大学の人工衛星も宇宙へ!

マイスターです。

毎年、東京大学大学院・工学系研究科の中須賀真一教授と早稲田塾とが行っている連携プログラムに、「スーパー スペースシステムズ プログラム」というものがあります。
名前だけ見ても、何が何だか分からないかもしれませんが、これは昨年11種類行われた塾大連携プログラムの一つで、宇宙に関して高校生達が学ぶというものです。

■「スーパー スペースシステムズ プログラム」(早稲田塾)

東大・中須賀研究室は、自分達で開発した人工衛星を2003年と2005年に打ち上げています
2つの人工衛星を運用しているという、非常に珍しい研究室なのですね。
そんな教授を始めとする研究室の方々と一緒に、学習用の人工衛星キット「CANSAT」をベースにしながら、実際に人工衛星を作ってみるというプログラムが、上記になります。

このプログラムの中でも、高校生達が特に目を輝かすのは、中須賀研究室が打ち上げた衛星と通信をするという回。
早朝に、本郷にある研究室におじゃまし、東京上空を通過する人工衛星の信号音を聴くのです。

■「スーパープログラム・ブログ 【S3P】 第5・6講 東京大学雪の陣・・・そして」(早稲田塾)

宇宙の人工衛星が東京を通過するのは一日に二回。その時間を狙って通信をします。
実際は、単純な電子音が聞こえるだけですが、メンバー達はその音から、宇宙空間を漂う人工衛星を想像して、胸をときめかせるわけです。

宇宙というのは、かくも私達の想像力をかきたてるものなのですね。
裏を返せば、それだけ宇宙が、私達にとってまだまだ遠い存在だということでもあるということでしょうか。

さて、というわけで今日は、こんな話題をお届けしたいと思います。

【今日の大学関連ニュース】
■「H2A打ち上げ 6小型衛星の電波受信」(373news.com)

23日に種子島宇宙センター(南種子町)から打ち上げられたH2Aロケット15号機は午後10時現在、小型衛星7個を分離したとみられ、6個の衛星の電波が地上で受信された。主衛星の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」は、太陽電池パネルを展開したという。
いぶきを開発した宇宙航空研究開発機構によると、衛星の状態は良好。今後、各機能の確認とセンサー調整などを行い、順調なら半年後から観測を始める。
小型衛星は大阪の中小企業が製作した「まいど1号」など相乗り衛星6個と、宇宙機構の実証衛星。同センターで記者会見した宇宙機構の立川敬二理事長は「相乗り衛星の打ち上げは、毎年1回やりたい。関係者はどんどん衛星を作ってほしい」と述べ、宇宙開発の広がりに期待を寄せた。
(上記記事より)

種子島宇宙センターから打ち上げられたH2Aロケット。
今回のロケットには、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、温室効果ガス観測のために開発した「いぶき」に加え、今回、小型の人工衛星達7個が「相乗り」していました。

もともと人工衛星の開発から打ち上げには、莫大な金額がかかります。
特にJAXAが手がけるような大規模な人工衛星はサイズも大きく、設計も大変。部品も特注です。
そのため、時間もお金もかかるというわけです。
これでは、宇宙開発の裾野はなかなか広がりません。

そこでロケットの余剰スペースを活用し、小型の人工衛星を一緒に打ち上げられるようにしようじゃないかというのが、今回の取り組み。

目的を絞って小型の衛星を開発するのであれば、それほど大きなコストはかかりませんし、学生にだって取り組めます。
敷居の高い人工衛星の開発・運用を、大学を始めとする民間団体の手の届くところに持ってこようじゃないか、という意義のある取り組みなのですね。

この取り組みについては、以前のブログでもご紹介しておりました。

(過去の関連記事)
■「大学、宇宙に挑戦」

そんなわけで今回、最終的に相乗りしたのは、以下の7個です。

■東大阪宇宙開発協同組合「まいど1号」
■東北大学「雷神」(スプライト観測衛星)
■香川大「KUKAI(空海)」(スターズ)
■東京都立産業技術高等専門学校「輝汐(きせき)」(KKS-1)
■東京大「ひとみ」(プリズム)
■宇宙航空研究開発機構「SDS-1」
■ソラン「輝き」

この通り、大学や高専などによる人工衛星が次々に打ち上げられました。
非常に明るいニュースです。

■「いぶき搭載カメラ/運用管制室の画像・映像」(JAXA)

