マイスターです。
突然ですが、大学時代に学んだこと、仕事で活かされていますか?
マイスターはと言うと……
大学で働いている現在、大学で学んだ知識はあんまり活かせていない気がします。
でも前職のプロデューサー時代には、かなりダイレクトに活かしていた気がします。
なんか不思議。
さて、マイスターは「大学の教育プログラムと、学生の卒業後のキャリアとの関係」について時々考えます。
よく言われることですが、日本の企業はこれまで社員を採用する際、大学で学んだことをあまり重視しないことが多かったようです。
君は経営学部を卒業しているからマーケティングの知識があるだろう?とか、君は経済学部出身だから数字の統計処理はばっちりだろう?とかいった判断で新人の配属が決まるかというと、そうでもなかったみたいです。
最近では社員の育成にあまりお金や時間をかけられないこともあり、そういった風潮は薄まってきているのかも知れませんが、それでも技術者などの専門職を除けば、
「必要な知識は入社後に身につけてもらうから、専門はそれほど問わない。それよりも人格的なバランスの良さや、コミュニケーションスキルを重視する」
というスタンスの企業がやはり多いように思います。
もちろんこれはこれで一つの考え方であり、別に悪いことではありません。
しかし日本の大学教育を見てみますと、リベラルアーツよりはむしろ、特定の学問に的を絞った「専門教育」であることを謳っているところが多いわけで、なんだか両者の認識に微妙なズレを感じなくもありません。
大学と企業の意思疎通のズレは、至る所に見られます。
・当世 企業の内定者研修
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50202804.html
4年生の夏、就職も決まり、卒業論文に向けてさぁこれまでの学習成果を発揮するぞという段階で、内定者に対して非常に負担の大きいを課す企業がたくさんあったり、
・「経済界」の皆様へ:大学の教育力向上も大切ですが……
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50256691.html
そのわりに、「昨今の大学生は専門知識を持っていない。我々企業は大学教育に不満を感じている」と言っていたりします。
そもそも専門教育が始まってまもない3年生のうちに採用試験を行い内定を出しているあたり、企業は、大学の専門教育にあまり期待していないのではないかと思えなくもありません。
もちろん大学と企業は役割がまったく違う組織ですから、ある程度ズレがあるのは仕方のないことです。大学が企業の都合に振り回されすぎてアカデミックな部分を失ったりするのは良くありませんしね。
ただそれならそれで、「どういう役割分担にしたら、学生も企業も大学もハッピーになるか」ということを、それぞれの意見を参考にしながら作っていくことも大事じゃないかと、マイスターは思うのです。
そのためにはやはり、お互いに意見を交換できる場を持つことがまず必要なのではないかな、なんて考えます。
うーむ、大学側と企業側、お互いに協力してよりよい人材育成を行う方法はないものか……などと考えることが多い今日この頃です。
そんなことを悶々と考えていたら、↓こんな報道を見かけました。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「経産省、大学の実践教育プログラムを企業の視点で評価する委員会を設置」(日刊工業新聞 科学技術振興機構サイト掲載)
http://brain.newswatch.co.jp/emkt/jst/16044/nknkogyo2007011100005.html
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経済産業省は1月末までに、大学の実践教育プログラムを企業の視点から評価する委員会を設ける。大手電機、自動車など4、5社の採用・研修担当者が委員会に参加する。学生が将来社会人として仕事をするときに必要となる能力「社会人基礎力」の養成に効果的な教育プログラムのあり方を探る。6月ごろには委員会をもとにした組織をつくり、実践教育プログラムの評価指針づくりにとりかかる。
(上記記事より)
タイトルの「大学の実践教育プログラムを企業の視点で評価する委員会」の部分に一瞬期待しましたが、よくよく内容を読んでみると、少々気になるところもあります。
「大手電機、自動車など4、5社の採用・研修担当者が委員会に参加する」と記事にはありますね。これだと、「企業の視点で大学を評価する」というよりも、「数社の大企業の視点で大学を評価する」というのが正確です。
もちろんこれはこれで意義のある取り組みですが、「職能団体の意見」というよりは「大企業の人事の都合」が反映される形になりやしないか……と少々不安も感じます。
(「社会人基礎力」の扱いを巡っても、世の中で色々と議論が分かれているようですし)
せっかくなら、こんな偏った特定大企業だけの意見ではなく、中小企業やベンチャー、外資系企業など、様々な組織の意見を聞きたいのに、とマイスターなんかは思います。そういう形を取ってこそ、大学教育全体に求められる普遍的な要素が抽出できると思いますし。
例えば産業ごとの業界団体や職能団体が間に入って、大学に対して意見を集約して伝えてくれるような仕組みがあったらいいんじゃないでしょうか。
アメリカでは、例えば法曹の職能団体が、ロースクールの教育プログラムを認証評価したりすると聞きますが、日本でも学問領域によっては、そういったことがあっていいのでは……。
ついでにもう一本。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「建築学会が大学建築学科の協議会を2月に設立」(NIKKEIBP)
http://www.nikkeibp.co.jp/news/const07q1/522546/
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建築系学科の協議会を設立するために、学会が動いているという内容です。
今回の改正士法では、一級建築士試験受験の学歴要件が「所定の学科卒業」から「指定科目の履修」に変わる。大学によっては建築学科のカリキュラムを見直さなければならなくなる可能性がある。また、実務要件を原則として設計・工事監理業務に限定するため、建築学科の教員に受験が可能かという問題が浮上する。このような教育現場に対する影響への対処が、同協議会設立の主な狙いだ。
(上記記事より)
こちらは先ほどのニュースとはまた少々意味合いが異なり、主として「教える側」の意見を代表するような団体になるのかな、と思います。でもこういった団体が存在することも、それはそれで大事です。
「建築の専門教育とはどういうものか、みんなで考えよう」という姿勢は、プロフェッショナル教育を勧めていく上でとても大切であるように思います。
例えば建設の業界団体と建築の職能団体(日本建築士会等)、そしてこの建築学科の協議会がそれぞれの意見をまとめて、一緒に建築学科のカリキュラムを作り上げるような形になったら面白いのではないか……なんて、個人的には思います。
大学の教育プログラムは、もちろん大学が責任を持って考えるものです。
ただ、特に特定の職能に直結するような学問分野の場合、そうやってつくったプログラムを外部の方々に評価していただいたり、あるいはアドバイザーとしてカリキュラムつくりに参加してもらったり、という動きがもっとあってもいいかも知れません。
それをどのように進めるかはなかなか難しいと思いますが……上の建築系学科の協議会などはその意味で、今後の動きに注目したいところです。
以上、マイスターでした。