マンガでわかる学問シリーズ:『のだめカンタービレ』

のだめカンタービレ #14 (14)

企画者というのはお客さんの予想を裏切ることも大切だ、と教わったマイスターです。
みなさん、こんにちは。

毎回同じような書き出しで始まり、真面目な話題ばっかり取り上げるのもいいのですが、そればっかりだと、書いているほうも、読んでいるほうも、飽きちゃいますよね。

企画という行為の真髄はやはり、「びっくりさせること」「いい意味で、期待を裏切ること」でありましょう。

というわけで今日から数日間ほど、肩の力を抜いて

「マンガの中で描かれる学問」

をとっかかりに、記事を書きたいと思います!

わが国ではもはや、マンガは必ずしも子供のためのものではありませんよね。
政治や経済、その他様々な社会問題を取り扱った、大人を唸らせるマンガもあります。
綿密な取材に基づいて、特定の業界の裏をえぐり出すようなマンガもあります。

そんな日本の幅広いマンガの中には、「学問」をテーマにしているものもあるわけです。

そのマンガを読んだがために、思わず、

「将来は、○○を勉強したい!」

と、決意してしまうほどのものが、あるわけです!

そんな、大学人必読のマンガを選んでみました!(独断と偏見で)

なお、マンガの選定にあたっては、

「エンターテイメントとしての面白さがある」
「そのマンガを通じて、学問の大まかな内容や魅力、厳しさなどが伝わってくる」
「ある程度の、リアリティがある」

ということを基準にしました。
(とは言っても、マイスターはマンガ評論家ではありませんから、あんまり深いことは書けません。息抜き程度にお楽しみ下さい)

さて、本日ご紹介するのは、『のだめカンタービレ』です。

ご存じの方、多いことでしょう。
既に発行部数750万部を記録している、クラシック音楽を扱ったマンガです。

ところでみなさん、「音大生」のイメージって、ありますか?
マイスターは、知り合いに音大卒業生がいなかったので、長い間、音大は謎の機関でした(関係者の皆様すみません)。

何を隠そうマイスター、高校生のときはブラスバンド部だったのですが、そんな環境に身を置いていたにもかかわらず、「音大」については、

天才と、お金持ちが通う大学なんだ、とか、

楽器の種類だけ、学科があるんじゃないか、とか、

学生は「いいとこのお嬢さん」ばっかりなんじゃないか、とか(笑い)、

大学院なんてものは存在しないんだろう、とか、

卒業して一般企業に勤める人はいないだろうから、就職課は存在しないに違いない!とか、

入試も、在学中も、ペーパーテストはほとんど行われないんだろうな、とか、

っていうか音大って全国に3、4箇所しかなくない?とか、

 :
 :

…今思うと、こんな、ひでぇ勘違いをしまくりでした。

ブラスバンド部ですから、クラシック音楽に多少はなじみがあったはずなのですが、なぜこんな誤解だらけのイメージしか持てなかったのでしょうか。

思うに、それは、音大や音大生というものが、世間にほとんど知られていないからだと思います。

実際には音楽学部というのは、楽器の練習だけではなく、音楽理論や音楽教育、音楽史など、「音楽を学問として学ぶ」場所でもあるわけで、プロの演奏者を目指す学生ばっかりでもありません。当然、お嬢様ばっかりでもありません。
卒業後の就職先も、楽器や音響機器のメーカーやなどを始め、あらゆるジャンルに拡がっています。

しかし、「大学は就職するために行く場所だ」というイメージしかないおばちゃん達などにとってみれば、詳細がわからない音大というのは、

 <音大に進学 = 天才 or 金持ちの道楽>

という程度の印象で片づけられてしまっている場所なんだろうと思います。
高校までのマイスターも、これに近い印象しか持てていなかったのですね。

逆に、本当に演奏のプロを目指して音大に進学した学生が、卒業後、どのようにキャリアを積んでいくかも、あまり知られていないんじゃないでしょうか。
クラシック奏者の世界に、「四大卒の新入社員、一斉採用」なんて制度はありませんからね。

 <社会人になること = 新卒でリクルートスーツを着て採用試験を受けること>

というアタマしか持っていないおばちゃん達(何度もすみません)にとっては、まったく想像がつかない世界です。

こうしてまた、「音大」と一般世間との間の距離が遠くなるのです。

『のだめカンタービレ』は、そんな、謎に包まれた音大生の実態を、(ちょっとおもしろおかしく)教えてくれるマンガです。

主人公、「野田 恵」(略して「のだめ」)は、九州のど田舎で育ち、ピアノ専攻で東京の音大に進学した女性です。
一度聞いた曲ならどんな難曲でも弾きこなせるという、ある種の天才ですが、楽譜を見ながらの初見演奏が一切できません。(性格は奇想天外、というか変態)

家族が(田舎っぽく)のんきだったので、せっかくのピアノの才能を埋もらせたまま、ここまで来てしまったという設定です。
そのため、一流の演奏者になろう!という意識がほとんどありません。

のだめが恋する男性、千秋真一は、文句なしの才能と実力を持ち、周囲からも期待されてきた音楽エリートですが、幼い頃に事故にあった影響で、飛行機恐怖症になってしまった「不遇の天才」です。一流の指揮者を志していますが、海外に行けないので「才能が活かされない」という状態のまま、悶々と日本で過ごしているという設定です。

ご存じの方も多いでしょうが、クラシック音楽の世界で一流として身を立てるためには「海外留学」が絶対条件なのです(これは本当のこと)。
ウィーンやパリ、ベルリンなどに留学して、国際コンクールなどで優勝してナンボな世界です。
そうやって楽団から客演の誘いを受けて演奏しながら、どこかの楽団の専任演奏者になるというわけですね。
したがって、まずは日本を出発しないと、始まらないのです。

ね、なんだか、面白そうでしょう?

