東大 博士課程の学費を(実質的に)ゼロに

マイスターです。

数日前の報道ですが、ぜひご紹介しておきたい話題を。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「東大、博士課程の授業料『ゼロ』・頭脳流出歯止め狙う」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070929AT1G2805M29092007.html
————————————————————

東京大学は来年度から、大学院博士課程に在籍する学生(約6000人)の授業料負担を実質ゼロにする方針を固めた。国立大では初の試みで、財源に約 10億円を充てる。欧米や中国の一流大との“頭脳獲得競争”が激化する中、国内外の優秀な学生を招くには奨学制度の抜本的な充実が不可欠と判断した。

東大によると、博士課程の授業料は年52万800円。在籍する約6000人のうち約3500人はすでに各種の奨学金や研究奨励金を得ており、残る約2500人から休学者を除いた約1700人の支援財源として約10億円を経費節減などで工面。1人当たりの支給額は約58万円で、授業料を賄える計算だ。

(上記記事より。強調部分はマイスターによる)

博士課程の学費ゼロ。

東大に関しては、つい先日、↓こんな内容をご紹介したばかり。

(過去の関連記事)
・東大 年収400万円未満なら学費無料(2007年09月04日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50338823.html

そうしたら今度は、「世界レベルの研究大学」を目指す東大にとって最重要のポイントとも言うべき、博士課程の学生の学費を(実質的に)タダにするとの報道です。

「世界レベルを目指す」といったフレーズを使うなど「本気になるっぽい」大学はたくさんありますが、行動にうつし実現させるところは、そうはありません。

また、「ヨーロッパでは、学費が基本的に無料。日本の大学が競争で敵うわけがない……」とぼやく人はたくさんいても(※マイスター含む)、実際に、学生達の学費を無料にする努力をした大学は、そうは無いように思います。

東大、いよいよ本気だな、という気がします。
世界の名門大学と争う体制づくりを、加速させているようです。

この背景には、
「母校の大学院に進学する学生を3割までにする」といったような国内の動き、
そして、台頭するアジアの大学や、相変わらず世界中の優秀な留学生を集め続けているアメリカの名門大学などの存在があるのでしょう。

ですから、逆に言うと、「いよいよ本気で危機感を覚えている」ということでもあるのかな、と思います。

個人的には、こういう取り組みは、応援したくなります。
このまま、がんばって欲しいです。

……と、ここから話がちょっと変わりますが、

同時に、他の大学の方にとっては、正直言って大変だろうなぁ……とも思うのです。

国立大学法人になり、独立採算だ、競争原理だと騒がれる昨今ですが、東大は、それ以前から他とは比較にならないほど、国家の予算が注がれていた機関です。
競争原理が働き始めたといえど、それを覆すのは、並大抵のことではありません。
しかも博士以上の研究となると、分野によっては、貴重な研究施設を始め、恵まれた特定の大学しか持っていないような環境に学生が集中するかもしれません。

このように、東大がいよいよ「攻めの姿勢」を取り始めた今後は、さらに大変になるでしょう。

現在の東大関係者が、大変な努力をし、大小様々な決断を下しながら改革を進めているのは事実だと思いますが、それでも他の大学の方々にとっては、「持つ者と、持たざる者の差が拡がっているだけ」と思える……かも知れません。

(過去の関連記事)
・50年前から変わらない国立大学の序列 (2005年09月03日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50037992.html

↑2年前、このような記事を書かせていただきました。
戦前から続く「旧7帝大」「旧官立11大」「新八医科大」といった序列が、依然として現在も維持されている、という内容です。

平成19年度の、科研費配分TOP30機関の顔ぶれを見てみると、その事実がよくわかります。

<平成19年度:新規・継続を含めて、科研費を多く取得したTOP30機関>

1 東京大学
2 京都大学
3 東北大学
4 大阪大学
5 九州大学
6 北海道大学
7 名古屋大学

8 筑波大学
9 広島大学
10 東京工業大学
11 神戸大学

12 慶應義塾大学
13 岡山大学
14 千葉大学

15 理化学研究所
16 金沢大学
17 早稲田大学
18 熊本大学
19 新潟大学

20 東京医科歯科大学
21 長崎大学
22 徳島大学
23 日本大学
24 群馬大学
25 大阪市立大学
26 山口大学
26 鹿児島大学
28 信州大学
29 大阪府立大学
30 首都大学東京

(「平成19年度科学研究費補助金 採択件数上位機関一覧」(文部科学省)を元に作成)

色分けの意味がわかる方は、かなりの大学通です。

赤は、おなじみ「旧7帝国大学」です。

青は「旧官立11大」と言って、旧帝大を除いて、戦前から官立、つまり国立の大学として存在していた、とっても由緒ある大学です。

オレンジが、「新八医科大」。戦前は「旧制・官立医学専門学校」で、戦後、大学に昇格したという経緯のある学校です。

いずれも国家的な計画のもと、戦前から存在していた、歴史ある大学です。

この序列というか、国家によって与えられた「格」の違いが、現在の科研費にまで、こうもわかりやすい形で厳然と、維持されているわけです。
(もちろん学生数など単純に規模の問題からくる差もあるとは思いますが、それでもここまで3色がキレイに並ぶと、なんだか微妙な気分になります)

で、その頂点に君臨しているのが、東大なわけです。

このように、長い時間をかけ国家によって形成されてきた「差」というものがある中で、突然「東大は博士課程の学費をゼロにします」なんて発表されてしまったときの、他大学の関係者の悔しさはないだろうな、なんてことも、思ってしまうわけです。

でも、東大だけではなく他の大学も、(学費ゼロとはいかないまでも)本気の取り組みを見せつけて欲しいなぁと、個人的には願うのです。

どこかの「一人勝ち」では、日本の高等教育全体のレベルアップにはなりません。
東大がアグレッシブに改革を進めるのを見れば見るほど、その辺りの問題を解決していく方策がこれからは必要なんだなぁと、強く思います。

以上、マイスターでした。

—————————————–
(過去の関連記事)
■「教育資金の調達に関する課題」(2007年09月24日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50343245.html

3 件のコメント

  • いつも楽しく読まさせて頂いています。
    些細な事なのですが、今回の記事で
    オレンジ色文字が、FireFoxでは反映
    されていない事に気が付きました。
    (IEだとOKでした)
    多分、色指定の16進数で#無しだと
    FireFoxでは認識してもらえないのだと
    思います。



    としてはどうでしょうか。

  • ある時、上記の現状を知った時、位置地方大の教員はさーーっつとやる気をなくしました。所詮、一地方大では勝ち目のない競争だと。研究者としては一地方大の教員ですが、世界と戦っている自負はあるのですが、所属機関で待遇の差をつけられてはやるせない気持ちでいっぱいです。

  • なにいってんだ、地方大の関係者がそれぐらいでやる気を無くすか。研究に忙しい。
    そんな小さな世界の話じゃないんだ。
    日本国中の学びたい人たちを学ばせることだけが、将来を決めるんだ。
    すでに伸びしろのない研究者がちょっと機嫌を損ねるか、おや、と思う程度のことに振り回されるな。