非常勤スタッフの「雇い止め」が大学でも拡がる?

マイスターです。

「内定取り消し」をはじめ、就職状況の厳しさを報じるニュースが、相変わらず続いています。

■「内定取り消し753人 大学短大高専分を文科省まとめ」(Asahi.com)

大学、短大、高等専門学校を今春卒業予定で、就職の内定を取り消された学生が、全国で283校の計753人に上ることが23日、文部科学省のまとめでわかった。うち269人(36%)は他の企業などから内定を受けたが、397人(53%)が就職活動を続けており、33人(4%)は留年する予定という。
(略)また、取り消しには至らないものの、「(企業が)内定辞退を示唆」も274人に上り、「採用時期の後ろ倒し」も43人、「自宅待機」も14人いた。内定取り消し後の企業との関係では、「示談に応じた」が345人と半数近かった。取り消された学生がいる大学などのうち263校は、学生が再び就職活動をするのを支援していた。
(上記記事より)

入学難易度が高いとされている各私大のほか、京都大学などでも内定取り消しが出ているそうです。

また企業の業績悪化に伴い、派遣社員が契約を切られる「派遣切り」や、契約更新を拒まれる「雇い止め」も多発。年末には、「年越し派遣村」が話題になりました。

※↓派遣問題については、こちらにわかりやすくまとめられています。
■「年越し派遣村と2009年問題」(坂東太郎のこれだけは知っておきたい高校生のニュース常識)

そんな厳しい状況をふまえてか、各大学の就職課やキャリアサポート担当部署には、「何が何でも常勤の正社員を目指せ」と学生に指導しているところが少なくないようです。

では、常勤の正社員ではなく、非常勤の職を得たらどうなるのでしょうか。

【今日の大学関連ニュース】
■「京都大、非常勤職員100人を22年度再契約せず」(MSN産経ニュース)

京都大学(京都市左京区)が、平成22年度中に契約期限を迎える非常勤職員約100人について、契約を更新しない方針を固めたことが23日、分かった。京大は17年3月の就業規則改定で、同年4月以降に採用した職員の契約期限の上限を5年と規定。この規則に沿った措置だが、背景には国からの補助金抑制など、国立大学を取り巻く厳しい財政事情があるとみられる。
契約満了の対象となるのは、17年度に採用された非常勤の事務職員や研究員、看護師ら。京大によると、20年12月現在、時給制で働く非常勤職員は約2600人で、うち半数の約1300人は、17年の就業規則改定後に採用された。
一方、国から京大への運営費交付金は毎年約10億円ずつ減額され、常勤職員数や人件費も抑制傾向が続いている。このため、職場によっては、事務作業などで削減された常勤職員の仕事を肩代わりし、非常勤職員の負担が増えているケースもあるという。
教職員の組合内には「職場の実態を考慮していない」と一部で反発の声も上がっているが、京大人事企画課は「非常勤職員の業務は臨時的で補助的。雇用期間の上限は採用時に個別に伝えている」としている。
(上記記事より)

大学の業務を考える上で、非常勤スタッフの存在を外して考えることはできません。

平成20年の時点で、京都大学で働いている事務職員・技術職員等の数は、京都大学の発表によれば2,528人。
この数字にはおそらく、非常勤スタッフの数は含まれていないと思います。

■「データで見る京都大学:職員数 2008年度」(京都大学)

これに対し、非常勤のスタッフは、上の記事によれば約2,600人。
割合としては、低くはありません。

この非常勤スタッフには、色々な方がいます。
補助的な事務作業を担う方々もいれば、ある種のスペシャリストとして、専門的な業務を担う方もいるでしょう。

常勤の大学職員は、市役所の方々などと同じで、数年おきに学内の部署をローテーションしながら、ゼネラリストとしてキャリアを積んでいくのが基本。
ですので、専門的な知識やキャリアが求められる業務では、逆に非常勤スタッフの力を必要とする部分もあるのだと思います。

事務作業に関しても、前述のように正職員はローテーションで移動を繰り返すゼネラリストですので、実際の詳細な処理や手続きなどは、ずっとそこにいる非常勤の方の方がよほど詳しかったりします。
パートの方が辞められたことで業務に支障が出る、なんてこともないとは限りません。

面倒見の良い受付のおばちゃんから、専門技術者まで、様々なスタッフによって構成されているのが大学の業務。その中で非常勤スタッフは、非常に大きな位置を占めています。

そういう意味では、上記の記事の内容は、けっこう衝撃的です。

しかもこの記事には、

このほか東大は21年度、大阪大は22年度以降に契約満了となる非常勤職員の雇い止めを実施する予定だが「統計を取っていない」として対象者の人数や職種を明らかにしていない。
(上記記事より)

……という記述もあります。

企業は以前から、正社員を絞り、派遣の方やアルバイトの方に切り替える動きを進めていました。具体的には、新規採用の数を抑える、正社員が定年などで辞職をしても補充しない、などです。

