愛教大でサバティカル休暇制度がスタート 有給で職務を離れて自己研鑽

セミナーやシンポジウム、学会など、行きたいイベントがたくさんあるマイスターです。

全部は無理にしても、これはと思うものには積極的に参加したいところ。でも、残念ながら、そういう意義深い催しほど、平日開催だったりします…自分の担当業務と直接関係がない限り、なかなか行けません。

今すぐ仕事に役立つわけではないけれど、学んでおきたいことって、ありますよね。

【教育関連ニュース】—————————————-

■「愛教大が“自己啓発休暇”」(読売オンライン)
http://chubu.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyo060416_1.htm
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国立の、愛知教育大学の試みです。

愛知教育大学(刈谷市)で4月から、教職員が大学に一定期間勤務すれば1年間の特別休暇が取得できる制度の利用が始まった。
(略)
制度は、10年間在職すると最長1年間、7年間在職だと最長半年間の特別休暇が与えられる。この間、資格を取ったり、留学したりして自己能力のアップなどを図ることができる。
(略)
愛教大では、約450人の教職員から希望を募ったところ3人から応募があり、全員認められた。許可された3人のうち2人は教員で、1人は心理学の学位を取るため、もう1人は欧州のルクセンブルクで語学を学ぶための留学で、それぞれ半年間取得する。残る1人は学生相談をしている事務職員で、学生支援のため1年間、心理学を学んでカウンセリングに役立てるという。同大では「専門力の向上などに活用してほしい。応募者はないと思ったが、意外に多かった。制度を定着させていきたい」と話している。
上記記事より)

最後の「応募者はないと思ったが、意外に多かった。」の一言には、色々と考えさせられますね…。

さて、この制度の利用には、最低7年以上在職していることに加え、

○制度を利用した後、最低3年間は同大に在職すること
○取得後に報告書を出すこと

が条件として課せられるそうです。でも、休暇中は給料の6割が支給されるとのことですから、まとまった時間を使って学びたい方にとっては、朗報なのではないでしょうか。

これは特に職員に関して言えることなのですが、大学が行う研修というのは、例えば

「個人情報保護法が施行されるから、業務上問題が生じないように、講師でも呼んで職員に聴講させようか」

といったような、必要最低限の「底上げ」をはかるタイプのものが多いような気がします。学んでおかないと業務に問題が起きるから、やむを得ず学ばせよう、という性格のものですね。
正直言って、専門性を高めるとか、業務を高度化するとかいうことには、あまりつながらないものが多いです。

ただ、それは大学に限った話ではなくて、組織のメンバー全員に同じ研修を受けさせようとすれば、どうしても「底上げ」的なものにせざるを得ないんだと思います。経営サイドとしては、お金のこともありますしね。

ですから、どうしても

○全員が身につけておくべき知識や、業務上必要不可欠な知識については職場も研修を用意するなどして対応する
○個別に専門性を高めるための学びは、個人個人で行う

というコンセプトで研修を行うことになるのでしょう。

しかし実際には、後者の、専門性を高めていくための学びというのは、正直、大学職員の世界ではこれまであまり重視されてこなかったようです。

事務職員の仕事には、もともと専門性を発揮することなど期待されていませんでしたから、一度職場に入ってしまえば、知識のアップデートは不要と考えられていたのだと思います。「考えるのは教員で、職員はそのサポート」という役割分担がこれまで(いや、今でも)存在していましたから、大学を専門的に管理運営するスタッフであるはずの職員達は、わざわざソトに勉強に出かける必要など、なかったのでしょう。
仮に、個人的に努力して高度な業務を担える専門性を身につけても、それを業務に活かせないことが多かったのではないでしょうか。

加えて、マイスターがいつも疑問を感じている、職場のローテーションがあります。せっかく何かの分野のスペシャリストになっても、数年後には全然違う領域の仕事にまわされるのなら、高度なことを学ぼうという気がなくなるのもある意味、当然です。

結果として職員は、専門性を身につけるどころか、むしろ専門性から遠ざかっていたわけです。

しかしこれからは、時代が、そういう職員の在り方を許さなくなってくるはずです。

現代は、大学卒業までに身につけた知識だけで一生働いていけるような世の中ではありませんよね。社会の変動速度が非常に速いので、職を得た後も学び続けなければならない時代であるわけです。民間企業で働く方々は特にそうでしょうが、大学の関係者だって同じです。

今さらここで言うまでもなく、大学をとりまく状況は日々、激変しています。今後も、社会環境の変化に合わせて、大学は少しずつ、変わり続けることになるでしょう。ですから、そうしたことを計画し、実行するためのスタッフ達も、常に自分の能力を更新していかなければならないはずです。

そのための学びには、色々なレベルがあると思います。

毎日ニュースを追って情報を最新に保つ、というレベルから、
10年くらいの間隔で、アタマの中をフレームごとアップデートするというレベルまで、様々でしょう。
自分のスペックを維持向上するために、定期的に自分自身を最新版に更新し続けることが必要なわけです。

しかし実際には、「フレームのアップデート」は難しいです。時間もかかるし、お金もかかる。職員もそうですが、教員にとっても、数ヶ月時間をとって学び直すというのは困難です。

ですから、今回ご紹介した愛知教育大のような試みは、非常に大切なのです。

今回の愛知教育大の応募者の方々は、学位を取るため、語学を強化するため、専門の勉強をするためと、とても有意義な時間の使い方をされていますよね。

お三方に共通するのは、「自分の専門性を高めることが目的」という点です。これまで、本当は必要なのに組織が有効な手だてを打ててこなかった「スペシャリティの醸成」という部分を、こうした制度で補っていこうというモデルになりますね。

この方々が職場に戻ってこられた後、「いい制度だから、自分も」と後に続く方が増えていくと、組織全体が少しずつ、変わっていくと思います。
大学にとって、非常に大きな意義のある制度だと思います。

ただ一点だけ気がかりなのは、
こうした制度を使ってスタッフ達が専門性を身につけても、それを活かせるような組織でなければ何の意味もないわけで、
そこまで、愛知教育大は、ちゃんと考えておられるのかな、ということです。

冒頭でご紹介した記事では、そのあたりに関する大学の考え方について触れられていなかったので、心配です。

今回の制度の先に、そうした戦略があるのなら、それは非常にすばらしいことだとマイスターなどは思うのです。
ぜひ、帰ってきた3人を、うまく活かしてあげてほしいなと思います。

以上、マイスターでした。