アップされたのは少し前ですが、以下の動画はご存じでしょうか。
統計データをもとに、世界で起きつつある「Shift」を紹介しているという内容なのですが、
インドの、IQ上位25%の人数は、アメリカの全人口よりも多い。
言い換えると、インドには、アメリカが抱える子ども達全員よりも多くの
“honors kids”(成績上位の子ども達)がいる
……という内容が、衝撃的です。
12/15付けの日本経済新聞には、
<(苦悩するアメリカ それでも前へ)(下)世界の人材引き寄せる磁力>
……と題した記事が掲載されていました。
アメリカの高等教育は依然として世界的に高い競争力を持っているものの、この10年間で、優秀な留学生が米国にとどまらず、母国に帰国してしまう傾向が強まっている、とこの記事は紹介しています。
その危機感から、オバマ大統領の「雇用・競争力会議」が、アメリカの大学で理数系の学位を取得したすべての外国人に、グリーンカード(永住権)を与えるべきだと提言している……とのこと。
該当者の中心は、中国や韓国、インドなどからの留学生でしょう。
2006年度に、全米で博士号を取得している4万5596人を分析した結果、出身大学の第1位が清華大学、2位が北京大学だったという調査結果もあるほどです。
国力の低下が叫ばれているアメリカですが、それでも世界中から人材が集まり、経済や学術を活性化させている点は強みです。
こうした人材が、世界各国との政治経済のネットワークとして、様々な役割を果たしている面も見逃せません。
オーストラリアのように、留学生が卒業後、永住権を容易にとれるような政策を採っている国もある中、アメリカも今後の数十年を見据え、存在感を維持するために手を打っているわけです。
OECDが行っている調査によれば現在、世界中で、留学生はおよそ350万人ほどです。
(参考)
■「Education at a Glance 2011:Who StudieS AbroAd And Where? (PDF・英文)」(OECD)
世界をキャンパスとするこの学生達は、「母国以外で働く」という選択肢を持つ人材でもあります。
自分のキャリアのために、あるいはその国の政治経済の状況を見ながら、国境を越えて移動できる人々です。
この350万人を引きつけるために、熾烈な人材獲得競争をしているのが、今の世界の現状であるわけです。
一方、日本では、識者と呼ばれる方々でも、
「留学してしまうと、日本の就活とタイミングがずれるから、留学はするなと学生には勧めている」
……といった趣旨の主張をされていることが少なくありません。
あまりの視点の違いに、危機感を覚えます。
「放っておいたらアメリカに行ってしまう、世界各国の優秀な層」を、いかにして日本に来させるか。それが、日本の大学が、国際化を果たすためにやるべきことです。
では、実際にはどうでしょうか。
日本には、「経営」と「科学技術」という、世界からリスペクトされる得意分野があります。
日本式のマネジメントには色々と見直すべき部分もあるのでしょうが、それでもやはり世界中の、特に発展途上国の人々にとっては、学ぶべき価値のあるものと思われています。
メディアで紹介されることも多い、大分の「立命館アジア太平洋大学(APU)」にはアジア、アフリカを中心に世界中から学生が集まっていますが、留学生に人気なのはやはり経営を学ぶ学部だそうです。
ところが日本の大学は、
「我が大学も国際化を進めねば!」
「留学生を増やさねば!」
……というかけ声の下、国際関係学部や、「グローバル○○学部」のような学部に、留学生を集めようとしていたりします。
この取り組みも、無駄だとは言いません。これはこれで、進める意味はあります。
しかし、例えばシンガポールあたりの学生にとって、世界で最も交渉下手な国である日本で、国際関係を学ぶ意味が果たしてあるでしょうか。
それなら日本に行かず、アメリカやヨーロッパに留学すると思います。
最近では、マンガやアニメなど、日本のポップカルチャーについて教育・研究する学部を目玉に、留学生を呼び込もうとしている大学もあります。
例えば、明治大学国際日本学部などは、その代表的なものでしょう。
これも、悪いとは言いません。むしろ大事なことで、国を挙げて大いに推進すべき取り組みだと思います。
でも、例えば明治大学であれば、経営学部、商学部や理工学部にアジアやアフリカの留学生を呼び込むことの方が、優先順位の高いことではないかと思うのです。
旧帝大をはじめ、日本が誇る研究大学では、科学技術を中心に、極めて高い水準の教育・研究が行われているはずです。であれば、ここに途上国のトップ学生を呼び込むことこそ、今の大学がやるべきことなのです。
そうした学部で日本の経営、日本の技術を学んだ学生が、シンガポールやタイ、ドバイなどを舞台に働く、というのが、日本の大学教育が目指すべきイメージではないでしょうか。
実際、APUを卒業した学生が、まさにそのような形で世界中を職場にしていますから、できないことではないのです。
現在、英語だけで授業が完結する大学院などの整備が急がれています。
では、英語環境が整いさえすれば、「世界のトップ層が、自動的に相手の方から集まってくれる」のでしょうか。そんなことはありませんよね。
まず行うべきは、「アメリカに行ってしまう世界中の優秀な層」を「獲りに行く」ための体制を、国を挙げて行なうことです。
でなければ、「Shift」に対応できず、日本は人材獲得競争に取り残されてしまうかもしれません。
正直、留学生の多いAPUなんて「日本人学生の高い納付金で留学生に奨学金を出している」わけですから、急速に人気が下がって、偏差値も下がってるでしょ。
親はよーく、見抜いてますよ!
