アイヌ民族を対象にした大規模調査 大学進学率の低さが問題に

マイスターです。

人種や民族、出身階級などによって生じる学びの格差を減じるための取り組みが、世界では行われています。
例えばインドでは、国立大学の入学定員のうち一定割合が、ヒンドゥー教のカースト制度の最下層出身者や少数民族に割り当てられています。アメリカでも、マイノリティと言われる民族の方々を入試で優遇させるなどの方策を採っている大学があります。

アメリカの場合、マイノリティの家族の子どもは、国の平均に比べて大学への進学率が著しく低く、子どもに対する教育投資にも熱心でないケースが多いのだとか。そのため結果的に、大卒と比べると家庭の収入が低い水準で推移し、貧困から抜け出せなくなることもあるのですね。
だから、優遇してでも大学に来てもらうための仕掛けをつくるというわけです。

こうした施策は、「アファーマティブ・アクション」や、「ポジティブ・アクション」などと呼ばれ、「逆差別を生むのでは」といった批判はあるものの、一定の成果を上げているとも言われています。
どのような教育を受けたかが、その人の、その後の仕事や生活水準に関係してきます。
特定の状況に置かれた人達が、大学に行きにくくなっているということなら、それを是正することが格差解消のための第一歩だということなのでしょう。

さて、今日はこんな話題をご紹介したいと思います。

【今日の大学関連ニュース】
■「アイヌ民族年収、道平均の3分の2…北大が大規模調査」(読売オンライン)

北海道大アイヌ・先住民研究センターが行ったアイヌ民族の生活実態調査の概要が明らかになった。収入のある世帯の平均年収は約370万円で、全国の平均約640万円を大幅に下回るなど、アイヌ民族の厳しい生活実態が改めて浮き彫りになった。29日午後開かれる政府の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」で報告される。
(略)調査概要によると、年収は「200万円以上、300万円未満」の世帯が最も多く、550世帯を超えた。北海道の平均年収約570万円を約200万円も下回っている。生活保護を受けている世帯は5・2%で、道の生活保護率2・3%を大幅に上回った。
また、30歳未満の若い世代の大学進学率は約20%にとどまり、同世代の全国平均より20ポイント以上低かった。所得の低さが進路にも影響しているものと見られる。
(上記記事より。強調部分はマイスターによる)

北海道大学アイヌ・先住民研究センターによって、アイヌ民族の方々を対象にした大規模な生活実態調査が実施されました。

調査によると、アイヌ民族の家庭の世帯年収は、全国平均を大幅に下回るとのこと。
それも影響があるのでしょうが大学進学率も極めて低く、割合で見て同世代の全国平均より20ポイント以上低いそうです。

報道のもとになっている調査結果は、↓こちらからダウンロードすることができます。

■「北海道大学アイヌ・先住民研究センター:アーカイブ」(北海道大学)

アイヌ民族の方々は、決して楽ではない歴史を積み上げてきました。
実際には現代でも様々な場面で差別などを受けていると、この調査書にも書かれています。
大学への進学率が低いというのも、そうした差別の結果かもしれないわけです。
この国に暮らす自分たちとして、まずこの事実はやはりちゃんと知っておかなければならないと思うわけです。

で、そんな状況を変えるために、政府があれこれと計画を練っているようなのです。
例えば、政府の有識者懇談会の後に↓こんな報道もありました。

■「『アイヌの象徴的施設』設置を…有識者懇、新法は持ち越し」(読売オンライン)

政府の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」(座長=佐藤幸治・京大名誉教授)の第8回会合が29日、首相官邸で開かれ、報告書の土台となる「アイヌ政策の課題への対応方向」をまとめた。
(略)加藤理事長と、北海道大アイヌ・先住民研究センターの常本照樹センター長は、この日欠席した高橋知事と連名で、アイヌ施策の推進の根拠となる新法制定を求める意見書を提出した。ただ、「法律を作った方がいいのか、最終的に判断したい」(佐藤座長)として、結論は持ち越しとなった。
常本センター長は、同センターが昨年10月行ったアイヌ民族生活実態調査の速報値を報告した。会合では、大学進学率が低いことに関し、アイヌ民族の入学促進に取り組む私立大学への支援を考えてはどうか、という意見が出た。
(上記記事より。強調部分はマイスターによる)

アイヌ民族の入学促進に取り組む私立大学への支援。
結果的には、大学に進学するアイヌの方々を減らすことになります。
まさに、アファーマティブ・アクション的な考え方ですね。

実際、例えば四国学院大学は、「被差別部落出身者」、「被差別少数者」、「身体障害者」、「キリスト者」、「海外帰国生徒」に向けた特別推薦入学選考を実施しています。
(大学自身が、サイトで「アファーマティヴ・アクション」という言葉を使っています)

■「受験生の方へ:特別推薦入学選考」(四国学院大学)

このうち、「被差別少数者」に、アイヌ民族の方が含まれているのです。

■「受験生の方へ:特別推薦入学選考:A-2 被差別少数者」(四国学院大学)

実際に大学とを見ると、被差別少数者の定義の中に

②アイヌ(アイヌ民族としての出自の自覚を持つ者。現住地は問わない。)

……という一文があります。

今回の報道で言われている計画が事実になるなら、この四国学院大学のような取り組みをしている大学に、政府がお金を出すということになりますね。
まさに、国を挙げてのアファーマティブ・アクション。進学を起点に、冒頭の記事にあるような様々な問題を解決していこう、というわけです。
あるいは四国学院大学とは全然違った施策のあり方を考える大学だって、出てくるかもしれません。例えば、アイヌの方々のためだけの奨学金を整備するとか。

いずれにしても、こんなショッキングな調査結果が出た以上、何らかの施策が進み始めることでしょう。
そこに、大学が絡む可能性も大いにありそうだというわけで今回、ご紹介させていただきました。
皆様も、ぜひ関心を持ってこの話題を追ってみてください。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。