AO入試の評価(2):AO入試でも学力試験を課すべき?

マイスターです。

■AO入試の評価(1):AO入試を失敗させる大学

本日は、昨日の記事の続きです。

ところで昨今では、「AO入試においても、学力試験を実施せよ」、という意見が、強まっているようです。

中央教育審議会も、そのような提言案をまとめています。

中央教育審議会は23日開いた会合で、大学の新入生の学力低下が指摘されていることを受け、推薦やAO(アドミッション・オフィス)入試でも学力テストを実施することなどを盛り込んだ提言案をまとめた。広く利用されている大学入試センター試験とは別のテストを新設することも想定している。
推薦やAO入試は、早めに進学先を決めたい学生側と、学生を囲い込みたい大学側の狙いが一致して急速に拡大。現在は大学に入学する人の4割を占める。ただ、ほとんどの場合、学力テストの受験が要らないため、基礎学力の担保が大きな課題になっている。6割の大学が新入生に対し、高校の学習内容を補習しているのが実態だ。
中教審は「大学全入時代で過度の受験競争は緩和された一方、一定の基礎学力の確保が期待しづらくなっている」と指摘。「学力不問」ともいえる入試が拡大していることに懸念が高まっているとして、高校・大学教育の質の向上が必要と強調した。
(「大学入試、推薦・AOも学力テスト・中教審が提言」(NIKKEI NET 2008.1.24)記事より)

昨日の記事でご紹介したように、AO入試で入学させた学生が入学後に伸び悩んで困っている、という大学側の声を受けてのものでしょう。

「ほとんどの場合、学力テストの受験が要らないため、基礎学力の担保が大きな課題になっている。6割の大学が新入生に対し、高校の学習内容を補習しているのが実態だ。」と、絶望的なことのように書かれています。世間的にも、そんなトーンの議論をよく耳にします。

でも別にこれ、驚くところでも嘆くところでもありません。
昨日の記事で述べたように、(日本での)AO入試というのは、もともと「現時点での学力は不足しているかも知れないが、キラリと光るポテンシャルを持っている人材」を獲得するというコンセプトの入試だったのですから。
もし、AO入試組が伸び悩んでいるのだとしたら、それは大学側に、そうやって選んだ人材をどう育てるかというビジョンと具体案が欠けていたというところも、原因として大きいのではと思います。

しばしば日本の大学は、「入学は難しいけど、出るのは簡単」と揶揄されます。
入学後の教育レベルは国際的に見て低く、入試段階での競争を激しくすることで、なんとか学生の質を保っているという批判です。「入学テストに依存した教育システム」と表現できるかも知れません。
AO入試に関する学力論議には、たまに、こうした批判を裏付けるような大学関係者の意見が登場することがあるように思います。

ちなみに、

「学力テストの受験が要らないため、基礎学力の担保が大きな課題になっている。」

とありますが、これには少し補足が必要です。
AO入試=学力テストが要らない、という理解は、正確ではありません。AO入試であっても、学力試験を課すことはあります。

■「文部科学省高等教育局長通知:平成一六年度大学入学者選抜実施要項について」(文部科学省)

第二 選抜期日
一 入学者選抜の期日は、次により適宜これを定めるものとする。
(一) 入学者選抜試験期日 平成一六年二月一日から四月一五日までの間
(二) 入学願書受付期間 入学者選抜試験期日に応じて定める。
(三) 合格者の決定発表 平成一六年四月二〇日まで
二 専門高校・総合学科卒業生選抜による場合の入学者選抜の期日は、上記一により定めるものとする。
三 アドミッション・オフィス入試を実施する場合には、次の諸点に留意しつつ、高等学校教育への影響を十分配慮するものとする。
(一) 学力検査を課さないで、調査書、面接・小論文その他の入学志願者の能力・適性等に関する検査結果を主な資料として判定する方法については、その具体的な方法が多様であることにかんがみ、必ずしも上記一の試験期日によることを要しないものとするが、出願期間等も含め高等学校教育に対する影響に十分配慮し、時期、方法等に関し受験生に対し過度に負担となることのないよう適切に定めること。この際、できる限り高等学校の理解と協力を得る努力を行うことが望ましい。なお、入学手続をとった者に対しては、これらの者の出身学校と協力しつつ、入学までに取り組むべき課題を課すなど、入学後の学習のための準備をあらかじめ用意しておくことが望ましい。
(二) 学力検査に先立ち、調査書、面接・小論文その他の入学志願者の能力・適性等に関する検査結果を主な資料として判定し、この合格者に対し学力検査等を課して最終判定する方法による場合は、調査書等を主な資料として判定した結果を、原則として学力検査の開始日の一〇日前までに発表すること。また学力検査の期日は、上記一により定めること。
四 推薦入学による場合は、原則として入学願書受付を平成一五年一一月一日以降とするものとし、その判定結果を第一の一による選抜方法の試験期日の一〇日前までに発表するものとする。
五 学力検査を課さないで調査書等を主な資料として判定する方法による場合の入学者選抜の期日は、必ずしも上記一の試験期日によることを要しないものとする。
六 学力検査に先立ち、調査書等を主な資料として判定し、この合格者に対し学力検査等を課して最終判定する方法による場合の入学者選抜の期日は、上記一により定めるものとし、調査書等を主な資料として判定した結果を原則として学力検査の開始日の一〇日前までに発表するものとする。
(上記ページより。強調部分はマイスターによる)

