マイスターです。
大学院生の時に、アメリカの小・中・高校をいくつか見て回りました。
ある州で、「マイノリティの子ども達に対して、画期的な学力向上を達成した学校がある」というので見学させていただいたのですが、
「今度の試験で、隣のクラスよりも良い点数をとったら、全員にアイスをあげるよ!」
……と教師が言っていて、仰天しました。
どうやら日常的にこうした動機付けを行っているらしく、それが学習成果につながっているとのことでした。
マイスター以上に驚いていたのは、一緒に視察に行った日本の現役小学校教員の皆さん。
「こうした教育方法は、いまの日本では問題視されているのですが、どうなのでしょうか?」と現地の教員達に質問していましたが、先方は「こうして成果が出ているのに、何か問題があるのかい?」といった反応でした。
ううーむ……と唸ってしまう出来事でした。
(ちなみに学校のシンボルとして、パンフレットなどに日本の二宮金次郎の銅像の写真が大きく掲げられており、さらに唸りました)
「いかにして学ばせるか?」というのは、教育に携わる人間にとっては、永遠のテーマ。
というわけで今日は、こんな話題をご紹介したいと思います。
【今日の大学関連ニュース】
■「資格や検定、合格したら賞金 大学が『ニンジン作戦』」(Asahi.com)
資格試験や語学検定に合格した学生に賞金を出したり、学費を減免したりする大学が増えている。狙いはもちろん、やる気を引き出すこと。まるで鼻先にニンジンをぶら下げているようだが、実際、効果はでているようだ。
大阪府東大阪市の近畿大で4日、英語でのコミュニケーション力をみる「TOEICテスト」で500点(日常会話の初歩水準)以上をとり、大学の成績も良い経営学部生73人に、「奨学金」名目の賞金10万円が贈られた。畑博行学長は「これに満足せず前進してほしい」と励まし、代表者に賞状を手渡した。
(略)立命館大(京都市中京区)は00年度から、大学の成績なども加味しながら、各種試験の合格者に奨学金を出している。
難関の旧司法試験では、1次試験にあたる短答式試験の合格で20万円、次の論文式試験合格で30万円、最終合格までいけば50万円。ほかにも公認会計士と弁理士の最終合格、国家公務員1種の採用内定も50万円だ。こうした奨学金の今年度予算は約2500万円にのぼる。
(略)大阪経済大(大阪市東淀川区)は今年度から、大学で開かれた資格講座を受けて直近の試験に合格すれば、受講料と同額を支給する制度を始めた。たとえば日商簿記1級で12万円、社会保険労務士で8万5千円。支給対象の学生は延べ200人を超えた。
(上記記事より)
関西版の記事で紹介されている取り組み。
他の地域にも、同様の事例はあるかも知れませんね。
この記事を読んで、顔をしかめる人と、「何か問題なの?」と思う人に分かれそう。
実際、何か問題があるのかと言われると、直接どうこうということはないと思います。
成績の良い学生に奨学金を出すということは、世界中で行われているわけですし、それが資格や語学テストの実績にすり替わっただけなのですから。
(小学校で同じ事をやったら、また話が違ってくるかと思いますが)
ただ、そもそもこの学生達はどうして資格を取ろうとしているのかな、という点は、ちょっと気になります。
ちょっと話はそれますが。
マイスターはいつも資格に関する大学の指導にちょっと疑問を感じています。
大学は、とかく学生に資格を勧めます。
最近の大学では、1年生からキャリア教育を行うところもありますが、その中で、資格取得を勧める大学が少なくないようです。
それゆえ学生も、「何か資格を持っていないといけないんじゃないか」、という気になるのだとか。
実際、「とりあえずとっておけば、就職とかで有利になりそうだから」……なんて理由で勉強を始める学生は、結構いるようです。
ただ、資格を役に立てるも立てないも、すべては本人次第。
自分がやろうとしていることにとって役に立つ資格なら、どんなマイナー資格であっても取ることに意味はありますが、そうでないのなら法曹でも医師免許でも役には立ちません。
取ることだけが目的であるのなら、おそらく役には立たないでしょう。
むしろ脈絡なく資格を山ほど取っている学生がいたら、マイスターはそのあたりを問いただしたくなります(就職問題に関する本を読む限り、たいていの企業の採用担当者も、同じ意見のようです)。
ただ、大学のキャリア講座の中には、そうした事情はあまり伝えず、「とりあえず資格を取っておけ」的な指導をしているところもあるように思います。
そして、そういう大学のパンフレットを見ると、
「本学の学生は、こんなに資格を取得しています!」
「資格に強い○○大生!」
……のように資格合格実績が受験生へのPRに使われていたりします。
一体、誰のための資格なのでしょうか。
資格を否定するわけではありません。
が、「資格は万能ではない」ということも、学生は、早いうちに知っておいた方が良いように思います。
資格の勉強をしていると、「とりあえず時間を有効に使っている」という安心感を得られますから、将来への不安は一時的に解消されるかもしれません。
ただ、学生時代というのは本来、言いしれぬ不安をエネルギーにして、何者かになろうとする時期です。
手頃な目的に時間を使い、学生時代にしかできないことを避けるようになったら、元も子もありません。
資格なんかじゃ解決できないモヤモヤした悩みや葛藤の中に、学生を正しく誘うのが大学の役割だとマイスターは思うのです。
ちなみに、就職一つとったって、資格はプラスに働くことばかりじゃありません。
本人にとってあまり意味のない資格取得に血道を上げるよりも、自分で何かのプロジェクトを立ち上げたり、見知らぬ世界に飛び出したりした経験を高く評価する企業は少なくないと思います。
話を戻しますと、
冒頭の記事で紹介されている賞金制度の数々が、その資格を必要とする学生の金銭負担を減らす……という本来の意味での奨学金として使われているのなら、大賛成です。
ただ、学生を安易に資格取得へと誘導するニンジンとして使われているのなら、最終的にあまり良い結果をもたらさないように思います。
司法試験や公認会計士、国家公務員1種ともなれば、たかだか数十万円程度の賞金目当てで目指す学生はいないと思いますが、この種の制度を万能視し、乱用していくと、いずれおかしな事になってくる可能性はあります。
どうぞお気をつけください。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。