本原稿は、『教育学術新聞』2月28日号に寄稿したコラムの内容です。編集部の許可を得て転載しております。
変わらない「出口指導」の実態が明らかに
筆者が理事を務めるNPO法人NEWVERYは2017年12月に、高校における進路指導の実態を調査・検証した白書「進路指導白書2017」を発表した。全国の高校計5,067校にアンケート調査を行い、605校の進路指導責任者から回答を得て集計・分析した調査結果を掲載している。3月末まで無料で公開しており、既に多くの反響をいただいているので、詳細についてはぜひ実際の白書をご覧いただきたい。
表は同白書の「進路指導部として大学の情報を検討する際、重視している要素はありますか」という調査項目に対し、「非常に重視」と回答した方の比率である。入試に関する2項目がトップにくるのは仕方がないとして、残念なのは下位にランクされる項目群だ。
中退率や学生と教員の比率(ST比)、課外活動の支援体制、アクティブラーニング型の授業実施度など、多くの大学が注力する教育上の取り組みに対し、高校側の関心が軒並み低い。国が進める高大接続改革で重要な役割を果たすとされる3つのポリシー(AP、CP、DP)も、現時点で非常に重視と回答したのは1割程度に過ぎない。
それにも関わらず、「面倒見の良さ」が入試情報に次いで非常に重視されているのも不可解だ。面倒見の良さは、少人数教育や支援体制の徹底によって実現されるものと筆者は考える。ST比や授業スタイルへの関心が高くないのは何故だろう。面倒見の良さを気にしていながら、その結果である中退率に関心を払わないというのも、よく考えればおかしい。高校側は何をもって「面倒見が良い大学」と評価しているのだろうか。これらの調査結果は、大学の教育の違いを伝える重要な教学データの数々が、高校側での進学先選びにおいて、適切に活用されていないことを示唆しているように思われる。
ほかの調査結果も興味深い。卒業生の追跡調査を過去10年以内に一度も行っていない高校は約57%に達する。就職者は全員を追跡調査しているのに、進学者には無関心という例も多いようだ。また志望する進学先について、中退率を生徒に調べさせている学校は28%に過ぎない。82%の学校が入試難易度を、66%の学校が就職率をそれぞれ調べさせているのとは対称的である。
進路指導やキャリア教育の世界では、進学先や就職先だけに関心を持ち、その後の生徒のキャリアを重視しない指導を揶揄する「出口指導」という言葉が、しばしば批判的な文脈で使われてきた。残念なことに本白書の調査結果は、依然として「出口」までにしか現場の関心が払われていないことを浮き彫りにしている。
進路指導のあり方を変えないと、多様な大学を残せない
私達は「2018年問題」の年をついに迎えた。今後、18歳人口の減少が加速する。あわせて私学助成の配分ルールも変わり、一部の学校はより厳しい状況に追い込まれる。日本私立学校振興・共済事業団の調査によれば、全国660法人のうち17%にあたる112法人が経営困難な状態であり、うち21法人は経営改善をしないと19年度末までに破綻する恐れがあるという。高等教育無償化が議論されているが、「放漫経営をしてきた私学を税金で延命させるのか」という意見も少なくない。少なくない大学が募集停止や、他法人への統合等を選択することとなるだろう。
競争によって淘汰される大学や法人がある程度出てくるのは、仕方がないのかもしれない。問題は、その競争のあり方が社会にとって有益かどうかだ。10年後、教育力の高い大学が存続し、そうでない大学が淘汰されているのであれば望ましいが、現実はどうなるだろうか。前述した『進路指導白書』の調査結果を見る限り筆者には、すべての高校側が大学の教育力を、適切に生徒達へ読み解かせているとは思えない。
このままでは、ただ規模が大きく知名度があるといった理由だけで特定の大学が残る一方、良質で丁寧な教育を行っている小規模大学・短期大学が経営破綻に追い込まれるケースも増えるだろう。各大学の教職員や経営者、教育行政の関係者諸氏は、この現状をどうお考えなのだろうか。
『進路指導白書』の調査では、進路指導担当者の多くは、難易度の高い大学への進学や保護者の希望の実現よりも、生徒本人に合った進路のマッチングを重視していると答えている。その一方で、進路指導の成果が学校でどう評価されているかという設問では、「国公立大学への合格実績(約35%)」や「入試難易度の高い大学への合格実績(約32%)」、「保護者からの評価(約31%)」が回答の上位を占める。現場の課題は単純ではない。進路指導責任者と学年担任団との間で意見が食い違い、理想の進路指導が実現できないと悩む回答も多く寄せられた。
「営業のような高校訪問ばかりで、生徒のために必要な重要情報を開示してくれない」、「高大連携協定を結んでいるのに、機械的・事務的な対応ばかりで生徒の進路理解に協力してくれない」など、大学側への不満も多いようだ。
時間やコストに余裕のない高校の進路指導現場が、民間企業の進路学習支援サービスに過度に依存している現状も、今回の調査は明らかにしている。生徒一人ひとりに対して気づきを深めさせるような手間のかかる指導よりも、手軽に学年全員へ同じ情報や体験を提供する一斉イベント型の取り組みの方が、こうした現場では歓迎されがちだ。ただこうした画一的、表面的、イベント的な進路指導のあり方が、知名度の高い国公立大学、大規模総合大学をより有利にし、きめ細かなケアをウリにする小規模大学をより不利にしている面もある。
高等教育機関は、多様であるべきだと筆者は考える。大規模な総合大学の良さもあれば、小規模校の強みもある。掲げる教育ミッションも、カリキュラムや学修環境もそれぞれ違う。一方、高校生の側もそれぞれの個性や望む成長のあり方などには本来、多様性があるはずだ。こうした違いを前提にし、自分自身について理解を深め、自分に合った進学先を模索させる指導が必要である。実現に向けた課題は上述の通り多いが、課題を明らかにしていくことで、それを乗り越える対策の姿も見えてくる。
現在、国を挙げて高大接続改革が進められている。先の見えない社会に対応できる人材を育てるために、高等教育、大学教育、その両者を繋ぐ大学入試の3者を一体的に改革しようという大事業である。高校の現場では「難関大学に今後も合格させるために、各大学の入試方針を知りたい。そこに合わせて授業を行う」といった意見も既に耳にするが、筆者は一部の大学に合わせた改革ではなく、多様な生徒に合わせた改革の実現を望む。
■「進路指導白書2017」ダウンロード先URL:
https://www.newvery.jp/service/koutou/2017_careerguidancewp/
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■「教育学術新聞寄稿(下):高大接続のフロンティアは、大学が目を向けてこなかった学校にある」(大学プロデューサーズ・ノート)