マイスターです。
■AO入試の評価(1):AO入試を失敗させる大学
■AO入試の評価(2):AO入試でも学力試験を課すべき?
過去二日間の記事で書かせていただいたマイスターの意見を要約します。
■AO入試生は、「キラリと光るポテンシャル」を評価されて入学する学生であり、ゆくゆくはめざましい成果を上げ、周囲を先導する可能性を秘めた人材。
ただ、現時点での基礎学力については評価されていないので、(特に入学直後の)サポートが必要。学科のカリキュラムによっては、従来の一般入試生と同じスタートを切らせるだけだと、つまづいてしまう可能性もある。
■総合的な選抜の一環として、入学後の教育と連動させるために学力試験の点数を評価するのであれば、日本のAO入試で学力試験の点数を提出させることにも意味はある。(※ただし現時点では、学力試験を課す場合、AO入試であっても2月以前の実施は原則として文科省が認めない)
もっとも、これまでAO入試をきちんと活用できなかった大学が、AO入試に学力試験を導入しても、総合的な選抜&ポテンシャルを引き出す教育をできるようになるかどうかは疑わしい。
いずれもマイスターの私見ですが、皆様はどう思われますでしょうか。
現在、
(大学関係者の意見)
「AO入試での入学者は、入学後の成績が悪い」
「AO入試は、選抜の手間ばかりかかる」
↓
「だから、学力試験を導入させろ」
(文科省の意見)
「AO入試での入学者は、入学後の成績が悪く、大学教育の質を下げる可能性がある」
↓
「だから、学力試験を導入しなさい」
……という流れが起きているようです。
前にも申し上げたとおり、AO入試に学力試験を取り入れることには、個人的には反対ではありません。むしろ、人物評価で合格させる場合であっても、ある程度基礎学力の状況は知っておいた方が、入学後のサポートやアドバイスを柔軟に行えると思います。
でも、過去二日間にわたって申し上げたようなことから、マイスターは、「本当に学力試験の有無だけがAO入試の問題なのか?」と思ってしまうわけです。
失敗している大学の場合、他のところにも問題や改善点が山ほどあるのに、すべてを学力試験がないせいにしてしまっているようなきらいがあるように感じるのです。
現状のAO入試でも、十分に成功している大学はあります。
【今日の大学関連ニュース】
■「AO入試『完全に定着』 導入18年、慶応大SFC2学部」(Asahi.com)
学科試験重視から脱却し、面接や志望書による総合的な人物評価で合否を決めるAO(アドミッションズ・オフィス)入試。実施する大学が07年度に全体の6割に達した一方、九州大法学部など廃止を決める動きも出てきた。90年度から導入し、国内の先駆けとされる慶応大湘南藤沢キャンパス(SFC、神奈川県藤沢市)の総合政策、環境情報両学部の実情はどうなっているのか。両学部長と、AOで入学した卒業生に聞いた。
――AO入試を廃止する動きが出ています。SFCでは導入から18年がたちますが、当初の目的は達成できていますか。
阿川尚之・総合政策学部長 AOはSFCでは完全に定着した。追跡調査を見る限りAOの学生は一般入試の学生よりいい成績を残し、学内の賞を取る率も高い。私たちも教えていて、AOの学生は元気がよく、やりたいことがはっきりしていると感じる。
徳田英幸・環境情報学部長 既にある入試制度に後付けでAOを導入した大学と、最初からその後の授業の枠組み、フォローアップも含めて設計していた大学の違いが出てきたのでは。他大学が言うようなAOの弊害、あまり機能していないという点は、私たちの感覚とだいぶ違う。
――AOは他大学にも広がってきました。入ってくる学生の質に変化は。
阿川 子どもが少なくなり、SFCもその余波は受けている。90年の開設当初はある種のSFCブームもあり、わっといい人が来てくれたが、なかなかそういう人が来てくれない時期もあった。何年は良かったとか、ワインに似ているかもしれない。
徳田 他大学にもかなりのスピードで広がり、競争は激化した。それでもピカッと光る面白い人が入り、キャンパスの活性化に貢献してくれている。
――学業成績を重視するB方式は、従来のAOの目的にそぐわないのでは?
