マイスターです。
日本の高等教育に、大きな変化が起きる(?)かもしれません。
大学とも専門学校とも違う、新しい高等教育機関の創設を、中教審が打ち出しました。
【今日の大学関連ニュース】
■「仕事直結の授業中心、『新大学』創設へ 中教審の報告案」(Asahi.com)
中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)は22日、会議を開き、職業教育に絞った「新しい大学」を創設する方針を打ち出した。教養や研究を重視する今の大学・短大とは別の高等教育機関(新学校種)。実務の知識や経験、資格を持つ教員が職業に直結する教育を担う。実現すれば、高校卒業後の学校制度が大幅に変わることになる。
これまでの議論では、新大学の名称は「専門大学」「職業大学」などが考えられている。報告案によると、新たな教育課程は、実験や実習など仕事に直結する授業に重点を置き、割合として4~5割を例示している。このほか関連する企業での一定期間のインターンシップを義務づけ、教育課程の編成でも企業などと連携する。修業年限を2~3年または4年以上を考えている。
中教審での議論は、就職しても早期に仕事をやめる若者が増えていることや、かつてと仕事内容や雇用構造が大きく変わったことから始まった。この過程で、一般(教養)教育や研究に多くの時間を割く、これまでの大学と目的が異なる新たな高等教育機関の設立が具体化してきた。
(上記記事より)
研究や教養を重視する従来の大学とは異なり、実践的な職業教育、実務教育を中心にした、職業に直結する教育を行う学校だそうです。
「専門大学」、「職業大学」などの名称が候補に挙がっている様子。
海外では、こうした教育機関の例は少なくありません。
例えばドイツには、まさにここで打ち出されているコンセプト通りの「専門大学」があり、すべての大学の4割以上を占めています。
お隣、韓国にも、専門大学があります。やはり実践的な内容が売りで、こちらは、急増する高校卒業者の受け皿を整備するため、政府がもともと専門学校だったのを専門大学に昇格させたという経緯を持っています。
ちょっと位置づけは違いますが、アメリカのコミュニティ・カレッジにも、そういう役割を担っている部分があるでしょうか。
日本でも以前から、キャリア教育などの関連で、こうした海外の学校に該当する実践的教育機関の整備が議論されていましたが、ここにきて一気に現実味を帯びてきたようです。
大学関係者の中にも、
「リベラルアーツや研究中心の大学」 / 「実践教育中心の専門大学」
……という役割分担ができることを歓迎するむきはあるでしょう。
明らかに「研究」に関心がない、またはその能力を持ち合わせていないのに、就職の不安などを理由に、大学に進学しているという人は少なからずいると思います。で、それが様々なところでお互い無理を生じさせていたりします。
目的にあった教育ができるのであれば、お互い、色々とジレンマがなくなるかもしれません。
この「専門大学」、どういう形で作られるのでしょうか。
冒頭の記事では、設置基準などの整備ができれば、新大学への移行を希望する専修学校などが手を挙げるだろうと書かれています。確かに、これが一番多そうです。
でも、ただでさえ大学が多すぎるという声が上がっているのに、「専門大学」なんてものが単純に増えたら、大学の受験生獲得競争が、さらに熾烈になりそうな気も。
なんだか、
・大学と専門学校の平和な棲み分け時代。
↓
・少子化に伴い、従来なら専門学校が担っていた教育分野に、大学が進出。
実践的な教育内容を売りにして、専門学校から入学者を奪う。
↓
・専門学校、存続の危機
↓
・専門学校が、「専門大学」に昇格。
大学から入学者を奪い返す。
……みたいな、仁義なき入学者獲得抗争みたいな構図がつい頭をよぎります。
実際、専門学校関係者には、
「実践的な教育という点では自分たちの方が歴史が長い。就職実績も負けていない。
なのに、『大学』という名称のせいで入学者をとられている!」
……といった想いもあるでしょう。
関係者の中には、「専門大学」への昇格を長年の悲願としていた方もいるかもしれません。
もっとも専修学校の設置は大学に比べて非常にハードルが低いですから、専門大学の設置基準の内容次第では、ほとんどの専修学校は昇格不可能、みたいなことになるかもわかりませんが。
逆に、「いや、うちは今のままで十分、学生を集められるから」と、有力専修学校がぜんぜん計画に乗ってこないような事態も考えられますね。
その場合、この構想は画に描いた餅に終わるかもしれません。
一方、<四年制大学から、専門大学に移行> というケースも出てきそうです。
というのも……「実務に即した、職業に直結する実践的教育」を打ち出している大学って、すでにたくさんあるのですよね。受験生を広く集めるための工夫でもあったのだろうと思います。
しかし今後、遠慮なく徹底的に実践教育ができる「専門大学」と比べたとき、不利な見え方になってしまう大学もあるでしょう。
今後、こうした大学がどのような位置づけになってくるのか、気になるところです。
現在の、大学教育の現状を打開しなければならないという思いは、文部科学省の方々が誰よりも強く持っているかも知れません。
もしかすると今回の「専門大学」構想には、
「つぶれたくなかったら、専門大学になるという道があるぞ」
……という、文部科学省から大学関係者へのメッセージもあったりするかも。
そもそも、既存の四年制大学が専門大学になるという計算でもないと、入学者が確保できないような気もします。
新大学制度を作ったはいいけど、最初から軒並み定員割れでは、文部科学省の失策という批判も出るでしょう。
現在のところこの構想については、中教審の間でも、反対意見などが出ているようです。
中教審は今夏をめどに報告をまとめる方針とのこと。
専門大学に期待する人も、危機感を覚える人も、しばらくは議論を見守ることになりそうです。
途中、パブリックコメントなどが募集されるかもしれませんから、意見を言いたい方は注視していると良いかもしれません。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
注目すべきニュースですね。例えば実践教育というか資格に強いことをキャッチフレーズに学生募集を進めている大学にとっては、非常に「痛い」ニュースなのかもしれません。しかし、受験生の進路相談を進学アドバイザーという肩書で受け持っていたことのある私としては、受験生の意識の中に、「大学のブランド名」と「良好な就職先が確保できる」ことを比較して、「就職」という魅力が勝ったとしたら、「資格に強い」などと言っている大学は、大きく受験生を減らすことになると心配が膨らみます。そのせめぎあいは、単なる広報活動によるブランディングだけではまったく歯が立たなくなるでしょう。
これからは、今まで以上に多くの受験生ニーズをしっかり見ていかないと、現在勝ち組のように評価されている大学が、一夜にして秋風が吹く大学にならないとも限りません。
怖い時代ですね。