プロデューサーというお仕事(5):教育事業にこそ、今、プロデューサーが必要なのだ!

4回にわたり、「プロデューサーのお仕事」をご紹介してきたマイスターです。

・プロデューサーというお仕事(1):プロデューサーは、常に成果の達成を優先する
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50145260.html
・プロデューサーというお仕事(2):客観的な視点を持ちながら、当事者として決断する
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50145287.html
・プロデューサーのお仕事(3):プロデューサーの役割がわかる、ちょっとしたクイズ
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50146779.html
・プロデューサーのお仕事(4):「ちょっとしたクイズ」の回答
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50147468.html

大学院での経験や、前職での仕事を思い出しながら、一連の記事を書いてきました。
思えばなんだか、自分の周りには、プロデューサー気質な方が多かったな、と。

男性/女性、
若手/ベテラン、
スペシャリスト/ゼネラリスト、
事業家/学生/研究者/クリエイター、

などなどタイプは色々ですが、どなたもこれまで本ブログでご紹介してきた「プロデューサーが果たすべき役割」を意図的に、あるいは本人も気づかないままに担っていました。

これまでの記事を読んでいただいた方には、プロデューサーの役割、なんとなくイメージしていただけたのではないかと思います。
それは、

組織内の摩擦を恐れず、狭い範囲の発想に囚われずに、
徹底してお客様の視点に立って、
問題の解決あるいは新たな価値の創造のために、最善の努力をすること。
その過程で周囲を説得し、プロジェクトの障害となる物を排除して、目的を完遂することです。

問題解決のためのアプローチを強引に二通りに分けるとすれば、それは

 <まず現状を分析する → その中から「できること」を探す>

という方法と、

 <まず「すべきこと」を設定する → 現状との差を埋める方法を考える>

という方法なのかなと思います。
これまでの記事でも「ゴールからの発想」という表現を何度か使わせていただきましたが、
プロデューサーがプロデューサーたるゆえんは、上記の二通りのアプローチのうち、後者の方法論を駆使するところです。

これからの世の中に求められる能力として、「問題発見力」「問題解決力」なんて言葉がしばしば使われていますが、プロデューサーはまさにこうした部分に特化した人材だと言えましょう。

しかし、もっと忘れてはならない大切な資質があります。

プロデューサーというのは、周囲の人々を活かすことで目的を完遂するプロなのです。
したがって、人を動かす能力が最も大事です。

プロデューサーばっかりが集まっていても、何も生まれません。
いささか逆説的な言い方ですが、現場のベテランの方や、その道のプロフェッショナルの方々の中で、はじめてプロデューサーは価値ある仕事ができるのです。

プロデューサーが10人集まったとしても、「10人の素人」でしかありません。
(プロデューサーなんて、ひとりじゃ何もできないのさー)
でも、10人のプロフェッショナルの中に1人の優秀なプロデューサーが入ったなら、その集団が成し遂げる価値は、10倍、20倍になる可能性があります。

その意味では、「プロを活かすプロ」と言えるかも知れませんね。

この、「人の動かし方」は、プロデューサーそれぞれ、違います。

「上に立って指示を出す」タイプは多いと思いますが、そればっかりでもありません。

コーディネイターの役割に徹し、議長のごとく全体を動かしていくプロデューサーもいます。

スタッフの中に入り込んで、まず人間関係を作っていくところから始める方がいるかと思えば、逆に一定の距離を保つことで仕事を進めやすくする方もいます。

勢いと自信で周囲を説得する人もいれば、データと論理で人を動かす人もいます。

絶対に正しい方法なんてありませんから、実は何でもアリです。

マイスターは、意図的に「嫌われる」ことで、素晴らしい仕事を達成したプロデューサーを知っています。
そのプロデューサーは、人をおだてたりほめたりするのも非常にうまい、ベテランのプロデューサーだったのですが、時と場合によって、そういうことも辞さないのでした。
実際に側で見ていてヒヤヒヤしましたが、プロジェクトは見事に成功しました。
マイスターは、自分はプロデューサーとしてはまだぺーペーだと思っていますので、そこまでのことはなかなかできませんが(自分が同じことをやっても失敗しそう…)、そこまでするか!というその姿勢には、少なからず学ぶところがありました。

どんなアプローチで仕事に臨んだとしても、絶対に、考えがぶつかる時はあります。
プロデューサーは、ある部分で、組織の論理に逆らう提案をするのが仕事ですから、当然様々なところで、周囲の考えと対立するシーンが出てきます。

単なる「調整役」であれば、そこで「折り合いをつける」「落としどころを探す」という方法をとるわけですが、プロデューサーなら、ある程度ケンカをしてでも目的を完遂することにこだわるべきです。

ぶっちゃけて申し上げますと、どっちにしろ、絶対に不可能なことや、血を吐くほど無理しても実現できないことは、最終的にはやっぱりできないのです。
だったら可能な限り、理想に近いところギリギリに、プロジェクトを誘導しようじゃありませんか。
現場に詳しいスタッフがずらりと揃っている中で、プロデューサーまでが最初から妥協案を探っていて、どうしますか。

摩擦がないということは、全員、想定の範囲内で仕事をしているということに他なりません。それでは、本当に価値のある仕事は生まれません。100点どころか、60点どまりの結果になります。
大丈夫、この摩擦も、場数を踏んだ優秀なプロデューサーなら生産的な緊張感としてうまくコントロールします。
(そうなるためにはやっぱり何度も摩擦を経験しないといけないわけで、結局、ケンカを恐れていてはダメってことなのですね…)

さて、これまで書いてきたプロデューサーの話、
果たして、教育事業の世界に当てはめられるでしょうか?

