関西科学大学 新設不認可 : 様々な違反が招いた重い代償

マイスターです。

以前のニュースクリップで、学校法人奈良学園が急遽、来年4月に開学する予定だった「関西科学大学」大学の設置申請を取り下げたという報道をご紹介しました。
その結果、指定校推薦を受けていた高校生達が困っているとのことでした。
その後、また色々な報道がなされましたので、こちらもあわせてご紹介したいと思います。

【開学は、2010年まで延期?】

■「関西科学大:開学は10年度以降 認可基準の“罰則”で」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/wadai/archive/news/2006/11/20061124ddn041040005000c.html

関西科学大(奈良市)の設置申請取り下げ問題で同大学の開学が10年度以降にずれ込むことが分かった。文部科学省の大学設置認可基準によるとペナルティーとして一定期間、設置申請を認めない事例に該当するため。申請を取り下げた学校法人「奈良学園」(奈良県大和高田市)が問題発覚後に説明している、「(1年遅れで)08年度の開学を目指す」という方針は事実上、不可能になる。

文科省によると、不認可期間は虚偽の重大性により、2年未満、2~3年、4~5年に分かれる。2年未満となるのは虚偽内容が軽微なうえ、自主的に不正を公表・改善した場合などに限られるため、今回のケースは少なくとも2年間は申請が認められない。申請は早くても08年10月以降となり、この時点では次年度開学を目指す申請(前年の4月末まで)も締め切られているため、09年度開学も無理という。
(上記記事より)

というわけで、当初、関西科学大学は1年遅れの2008年開学を目指していたのですが、虚偽申請のペナルティを受けてしまいました。スタートは、2010年4月までずれ込む可能性があります。
もともと2007年度の開学を予定していたのに、2010年になるのですから、これは非常に厳しい状況です。

別の記事には↓こんな記述が。

申請書類のうち開学を決めた理事会の議事録で退任した理事2人の名前があるなどしたため、文科省が「虚偽記載」と指摘。学園は申請を取り下げ、「単純ミスで悪意はない。来年度に申請を出し直し、08年度の開講を目指す」としていた。
(「開学、10年度以降にずれこむ可能性 関西科学大学」(Asahi.com)記事より)

単純ミスで悪意はない、とのことでしたが、この釈明が認められなかったということでしょうか。
すでに教職員の募集なども進めていたようですが↓、その間の人件費とかどうするのでしょうか。

■「(仮称)関西科学大学設置に伴う専任教員の募集」(JREC-IN)
http://jrecin.jst.go.jp/html/kyujin/main/D106011090.html

やはり、謝り倒して、辞退していただくのでしょうか。いずれにしても応募された方が気の毒です。

【指定校推薦の出し方にも問題有り?】

さて開学延期ということですが、先日もお伝えしたように、実は既に指定校推薦でこの関西科学大学に合格を(ほぼ)決めていた受験生達がいたのです。
実はこの指定校推薦の受付にも、色々と問題があったみたいです。

■「関西科学大:定員の8割、指定校推薦 文科省要項『5割』、大幅に超過」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/wadai/archive/news/2006/11/20061122ddf001040008000c.html

指定校推薦入学に22府県の高3生261人がエントリー(応募)していたことが、文部科学省に提出した同学園の資料で分かった。定員(2学部計320人)の約8割に上り、推薦入学を半数までとする同省の「大学入学者選抜実施要項」基準を大きく上回る。こうした実態を同学園は高校に説明していなかった。

高校関係者によると、指定校推薦は、9月ごろに各高校内の推薦枠に内定すれば、実質合格と受け止められる。

しかし問題を指摘した同省に対し、学園側は「全員を合格にするつもりはなかった」と説明したという。近畿高校進路指導連絡協議会の森本正作事務局長(和歌山県立海南高教諭)は「高校側は(応募すれば)ほぼ100%合格できると認識しており、基本的な信頼関係が崩れてしまう。半数を超える受け付けは、大学の姿勢が問われる」と話している。
(略)
同学園の伊瀬哲也理事長は毎日新聞の取材に対し「予想以上に応募があり、結果的に半数を超えた。申し訳ない。隠していたわけではない」と弁明した。
(上記記事より)

なんと定員の8割に相当する人数を、指定校推薦で受け付けていたようです。文科省に指摘されてから「全員を合格にするつもりはなかった」と弁明されたとのことですが、これでは高校からも、文科省からも、信頼を失ってしまいます。

応募者の人数を読み間違えたのであれば、それは大学の責任。また、それならそれで、わかった時点で「応募者が予定より多くなったので、選抜により不合格になる方がある程度出てしまいます」といったような告知を出した方がよかったのではないでしょうか。でないと、「もし不認可にならなかったら8割をそのまま入れていたんじゃないか」と疑われても仕方がないように思います。

というか、そもそもどうして新設校なのに指定校推薦? ……という点も不思議です。指定校推薦枠というのは、優秀な生徒を安定的に送ってくれる高校に対して、信頼関係にもとづいて提供する枠のことです。どこからどんな受験生がやってくるのかわからないのに、指定校推薦を出せる訳がありません。
またそれ以上に、今回のように不認可になったら、推薦どころじゃありませんよね。
それについては、↓こちらの記事が参考になります。

■「関西科学大:文科省『認可前の募集ダメ』、関西科学大だけ守らず--来春開学予定校」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/wadai/archive/news/2006/11/20061125ddf001040003000c.html

