動画投稿サイトで大学をPR(3):ついにニコニコ動画を広報に活用する大学が登場

マイスターです。

■動画投稿サイトで大学をPR(1):YouTubeで公式チャンネルを開設している日本の大学
■動画投稿サイトで大学をPR(2):YouTubeで公式チャンネルを開設している海外の大学

2回にわたり、大学が「YouTube」をどう活用しているのか、改めて見てみました。
海外はもちろん、日本においても、公式にYouTube上で情報を発信している大学は、少なくないということが分かりました。

膨大なコンテンツを蓄積・配信し、多くのアクセスを集めている大学もありました。
YouTubeは、自分のブログなどに動画を貼り付けられる点が特徴です。
ネットを中心にしたクチコミをマーケティングに活かすには、なかなか便利なツールです。

さて今日は、動画を広報に取り入れた大学の中でも、異色の(?)事例をご紹介します。

【ニコニコ動画】加藤寛の「怒るな働け」その1:え?消費税増税??ぷぷ!バカだなー。

【ニコニコ動画】加藤寛の「怒るな働け」その2:先日の内閣改造を見て確信しました。

【ニコニコ動画】加藤寛の「怒るな働け」その3:医者が足りないのも役人の計画通り?

【ニコニコ動画】加藤寛の「怒るな働け」その4:不況の抜け道を閉ざしているのは誰…?

【ニコニコ動画】加藤寛の「怒るな働け」その5:ビジネスも学問も、他者を幸福にする…

【ニコニコ動画】katokan sample video

↑ついに、「ニコニコ動画」を広報に取り入れた大学が登場しました。

もちろん、大学公式の動きです。
現在、サンプル映像も含め、6本の映像がニコニコ動画にアップされています。

その名も、「加藤寛の『怒るな働け』」シリーズ。

■「タグ:怒るな働け」(ニコニコ動画)

↑「怒るな働け」というタグが登録されておりますので、こちらから動画のリストを見ることができます。

■「kaetsu.tv」

↑嘉悦大学として、livedoorに同名のブログも開設しており、動画つきで各コンテンツの紹介が行われています。

加藤寛氏は現在、嘉悦大学の学長。

かつて、慶應義塾大学湘南藤澤キャンパス(SFC)の設立に関わり、初代の学部長も務められた方。
その後千葉商科大学の学長として、再び数々の大学改革を実現させ、嘉悦大学に移られたという経歴の持ち主です。

既に嘉悦大学でも、24時間オープンのスペースをキャンパス内につくるなど尽力されているようです。
↓以前、本ブログでもご紹介させていただきました。

■ひろがっていく、「24時間キャンパス」の取り組み

経済学者であり、政府の政策などにも深く関わった経験をもつ加藤学長。
そんな加藤学長が、政府の政策などについてモノ申す! という内容の映像が、今回ご紹介する「加藤寛の『怒るな働け』」シリーズです。

しかし現時点で、「ニコニコ動画」を広報に使おうとする組織は、企業も含めてかなり珍しい存在だと思います。

「ニコニコ動画」の特徴は、映像に対するコメントを書き込める点。
ユーザーは、映像に被せるようにして好きなタイミングで自由にコメントを投稿でき、投稿されたコメントは映像の上を右から左に流れていきます。

映像の中で出てきた発言などについて、ユーザーが容赦ないつっこみを入れたりするのが、ニコニコ動画の文化。部分的には、掲示板「2ちゃんねる」と共通するところがあります。
使い方によってはYouTube以上に話題を集められるのですが、批判を集めて火だるまになったり、中傷のようなコメントがあふれ、かえってブランドが傷つくリスクもないわけではありません。

そのリスクの部分がメリットに見合うかどうか判断できず、また動画を配信するだけならYouTubeでも十分であるため、それほどニコニコ動画は企業広報では活用されていないわけです。

そんな中、大学として公式にニコニコ動画を活用した嘉悦大学。大胆です。

映像を見てみると、舌鋒鋭い加藤学長の語り口に対し、賛同するコメントがわりと多いです。
名指しで遠慮なく政府のあり方や政策を具体的に批判する姿勢に、共感する人も多いのかも知れません。
(嘉悦大学の在学生に加え、千葉商科大学や慶應義塾大学SFCの卒業生達も見ているみたいです)

しかしもちろん、「そうかなぁ」のように賛同できない意思を表明したり、あるいは反対の意見をコメントで投稿したりしている人も少なくありません。

単なる感想もあれば、政策論議的な反論を寄せる人もいます。
稀にですが、大学に対する悪口のようなことを書き込んでいる人もいます。
全然関係ないコメントを書き込んで、一人で盛り上がっているだけの人もいます。

