「英オックスフォード大、日本に初の分校設立を検討」

マイスターです。

またまた来ましたねー。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「英オックスフォード大、日本に初の分校設立を検討」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/international/update/0510/006.html?ref=rss
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イギリスの名門オックスフォード大学が、先端技術の実用化で包括提携している三井物産と共同で、日本分校の設立を検討していることが、9日明らかになった。同大が分校を開設するのは国内外を通じて初めて。
(上記記事より)

まだ「検討」の段階ですが、十分に大ニュースです。
海外の超一流名門大学が日本に分校を設立することなど、これまではほとんど検討されることすらなかったのですから。
日本のトップ大学と競合する海外大学の分校としては、2005年8月から授業を開始し、2005年12月に文科省から指定を受けたアメリカの名門カーネギーメロン大学が、今のところ唯一の事例かも知れません。このときも驚きましたが、今度はイギリスからオックスフォード選手の入場ですか。

※カーネギーメロン大学進出については、↓こちらの記事でまとめております。ご興味のある方はどうぞ
・黒船来航? 文部科学省より『外国大学の日本校』として正式に指定を受けている大学
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50131590.html

まだ検討段階ということもあってか、5月10日現在、三井物産のWebサイトではまだ今回の件はリリースされていません。
しかし、オックスフォード大学と先端技術の実用化で包括提携を結んだときのリリースには、ちょっと意味深な記述がありました。

■「三井物産、英国オックスフォード大学TLOと世界で初めて包括提携契約を締結(2004/06/10)」(三井物産株式会社)
http://www.mitsui.co.jp/tkabz/news/2004/040610.html

今回の包括提携契約締結を契機に、先端技術分野だけでなく、オックスフォード大学が持つ人文・社会科学分野での卓越した学問知識を活用した新事業などの開発も検討します。
(上記リリースより)

これが大学分校の開設を意味していたかどうかはわかりませんが、結果的にはそういう風につながったわけです。本来、オックスフォード大が強みを発揮しているのは人文および社会科学の分野。これを商社が放っておくわけがありません。

前回の契約から丸2年の間、三井物産とオックスフォード大は順調にパートナーシップを築いていたのでしょう。三井にとってオックスフォードとの連携は、今後の高等教育市場開放を見据えた戦略的投資という位置づけなのかもしれません。

もっとも、このタッグが今回、日本分校開設という大胆な手段を検討している背景には、ここ数年の間の日本国内の動きがあります。

■「国際的な大学の質保証に関する国際機関等での交渉・協議の状況」(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/024/siryou/04010802/003.htm

上記は2003年時点での情報です。文科省のサイトだけあって、これまでの流れがわかりやすくまとめられています。
さらに、この後の2004年には、↓このような動きもありました。

■「2004年日米投資イニシアティブ報告書、外国投資に対する日本市場の開放の進展を強調(和訳)」(在日アメリカ大使館)
http://tokyo.usembassy.gov/j/p/tpj-j20040609-50.html

同報告書(※2004年日米投資イニシアティブ報告書)はまた、日本で進行している人口動態の変化と、日本がこれらの変化により良く対応することを可能にする教育や医療サービス分野への投資に関する規制緩和の必要性を強調している。日本は現在、採用された場合には外国の大学の進出を大幅に容易にする可能性のある提言を検討しており、また日本の「構造改革特別区域」計画において営利目的の特定先進医療を認める法案を可決したばかりである。(上記リリースより)

このような流れの中、2005年2月にテンプル大学ジャパンキャンパスが、2005年12月にはレイクランド大学ジャパン・キャンパスおよびカーネギーメロン大学日本校が、文科省からそれぞれ『外国大学の日本校』として正式に指定を受ける運びとなったのです。

テンプル大学とレイクランド大学は、以前から国内で独自に活動を行っていたのでわかるのですが、カーネギーメロン大学はやけにタイミング良く参入してきたよなぁ……と、以前の記事では書きました。

それはともかく、一挙に3大学の分校が日本で正式に活動を始めたわけで、そしたら一年も経たずに今度はオックスフォード大学ですよ。個人的には、「堰を切ったように」という印象をどうしても持っちゃいます。