結論から言えば、

「プロデューサーの視点」は、今の教育業界に最も欠けている要素であり、
今後はこうした発想で仕事をする役回りの方が、なにがしかの形で必要になってくると思います。

教育というのは、
教員一人一人を見れば、生徒のためを思って努力している方も多いのですが、
全体を見れば、驚くほど、「供給側優位」な事業だと思います。
教育とは、求めるものではなく、与えるもの。
そう言わんばかりの組織が、個人的にはどうしても、目に付いてしまいます。

マイスターは現在、大学に勤めているのですが、大学なんて、あらゆるところに改善の余地を残しているように思えます。(教育の質でも、それ以外のサービスでも、です)

お客様視点でドラスティックに組織の物事を変えていく人が今、必要とされているはずで、そこではマイスターが考える、プロデューサーとしての視点が大いに役立つと思うのです。

また、これは初等中等教育でも大学教育でも同じことが言えると思いますが、教育というのは、労働集約型産業の典型ですよね。
しかも、教員ごとに、統一されたサービスをしているわけではありません。
教員すべてが、個人事業主みたいなものです。

それは「教育の自治」という意味では、必ずしも否定されるものではないのでしょう。
しかしそれでも、世の中の状況が昔と変わってしまった現在、教える教職員の側にとっても、教わる学生の側にとっても、デメリットがいささか目立ってきているように思われます。
また、教育の質をコントロールする側(官庁など)の方にも、「なんだかもう、無理が来ているのでは」と思うような部分があるように思うのです。

教員は多忙で、連携が取れず、現状の仕事をこなすことに汲々としてしまっています。
生徒や学生は、全体として何がやりたいのかわからない、統一ビジョンに欠けるサービスを受けて、でもその苦情を誰に言えばいいのかわからないまま、学校を卒業していきます。
学校は地域の資産のはずですが、実際にはなかなか、外の社会人が積極的に関われる場所ではなくなっています。
かといって、地域に密着し、独自の方針、独自の方法でサービスを展開しようと思うと、中央官庁がそれを制限します。
中央官庁にしてみれば、お金がなくて必要なことができません。

結局、いったい誰が何をすればいいのよぉ!?
と、それぞれが、それぞれの職場で悲鳴を上げたい状況ですよね。

でも、実はこの混沌とした状況って、プロデューサー的な動き方が、最も力を発揮するシチュエーションじゃないか、と思うのです。
目的達成を掲げ、個々に異なる手法を使って、個別に事態を改善していくアプローチの仕方ですね。

国家全体の制度をあれこれ慎重に議論するのはもちろん非常に大切ですが、それはまた別に、ゲリラ的にプロジェクトを各地で立ち上げて個別にどんどん進めちゃうという改革も、それはそれでアリだと思うのです。(プロデューサー的には)

今は幸いにも、構造改革特区制度などを始め、こうした個別の動きに対する制限は緩やかになってきています。
もしあなたが現状を変えたいと思うなら、まずプロデューサーの発想で動いてみるのもいいんじゃないかと思います。

非営利事業の分野でプロデューサーとして働くのは、
ビジネスの世界でプロデューサーとして働くよりも、遙かに難しいことだと思います。

でもその分、やりがいはあるはずです。

プロデューサーになるのに、資格などは要りません。
また、仕事の進め方にも、特に厳密な決まりはありません。

まずは手始めに明日からでも、職場の中でこっそりプロデューサーとして行動されてみてはいかがでしょうか。
そういう心構えで仕事をしているうちにいつか、常にプロデューサーとしての役割を期待されるようになるかも知れませんよ。

もともと教育の世界でキャリアを積んでこられた皆様がプロデューサーの発想を手にしたなら、それは大変な力になるはずです。
そうやって少しずつでも成果を積み上げていけば、それは、その組織の大きな財産になることでしょう。

全国で、そうした人々が増えていけば、きっとできないことはない!と思います。

(楽観的な発想? う~ん、確かにそうかもしれません。
 でも、そう思わなければ、何もできないのもまた事実ですからね)

そんなわけで、プロデューサーについての記事を、5回にわかってご紹介しました。
まだまだお伝えしたいこと、ご紹介したいことも多いですから、今後もちょくちょくプロデューサーに関する情報を扱っていきたいです。

少しでも教育業界の方に、
プロデューサーというお仕事を知っていただくキッカケになったなら、幸いです。

最後になりましたが、自分のことを少しだけ。

マイスターは、上に立って指示するのではなく、「前に立って歩く」ことで人を動かすプロデューサーでありたいなぁ、なんて思っています。

こんなおもしろいことがあるよ、みんなもやってみない?
これはとても効果がありそうだよ。ほら、一緒に手伝ってよ!

…と声をかけながら、それまで未知だった領域を先陣切って歩くことで、周囲を変えていくようなスタイル。
それが、自分の理想です。

今はまだ、そうした理想にはほど遠く、
こうして毎日ブログを書くくらいのことしかできていませんが、
いずれは、プロデューサーとしての成果を、教育の世界でも積み重ねていきたいと考えています。

そのときのためにも、
この業界のことを一所懸命学びつつ、
でも一方で、冷静に、クールに見られる距離を保ちながら、
こうして勉強がてら、記事を書いていきたいと思います。

みなさま、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
マイスターでした。