マイスターです。
皆様の大学でも、災害時の安全対策をしておられることと思います。
年に何度かは避難訓練もされているでしょう。またほとんどの大学では、「安全対策実行委員会」や「災害対策室」といった組織・機関を設けていると思います。
多くの学生の命を預かる大学にとって、安全対策はもっとも大切なテーマと言っていいでしょう。
そんな安全対策に関して、興味深い報道をご紹介します。
【教育関連ニュース】—————————————–
■「学生の安否確認システム 名大の災害対策」(読売オンライン)
http://chubu.yomiuri.co.jp/news_b/gensai/gensai061013.htm
■「安否確認システムを使った安否確認訓練について」(名古屋大学)
http://anshin.seis.nagoya-u.ac.jp/taisaku/events/061011/anpi.html
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東海地方で地震研究の最先端をゆく名古屋大学(名古屋市千種区)が、学内の防災体制を充実させている。11日の訓練では、履修登録用のデータを活用して学生の安否確認をするシステムを試験導入した。ただ、12日夕までに、対象の学生のうち登録を済ませたのは4割にとどまり、学生への周知に課題を残した。
(略)授業の履修登録などに使う学内のインターネット「名大ポータル」に、自分の安否情報を携帯電話などから登録できる機能を追加した。名大のパソコンが使えなくなった場合に備え、京都大に予備のサーバーも設置した。
11日の訓練直後には、安否確認システムに参加した3学部の約220人が登録。その後も徐々に数を増やしたが、12日夕までに対象の4割にあたる約500人にとどまった。ただ、20年以上前から防災訓練を実施している静岡大理学部の里村幹夫教授は「効率的なシステム。二つのキャンパスを持つ静岡大でも応用できるかもしれない」と関心を示す。
(読売オンライン記事より)
地震調査研究推進本部は今後30年以内に、震度6以上の自信が東海地方で起きると予想しています。東海地震は、間違いなく起こると考えられているわけです。
そんなわけで、名古屋大学は様々な災害対策を行っているようです。建築物の耐震性向上や避難訓練の充実など、対策は多岐にわたっているのですが、中でも上記の「安否確認システム」は、特に気になりました。というのも、おそらく多くの大学が、同様のシステムの導入を検討したことがあると思われるからです。
名古屋大学のシステムは、
<災害後、落ち着いてから学生が携帯電話で専用サイトにアクセスし、自分の安否情報を登録する>
という仕組みのようです。
名大のサイトでは、
災害直後の通信輻輳を避けるため、通常はシステム側から安否情報の登録について発信することはありません。しかし状況によっては大学側から情報を提供する場合もありますので、下記サイトで名古屋大学ポータルに電子メールアドレスを登録願います。
(「安否確認システムを使った安否確認訓練について」(名古屋大学)より)
と説明されています。
名古屋大学の公式webサイトによれば、名大の学部学生は9,791名、大学院学生は6,102名、教職員数は3,341名だそうです。
学生だけでも1万5,000人いますから、安否確認を電話やFAXで行うのは大変です。そこで、携帯電話+インターネットを使ったシステムの導入が検討されるというわけです。
確かに、震災で街が壊滅している状態で、教職員が学生一人一人に対応するのは無理があります。こういったシステムがあれば、非常に効率的に、正確な状況を把握できるかも知れません。
ただし、注意しなければならないこともあります。
上記のようなシステムはすばらしい成果を上げるでしょうが、そこには、「ただし、本番でもちゃんと機能すればね」という但し書きがつくのです。
阪神淡路大震災のとき、一番役に立たなかったメディアが、実はインターネットと携帯電話だと言われています。震災でインフラが大規模に破壊されたのに加え、安否を確認するための電話やメールが全国から集中し、長期間にわたってネットワークが利用不可能な状態に陥ったのです。
(こういった状態を、通信の「輻輳(ふくそう)」などと言います)
皆様も日々の生活の中で、たまに感じられることがあると思いますが、「ベストエフォート型」のネットワークであるインターネットでは、アクセスが集中すると、機能が著しく低下します。
携帯電話でもそれは同じです。通話もメールも、i-modeのような携帯インターネットも、アクセスの集中には非常に弱いのです。
今では各携帯電話キャリアが、震災時に出動するアンテナ車を準備しておくなどの対策を進めているようですが、それでも限界はあります。かといって、非常時に合わせてインフラを構築するのは、コストの点で非現実的ですよね。
つまりインターネットや携帯電話は、もともと災害に弱い仕組みなのです。
安否確認を携帯やインターネットで行う試みを模索するのは大切ですが、実は現時点では、まだあまり信頼できない仕組みだと言って、差し支えありません。
名古屋大学のケースの場合、安否情報システムに登録する学生が思ったより少なかったとして、それが通信の輻輳によるものなのか、あるいは安全を十分に確保できていないのかが、わからないのです。
しかも、冒頭の記事で指摘されているように、「このシステムの存在を知らない、または登録したことがない学生」や、「システムのことを知ってはいても、URLをメモしていない学生」は必ず存在します。これらの学生には、結局、電話をかけることになります。
ですので、マイスターは、「インターネットを使った安否情報システムは、過度に信頼するとかえって危険」だと思っています。
ネット業界にいた人間がこんなことを言うのもなんですが、インターネットほど緊急時に信用できないインフラはありません。
名古屋大学はおそらくこのことをご存じでしょうし、他の対策も十分にされているようですからいいのですが、名大の安否情報システムだけを真似して「よし、これで本学の対策は万全だ」なんて安心してしまう大学が出てきたら、ちょっと心配です。
(逆にいれば、部分的には、安否情報システムのような仕組みは効果を発揮すると思います。従来なら全学生に電話連絡しなければならなかったところが、情報システムのおかげで1/3で済んだということであれば、それは一定の成果ですよね)
あくまでも、様々な対策のうちの一つ、程度に考えておくことを、大学関係者の皆様にはオススメします。
数ヶ月の間ネットがまったく機能しなくなった場合の連絡手段も、複数、考えておきましょう。
ちなみに災害時の連絡手段として、おそらく現時点で最も確実なのは、NTTが運用している災害用伝言ダイヤルサービスです。NTTが持つ安定したインフラに加え、安否情報等の伝言を余裕のある被災地以外へ分散させる仕組みがあるからです。
もし可能であるなら、NTTと契約して、特別に災害時の伝言回線を大学用に用意してもらうというのも手かも知れませんね。
■「災害用伝言ダイヤル」(NTTコミュニケーションズ)
http://coden.ntt.com/service/saigai/
というわけで今日は、名古屋大学の取り組みをご紹介させていただきました。
建築学科を出た後、「政策・メディア」なるわけわからん修士号を取得した大学職員としては、災害時の安否把握はとても気になるテーマです。
IT技術とアナログな手段を組みあわせ、安心確実な方法を用意しておきたいものです。
以上、マイスターでした。