もちろんオックスフォードの件はまだ検討段階ですから、もしかしたら取りやめになるかも知れませんが、それでも、次のことはどうやら確かなようです。

海外の名門大学や、グローバルビジネスの担い手である総合商社に、

「今、日本に大学の分校を設立するというのは、魅力的な事業だ」

という認識を抱かせるだけの条件が、日本国内で揃いつつある。

マイスター個人としては、こうした競争は大いに歓迎です。
名門校が流入してきた後はおそらく、定評のあるプロフェッショナルスクールや、中堅大学が続くでしょう。日本の大学と直接競合するようなポジションに入ってくるところもあれば、これまでの大学が見落としてきたニッチな部分を狙ってくるところもあると思います。
太平の世を満喫してきた我が国の高等教育業界にとっては、最初はやや刺激が強いかも知れません。しかしもこうした競争にもまれることで、教育面の質は少しずつ上がっていくはずです。というか、上げざるを得なくなります。

もちろんマイスターも、市場競争の中にいるだけでサービスの質が無条件に向上するとは思いません。でも、口々に危機を訴えるわりに、いっこうに自己変革しようとしない我が国の多くの大学にとっては、腰を上げるいい機会になると思います。
(※本気で変わろうとしている人材はたくさんいるけど、本気で変わろうとしている組織は非常に少ない、という意味です。予断を許さぬ改革と言いながら、日本の多くの組織はいつも、あまりにも行動に時間をかけすぎているように思うのです)
ペリー以降、いつまで経っても海の外からの圧力でしか変われない国というのは、なんだかちょっと情けない気もしますけれど……。

さて、色々と調べている途中、↓このようなご意見も見つけましたので、最後にご紹介致します。

「【寄稿】日本型アクレディテーション制度を考える:地域性ある多様な認証機関を」(Between 2002.3 特集 「規制改革」時代の幕開け)
http://benesse.jp/berd/center/open/dai/between/2002/03/bet18230.html

桜美林大学学長、佐藤東洋士氏による文章です。

かつて、アメリカと日本の貿易不均衡が取りざたされた時に、政治主導でアメリカの大学を多く誘致した。その結果、多くの分校ができたが、数年も経ずに潮が引くようにこのブームは過ぎ去り廃校となってしまった。文部省が大学設置基準を充足していないとして大学資格を認めなかったことも要因の一つであろうが、一方でアメリカのアクレディテーション制度が大学としての存続を認めなかったという側面もある。
当時、多くの分校に、本校が所属する地域アクレディテーション協会が訪問調査チームを派遣し調査をした。結果は学生の水準や学生募集のあり方で大学として分校が基準に達していないということになり、本校のアクレディテーションに悪い影響が出はじめたということを仄聞した。NEASCのところで触れたように、海外にある分校も本校のアクレディテーションの一部として、大学資格の停止や停止の対象となるということである。アメリカのアクレディテーションは多様であると共に厳しいものであることがわかる。
(上記記事より)

分校を置くことで、本校の評判や認証評価に悪い影響が出るようなら、分校を廃校にして撤退することだって確かにあるかもしれません。
上記の文章はアメリカのアクレディテーションに関する指摘ですので、オックスフォード大学のケースにそのまま当てはめられるわけではありませんが、「成果次第で廃校にされる可能性もある」という点は、海外大学の分校全般に共通するところでしょう。

以上、結局のところ何を申し上げたかったかというと、

競争相手(それも超一流)がわざわざ来てくれるのは、我々にとっても一般生活者の皆様にとってもありがたいことなのだから、今のうちに己の競争力を高めておきましょうよ

ってことなのです。

むしろ、普段、何を言ってもカメさんのように動かない上層部や上司に苦労している「少数改革派」の皆様は、こうした報道を逆手にとって、
「皆の衆、黒船が来たぞ~~~~。オラ達の船が沈むぞ~~~~」
などと試しに周りを脅かしてみたり、焦らせてみたりしてはいかがでしょうか。

え?
それでも動かなかった時はどうするかって……?

そのときは、うーん……どうしましょう?

以上、マイスターでした。

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(参考)
本文で取り上げた例とは逆に、日本の教育機関が海外で認証を受ける例もあります。以下はその例です。

■バベル翻訳大学院
http://www.babel.edu/accreditation.html

(今回は、以前コメント欄にいただいた情報をかなり参考にしています。みなさま、いつも貴重な情報ありがとうございます!)