高校生は、志望する大学の就職率や就職先の情報に、かなり関心を寄せるらしい。だから入試広報では、受験生に対して就職実績を熱心にアピールする。
んが、しかしその一方で、大学を出ても正社員にならずフリーターやニートになったり、勤め始めてすぐ辞める学生の存在がとっても問題になっている。就職課は、学生が正社員を目指してくれるよう「指導」するのに必死である。
考えてみると、これってなんだか不思議な状態だなぁ、と思うマイスターです。
さて、ネットをまわっていたら、気になるニュースを見つけました。
どうやら大学の就職担当者が書き込んだ「説教」をめぐって、議論が起きているようなのです。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「『就職できない人は欠陥品』 近畿大HPをめぐって議論」(J-CASTニュース livedoorNEWS掲載)
http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__2778413/detail
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近畿大学理工学部理学科物理コースのホームページの就職情報がアクセス不能になった。大学側の説明では「サーバを停止している」というが、その原因は「新卒で就職できていない人は落ちこぼれで欠陥品」などといった文章を就職情報のページに掲載していたためだった。このページについて大学では復旧するかを検討しているという。
(上記記事より)
「欠陥品」とは、なんだかおだやかではありませんね。
上記の記事によると、どうやらおおよそ以下のような文面がこの近畿大学理工学部理学科物理コースのサイトに掲載されていたようです。
就職活動は君一人の《孤独な》戦いです。勝利を得るまで、人知れず何度も何度も立ち上がって挑戦です。幼稚園-小学校-中学-高校-大学…何度も苦しいことがありました。そして、いよいよ仕上げです。最後です。人生の方向を決めるのです。『新卒』のやり直しはできません。浪人はありません。2度とチャンスはありません。フリータやニートになっては、人生台無しです。復帰できません。
卒業してからでも大卒の資格で何とかなるわ…と思ったら大間違いです。社会は受け入れてくれません。何故なら,新卒で就職出来ていない人は落ちこぼれであり、欠陥品だからです。 君がどのように言い訳をしようと、社会は欠陥品と見ます。いや、言い訳をする場さえ与えられません。
もう一度言います新卒で就職する,しない,は天国と地獄の分かれ目と言っても過言ではありません。今、君は大学『新卒』として社会に歓迎されるたった1回のチャンスにあり、人生の安定した基盤を作ることができるかどうかの瀬戸際に立っています。
(以上、すべて冒頭のlivedoor記事より)
この文面をご覧になった方は、そうだそうだと共感する方と、眉をひそめる方とに分かれるのではないかと思います。
マイスター個人としては、「新卒で就職できなかったら人生の意味がなくなる」くらいのこの書きようは、ちょっとどうだろうと感じました。
学生を奮い立たせたいというご担当者様の気持ちはとってもわかります。
その親心、よくわかるのですが、
「新卒で就職出来ていない人は落ちこぼれであり、欠陥品」
というのは、いくらなんでも飛躍しすぎではないでしょうか……。
これではまるで、「新卒で」、「正社員に(つまりフリーター以外に)」なれるかどうかだけが、人生の重要事だとされているかのようではありませんか。
(何しろ、「これが社会に歓迎されるたった1回のチャンス」であり、失敗したら人生台無し、欠陥品だとまで断言されてしまっているのですから)
でも、キャリアって、たぶん本当はそういうものじゃありませんよね。
終身雇用の前提も崩れ、転職が当たり前になっている今、こういった進路指導に果たしてどれだけの意義があるのかなと、マイスターは少々違和感を覚えました。
このアドバイスにより、一時的には正社員という地位を手に入れてハッピーになるかもしれません。しかしその後はどうでしょうか。
大学にとって、就職率を上げることは至上命題の一つです。それはそれで、大切なことではあります。
(「いまどきの受験生は志望校を選ぶ際に大学の就職状況を気にする」なんて内容の記事をどこかで読んだことがありますが、就職指導の担当者様はさぞ大きな重圧を感じておられるだろうと思います)
また、甘えの気持ちを持っている(ように見える)学生が多いのも事実なんだと思います。確固たるキャリアプランも持たず、ただなんとなく周りに流されて進路を決めたり、決断を先送りしたりする学生達も少なくないと思います。
ですから、「なんとしてでも新卒で企業に就職を!」とハッパをかけたくなる気持ちはわかります。
ただ、マイスターが思うに、世の中、わりと変わってきてます。
会社組織のあり方も、ずいぶん変わりました。新卒で採用することの重みは、かつてほどではありません。仮に新卒の機会を逃しても、人生台無しにはなりません。
(むしろ、新卒で入って安心しきってしまうと、そのうち人生台無しになる可能性が高いです。会社はいつかつぶれるという前提で人生考えるのがオススメです)
何度か転職を経験するのも普通になるでしょう。
とっくに、新卒で大企業に入れば勝ち、なんていう世界ではないのです。
ですから、さも新卒入社が絶対条件であるかのように学生さん達を過度に脅かすことが必ずしも良い結果につながるとは、個人的にはあんまり思えません。若者を心配する親心も、方向を誤ると、かえっておかしなことになるのではないかと、むしろ逆に心配になります。
表面的に就職に誘導するのではなく、ちゃんと自分の5年後、10年後を考えさせた方がいいのではないでしょうか。
昨今では、大学の就職支援部門は、「キャリアセンター」や「キャリアサポートセンター」などに名前を変えるところも多いようです。
それは、
「一回こっきりの新卒就職を成功させれば良い人生が待っている」
という従来の発想から脱却しようという姿勢の表れなんだろうと思います。
厳しい言葉で学生を奮い立たせるのは大いに結構ですが、どうせなら、自ら設計したキャリアを実現させるためにはどうすればいいか、という視点で助言を送りたいものです。目指すキャリアによっては、もしかしたら、「大企業になんか就職するな! まずはタダ働きでもいいから○○さんに弟子入りしろ!」なんてアドバイスになるかもしれませんし。
以上、そんなことを思ったマイスターでした。