・「法人営業課」を作ってみませんか?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50228352.html
↑先日、このような記事で、「日本の大学は、『法人営業部』を作ってみてはどうでしょうか?」と書いたところ、記事を読んで下さった方々から、大学の企業向け事業に関して情報をご提供いただきました。
(みなさま、ありがとうございます!)
今日は、いただいた事例の中から、二つ、ご紹介したいと思います。
まず、その一つ目。
【事例紹介】————————————————
■「文系初の、人材育成を目的とした連携『九大TOTOビジネス・カレッジ』」(九州大学プレスリリース)
http://www.kyushu-u.ac.jp/topics/index05.php?id=114
■「次世代の経営を担う人材の育成を目指し『九大TOTOビジネス・カレッジ』開講」(TOTOプレスリリース)
http://www.toto.co.jp/press/2004/07/16.htm
■「コカウエストやTOTO、外部機関と組み社員研修」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/retto/20060721c6c2101v21.html
■「九大、産学連携を拡大」(Asahi.com)
http://mytown.asahi.com/fukuoka/news.php?k_id=41000479999990496
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【文系初の、人材育成を目的とした連携「九大TOTOビジネス・カレッジ」】
九州大学ビジネス・スクールの講師陣による、東陶機器株式会社(TOTO)の選択型研修です。TOTOで最低10年以上の職務経験を持つ中堅社員から若手課長層を対象として、次世代、次々世代の経営を担う人材育成を目的として、MBA教育レベルで行われます。
ビジネススクールでは、今後も、相手に合わせたいろいろな形のテーラーメイドの教育を検討する意向です。
(九州大学プレスリリースより)
というわけで、九州大学の試みです。
TOTOやコカコーラ・ウエストのために、オリジナルの研修メニューを提供しているそうです。
「法人営業部」という組織があるわけではないのかも知れませんが、発想としては完全に法人向けサービスです。従来の大学が行ってこなかった領域の事業でありましょう。
TOTOのサイトに、詳細が書いてありました。
TOTOでは、9月より、九州大学大学院の講師陣による「九大TOTOビジネス・カレッジ」を開講します。TOTO社内で10年以上の職務経験を持つ中堅社員から若手管理職が対象です。早い段階から経営に関する基本知識を体系的に身に付ける機会を設けることで、新たな価値を創造し、伝達できる人材の育成を図ります。
TOTOでは、中期経営計画の5つの基本戦略の1つに「チャレンジ21計画」を掲げ、新技術の創造や新たな生活価値の提案に向けて社員1人ひとりが積極的にチャレンジできる環境づくりを推進しています。本ビジネスカレッジも、意欲的な社員のキャリア形成をサポートする仕組みの1つです。すでに活動を開始している組織横断型のプロジェクトなどとともに、社員のオン・オフ両面での意欲に応えます。
このようにテーマ選定からカリキュラム設定まで綿密な打ち合わせを行い、企業内にビジネスカレッジを開講するのは九州大学・TOTOともに初の試みです。産学連携の新たなスタイルとして、今後も定着させていきたいと考えています。【名称】 「九大TOTOビジネス・カレッジ」
【目的】 次世代、次々世代のTOTOグループの経営を担う人材を計画的に輩出することを目的とし、早い段階から基本的な経営リテラシーを身につける機会を設定する。積極的にチャレンジし、自分で考えて行動する自律した社員の養成を目指し、広い視点で自分の仕事を分析し、新たな価値を創造し伝達する力を身につけることを狙いとする。
【対象】 TOTOで最低10年の職務経験を持つ中堅社員から若手課長層が対象
【講師】 九州大学大学院 経済学研究院産業マネジメント専攻(ビジネス・スクール)の教員10名
【研修の種類】 選択型研修という位置づけで、社員の自発的な参加を促す。
【レベル】 MBA教育(専門職大学院)レベル
【費用】 会社負担+一部は参加者の自己負担
【修了証】 一定の基準を満たしたコース修了者には、「九大TOTOビジネス・カレッジ修了」の修了証を授与する。
【受講者数】 20~25名(応募多数の場合は選考を実施)
【開催期間】 2004年9月から2005年2月の半年間(全12回)
隔週土曜日(一部は日曜日)の13:00~18:00【実施回数】 年1回開講
【場所】 TOTO 本社研修センター(北九州)
(TOTOプレスリリースより。強調部分はマイスターによる)
これは、企業からすると、
○MBAレベルの高度な知識を身に付けた管理職を増やしたい
○さらに、できれば自社のビジネス内容を意識したカリキュラムを組み入れたい
○社員それぞれの自主性だけに任せるのではなく、会社主導でプログラムを用意し、積極的な受講を勧めたい
といったニーズを満たすための手段なのかな、と思います。
逆に言うと、これまでは、
○企業内の業務をこなしているだけでは、高度な経営知識を身に付けられるとは限らない
○でも、大学院のMBAプログラムは、自社のビジネス内容を意識したカリキュラムとは限らないので不安がある
○個人の裁量に任せていては、(業務時間や費用の事もあり)MBAを取得する社員はそうそうは増えない
という状況に置かれていたってことなのかな、なんて思います。
っていうか、これって、現在でも日本企業の多くが抱えている悩みだと思うのですが、いかがでしょうか。
「社会人向けの専門大学院」を標榜しておきながら、実際にはほとんど社会人が通っていない大学院とか、2~3年めで早くも定員割れした大学院とかの話をしばしば耳にします。
ひょっとするとそういう大学院は、こうした企業の事情に対応できていないのかも知れませんね。
ところで、Asahi.comの記事にはこんな記述が。