↑こちらで「いぶき」が撮影した、7つの人工衛星切り離しの様子を見ることができますので、ご興味のある方はどうぞ。

それにしても、人工衛星のネーミングというのは、みんなとても情感あふれる素敵な名前ですよね。

そう言えば、以前に打ち上げられたJAXAの月周回衛星「かぐや(SELENE)」には、周りをまわる二つの子衛星があるのですが、それぞれ「おきな」「おうな」と名付けられていました。
名前を聞いた瞬間、「かぐや」を見守る二つの優しい衛星のイメージがぱっと浮かんで、ちょっと感動しました。
宇宙開発に関わっている方々は、皆さんロマンチストなのでしょうか。

方向性はちょっと違いますが、「まいど1号」も大阪の皆さんの夢を運ぶイメージがあり、ユニークです。
以前からメディアで取り上げられていたこの「まいど1号」には、↓このように大阪府立大学が関わっています。

まいど1号が軌道に乗った後に姿勢制御や実験データの送受信を担う大阪府立大学(堺市中区)では、工学部棟に設置された大型テレビの前で、学生ら約50人が打ち上げを見守った。
府立大は03年から本格的に事業に参画し、05年に小型宇宙機システム研究センターを開設。学生が中心となって、設計から実験機器開発まで多くの分野にかかわってきた。
「H2A、「打ち上げの瞬間はどきどき」 大阪府立大学」(Asahi.com)記事より)

このほか、各大学でも打ち上げ成功に対して、喜びの声が上がっています。

香川大工学部が製作した超小型の親子人工衛星「KUKAI」を載せたH2Aロケットが打ち上げに成功した23日、高松市林町の香川大工学部キャンパスでは、開発に携わった能見公博准教授(40)らが、宇宙空間から送られてきたKUKAIの電波をキャッチし、ロケットからの切り離しの成功を喜んだ。打ち上げの瞬間を一緒に見守った子どもたちは「香川の衛星が地球を飛び出すなんてすごい」と宇宙への夢を広げていた。
工学部講義室には、市立林、多肥小学校の6年生と、地元住民や大学生ら約200人が集まり、宇宙航空研究開発機構から衛星中継された映像を大型プロジェクターで見守った。子どもたちは打ち上げ5秒前からカウントダウン。午後0時54分、ごう音をたてながらロケットが発射されると、拍手と歓声が上がった。
(略)無線設備が置かれた通信室では、能見研究室の学生ら約15人が通信テストのため待機。午後2時32分、協力を依頼していた北海道工業大からKUKAIのモールス信号を受信したとの連絡が入ると、学生らは「やったー」と喜び合った。2分後、通信室でも受信し、ロケットからの切り離しに成功したことを確認した。
「 『KUKAI』打ち上げ 児童ら宇宙へ夢広がる」(読売オンライン)記事より)

東北大初の独自小型衛星を搭載したH2Aロケット15号機が23日、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。同大理学研究科の管制室では、衛星が予定通り軌道に乗り正常に機能していることを示す信号を受信すると、集まった関係者からは拍手と歓声が上がった。
衛星は、デジタルカメラ4台と電磁波計測器などを備え、高度約660キロから、スプライトという高層大気の発光現象を真上から観測する。観測によって、雷の発生や気候変動のメカニズムを解く手がかりにつながるという。
管制室には、衛星の開発に携わった高橋幸弘准教授や学生が集まり、衛星からの信号を待った。予定時刻の2分前からカウントダウンが始まり、受信を確認するモニターを見つめた。午後2時33分に衛星からの信号を受信したことを示す周波数がモニターに映し出されると、「やった」「すごい」などの歓声が上がった。
その後開かれた記者会見で、衛星の愛称は「雷神」と発表された。高橋准教授は「打ち上げが成功しても安心できなかったが、信号を確認でき、次の段階に進めると思うとうれしい」と話した。
(略)高橋准教授は「小型衛星でも世界レベルの研究が可能だということを証明できる意味は大きい」と話した。
「東北大初の衛星成功」(読売オンライン)記事より)

冒頭の「スーパー スペースシステムズ プログラム」でお世話になっている東京大学・中須賀研究室も、今回、3機目になる衛星「ひとみ」(コード名:prism)を打ち上げました。
マイスターも高校生達と一緒に、どきどきしながらプロジェクトサイトや実況ブログを見ていました。

