マイスターです。
日本社会の大きな課題となっている、医師不足問題。
本ブログでも、この問題に関する話題をご紹介してきました。
■「医師不足を解決せよ(1): 医学部卒業生を地域に定着させるには?」
■「医師不足を解決せよ(2): 医学部受験生を支援する取り組み」
■「ニュースクリップ[-5/18] 「医師不足:250人の県出身・全国の医学生に知事が手紙『就職は古里で』」ほか」
■「研修医の大学離れが進んでいる?」
■「10ヶ月の間、法医学教室の司法解剖医が「ゼロ」 佐賀県」
特に、離島など「へき地」と呼ばれる一部エリアでの医師不足は、深刻です。
国の方では医学部の定員増といった方策を進めるとともに、医科大学の側でも、医学部入学時に地方勤務希望者の枠を設けるなどの対策を行っております。
ただ現時点では、地方勤務を望む医師はあまり多くないとのこと。
地方勤務を条件にした奨学金が定員割れした、なんてニュースも耳にします。
そんな中、ちょっと参考になりそうな記事を2本、見かけました。
【今日の大学関連ニュース】
■「医学生7割『医師不足地域で勤務OK』条件は給与・住居」(Asahi.com)
医学生の7割は、医師不足地域での勤務も条件次第でOK――。全国160の大学と研修指定病院の医学生・研修医らを対象にしたアンケートで、こんな傾向が浮かび上がった。ただ公的機関による医師の計画配置には半数近くが反対。結果を分析した厚生労働省は「医師不足対策は、強制でなく勤務環境の整備が大切だ」としている。
全国医学部長病院長会議と指定病院でつくる臨床研修協議会が共同で10月に実施。医学生、研修医ら約9千人から回答を得た(回収率61%)。
医師不足地域での仕事に「条件が合えば従事したい」と答えたのは医学生が71%。だが卒後1~2年の研修医は65%、卒後3~5年の医師は59%、研修医らを指導する役割の指導医は47%と、年を重ねるごとに割合は減った。
医学生が医師不足地域で働く条件としたのは、「処遇・待遇(給与)がよい」(67%)、「居住環境が整備されている」「自分と交代できる医師がいる」(以上、58%)と待遇面が目立つ。「他病院との連携がある」(45%)など、医療体制を重視する声も高かった(複数回答)。
一方、国などの公的機関が医師の勤務地を決める「計画配置」について尋ねたところ、全体の52%が「反対」。特に卒後3~5年の医師のうち58%、研修医の57%が反対し、医学生の49%より割合が高かった。
(上記記事より)
ひとつめはこちら。
現在、へき地で医師が不足している原因として、新臨床研修制度の導入や、その結果としての「医局」による医師分配機能の低下を挙げる声は少なくないようです。
研修制度を元に戻した方がいい、なんて声もしばしば聞かれます。
(その辺りの詳細は↓こちらをご覧下さい)
■「研修医の大学離れが進んでいる?」
ただ調査によると、実際の研修医は、どうやらそうは望んでいない様子なのです。
興味深いのは、勤務条件さえそろっていれば地方に行ってもいいと考えている回答者が少なくないと言うこと。需要・供給の原理を地でいくような話です。
「自分と交代できる医師がいる」、「他病院との連携がある」など、単にお金のことだけではなく、医療体制の整備に関する回答が多いのも注目すべきところかと思います。
逆に言うと、こうした点を改善していくことができれば、医師は自然に増えていくかも知れない、ということです。
公的機関の方々にとっては、参考になる内容かも知れません。
そしてもう一本は↓こちら。
■「離島医療:学んだ医学生に変化 『興味』20ポイント増、8割超に」(毎日jp)
離島の医師不足が深刻化していることを受け、琉球大学医学部が実施している離島の専門医を育成するプログラム「離島医療人養成教育プログラム(RITOプロ)」で、離島実習前に離島医療に興味があると答えた学生は64・6%(62人)だったのに対し、実習後は82・3%(79人)に増加していることが同大が実施したアンケートで分かった。実際に現場を体験することで離島医療に興味を示す学生が増え、学生の離島医療への動機付けとなっていることが明らかになった。
プログラムは離島で特に不足しているプライマリ・ケア(初期診療)科、産婦人科、脳神経外科、麻酔科の専門医を育てるもので、卒業前の全員に離島研修を義務付けている。
本年度は医学部の4年生96人が夏休みの5日間、県立宮古病院、県立八重山病院、公立久米島病院のいずれかで実習を受けた。学生からは「科を越えて患者を診療するオールラウンドな医師は大変面白いと感じ、将来離島で働いてもよいと思えるようになった」「『離島医療』と言えば何もない辺境の地で孤独にやっているイメージだったが、そうでないことが分かった」など実習前と後では離島医療に対する印象が変化したという感想が多数寄せられている。
(上記記事より)
離島の医師不足を解決するために琉球大学医学部が行っているプログラム「離島医療人養成教育プログラム(RITOプロ)」の取り組みを報じる記事です。
■「離島医療人養成教育プログラム専門部会(RITOプロ) 」(琉球大学)
このプログラムは、文部科学省による「地域医療等社会的ニーズに対応した医療人教育支援プログラム」に選定されているもの。
琉球大学の他、北海道大学や弘前大学から鹿児島大学までの9国立大学、2公立大学、4私立大学、計15校が採択されています。
■「平成17年度「地域医療等社会的ニーズに対応した医療人教育支援プログラム」選定プログラム一覧」(文部科学省)
琉球大学の取り組みでは、実際に離島での実習を体験したことで、離島での医療に興味を示す学生が増加したそうです。
同プログラム専門部会の吉井與志彦会長は「離島医療を知らないまま医師になっていることも多い。(この結果が)すぐに離島勤務につながるわけではないが、興味を持ってもらい、それを継続できれば離島医師確保につながる」と期待する。
(上記記事より)
……なんてコメントも。
確かに「離島医療」というのは、実態以上に、イメージが先行して伝わってしまっているところがあるように思います。
考えてみれば、実際に離島でどのような医療体制が組まれ、どのように医師がその中で活躍してるかなんて、実際に触れてみないとなかなか分かりませんよね。
ただ現在、全国的にはむしろ、受験生の段階から地方医療を希望する方を選抜させる「地方枠」を拡張させる方向にあるわけです。
地方医療どころか、医療自体に関するイメージもまだまだ十分でない高校生の段階で、「大学卒業後○年間、へき地で医師として働けますか?」と聞いても、前向きな実感を伴う応募は得にくいのかも、なんて少し思ったりもします。
これらの事例なども参考にしながら、もう一度、冷静に痴呆医療の担い手をどう育成するかについて、議論をし直してみる時期なのかも知れません。
以上、そんなことを思ったマイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。