マイスターです。
■母校を語れる広報スタッフを増やそう
↑以前の記事で、大学の「教育内容」を受験生に伝えていない大学が多いのではないか、と申し上げました。
(※その後、この記事がきっかけとなり、大学で教職員向けセミナーを行わせていただいたりしました。ご参加下さった皆様、ありがとうございました)
実際に行われている教育の様子を、高校生や受験生は知りたがっています。
ぜひ大学には、「素」の姿を見せてあげて欲しいとマイスターは思います。
さて、今日は興味深い記事を2つ見つけましたので、ご紹介します。
【今日の大学関連ニュース】
■「キャンパス探訪:(4)自信があるから素の姿」(読売オンライン)
志望者やその保護者に、ありのままの姿を見せようとする大学がある。
「うちの大学は忙しい。実験や実習が多くて、夏休みは1、2週間しかないが、その分将来への不安はない」
「おしゃれしてブランド品を持って、というような女子大のイメージは全くない」
埼玉県坂戸市で女子栄養大学のオープンキャンパス(見学会)が行われた7月26日、大教室の教壇で、オレンジ色のTシャツを着た学生2人がマイクを握った。3年の高瀬麻梨香さん(20)と2年の秋山加奈さん(20)。教室には、志望者の保護者ばかり約200人が集まった。
司会役の染谷忠彦常任理事(65)が「駄目なところを言っていいんだよ」と促すと、2人とも「学費が高いところですね」と苦笑いを浮かべた。保護者からは「1週間の時間割は?」「生活費はどうしているか」といった質問が飛んだ。
(略)入学定員約600人の小さな大学のオープンキャンパスに、昨年度は8日間で計約5500人が訪れた。今年は9日間に増やしたが、取得できる資格の説明や、職員や教授、学生による個別相談が中心で、派手な催しはない。料理と皿のコーディネートなど体験セミナーはごくわずか。予算は、学生へのアルバイト代、配布資料代など約500万円だけだ。7月26日には授業も行われ、教室が数百人の学生で埋め尽くされていた。
(略)素朴なオープンキャンパスの裏に、大学側の自信がうかがえた。
(上記記事より)
読売新聞「教育ルネサンス」の記事。
受験生の保護者に対して、「在学生達が素のままの大学を語る」という主旨で、女子栄養大学が行っている取り組みを紹介しています。
「学費が高い」なんてのは、普通なら、保護者に一番聞かせてはいけないとされている台詞。
それすらもストレートに伝える姿勢は、それに見合う教育を行っているという自信があるからこそでしょう。
良いところだけでなく、その裏返しとしての「欠点」も伝えるという姿勢は、かえって信頼を与えます。
これは大学に限った話ではなく、価格の高い商品やサービスに共通することでしょう。
さらに教育の場合、
「その教育を受けて何年も経ってから、その教育の本当の価値がわかる」
……という事情が加わりますので、なおさら、形だけの華やかな広報は上滑りします。
これまでは、良い点ばかりを語り、都合の悪い情報は公開しないという大学も少なくありませんでした。しかし本当は、上記の女子栄養大学のような広報のあり方を求めている受験生、保護者は、多いのではないでしょうか。
「演出」に頼らず、素の姿を見せることに心を砕く女子栄養大学の姿勢は、個人的には好感が持てます。
良いところだけを語る広報は、やがて行き詰まるでしょう。
今後は、女子栄養大学のような広報を取り入れる大学も増えてくるかもしれません。
↓同じ教育ルネサンスに、こんな記事もありました。
■「キャンパス探訪:(2)1泊2日で体験授業」(読売オンライン)
1泊2日で、観光学の一端に触れる取り組みがある。
夏休みに入ったばかりの観光地・神戸ハーバーランドを、高校生4人が、神戸夙川(しゅくがわ)学院大学(神戸市)の学生や教員と歩いていた。同大のオープンキャンパス(見学会)の参加者たち。17人が4グループに分かれ、それぞれ神戸の街に繰り出した。
各グループには課題が与えられていた。ハーバーランド組の4人は「神戸は外国人旅行者にとって歩きやすいか」。「お店の案内が日本語だけって、不親切だよね」。参加者の一人、相馬寿美さん(18)が案内板を指さすと、傍らにいた友好崇暢(たかのぶ)君(18)が、大学から貸し出されたカメラで写真を撮る。「日本語のほかに、何か国語ぐらい表示してあればいいと思う?」。すかさず指導役の大学生が質問を投げかけた。
