高校生の頃は、日本史より世界史が好きでしたが、最近は日本の系譜も面白いなと思います。
大学でも世界史をもっと学びたいという気持ちがあったのですが、進学したのが理工系学部だったので、「建築史」や「科学史」しか開講されていませんでした。これらも確かに面白かったのですが、自分としてはまだまだ消化不良です。
本当なら、大学の文学部歴史学科でちゃんと系統立てて学んでみたいなと思っていますが、理工系学部では学ぶことができなかったので、それは老後の楽しみにとってあります。哲学や考古学も面白そうですが、考古学の場合は発掘実習があるので、老後にやるにはちょっと過酷かも知れませんね。
歴史を学びつつ、空いた時間で世界各国を旅してまわるというのが、自分の理想の老後の過ごし方です。
社会環境がめまぐるしくかわり、価値観がしょっちゅう揺さぶられるような時代において、アイデンティティのよりどころとして最後に残るのは自分達の歴史や系譜ではないかなと、個人的には考えています。
……と、これは何も、ただロマンや感傷に浸るためだけに申し上げているのではないのです。
組織の在り方が流動的になっている現代では、構成員一人一人が確固たる組織のアイデンティティを意識することは、とても重要です。
都市なら、その町の歴史。
企業なら、企業の歴史。
学校なら、学校の歴史。
そうした歴史をしっかり共有することによって、そう簡単にはぐらつかない理念や目標のようなものを、自分なりに自分の中に構築することができます。
組織内部を結束させるためにも、あるいは外部に対して自分達の思想や信念を訴えるためにも、歴史を意識することは意義のある行為なのです。
もちろん、大学にとっても、これは大切なテーマでありましょう。
そこで、今日から数回にわたり、「大学の歴史を効果的に伝える」ということについて、考えてみたいと思います!
その第一回として、本日は、企業の動きを簡単にご紹介します。
企業ではこの数年、自社の系譜を紹介する取り組みが盛んです。
そのためのメディアとして使われているのが、webサイトです。
歴史というのは、全体像を見せることと、細部を紹介することを両立させるのが大変なのですね。パンフレットや映像では扱える情報量に限りがありますから、こうしたメディアではなかなか一般生活者の関心に答えられるアピールをすることができません。記念事業として冊子にまとめたとしても、世の中のほとんどの方は、そうした情報にアクセスできませんよね。
大企業であれば、自社の歴史を紹介する資料館を建設したり、歴史をまとめた書籍を刊行したりもできますが、中小企業ではそれも困難です。コストもかかりますし、大規模に刊行物を流通させたところで、それを見たがる人がそのときにタイミング良く存在するかどうかはわかりません。かといって、歴史をアピールしないままにしておくのは、もったいないです。
そこで、webサイトの登場です。
webサイトには、
○時間制限のある映像メディアや、ページ数に限りのある書籍とは違って、必要に応じて際限なくコンテンツを拡張し、丁寧に情報を伝えることができる
○一方的に配信される映像と違って、読み手の都合で情報にアクセスすることができる(読み飛ばすことも、丁寧にじっくり読むことも可能)
○企業の公式webサイトのメニューや検索エンジンなどから、誰でも容易にアクセスすることができる
○文字も画像も、音も映像も、webページ上でなんでも自由に扱うことができる
○インデックス(目次)ページをいくつも用意することで、読み手の興味にあわせて、ストーリーの流れを数種類用意することが可能である
○テレビやDVD映像、書籍での流通などに比べると、制作コストも流通コストも、非常に低く抑えることが可能である
○いつでも好きなときに更新できる
……といった特性があります。これらはいずれも、企業が自社の歴史紹介コンテンツを制作する時に、大変大きなメリットになります。
「歴史」というコンテンツ内容と、「webサイト」というメディアは、抜群に相性がいい組み合わせなのですね。
というわけでさっそく、世の中のほんの一部ではありますが、企業の歴史コンテンツをいくつかご紹介します。
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■「歴史」(Sony Japan)
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/index.html
・「Sony History」
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History
/SonyHistory/index.html
■「社史」(松下電器産業株式会社)
http://panasonic.co.jp/company/history/index.html
・「松下幸之助物語」(松下電器産業株式会社)
http://panasonic.co.jp/company/person/story/part1/story1-1.html
井深大、松下幸之助という有名創業者を持つ二つの大企業。アーカイブ的な性格の強い社史コンテンツは、日本の文化史の資料としても貴重なものでしょう。
そして両社とも、そんな社史とは別に、読み物として構成された創業者の伝記コンテンツもちゃんと用意しています。
創設者の生き様は、組織の理念や精神を何よりも峻烈に伝える情報ですよね。これを活かさない手はありません。
ましてこの二社の場合、日本人なら大抵は知っている方が創業者です。文字中心で構成された伝記コンテンツは、ついつい仕事の合間などに読んでしまうもので、意外にPR効果は期待できるもの。検索エンジン対策としても効果的です。
・「タイムマシン作戦」(探検キッズ)
http://www.discovery.panasonic.co.jp/electricity/hq/time/index.html
(※下の方のメニューに、「歴史読みもの 松下幸之助物語」というリンクがあります)
なお松下電器は、「探検キッズ」という、子供向けの総合学習支援サイトを運営しているのですが、その中にも、松下幸之助に関する読み物があります。