同省(※文科省)は、認可決定前のホームページ開設など広報は認めているが、不認可などの可能性を踏まえ、募集は一切認めていない。しかし、奈良学園は今年9月からエントリー名目で実質的な募集を開始。高校から指定校推薦の希望者の氏名などを収集し、全国185校から261人を受け付けた。

これに対し、(※同時期の開学を目指していた)他の11大学は同省の強い指導などを理由に、「高校側からの問い合わせにも認可まで待っていただいている」(兵庫・近大姫路大)という。「指定校推薦は前年度までの受験実績による高校との信頼関係に基づくもの」(三重・四日市看護医療大)と、初年度は指定校推薦自体を見送るケースもあった。
(上記記事より)

文科省は、認可前の募集をしないように指導しているのですね。そりゃそうです。また他の大学の中には「前年度の実績がないと指定校推薦はできない」という考えから、指定校推薦そのものを行わないところもあったようです。
しかし奈良学園は、「エントリー名目で実質的な募集を開始。高校から指定校推薦の希望者の氏名などを収集し、全国185校から261人を受け付けた。」とのこと。つまり、こっそり募集をスタートさせていたのですね。たまたま認可されなかったから発覚しましたが、そうでなければそのままだったのでしょう。

大学を開学するのだから、リスクを減らしたい気持ちはわかります。
ただちょっと勇み足というか、ルール違反、マナー違反が多いような印象です。

【怒る指定校推薦生。進路はどうなる?】

当然、指定校推薦を受けていた受験生達の怒りはおさまりません。

■「関西科学大:開学先送り 志願ご破算、受験生ら怒り--説明会 /奈良」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/wadai/archive/news/2006/11/20061123ddlk29040653000c.html

運営主体の学校法人「奈良学園」は22日、対象生徒や保護者、高校教諭へ初めての説明会を奈良市内で開いた。我が子の進路変更を迫られた保護者らは今後の対応を矢継ぎ早に質問。高校生は「今さら志望先探しをやり直すとは」とやり切れない胸中をのぞかせた。
(略)参加者らによると、説明会では同学園の伊瀬哲也理事長が謝罪し、開学先送りの経緯を説明。開始から約15分で生徒への個別相談に移ろうとしたが、高校教諭が「質疑応答がないのはおかしい」と指摘。周囲から拍手が沸く場面も。要望通り質疑に移ると、今後の補償方針や過剰な指定校推薦のエントリーの実情を問う保護者らとのやり取りが約1時間続いた。
(上記記事より)

学園には当然、説明責任があります。非常に厳しい場面ではありますが、きちんとした対応が求められるときです。

この一連の説明会で、いくつかの具体的な「対策」が発表されたようです。報道からその内容を拾ってみました。

同大学への指定校推薦が内定していた高校3年生261人について、受け入れ先の私立大を探していた同学園は、すでに25の大学が受け入れの意思を示していると明らかにした。(略)同学園によると、受け入れ意思を表明しているのは西日本を中心とした私立大で、多くが関西科学大で設置される予定だった看護系とスポーツ系の学部を持つ。 (「関西科学大の推薦内定者、25大学が受け入れ表明」(Asahi.com)記事より。強調部分はマイスターによる)

学園側は…(略)…対象生徒が他大学を受験する場合の受験料を負担することも明らかにした。進学先が見つからない場合は、同学園が運営する奈良産業大(同県三郷町)と奈良文化女子短大(大和高田市)で書類選考のみで受け入れる方針も示した。
さらに生徒が浪人した場合、予備校に通う費用を最低1年間負担する方針。大阪府内に進学アドバンスセンターを設立し、無償で少人数の英語教育や進路指導にあたる計画もあるという。(「関西科学大:『23大学、生徒受け入れ』 浪人なら予備校費を負担」(MSN毎日インタラクティブ)記事より。強調部分はマイスターによる)

指定校推薦で入学予定だった高3生の進路確保のため、緊急進学対策室を同県大和高田市の学園本部に設置したことを明らかにした。(略)対策室ではこれらを具体的に進めるほか、生徒や父母との個別相談や高校からの意見聴取、他大学の受け入れ状況のまとめなどにあたる。当初職員3人でスタートし、増員する。(「関西科学大:進路確保で対策室設置」(MSN毎日インタラクティブ)記事より。強調部分はマイスターによる)

奈良学園が払う代償は、非常に大きいです。ここまでやっても完全な補償とはいかないでしょうが、他にできることがない以上、やらないわけにはいきません。
もっとも、これはいくつもの違反や誤りが積み重なった結果ですから、ただの不認可だけだったらここまでのことにはならなかったでしょう。今後、大変だと思いますが、もとを正せば自分たちに原因があるのですから仕方がありません。関わった受験生やご家庭、高校の皆様などはもっと大変なのですから。
受験生達を受け入れてくれる大学がこれだけ出てきてくれたのが、せめてもの救いです。

大学は、様々な規則や信頼関係の上に成り立っています。
それを破ってしまうと、大学の設置者や教職員、そして受験生達が、深刻な影響を受けてしまいます。ゆめゆめ忘れないようにしなければなりません。

この事例を他山の石にして、(自分を含む)他の大学関係者も身を引き締めましょう。

以上、マイスターでした。

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(参考)
■関西科学大学webサイト
http://www.naragakuen.jp/kkd/

「お詫び文」だけになってしまいました……。せめて電話番号くらいは掲載しないと、質問や苦情、取材などを受けられませんよ。
(受けたくないんだろうとは思いますが)