Web 2.0スタイルのツールが、大学教育を変える?

マイスターです。

興味深いタイトルの記事がありましたので、ご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「Web 2.0スタイルのツールが変革する大学の教育現場」(CNET Japan)
http://japan.cnet.com/special/media/story/0,2000056936,20354034,00.htm
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元々はアメリカの方が英語で書かれた記事を、日本語に翻訳したものです。
詳細は、上記のリンク元をご覧ください。

いくつかの箇所を、以下に挙げてみます。

「自分の研究成果や意見を自慢したい学生が多い。彼らが好むのは、自分に関心を持ってもらってよく見てもらうことだ」と、ダートマス大学のシニアインストラクショナルテクノロジスト、Barbara Knauff氏は述べている。

他の教育専門家たちの意見もKnauff氏と同じだ。Web 2.0スタイルのソーシャルツール(ブログやウィキなど)は、導入すると知名度を高められ、学問に対する学生の興味を高めて他の大学との差別化を図るための格好の手段としてとらえられている。

テキサスA&M大学のアシスタントディレクターであるRhonda Bkackburn氏は、Appleの「iTunes U」のことを、貴重なコンテンツが自由に配布されることを懸念する教授からは懐疑的に受け止められているものの、効果的なパブリックリレーションズツールであると評している。教授たちは、自分自身や研究内容、講義について紹介した動画を投稿するためにiTunes Uを活用している。

合格者が実際に大学に入学した後も、ソーシャルネットワーキングツールの活躍は続く。コンテンツを学生に一方的に押し付けるだけの講義はもはや過去のものとなりつつある。教授や講師たちは今、講義内容を配信してオンラインという教室から離れた場所での知的な討論や研究を促し、より深く掘り下げた討論のために教室での時間を充てるようにしている。

「学生たちは自分の投稿が他の学生に読まれるということを意識しながら書くため、それが別の動機付けにもつながっている。仲間に格好悪いところを見せないように向上意識を持ち、メディアの側面をもつ学問や研究に興味を抱くようになった」とKnauff氏は述べている。

教授の目からは見掛け倒しで中身がないと見られがちなマルチメディアやパーソナルコンテンツは、学生たちの気持ちを教育にひきつける点で効果を発揮している。Knauff氏は「学生たちが提供するコンテンツが教授や講師のそれより劣っているのは当然だ。コンテンツの作成においてその道の専門家に勝つのは無理。肝心なのはコンテンツの質うんぬんではない」と語る。

「学生がオンラインで講義の内容を既に読むか、動画を見るなどしてから、教授と双方向に対話するというスタイルが一般化しつつある。講堂を埋める300人の学生を相手に教授が講義する時代は終わった。今後は、参加者主体のワークショップスタイルに重点を絞って、大学の構造が様変わりしていくであろう」

(以上、すべて上記記事より)

いかがでしょうか。
いかにもWeb2.0、という感じですね。

ただ、このうちのいくつかは、もしかすると「とっくに実践しているよ」なんて教員の方がいらっしゃるかもしれません。
教材の事前配信やオンラインスペースでの意見発信および議論など、技術的にはちょっと前から可能だったものが多いからです。

少なくともゼミ活動の単位では、こうしたツールを様々な形で導入されている方が多いのではないか、と何となく想像します。
部分的に、使えそうなところから使ってみて、その中で活用のためのノウハウを少しずつ蓄積している、なんてケースが多いかも知れません。

教員だけではありません。
記事では新入生のサポートなどにSNSのようなメディアが活用されているという記述がありますが、日本の大学が導入している学生用ポータルシステムでも、アカウントを「入学前」に配布しようという動きが進んでいると聞きます。
というか、最近の学生用ポータルシステムは、上記で挙げたファイル配信や、授業単位の情報共有ページ作成機能などを、始めから備えています。
こういったシステムを管理している職員の方々にも、「ウチではこれくらい、もうやってますよ」という感想をお持ちの方がいることでしょう。

ですから、「アメリカも日本も、そんなに変わらないなぁ」ということが分かるという点において、冒頭の記事は、興味深いのではないでしょうか。

ただ……こういった話題を扱うときは常に気をつけるべきことだと思いますが、結局これらは、ツールの一つでしかないのですよね。
要は、「使い方次第」だということです。

技術的に新しいかどうかは、本質的にはあまり意味がありません。
その技術を取り入れた結果、どれだけ教育的にメリットがあったか、ということだけが大事なのです。
「うちはそんなこと、とっくの昔にやっていたよ」と威張っても、結局、技術をもてあましているだけだったとしたら、意味がありませんよね。

最新の技術というものは、取り入れた後が肝心です。

同じように新しいメディアを導入したとしても、使う人によってその後の展開は随分違ってきます。
何の工夫も改善もせずに

「なんだか使いにくいなぁ。元のやり方の方がいいや」

と判断する方もいれば、使いながら

「ここは使いにくいな。でもメリットもあるから、システムを改善してみよう。
ここの部分はなかなかいいから、○○の授業にも取り入れてみよう。
ここの部分は問題の方が多いから、使うのはやめよう。
む、ここは使いにくいけど、何か可能性を感じるから、自分達のやり方の方を見直してみよう」

……なんて言いつつ、どんどんやり方を洗練させていく人もいます。

もちろん、「むやみに新しい技術には手を出さず、慣れたやり方を守っていく」というのも、一つのあり方です。
ただ個人的には、「新しいものはどん欲に取り入れようという姿勢を持ちながら、常に一歩引いたドライも見方ができる」なんてスタンスが理想的なのかな、なんて思ったりします。

教員でも職員でも、新技術に対する好奇心がなければ時代についていけませんし、しかしただ「新しい」というだけで無条件に取り入れていたのでは、時代に翻弄されてしまうのかな、なんて思うのです。

新技術とは、なんとかうまく付き合っていきたいものです。

以上、マイスターでした。

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※記事では、「Second Life」の活用事例も紹介されています。

テキサスA&M大学のレクリエーション・公園・観光科学部では2007年の春学期に、自然保護官向け演習シナリオの実践にSecond Lifeのバーチャルワールドを初めて導入した。

現在Second Lifeは教授や講師による評価の最中であり、去る5月には1800人がバーチャルカンファレンスで集まって教育現場でのベストプラクティスについて意見を交換した。

評判の良いSecond Lifeは、オンライン学位取得プログラムを重要な収入源としている大学から特に高い感心を集めている。

教育学の修士課程をオンラインで教えるウォールデン大学のKevin Jarrett氏は、Second Lifeの教育的な潜在価値を6カ月かけて研究するための助成金1万ドルを獲得した。

(略)ドレクセル大学のSecond Life委員会に所属するHartman氏によると、同大学の存在価値がマーケティングツールである状態は当面続くが、わずか3年後にはバーチャルワールドの講義を実現できるという。

(冒頭記事より)

こちらも、現時点ではまだ効果がはっきりしない技術です。無条件に信奉するのは、危ういでしょう。

しかし、「どんな可能性があるのだろう」と試してみることにも、一定の意味はありそうです。上記のHartman氏は、

「数年前のハイブリッド車と自動車業界がそうであったように、ハイブリッド車を今作り始めることが大切だ。3年待っていたら時勢に乗り遅れてしまう。(ハイブリッド車に相当するバーチャルクラスは)現在はプロトタイプとして開発しているが、それを今日持ち出してレースに参加しようとは考えていない」(冒頭記事より)

と述べていますが、なるほど、わかりやすい例えです。