徳田 他大学との競争が激化する中、取る人に漏れがあるのではないかと見直し、05年度からB方式を導入した。高校の評定平均値4.0以上という基準をなくして色々な人が来るようになったこともあり、学業がずばぬけてよくてSFCでやりたいことが明確な人も取ろうと。
――AO対策に力を入れている予備校もあります。AOの性質と相いれないという声もありますが、影響は出ていませんか。
阿川 指導を受けた子も本来の自分が持っているものを出さないとなかなか通らない。私たちもその子が本来持っているポテンシャルをちゃんと見てあげたい。教員がわりと一生懸命やってくれるのは、面接する中で感動や驚き、あきれなどを一日のうちに何度も感じられるからだと思う。ペーパーに書かせて採点するのとは全然違う。顔の見える入試であり、それだけでも続ける価値はある。
――一部の国立大で廃止の動きが出ています。
阿川 慶応やSFCがユニークな大学であるということは守りたいと思っているから、他大学が全部やめようと関係ない。
徳田 法人化で本来個性を持つべき国立大が横並びでやめていったとしたら、全然法人化できていないことになるし、我々にとっては有利だ。
――学力低下の一因という声も上がる中、AOと推薦入試に対する学力検査などの導入案が、中央教育審議会で検討されています。
徳田 大学機関が金太郎あめのような人を次々と出したいのか、一人ひとり個性豊かな人を出したいのか。それは、どういう人を育てたいかというキャンパスの個性だと思う。ゆとり教育と同様、揺れる問題になるだろうが、試験の導入はAOのもともとのエッセンスをかなり逸脱する。
(上記記事より)
慶應義塾大学SFCは、「日本版AO入試」のスタイルをつくった大学だということになっています。
そのSFCの学部長達は、上記のように、現状のAO入試で成果を上げていると言い、また学力試験の導入を「AOのもともとのエッセンスをかなり逸脱する」とコメントしています。
マイスターも以前、SFCの教員に直接聞いたことがあるのですが、SFCでは
AO入学生 > 塾内推薦生 > 一般入試生
……の順に、成績が良いのだそうです。
大学によっては、この順番、逆になるかも知れません。
SFCにおいては、AO入試のやり方が選抜として有効に機能しているということの証でしょう。
上記の記事には、いくつか興味深いコメントがあります。
「既にある入試制度に後付けでAOを導入した大学と、最初からその後の授業の枠組み、フォローアップも含めて設計していた大学の違い」
「私たちもその子が本来持っているポテンシャルをちゃんと見てあげたい。」
AO入試では、ポテンシャルを見るとあります。
また、その後の授業の枠組みやフォローアップも含めてAO入試を設計している、とあります。
(また、「他大学との競争が激化する中、取る人に漏れがあるのではないかと見直し」という点も、興味深いです)
おそらくこのあたりの認識を正しく持っているか否かが、AO入試の成否に繋がっているのではないかとマイスターは思うのです。
また、上記の記事では触れられていませんが、SFCのカリキュラムにも秘密があります。
SFCでは、
「論理的に考えて、考えを述べる」
「問題意識に基づき、主体的に学び、動く行動力がある」
というような学生の養成を目指し、それに対応したカリキュラム設計を行っています。
・SFCシラバス
シラバスを見るとわかりますが、数学力や、物理化学、英語の文法力といった高校での学力が直接求められるような授業を、入学直後に必修として課せられるようなことはありません。
マイスターが見る限り、SFCの授業で必要とされているのは論理的な思考能力と表現力、自分で必要な学びを行える自主性、行動力であるように思えます。
これは、行われているAO試験の内容とも、ぴったり一致しています。
さらにいうと、実践の順番も、普通の大学と少し異なります。
通常は大学に入学した後、教養科目や基礎科目を学び、基礎と専門をつなぐ科目を学び、次に専門科目を学び、最後に、ゼミや研究室で研究に取り組み、論文を仕上げます。
基礎を積み上げた後、「その基礎によって扱うことが可能になった」研究テーマに取り組むのです。
一方、SFCの発想は、少し乱暴に説明すれば、「最初に研究テーマを設定し、その後、その研究を行うために必要な科目を選んで、4年間を組み立てる」というもの。つまり、基礎と卒論の順番が普通と逆なのです。
開設当初からSFCが、AO入試で「問題意識」や「学びの意欲」を重視している理由が、よくおわかりいただけるのではないでしょうか。SFCの場合、自分の中に研究テーマを持っていないと、学びが始まらないのです。
(※実際には、2年生くらいから研究に取りかかる学生も多いと思うので、最初の1年間で見つけられれば問題ないとは思いますが)
結論として、SFCのAO入試はSFCのカリキュラムと密接に結びついているから成功しているのだと、マイスターは思います。
日本で行われているAO入試には、このSFCのAO入試を手本にしたものが少なくありませんが、ただこの通り、SFCの教育方法は、少々特殊です。
SFCとまったく同じ選抜方法を、他の大学で取り入れても、成功するかどうかはわかりません。
もちろん、良い参考にはなるでしょう。ここにプラスして、それぞれの大学にあったやり方を、それぞれの大学で議論して、ちゃんと考えていく必要があるように思います。
以上、3回にわたって、長々と書かせていただきました。
個人的には、高校で学んだ教科の点数だけで機械的に学生を選ぶ一般入試よりも、人物ときちんと向き合い、お互いに学びのパートナーを選んでいくAO入試の方に、魅力と可能性を感じます。
求められる学力の変化、少子化、退学する大学生の増加、海外からの留学生の増加……といった現状を考えると、学力試験だけでの選抜には限界があるのかも、とも思います。
ただ、AO入試を成功させるためには、やはり根本的な部分から、きちんと制度設計を行う必要があると思います。安易に、「学力試験を導入すれば良い学生を取れるようになる」なんて考えているようでは、おそらく成功はしません。
(入試というのは常に見直されるものですから、数年後にどうなっているか、保証はないのですが)個人的には、「試験の点数も含めた総合的な人物評価」と、「入学後のケアにちゃんと接続される評価・選抜」、そして「カリキュラムと一体になった入試」が、今後の大学入試のあり方になってくるのではないかと考えます。
このベースになるのは、現在の一般入試ではなく、AO入試の考え方の方ではないかと、個人的には思います。
ぜひ、それぞれの大学にとっての、理想の入試のあり方を検討してみてください。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。