それに対して、大学は「特に気にしない」という立場をとっています。
いや、大学の公式サイトからこれらの動画へのリンクが張られていないところを見ると、ある程度、受験生へのイメージダウンというリスクを考えているのかも知れません。
ただ、だからといって動画を非公開にしたり、方針を変えたりはしていません。

それどころか、コメントを歓迎しているようです。
加藤学長が一通り自説を展開された後、動画の最後に1分ほど

みなさんはどう思いますか?
ご意見をどうぞ(1分間)

……という、何もない画面が出てきます。
もちろんこれは加藤学長の意見に対し、賛成、反対どちらでもいいから自分の意見を投稿してくれ、という意味に他なりません。

多分、嘉悦大学がニコニコ動画でやりたかったのはこれなんじゃないか、と思います。

加藤学長は、映像ではかなりご自身の考えを明快に表明した上で意見を展開されていますが、考えてみればいずれも、扱われているのは賛否両論わき起こりそうなテーマばかり。
それに対して、何か考えがあるなら投稿してみてくださいという、挑発です。

言ってみればこれは、大学による、知的な挑発なのではないでしょうか。

「君を挑発する」みたいなキャッチコピーをポスターに載せている大学はたまに見かけますが、本当に挑発する大学は初めて見ました。

高校生がついていくにはやや高度なテーマが多いのですが、これらの映像を視聴することで、大学の印象は残るかも知れません。

加藤学長のキャラクターだから成立する手法であって、なかなか真似できるものではないという気もしますが、なかなか刺激的な事例だと思います。

ちなみに細かいところも、結構工夫されています。
例えば各映像のタイトル。

【ニコニコ動画】加藤寛の「怒るな働け」その1:え?消費税増税??ぷぷ!バカだなー。

↑この通り、ちょっと挑発的。「ニコニコ動画」の空気というか、文化に少し合わせているのかなと思います。
「その2」以降では、動画の始めに「詳しい話はニコ動で」なんて文字も入ります。

大学の公式サーバーで流しているものをそのままニコニコ動画で流した、というわけではありません。
視聴する側にとっては、こうした工夫が、大きな違いとなって感じられるかも知れません。
ニコニコ動画に限らず、こういった配慮は大事ですよね。

ただ、YouTubeと比べたときの欠点は、自由に動画をブログに貼り付けられないことです。
いくつかのブログサービスでは動画の貼り付けが可能なのですが、現状では、まだ対応していないブログも少なくありません。海外のサービスなどは、もしかすると今後も対応されないかも知れません。
クチコミが爆発的に拡がっていく効果は、YouTubeほど期待はできないかも知れません。

(ちなみに嘉悦大学は、ニコニコ動画に加え、YouTubeにも公式チャンネルを持っています。ニコニコ動画の「怒るな働け」シリーズも、一応YouTubeにコピーがアップされています)

動画に何を期待するか。
それによって、アップ先のメディアを選ぶということもこれからは考えていく必要がありそうです。

以上、3回に渡って、動画投稿サービスを広報に取り入れる大学の事例をご紹介してきました。

一時期、企業などがこぞって活用しようとしたYouTube。
あまりに話題になったため、一時の流行メディアのように捉えられてしまったきらいがあります。
事実、企業の広報においては、既にYouTubeは一昔前のメディアのように扱われてしまっていたりします。

しかし、だからといって大学がYouTubeのような動画投稿サイトを活用しないというのは、ちょっともったいない。

大学には

・入学してみないとわからない実態が多い
・抱える情報が膨大で、パンフレットなどではすべての詳細を出しきれない
・結果と同じくらいプロセスが重要なサービスである
・過去、長きにわたって蓄積された情報が大きな意味を持つ
・学生を含め、関わっている人達が多く、それが大学を中心にして繋がっている
・広報活動にかけられる予算が少ない

……といった特徴があります。

サービスを選択する側は、多くの具体的な情報を求めているわけです。
YouTubeのような動画投稿サイトは、上記のような環境で機能する貴重なメディア。活用しない手はありません。

また今後は、世間に強いメッセージを投げかけたり、あるいは個性の強いキャラクターを大学のイメージとして打ち出していく過程において、ニコニコ動画のようなメディアを使ってみようという大学の事例も、増えてくるかも知れません。
(もっともこちらは、現状ではYouTubeと違い、明確な狙いがある場合にのみ使った方がいいと思いますけれど……)

色々と活用してみると、面白い展開が生まれるかも知れませんよ。

以上、マイスターでした。

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先日申し上げた通り、今後は定期的に、映像を広報などに活用する大学の取り組みをご紹介していきたいと思います。
何か面白い事例がありましたら、教えてください。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。