大胆不敵なチャレンジに対して、真剣に議論する社会が好きです。
ただ、そうした社会では、厳しいチェック機能がきちんと働いていることが大切です。
厳しいチェックを突破し、世に出て、ちゃんと成果をあげたなら、チャレンジは大成功。
逆に、このどこかのプロセスで引っかかってしまったなら、残念ですがやはりそれは何か問題があったということでしょう。
そんなことを考えたきっかけが、↓このニュースでした。
【教育関連ニュース】——————————————–
■「自宅兼大学院の申請…事務室は広間、学長室は6畳和室」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20051122i306.htm
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おなじみ、大学職員.net -Blog/News-でこの記事のことを知りました。
この申請を出した「旭インターネット大学院大学」は、インターネットですべての教育を行う「完全ネット大学院大学」として申請をした初の事例だそうです。
もちろん、構造改革特区を利用して、です。
しかし…さすがのマイスターも、思わずのけぞってしまう写真です。
和室じゃん!
家じゃん!
なんだか、「親戚のおばあちゃんち」みたいな雰囲気がかもし出されてます。
この懐かしオーラは、一体どこから出ているんでしょうか…。
壁沿いに立てられた、誰かの記念写真でしょうか。
それともやはり、パソコンの下に敷かれた、ド派手なクロスでしょうか。
突っ込みどころが多すぎです。
-文科省などからは「これを大学院と呼んでいいものか……」と戸惑う声も聞かれる。-(冒頭記事より)
無理もありません。
しかし、文科省の視察団が、実際にどかどかこの部屋にやってきたのでしょうか?
一応部屋にあがってはみたものの、一体何を調べろっていうんだ?と困惑するシーンが目に浮かびます。
「このふすまは…押入れですね。」
「ちょっと、そこは大学機能とは関係ありませんので、勝手に開けないで下さいよ。昔のアルバムとかしまってるんですから」
「あ、これは失礼。」
「まぁまぁみなさんようこそ。これ、お隣からいただいたヨウカンですけどどうぞ」
「ちょっと母さん、勝手に文科省の皆さんにお茶菓子配らないでよ。」
…なんていうやりとりが実際に交わされたかもわかりません。
上記は、あくまでマイスターの妄想ですが。
-「実態は普通の家ではないか」と不安視する声も出たという。-(冒頭記事より)
普通の家ですねぇ。どっからどう見ても。
大学設置・学校法人審議会のメンバーも、この当然の突っ込みを入れずにはいられなかったようです。
この特区申請を認めたのは長野市です。
↓このページに、申請の内容が掲載されています。
■「長野市が認定申請した特区(第6次認定申請の概要)」(長野市 企画政策部)
http://www.city.nagano.nagano.jp/ikka/hisyo/seishin/6ji-ninnteisinnsei-gaiyou.htm
以下のようなメリットが、申請で述べられています。
(1)全ての学習が自宅パソコンを通じてインターネットで出来るため、学習場所としての校地・校舎を自己所有することなく大学等設置事業が可能であり、校地・校舎を自己所有するよりも、学習を支援する教職員の採用、研修、学習サーバ(コンピューター)の整備、機能向上、学習支援システムの内容の充実に充てる方が学生にも有益である。
(2)設備投資にかかる費用を少額に抑え、学生の費用負担を軽減することにより、社会人の再教育の機会を拡大することが期待できる。
校地・校舎を維持する金額を削減できれば、学費は安く抑えられる。
非常にわかりやすい経済論理…ではありますが…。
冒頭の読売オンラインでは、以下のようにも報じられているんです。
これが、気になるところです。
-設備については、特区の特例で研究室や図書館、実験室などの設置は免除されたが、大学設置基準で事務室と会議室、学長室は必要になる。このため大学院側は当初、市街地のビルを借りる契約を結んだが、費用面で断念。急きょ長野市内にある酒井会長の自宅の2階を校舎に転用することを決め、2階の広間を事務室と会議室、6畳の和室を学長室として申請した。開校が認められた場合でも、1階部分は引き続き酒井会長の居住空間となる。-(冒頭記事より)
…うう~む。
マイスターも、通信制の学校というのは知っていますが、いくらなんでも会議室が自宅の居間ってのは、無理やりな気がします。
どうも上記の特区申請書を見ていると、この大学院大学の講師の中心になるのは、学長が現在勤務する信州大学工学部の同僚達であるように思えます。
自宅の居間でも会議はできる…って、それ普段、同僚とお茶飲んで談話してるノリでしょ。
そもそも、市街地のビルを借りる契約を費用面で断念って。
事務室、会議室、学長室の3部屋すら借りれないというのは、一体どういう収支計画になっていたのでしょうか。
なんだか雲行きがあやしくなってきました。
まさか、
「ゼロ資金で大学院やらないか?
講師は自分達でやればいいし。会議室は、ほら、ウチでいいじゃないか。
そうすれば、仮に初年度、入学者ゼロでも、別にダメージないし。
身軽に行こう。ダメそうなら、数年でやめればいいしな」
みたいな、ズサンな計画たててませんよね先生方?
