「文科省、大学院選別し助成へ 研究指導型と教育型に」

マイスターです。

Asahi.comで、↓このような報道を見かけました。

【教育関連ニュース】—————————————-

■「文科省、大学院選別し助成へ 研究指導型と教育型に」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/0508/002.html
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02年度に始まった21世紀COEプログラムは、平均5.1倍の競争率だったが、大学側の意向に配慮した結果、助成対象は93大学274拠点に広がってしまい、「ばらまき」との批判を受けた。研究水準が最高とはいえない大学も無理に応募した結果、個々の大学の特徴にあった教育がおろそかになったのではないかとの指摘も出ていた。
同プログラムは、02年度採択分(50大学113拠点)について今年度で5年間の助成期間が終わる。文科省は来年度からの新プログラムでは、採択拠点数を半分にするとともに、1拠点あたりの年間助成金額は現行の平均1億2000万円から倍額の約2億5000万円程度に引き上げる方針だ。最高額も現行の年約3億円から5億円にする。
(上記記事より)

一方、「教育型」を目指す大学院に対しては、昨年度始めた「魅力ある大学院教育イニシアティブ」の採択数を大幅に増やして、支援する。(上記記事より)

別に、文科省が

「あなたの大学は今後は『研究型』だから、そういう風に運営してね。あなたのところは『教育型』だから、研究より教育に力を注ぐように」

…などと直接色分けをするわけではないのですね。Asahi.comの記事タイトル、ちょっと紛らわしいです。
ただ最近の文科省の施策が、そうした「色分け」に近いねらいを持って行われているというのは、確かでしょう。

21世紀COEの採択件数が半分に絞られるので、COEに採択される可能性は従来よりさらに低くなります。その代わり採択校にはこれまでの倍額が交付されます。これによって、国内の「研究重点校」がどこなのか、より明確になるわけです。
もともとCOEは、世界水準の研究拠点(センター・オブ・エクセレンス)を設定して、重点的に支援するという制度。3年かけて採択が一巡した現在、このように件数と交付額のバランスを調整しながら、制度を運用していこうというわけですね。

ところで、ちょっと話は変わりますが、

本ブログでは以前、↓このような記事を書きました。

■50年前から変わらない国立大学の序列
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50037992.html

戦前からの国立大学の序列構造が、現在も科研費の採択件数という形でそのまま温存されているという事実を、上記の記事ではご紹介しました。もちろん、優れた研究をしているから多く科研費が交付されているのでしょうが、それにしてもここまで見事に序列が変わらないというのはなんだか不自然。「本当に健全な競争原理が大学間に働いているのか?」と、この記事を書いた時には感じたのです。

今回の、COEの採択件数を絞るという報道を見て、マイスターは上記の科研費の記事を思い出しました。皆様も、COEの採択大学の一覧をご覧になったことがあるかと思いますが、今一度、ちょっと↓こちらをご確認ください。

COE採択リスト←クリックで拡大します

上記は、平成14年から16年の間に、COEプログラムに採択された大学のリストです。採択件数の多い順に並べてあります。ただし、マイスターが独自に色分けを施しました。

赤が旧7帝大、
青が旧官立11大、
オレンジが、新八医科大
です。

この通り、科研費ほど露骨ではありませんが、戦前から続く国立大学が上位をほぼ独占している状況は、さして変わりません。

ちなみに、採択校の割合は、↓このようになります。
COE採択割合←クリックで拡大します

旧7帝大、旧官立11大、新八医科大の取り組みだけで、COEプログラムの6割を占めるのですね。

国立大学の法人化、21世紀COEプログラム、そして各種のGP。
大学間の競争を促して、各校の差別化を進めるための取り組みが進んでおりますが、これまでのところ科研費でもCOEの採択件数でも、旧帝大を頂点として旧官立が続く序列ピラミッドを崩すほどの動きはまだ起きていないのです。
そりゃそうだ、これまで長きに渡って築かれてきた伝統の力が、そう簡単に覆されるわけありません。

ただそれでも、大学の総合力で決まる科研費に比べるとCOEには、私立大学を始めとする「新興」勢力が、

「総合的な研究力では及ばないが、この分野でならウチは負けない!!」

と得意分野での強みを発揮して、勝負に出てこられる(少なくとも可能性がある)というポイントがありました。

-大学全体での総合力で見たら、附置研究所をいくつも持ち長きに渡って実績を残してきた旧帝大を、そんじょそこらの大学が超えることはほとんど不可能。でも、ジャンルごとの局地戦でなら同じ土俵で勝負できる……-

こうした勝負のチャンスがきちんと設けられていることは、健全な競争状態を築く上で重要なことなのではないかと、マイスターは考えます。

で、話は今回のAsahi.comの報道に戻るのです。

マイスターはちょっと不安に思うのです。

COEの採択校を絞った結果、もし旧帝大クラスの伝統校ばかりが選ばれて、その他の国公私立大がほとんど採択されない結果になったら、

それはそれで競争だから仕方がないのだけど、
結果として、その後の学術の発展を阻害することになったりしないか?……と。

下克上が活発に行われる状況からこそ、効果的な競争が生まれるとマイスターは考えます。

「研究は一部の国立大にまかせて、他の大学は教育に力を尽くしなさい!」
というのは合理的ですし、ある程度はそうなってしかるべきとマイスターも思います。それが特定拠点にリソースを集中させて世界水準の競争力をつけさせるということの本質ですからね。

ですがその一方で、「伝統はないけど一部の得意分野で世界トップを狙う大学」を目指す大学も減って欲しくないなという(我ながらやや矛盾気味な)想いがあります。
あまりCOEなどの研究資金が特定大学に偏りすぎると、それはそれで国内の競争を無くしてしまい、よくない結果を招くのではないかと思うのですよ。
で、COEの採択件数を絞った結果「ほとんど旧帝大と旧11官立大じゃん!」ということになるような気が、ちょっとするのです。
なんだかんだで伝統国立大が(あらゆる分野で)研究費を集めているこれまでの傾向が、さらに加速するのだとしたら……はたして、プラスとマイナスのどちらが大きいのでしょうね?

このあたりは、人それぞれの立場によって、意見が分かれるところなのかなと思います。

行政的な観点で、国が世界的な研究拠点を「育成」してあげるんだという考え方をするのなら、いくつかの特定大学に研究費を集中配分することもやむなしということになるでしょう。

一方で、重点配分を勝ち取るための「競争状態」をうまくコントロールし、寡占・独占状態が起きないようにすることが、最終的には強い研究拠点をいくつも生み出すことになるのではないか、という考え方もあると思います。

マイスターの考え方は、うーん、どちらかというと……後者寄りかも。
(民間企業出身という出自も若干、こうした考え方に影響しているかも知れません)
ただ、だからといって、リソースがあまりに分散してしまうのでは重点配分の意味がないとも思います。うまく競争のためのルールを定めてあげることが重要なのかなと。

まぁ、学術の競争に独占禁止法は適用されませんから、結局のところ最後は実力勝負ですよね。マイスターがどう思おうと、力のある大学が選ばれるだけ。

次のCOEで、半分になった採択校の中に、力のある「非伝統校」がどれだけ食い込めているのか、結果が心配でもありちょっと楽しみでもある、そんなマイスターでした。