■東京大学ISSL PRISMプロジェクトサイト
■PRISM Operation Real Time Report

こうしてみてみると、学生の参加や地域との結びつきなど、開発から運用までの各フェーズで、大勢の方がプロジェクトに関わっているところが少なくないようです。
宇宙開発は、大勢の方々の夢を載せた取り組みなのですね。

今回、高専として初めて人工衛星を打ち上げたのが、都立産業技術高等専門学校のメンバー達です。

“奇跡”を種子島で見届けた-。二十三日に「いぶき」とともに打ち上げられた小型衛星「輝汐」を製作した東京都荒川区の都立産業技術高等専門学校荒川キャンパスの学生十二人。十五-二十二歳の世界最年少級の衛星開発チームの軌跡が宇宙に刻まれた。
学生たちは午前十一時すぎ、発射台の北約三キロの岬に到着。午後零時五十四分、ごう音を上げながらH2Aが上昇すると「ウオー」と歓声を上げ、迫力に圧倒された。ロケットが雲に隠れても上空を見続けた。
地球を撮影するカメラ開発に携わった小桧山俊輔さん(20)は「音と光が予想以上。ごう音が体に響いた。発射の衝撃に負けず写真を送ってほしい」。午後八時半、衛星から電波の受信を確認すると、宿舎は拍手に包まれた。一時は信号が届かないか不安だっただけに代表の湯田永晶さん(19)は「信じていた」と喜びをかみしめた。
学生を指導してきた石川智浩准教授(33)は「彼らは想像以上に成長した」と感無量の表情。「打ち上げと学生の喜ぶ顔が同時に見られてうれしい」
衛星開発は苦難の連続だった。開発時間や予算の制約。衛星製作のノウハウもなく技術的な課題もあった。石川准教授は「最初は、はんだづけの仕方から教えた」と振り返る。
学生たちはあきらめなかった。区内の町工場に技術協力を依頼。高専生の夢はいつしか、「ものづくりの街」を誇る地元「荒川の夢」に膨らんだ。区内では「衛星打ち上げを応援する会」が発足。会が集めた寄付金約二百万円で、学生の種子島入りも可能となり、この日は区役所で応援行事も開かれた。
学生たちはお礼として衛星のアルミ板に寄付者の名前などを書いたマイクロフィルムを張り付けた。その数計百三人分。「荒川の夢」も宇宙に届けられた。「周囲の協力で今日を迎えられた。感謝したい」。上空を見上げる湯田さんからはそんな言葉が自然とこぼれた。
「都立高専の小型衛星 キセキ遊泳」(東京新聞)記事より)

鳥人間コンテストは雲行きが怪しくなってきていますが、その一方で宇宙という、新しい学生の挑戦の場が生まれてきているようです。

さらに今回は、これらの人工衛星からの通信を受信するために、多くの大学や高専が協力しています。

今回は打ち上げから数日間、東京大のPRISM、香川大のSTARS、産業技術高専のKKS―1の電波の受信に、11の大学・高専が協力することになった。3衛星の開発にはかかわっていない学校もあるが、それぞれ独自に小型衛星を開発するなどしており、将来の「本番」をみすえての参加だ。東大のPRISMの電波は九州大や東京電機大が、香川大のSTARSは創価大や北海道工業大などが、産業高専のKKS―1は九州工業大や大阪府立大などが受信を試みる。
今回のH2Aは南に向かって打ち上げられる。衛星は南極から南米沖を通過し、北極をめぐってきた後は中国上空を通り過ぎていくため、衛星の最初の「産声」は西日本で受信しやすいという。
(略)超小型衛星を開発中で、H2Aによる打ち上げを目指している九大は、東大のPRISMを担当。平山寛・助教は「データを受信し、情報処理をする練習にもなる」と話す。
「衛星たちの『産声』受信確実に 11の大学・高専が協力」(Asahi.com)記事より)

人工衛星は、設計開発、打ち上げ、そしてその後の運用まで、各フェーズで様々なことが学べるプロジェクト。
上記のように、打ち上げられる衛星の支援を通じて、プロジェクトに関わることにも意義があるでしょう。

ちなみに「CubeSat」といって、10センチ立方の超小型人工衛星開発を行う取り組みなども、国際的に行われているようです。

■東京大学 CubeSat プロジェクト
■東工大CubeSat CUTE-I
■日本大学CubeSatProject

宇宙に手が届くようになった今、挑戦してみない手はありません。
複数の大学や高専で連携する、地元から寄付を募るなどの方法で、プロジェクトを立ち上げてみてはいかがでしょうか。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。