いや、マイスターは決してそんな不埒なことは思っていないのですが、
マイスターの肩の上にいるデビル・マイスター君がだんだん疑い始めているんです、すみません。
デビル君はダークサイドに堕ちているので、あやしいところがあるとすぐに疑います。みなさんもぜひ気をつけてください。
なお反対側の肩にはちゃんとエンジェル・マイスターさんもいるのですが、この教育不信の時代では残念ながらあまり出番がないらしく、普段は酒をかっくらってフテ寝してます。エンジェルとしての仕事がちゃんとできるのか心配です。
話を戻しましょう。
デビル君が言うには、
「本気で学生を集めて大学院を経営する気があれば、会議室のふたつやみっつ、借りられるんじゃないか?」
だそうです。
確かに今後もずっと大学院を維持していくのなら、拠点を持つことは損ではないでしょう。
学費を安く抑えてあげようというその心意気は悪くないのですが、これらの報道だけを見ていると、なんだか眉唾な計画に思えてきます。
さてこの旭インターネット大学院大学、結局、申請は認められませんでした。
大学設置・学校法人審議会のよると、不認可の理由は「準備不足」です。
■「ネット大学院は不認可へ 公私10大学は新設認める」(産経web)
http://www.sankei.co.jp/news/051128/sha052.htm
ただ、この記事ですと、準備不足の詳細まではわかりません。
学長室(和室)がダメだったのか、
それとも、他の点で準備が足りなかったのか…それは不明です。
で、でもですね!
フォローをしておきますと、この大学院大学、設立の理念は悪くないんです。
(1)長野市は、他地域に先駆けて高度情報化時代のインフラ整備を実施してきた都市であり、ブロードバンドが最初に商用化された地でもある。こうした環境も手伝い、市内には情報サービス事業所が多く立地している。信州大学工学部や長野工業高等専門学校があることから、企業の産学連携に対する潜在的なニーズは高く、また、行政に対する「人材の確保・育成に関する支援」への期待も大きい。さらに、経済・社会構造の変化などに伴い、個人の職業技術の習得やキャリアアップのための学習機会の充実に対する要望が高まっている。しかし、時間的制約などから、働きながら大学・短期大学等で学習を進めることは困難な状況にある。
(2)長野市には信州大学工学部において日本で初めてインターネット大学院を試行した際の多くのスタッフが在住しており、協力体制が組めることから、この地にインターネット大学院大学を設置することによって、今後のインターネットによる学習機関の核としての役割を果たすとともに、働きながら高度な情報技術に関する知識を習得する機会を提供し、地域産業の活性化へと繋げることが可能である。(長野市 企画政策部)
ね?
確かに、社会人が自宅で大学院レベルの教育を受けられるのは、大事ですよね。
長野の活性化も、重要ですよね。
こうした大学院は、いずれ日本でも増えてくるでしょう。
いつかは、こうした学びのスタイルが実現する日も来ると思います。
ですからまぁ、関係者の皆さんはこれに気落ちせず、経営案を練り直して来年チャレンジしてくださいな…。
どらどら、せっかくだからこの大学院大学の公式サイトでものぞいて見るかな
…って、アレ?
■旭インターネット大学院大学 公式webサイト
(旭インターネット大学院大学設立準備委員会)
http://www.teragoya.org/
-お知らせ:旭インターネット大学院大学は2005年11月28日、不認可となりました。
日本初の完全ネット大学院大学の特区の適用を受け、実現を目指していただけに大変残念に思います。
期待して待っていて下さった方々に、私どもの力不足をお詫びします。
今後のことですが、大学設置の今の体制では当分独立した完全ネット大学院大学が認可される状況にはないと判断されるため、この計画はしばらく凍結させていただきたいと考えています。いつかきっとこの計画は何らかの方法で実現させたい所存です。-(上記リンクより)
計画、凍結しちゃったようです…。
「いつかきっと」という感じでは、来年や再来年に復活する可能性は薄そうです。
「大学設置の今の体制では当分独立した完全ネット大学院大学が認可される状況にはないと判断されるため」
というあたりの記述から、
「教室がないのが原因だとよ。俺達は時代の先を行き過ぎただけなんだよ、ちくしょう」
という主張がにじみ出ています。
もっとも、本当に教室の問題だけだったのかどうかは、お上のみぞ知る、というところです。
マイスターとしては、あれだけ立派な目的があったのなら、初期投資をある程度行って、会議室などのスペースを整備し、経営&教育計画を練り直して再チャレンジすればいいんじゃないかと思うのですが、しかしその辺は経営者の自由ですからマイスターがあれこれ言うのも余計なお世話というものでしょう。
そんなわけで、完全ネット大学院の第一号は、残念ながらポシャってしまいました。
しかし、時代は次のチャレンジャーを求めています。
我こそはと思う組織は、ぜひ、計画を練って世に問うてみてください。
マイスターもそんなチャレンジャーを応援します。
なお計画を見て、肩の上のデビルがなんか失礼なことを言うかもしれませんが、それはなるべく無視の方向でお願いします。
挑戦する皆様のモチベーションを下げてはいけませんものね。後で、デビルはきつくしかっておきます。
以上、マイスターでした。