上記の内容にあるように、実際には、

○学力検査を課す場合、その実施日は、2月以降でなければならない
○学力検査を課さず、調査書、面接・小論文その他の入学志願者の能力・適性等に関する検査結果を主な資料として判定する場合は、必ずしも2月以降でなくても良い

と、ほかならぬ国が、大学に対してずっと指導してきた結果なのです。
ですから、「2月以前にAO入試を行う場合」は、「国の指導により」、学力試験は「課せない」というのが正確です。
(上記は平成16年の入試に際して通知された文書ですが、平成20年度においても、上記強調部分の記述には変化がないようです。
最近では、1月中に入試を行う事例は増えてきていますが、それでも年内の入試は、ごく一部の例外を除いて、まず認められていません)

中教審の言う「AO入試でも学力テストを実施する」という内容が、「1月以前でも学力検査を行うことを認める」という意味なのか、それとも「例え年内に選抜が決まったとしても、必ず2月以降に学力試験を受けさせなければならない」という意味なのか、どちらなのかはわかりません。
「大学入試センター試験とは別のテストを新設」なんて話が出ていることからすると、前者なのかなと思いますが、この記事だけでは不明です。
そして、後者なのだとしたら、おそらく、一般入試とまったく差が無い人材が集まることになるでしょう。

ただ個人的には、AO入試で学力試験を課すことは、悪いとは思いません。
いくらポテンシャルを見るとは言っても、入学時に最低限の学力を求める必要がある学部や学科は、確かにあると思います(全部の学科で必要とは思いませんが)。

例えば、「アメリカの大学はすべてAO入試」という表現をしばしば聞きますが、アメリカの入試では通常、SAT(Scholastic Assessment Test)という学力試験の点数の提出も求められます。
というかアメリカの場合、そもそも「AO入試」「一般入試」という区分がなく、「人物評価も、試験の点数も、ぜんぶを参考にして、総合的に学生を選抜する」というスタイルなのです。
ですから、試験の点数だけで学生を選ぶようなことはしません。どちらかといえば、人物評価に重心を置いている大学が多いかも知れませんが、それでも一応、SATの点数は提出させるのです。

テストの点数も、過去の業績も、現在の意欲も、すべてを参考にして入学させるわけですので、中には

「君が過去にやってきた活動を考えるとぜひ入学させたいが、少し数学の学力が不足しているようだ。数学については、入学後に補習コースを受けなさい」

なんていって合格させるようなこともあると聞きます。

このように、総合的な選抜の一環として、入学後の教育と連動させるために学力試験の点数を評価するのであれば、日本のAO入試で学力を求めることにも意味はあると思います。

ただ、中教審が議論しているように、単に現時点のAO入試に対して、とにかく画一的に学力試験を課そうとするだけでは、あまりいい結果にはならないような予感もあります。
(学力検査をしない)現在のAO入試を活用して優れた教育が出来ず、「学力検査をやらないことにすべての原因がある」と主張している大学は、おそらく現状のまま学力試験を導入しても、ダメなんじゃないかなという気が、個人的にはします。

だって、(AO入試に失敗し)学力検査の導入を求めている大学というのは、これまで学力試験の点数しか学生を選抜する手段を知らなかった結果、「学力以外」の部分を評価できず、また、そうやって選んだ学生のポテンシャルを伸ばせてもいない大学なのです。
これで学力試験を許可したら、学力試験の点数に頼るAO入試にならないでしょうか。
AO入試とは名ばかりの、単なる早期化した一般入試になるんじゃないかという気もするのです。

では、「日本版AO入試」のスタイルをつくった、慶應義塾大学SFCでは、そのあたりをどう考えているのか。

……と、書こうと思ったら、またしても長くなってきました。

この話題、続きます。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。