「家電の歴史」の中に組み込まれているのがミソ。調べものをしている子供が、近代日本で家電を普及させた人物として、松下幸之助のことをついでに読んでしまうというねらいでしょうか。
■「ヤマサの歴史」(ヤマサ醤油)
http://www.yamasa.com/history/index.html
ヤマサ醤油の企業史紹介コンテンツです。
「1645年の創業」(!)という企業の歴史こそ、実は同社が持つ最高の資産であり、市場に向けてもっともアピールしたい点なのでしょう。子供向けの体裁をとってはいますが、大人でもつい読んでしまう構成で、なかなかよくまとまっています。
「教科書にものった『稲むらの火』-7代濱口儀兵衛-」の話などは、社会人や教員に好まれそうな内容。読み手が持っている企業イメージを良い方向に変える役割を果たしていると思います。
企業の歴史以外にも読み物コンテンツが充実しているので、つい「他にはどんなものがあるの?」とサイト内を巡回してしまいます。
■「創業百周年記念 コクヨ100年物語」(コクヨ)
http://www.kokuyo.co.jp/yokoku/100/index.html
文具と家具のメーカーであるコクヨも、実は創業100年です。
あらゆるところに「100年」などの数字があり、「歴史のある企業」の印象付けを狙っているのがわかります。
製品写真を始めとして画像が多い点、時代背景の解説が配されており読みやすく構成されている点、製品史も単なるアーカイブではなく「コクヨマニア養成講座」のような読み物仕立てになっている点などは、参考になるかと思います。
■「知る・楽しむ : 日清食品アーカイブ」(日清食品)
http://www.nissinfoods.co.jp/world/museum/
日清食品の社史コンテンツです。
正確に言うと、「チキンラーメン」と「カップヌードル」の歴史を紹介するコンテンツです。
この二つは、同社を代表するベストセラー商品。これらの歴史を丁寧に解きほぐすことで、日清という企業を紹介するという趣向なのですね。
■「竹鶴物語」(ニッカウヰスキー)
http://www.nikka.com/know/taketsuru/top2.htm
ニッカウヰスキーの創業者、竹鶴政孝氏の生涯を紹介しつつ、同社のブランド「竹鶴」もついでにアピールするというコンテンツです。「竹鶴政孝History」というコンテンツがありますが、これを読むと、同社の創業当時のことがわかります。
洋酒の製造販売は「飲み物を売ると当時に、ロマンや価値観、世界観を売っている」という面を持っていると思います。そうした面を全面的に押し出したコンテンツです。これでニッカウヰスキー社に関するウンチクを読みつつグラスを傾けるのが、かっこ良い大人、みたいな。
以上はいずれも、日本を代表する歴史ある企業でしたが、社史紹介コンテンツは、外資系企業も作ってます。
■「P&Gグループの歴史」(P&G Japan)
http://jp.pg.com/about/history.htm
・「日本での歩み」(P&G Japan)
http://jp.pg.com/about/a1970.htm
■「デュポン200年の歴史」(デュポン株式会社)
http://jp.dupont.com/jpcorp/tradition/history/index.html
プロクター・アンド・ギャンブルという社名が、二人の創業者の名前に由来するということは知っていても、彼らがどんな人達だったかは結構、知らないでしょう。
簡潔ですが、へぇ、と思わせる内容です。
デュポン社の方は、かなり気合いの入った読み物です。
エピソードがふんだんに盛り込まれ、現在の取り組みへのリンクが随所に張られるなど、とてもよく考えられて構成されています。
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……と、きりがないのでこの辺にします。
みなさま、お気づきになられましたでしょうか?
いずれの企業も、基本的には
「読ませる」
「魅せる」
「楽しませる」
という観点で、社史コンテンツを作っているということに。
ただ年表を一枚載せただけの社史なんて、誰が読むと思いますか?
年表だけを載せたところで、その企業に関心を持ってくれる人が増えますか?
歴史というのは、客観的事実だけではなくて、そこから浮かび上がってくる理念や精神、考え方などに価値があるのですよね。事実だけ述べたところで、消費者、一般生活者にとっては何の発見も、意味もありません。
そもそもただの年表なんて、果たしてちゃんと読まれるでしょうか。
今回取り上げた企業は、そういうことをちゃんとわかっているのです。
そうやって各社とも工夫を凝らし、質量ともに資料を充実させ、読まれるコンテンツ、価値あるコンテンツを社会に向けて発信しようとしているのです。
さて、それでは大学はどうでしょうか。
日本には、100年を超える歴史を持った大学が、いくつもあります。
著名な創設者をもつ大学もあります。
学術や産業への貢献で、いくつもの業績を残してきた大学もあります。
では、そういった大学の系譜は、ちゃんと伝えられているでしょうか?
パンフレットやポスターで「歴史と伝統」なんて言葉を連呼していれば、それを見た人は大学の歴史や理念を共有してくれるだろう、なんて考えていませんか?
誤解を恐れずに言えば、「歴史がある」という事実それ自体には、それほど価値はないのだと思います。
歴史の中で醸成されていった組織の理念や精神がしっかりとステークホルダーの間で共有され、組織への帰属意識や思い入れがそれぞれの個人の中に生まれてきて、初めて歴史や伝統は意味を持ってくるのではないでしょうか。
歴史を活かすためには、それ相応の工夫や準備が必要なのです。ただ年月を重ねていったからといって、それが外部の方にもすぐ伝わると考えていてはいけません。
その点、企業の事例から学べることは多いと思います。大学のwebサイト担当者は、どうもあまり、企業の広報活動を参照されていないんじゃないかと感じます。ぜひ、様々な業種の企業サイトをご覧になってみてください。
明日は、大学の事例について、具体的に考えていきたいと思います。
以上、マイスターでした。
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