このデフレ不況下に誰が留学生のためにお布施をする余裕があるんですかね。
人気の国際教養大は日本人学生に英語力をつけて国際経験をさせようという趣旨ですから、人気がでるのも当然です。
だって、元は取れますもんね。
この点、早稲田の国際教養はアジアの留学生と純ジャパの国際化の点でAPUと国際教養大の中間的スタンスのようですが、調子に乗って、留学生ばかりに奨学金を出すとAPUのように日本人から避けられるようになるでしょう。
視点を「大学にとっての」からだけではなく「在学生にとっての」に変えた場合に留学生がいることのメリットってほとんどないですね。私立大学は特に。異文化とか多文化の経験なら交換留学制度を充実させて日本人学生が気軽に海外に行けるシステムを作る方が在学生にとってメリットはあるでしょう。
高校生の子を持つ親 さま
高校(公立の進学校)で働く教員です。APUについては実際に見てきて、卒業生も送り出したので、多少知っている部分もあります。
APUの留学生の奨学金は、企業から出されているものが多いですし、日本人学生向けの奨学金も、他の大学に比べて充実しています。私の教え子も奨学金を受けています。学費も他の私学、例えばMARCHあたりの国際系学部と比べてそれほど高いわけではありませんよ。教育とは自己投資ですが、就職実績を考えたら、おかしな新学部に行かせるより元は取れると思います。
秋田の国際教養大学は公立大学ですが、高い教育コストの大部分を秋田県民の税金でまかなっています。にも関わらず秋田県出身の学生は少なく、卒業生も秋田にとどまらないので、県議会で大問題になっているそうです。これこそ「お布施」です。
「学生にとっての」メリットですが、アメリカに留学しても、世界90カ国の学生が集まる大学なんて、そうはありません。国際教養大学もそうです。また、アメリカに留学し、日本を嫌いになったり、日本をバカにするようになる子もいます。日本で、日本の良いところを世界中の学生と学ぶ環境というのは、留学では得られないメリットです。
もちろん、留学にも意味があると思います。どちらがいいという比較ではなく、それぞれ違う選択肢だと思えばいいのではないでしょうか。
ご自信の子供の10年後の社会を想定し、従来通り日本のいい大学を出て(日本の場合は入学で終わり)、安心・安全な会社に入社することが目的の場合は、予備校の偏差値表でも見ながら進学先を決められたらいいでしょう。国際系の大学が確かに理想的な運営をやっておられるとは思いませんが、世界的に見ると明らかに鎖国状態の日本の大学をなんとか世界レベルに引き上げよう、世界の高校生と比べ明らかに閉塞的な日本の高校生達の進路に新しい視点を提示しようとする姿勢には敬意を表するべきでしょう。アジアの高校生達は世界地図を広げて、自分が最も成長できる大学を選ぶのに、なぜ日本人だけが「地元の大学」にこだわるのでしょうか?日本国で基礎教育を受け、世界どこでもすんなり入国させてくれる日本のパスポートを持っていながら、次世代の子供達のチャンスを狭めることはないでしょう。