九大がTOTOから得る受託料収入は年間数百万円。TOTOでの講座は05年度も続け、他社からも要望があれば応じる。スクールの担当者は「産業界との共同事業や九大ブランドの向上に役立つ」と期待する。
(Asahi.com記事より)
この額で、未来の管理職候補生達がモチベーションを得て生まれ変われるのだとしたら、企業にとっては安い投資だと思います。
大学にとっては、得られる金額もさることながら、「産業界との共同事業や九大ブランドの向上に役立つ」という部分の方が現在のところは大きな意味を持っているのではないでしょうか。
一つのサービスを通じて、さらに大きな事業へと話をつなげていくことを狙う。法人を相手に商売するというのには、そういう意味もあるわけです。
さて、続いて二つ目の事例です。
【事例紹介】————————————————
■「産業能率大学大学院MBAコース『企業派遣・推薦のご案内』」(産業能率大学)
href=”http://mba.gs.sanno.ac.jp/mba/business/index.html”>http://mba.gs.sanno.ac.jp/mba/business/index.html
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こちらの産業能率大学は、もともと社会人向けの教育をミッションにして設立された組織だという経緯があります。ですから、他の大学とは少々事情が違っているかも知れません。
しかし、だからこそ今後法人対応を強化していきたいと考える大学にとっては、参考になる部分も多いのではないかと思います。
上記の「MBAプログラム『企業派遣・推薦のご案内』」のページをご覧になっていただくと一目瞭然ですが、産業能率大学は、とにかく企業の経営者や、人事担当者の方をよく見ています。サイトに使われている言葉ひとつひとつが、法人向けのものなのですね。
また
<学外での授業の実施(出前講座)>
ご希望があれば、ある一定の条件(人数,時間数など)のもと、本学の教員が指定された会場に出向いて授業を行うこともできます。大学院の授業と同様1科目は1回の授業時間を2時間30分とし9回の授業を基本としますが、科目によって1回5時間で5回の授業など状況に応じてカスタマイズすることも可能です。
(「社会人教育プログラムと連携したMBAプログラム」(産業能率大学)より)
↑こんな記述もありました。企業のニーズに寄り添うサービスです。
なお産業能率大学では、ただMBAコースを実施するのではなく、MBAを様々な法人向けソリューションの中の一つと位置づけ、お客さまのニーズに応じて売り込んでいるようです。
■「法人向けサービス:ソリューション」(学校法人産業能率大学 総合研究所)
http://www.hj.sanno.ac.jp/cgi-bin/WebObjects/107c2074456.woa/wa/read/107c21bf980/
これらのソリューションは、「大学」というよりは、学校法人が持っている「総合研究所」の事業です(産能大の「総合研究所」は、他の大学のそれとは性格が違っていて、企業向けコンサルティング事業を手掛ける、ビジネス・シンクタンクのような組織です。ここが、他の学校法人と最も異なっている点です)。
いくつかの部分で、総合研究所が行っている研修事業と大学院のMBAプログラムは連携しているようです。
働きながらMBA を取得することは、実務の中核を担う人たちにとっては時間的になかなか難しいものがあると思います。SBCPのエグゼクティブコースなら、産能大学大学院に入学する際、受講,修了したコースが一定の審査を経て、単位として通算されます。将来的に大学院でMBAを取得したいとお考えの方には受講をおすすめします。
「法人向けサービス:ソリューション:MBA との関係は?」より
このように彼らは企業に対して、MBAと総合研究所が持っている他のソリューションとを組み合わせて、総合的な問題解決案として売り込めるというわけです。
ちなみにこうしたソリューションには、↓ちゃんと法人価格も設定されています。
■「法人向けサービス:ソリューション:料金表」(学校法人産業能率大学 総合研究所)
http://www.hj.sanno.ac.jp/cgi-bin/WebObjects/107c2074456.woa/wa/read/107e610010d/
産能大のケースは、大学の法人営業部隊が企業相手にMBAプログラムをアピールしているというよりも、コンサルティング会社が商品の一つとして大学のMBAプログラムを販売しているというのに近い・・・のかも知れません。しかしいずれにしても、どちらも同じ学校法人の組織ですから、実際にはどっちでも大きな違いはないように思います。
なお学校法人産業能率大学総合研究所は、下記のように、東京・西日本・中部・北関東・中国・九州・東北と、全国に事業拠点を7つ持っています。
■「法人向けサービス > 事業所一覧 > 全国の事業拠点」(学校法人産業能率大学 総合研究所)
http://www.hj.sanno.ac.jp/cgi-bin/WebObjects/107c2074456.woa/wa/read/1080d3501e9/
大学にとっては、これらの事業部が、場合によっては「大学の法人営業部」として使えるということではないでしょうか。
そんなわけで他の大学(学校法人)に比べるとかなり特殊な性格の同大ですが、18歳人口が減少し、大学が持つリソースを社会人に対して売り込んでいくことが求められてくる今後は、こうした営業網が強みを発揮するかも知れません。
以上、記事を読んで下さった方から教えていただいた事例をご紹介させていただきました。この他にも面白い事例をご存じの方がおられましたら、ぜひ教えていただければと思います。
企業を相手にしたサービスを行うのは、なかなか大変です。営利組織ですから、自分達にとって役に立たないようなプログラムや、費用対効果が悪いサービスは買ってくれません。
日本の大学は、相手にあわせてプログラムを開発するということにも、また営業をかけて売り込むということにも、慣れていないと思います。でもそれでは、なかなか法人に対して成果を上げる事は難しいでしょう。
大学も今後は、様々な事例を参考にしながら、自分達にあった事業のあり方を模索していかないといけませんよね。
以上、マイスターでした。