同大は、観光文化学部だけの単科大学として2007年に開学した。1、2年次では、観光都市・神戸の街の魅力と課題を見極め、観光学的視点から提言をする「調査研究」が必修科目だ。オープンキャンパスで授業を疑似体験させるこの企画は、開学前年の06年から、1泊2日で行われている。
大学に戻ると、高校生らは引率教員の研究室で議論を深め、翌日の発表のための資料を作る。夕食を挟んでさらに作業を続け、ホテルに着くのは午後9時過ぎ。翌日も午前11時からの発表会に備えて、朝から打ち合わせをするハードなスケジュールだった。
(略)この2年間で、説明会や学内見学を組み合わせた通常のオープンキャンパス参加者の出願率が5割未満なのに対し、1泊2日のオープンキャンパス参加者の出願率は7割を超える。さらに、入学後も勉学意欲がかなり高いという。
(上記記事より)
入学後に行う「大学の勉強」の大変さを体験させ、具体的なイメージを持った上で志願してもらおう、という神戸夙川学院大学の取り組みです。
このプログラムに参加した参加者の出願率は7割を超え、入学後の意欲も高いということで、手応えは上々の様子。もともと志願度の高い受験生が多く参加するのだとしても、その受験生達を確実に受験させる上での後押しになってはいるでしょう。
観光系に焦点を絞り、いくつかの大学のオープンキャンパスに参加しているという相馬さんは、「良いところばかりを強調したり、遊びのような内容だったりの大学にはがっかりしていた。入学後の勉強がイメージできてよかった」と振り返った。
バラ色のキャンパスライフだけを見せていても高校生の心はつかめない。
(上記記事より)
……という記述が、とても印象的。
マイスターも、この参加者の言葉に深く共感します。
教授や入試課担当者が大学自慢を語るのではなく、「教育の内容」を持って大学を語る。
地味なようでいて、これが一番、相手の信頼を得られる方法だと思います。
これらの取り組みは、高校生と大学との関わりのあり方を考える上でも、参考になりそうです。
■志願倍率を上げることが最終目的ではない
以前からブログで何度か申し上げているように、マイスターは「受験者数」や、「オープンキャンパスの動員数」を増やすことだけを目的にする大学の姿に、いくばくかの疑問を感じています。
「アドミッションポリシーに沿う学生を確保し、しっかり教育して送り出す」これが大学の使命です。
しかし現状では、自分の大学に共感する受験生を丁寧に探し育てていくという取り組みに着手している大学と、まったくしていない大学とで、差がけっこうあるのではないでしょうか。
神戸夙川学院大学のような取り組みには、手間も時間も、コストもかかります。
それに、宿泊を伴うプログラムですから、一度に参加できる高校生の人数も限られるでしょう。
多くの受験生を集めるのが最終目的なら、効率はあまりよくありません。
しかし参加した高校生に、大学での学びの姿、具体的な「観光学」の姿を意識してもらうことができます。入学してからも決して楽ではないことや、小中高までの学びとの違いなども、体感してもらえるでしょう。
最終的に、意識の高い学生を大学に集めることにつながっているわけですから、こういった取り組みの仕方も「アリ」だと個人的には思います。
また結果として、神戸夙川学院大学には受からなかった、あるいは受けなかったという参加者も出てくるかも知れません。
しかし、プログラムの体験を通じて得られた目的意識は、本人達にとっては無駄にはなりません。
日本の観光学全体、大学教育全体にとっては、意識の高い学生が増えることはメリットです。
そう考えると、(大げさに聞こえるかも知れませんが)これは大学の受験生集めというだけでなく、意識を持った高校生を育てるという取り組みでもあるのではないでしょうか。
受験難易度でのポジションや知名度の高さに頼って、受験生の「数」を集めるだけの大学もある中で、こうした取り組みは評価されていいと思います。
※↓ちなみに早稲田塾の「スーパープログラム」も、同じコンセプトで実施しています。
■「2008年度 スーパー プログラム アーカイブ」(早稲田塾)
これからの、新しい大学広報のあり方を考える上で、上記の2つの記事で紹介されている取り組みは、いずれも参考になるのではないかと個人的には思うのですが、いかがでしょうか。
以上、そんなことを考えたマイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。