そして大学でも同じようにその流れが進んでいることは、業界の中では前から指摘されていました。

前述の通り、ひとくちに「職員」といっても、実際の業務は多岐にわたっています。
そして大学の職員と教員は、同じ組織で同じ目的のために働く教職員であり、同僚です。したがって、大学にもよりますが、正規の大学職員の給与水準を、教員とあまり大きな差がつかないように設定しているケースも少なくないようです。
そこで、単純作業は派遣社員やアルバイトなどに置き換え、より高度な判断が求められる部分だけに正職員を置くような人事を進めている大学が増えていると聞きます。

そのようにして増えた非常勤スタッフの方々が、「雇い止め」という名の、コストコントロール手段の対象になっているわけです。

企業は不況に伴う業績悪化を受けて「雇い止め」を進めているわけですが、大学では少子化や補助金の削減などが、そのきっかけになっていくのかも知れません。

大学側がこうした動きを進めている理由は、たくさんあります。

国公立も私立も、大学の経営は、非常に厳しいです。
これまで経営を支えていた収入が減る一方で、業務の高度化や、競争の激化に伴い、支出は増えがち。私大では、学部を廃止したり、キャンパスごと撤退したりといった動きも拡がってきています。

収入を増加させる見込みが確実でない以上、コストを減らすという選択は、経営者にとってごく自然なもの。いつか、どこかで行わなければならない決断であるのは確かなのでしょう。
そして現在の法律や社会状況の中では、非常勤スタッフにそのしわ寄せが集中するのも、悲しいことですが自然な流れではあります。

ただ「年越し派遣村」でもわかるように、まさか「非正社員」が、ここまで組織側にとって便利にコントロールされる立場であるとは、以前にはおそらく、誰も想像がついていなかったでしょう。
今後は、派遣社員をはじめとする非常勤スタッフのあり方を、社会全体で考え直していく必要があるように思います。

ちなみに正規の常勤職員の方も、安心はできません。

例えば企業では、悪質な例になると

■社員が体調を崩し、(正規の福利更生手続きを踏んで)病欠をとる
 ↓
■会社側はその間、「安心して○○月まで休んでいなさい。段階的に復帰していこう」などという。
 ↓
■しかし体調が戻り、復帰予定のわずか数日前になったタイミングで、急にそれまでの話を覆し、「復職は難しい」などと、退職を決定事項にしてしまう。

……なんていう「テクニック」を巧みに使って、社員を減らすところがあるようです。
酷い話では、復帰する際、回復を証明するために医師による診断書を持参したところ、人事課から「受け取れない」と拒否されたケースもあるとか。
違法にならないように、注意深く人を減らしているのですね。

大学では、このような例はまだないと思いますが、いずれはこうした裏技を駆使する大学が現れないとも限りません。
それくらい、経営的に厳しい状況に追い込まれている大学が少なくないからです。

ただ、大学というのは、企業に学生達を送り出す側でもあります。
送り出した学生達が社会で同じ仕打ちを受けたらどう思うか、という視点はせめて持っておいて欲しいところです。
企業でも大学でも、コストの見直しを進めなければならないのは事実ですが、その方法はちゃんと考えた方がいいでしょう。

それに多くの大学においては、人件費以外の無駄も非常に多いと思います。
まずは先に、そちらを見直してみることをお勧めします。

働く側にできることは限られていますが、(大学に限ったことではありませんけれど)「商品価値を高める」というのは大事だと思います。

大学の業務は、高度専門化しつつあります(というか、高度専門化していない大学は、まっさきにつぶれるでしょう)。
語学などの特殊技能であれ、担当業務に関する知識やスキルであれ、何かを身につけるというのは大事だと思います。
手始めとして、大学行政管理学会(JUAM)に加入し、大学について学んでみるということも有効かもしれません。何より「こんなに熱心な人達がいるんだ。自分も頑張らなきゃ」という刺激になります。

大学で働いている方には、市役所などの公務員を目指していた人が少なくないようです。
そういった方に、大学への就職動機を聞くと、「楽そうだった」「早く帰れそうだった」といった答えが返ってくることもあります。実際、現在までは、そういう側面もあったかもしれません。
(このブログを読んでくださっている方には、そういう方は少ないと思いますが、周りにはおられるのでは?)
ただ、これからは少しずつそういう職場ではなくなってくるでしょう。

それと、理不尽な要求にはちゃんと反論ができるよう、労働組合にはちゃんと入っておくことをお勧めします。
昨今では、若い方などの間で労働組合への加入率が著しく落ちていると聞きますが、こんなご時世ですから、せっかくあるのなら、加入しておいた方が何かと安心ですよ。

以上、ニュースを読みながら、色々考えたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

1 個のコメント

  • マイスターさんの記事をいつも興味深く拝読しております。非常勤職員の問題は大学にとって非常に重要な問題だと思います。
    ただ、最後にご指摘の労働組合の件ですが、現在の大学の労働組合は基本的には教員のための労働組合ではないかと感じています。職員が入って、職員の権利を守るための活動をすることができるのでしょうか?個人的な感想と言えばそれまでですが、少なくとも自分の所属している大学の組合がそうとは思えません。