この2人はやがて国内を出て、外国で一流の指揮者&ピアノ演奏者を目指す生活を送るようになるのですが、その過程が、マイスターのような「音大に関わりがない人間」にとっては、とても面白いのです。
「クラシック音楽家になるためのステップ」とは、なるほどこういうものか、とわかります。

小さな頃から楽器をやっているのに、国内の大学を出てから海外の音楽院に入学して、一からまた勉強、なんてのは、クラシック音楽の世界では、結構あることのようですね。他の学問の世界ではあんまり聞きません。
(一人前になるまでの勉強時間が、最も長い分野の一つかも知れません)

大学での「個人レッスン」なども、他の学部学科にはありませんよね。
さらに、大学の先生にお金を払って、休日に個人レッスンをしてもらうなんてのも、音大ならではの文化だと思います

(以前、マイスターの職場に、「小学生の息子に、個人的に理科工作を教えてくれる教授を紹介していただけないかしら」というお母様からのお電話が来たことがあります…。話を伺ってみたら、音大卒のお母様でした。持っている大学像の違いを感じました)

また、「卒業してすぐヨーロッパに留学する」なんて心づもりの学生がいるんだとしたら、語学教育に対する意識なんかも、少しは違ってくるんじゃないでしょうか?

一般の大学では、語学専攻でもない限り、
ドイツ語やフランス語を「実際に使えるまでに」学ぶという学生はあまりいません。
メインはやっぱり、英語です。
英語くらい、少しは強くなっておきたいなぁ、という意識ですよね。

でも音楽留学をするなら、留学先の言語としてフランス語、ドイツ語が大きな意味を持ってきますよね。
英語より、ドイツ語を使えた方がいい、なんてことだって起きうるわけです。
特定言語が優位性を持っている学問分野なんて、いまどき、あんまり残ってないですよね。
(あ、でも医者はまだドイツ語でカルテを書いたりするかな?)

そんなことを、『のだめカンタービレ』を読みながら思うのでありました。

このマンガには、上記の2人以外にも、多くの音大生が登場します。

才能があったりなかったり、
家族の応援があったりなかったり、
就職後に音楽のプロになれたりなれなかったり、
アマチュア楽団で演奏を続けるという選択をしたり。

彼らの大学生活から、「音大生って、こういうものなのかな」と想像をふくらませてみると、音大イメージがこれまでとは少し違ってくるんじゃないかと思います。

最後に、マイスターが人から聞いた話をご紹介します。

「日本で、最もお金のかかる進学ルート」って、どんなものご存じですか?

私立大学の医学部に入って医者になること?
いえいえ、実は、「東京芸術大学に入学してクラシック音楽のプロを目指す」というルートらしいですよ。

今回の記事で述べたように、プロのクラシック音楽家を目指すには海外留学が欠かせないのです。芸大を出るほどの音楽エリートなら、なおさらです。すると、それだけでもう、とんでもない額が飛ぶわけですよね。
生活費の他、留学先の学費もありますし、渡航費もかかります。おまけにいつごろプロデビューできるのか保証がないときた!

さらに、そもそも芸大に音楽演奏で入学する時点で、小さい頃から、かなりの金額に上る音楽教育を受けているのが一般的だと思います。
(楽器自体も高額だし…)

なんてことをやっていると、
幼少期に音楽を習い始めてから、芸大を出て留学し、プロの音楽家として身を立てられるまでに、私大医学部なんて目じゃないくらいの教育投資がかかってしまうというわけです。

あなおそろし。

『のだめカンタービレ』では、唯一、そうした「お金」に関する記述があまり出てきません。
音大の学費は総じて高いので、実際の音大生のみなさんにはそうしたプレッシャーもかかっているかも知れませんね。

長くなってきたのでこの辺にしますが、

『のだめカンタービレ』は、真面目な話、大学人必読だと思います。

音大のことがよくわかりますよ。

以上、マイスターでした。

(色々と書きましたが、「所詮マンガを元にした憶測さ」くらいの気持ちで、厳しいつっこみはご勘弁くださいね。マンガからの情報ですから。

あ、音大関係者の方からの情報は、大歓迎です!)

3 件のコメント

  • いつも拝見しております。
    美術大学の分析もよろしくお願いいたします(笑)

  • イチロ様:
    こんにちは、マイスターです。
    美大、私にとってはまだ、秘密の聖域です(笑)
    私が通っていた大学にも芸術学部があったのですが、キャンパスが違ったのであまり接点がありませんでした…残念。
    美大のことがイメージできるような書籍やマンガ、映画などがあったら、教えてください!
    (やっぱり、大学のパンフレットが一番わかりやすいかな?)

  • 美大漫画となるとはやはり「ハチミツとクローバー」でしょうか。
    のだめよりも少女マンガチックなので、最初は抵抗があるかも
    しれませんが、NANAよりも読みやすいと思います(笑)