしこちらには、具体的な大学名のリストがあるわけではありません。シンガポール政府は「例として」以下のような大学名を挙げています。

青山学院大 千葉大 同志社大 愛媛大 学習院大 岐阜大 群馬大 広島大 一橋大 北海道大 国際基督教大学 順天堂大 鹿児島大 金沢大 慶応大 神戸女学院大 神戸大 熊本大 京都大 九州大 明治大 三重大 長崎大 名古屋大 奈良先端科学技術大学院大 日本大 新潟大 御茶ノ水女子大 岡山大 大阪市大 大阪府大 大阪大 立教大 立命館大 東京理科大 昭和大 上智大 東北大 東海大 東京工業大 首都大学東京 東京農工大 東京外国語大 東京女子大 津田塾大 徳島大 東京大 筑波大 早稲田大 山口大(「ワーホリビザに代わるビザは? トレーニングエンプロイメントパス」(シンガポール留学・ワーホリ・就職ブログ 〜シンガポール留学支援センター〜)記事より)

あくまでも例だそうですから、ここに入っていない大学でも、上記の大学と同等と認められたり、あるいは他の要素も含めて総合的に判断されれば、許可されるケースもあるようです。何をもって「上記と同等」と判断するのか、詳しく知りたいところです。

いずれにしても、大学名が具体的に出てくると、ちょっとどきっとしますね。
現地で聞いた様々な話からすると、このあたりが「いかにもシンガポールらしい発想」だそうです。

他の国では、どうなのでしょうね。私は、このあたりの専門家ではないので、どなたか詳しい方がいらしたら、教えてください。

以上、シンガポールの話題をお送りしました。