マイスターです。
「もし、どこの大学にでも進学できるとしたら、どこに行きたいですか?」
こんな会話、したことある人もいるのでは。
マイスターも、人生で何度か聞かれました。大抵の方は、いっときの会話のネタ程度にお楽しみいただいていると思います。
大学について考えることを仕事にしている身にとっては、これが結構、大事な問いだったりします。
高校生に投げかけてみたり、自問自答してみたり。
こんなシンプルな問いから、色々なことがわかったりします。
日本よりも、アメリカや中国などの方が、この問いかけがよりリアルでしょう。
アメリカにはSAT、中国には「全国統一考試」という統一試験があり、得点が高ければ高いほど事実上、受験生は入学する大学をどれでも選べるような状態になってくるからです。
AO入試のアメリカと比べると、中国の方がよりその性格が強いでしょうか。
「どこの大学にでも進学できる受験生が、どこに行ったか?」
中国の、そんな調査をご紹介したいと思います。
【今日の大学関連ニュース】
■「現代版「科挙」の勝者の進路希望 ズレがある、国家の“期待”と本人の“希望”」(日経ビジネスオンライン)
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内容は、実に興味深いです。
「科挙」と言えば、古代中国で始まった、高級官僚登用のための試験システム。
身分などを問わない実力本位の方法で、最終合格者には高級官僚としての出世が保証されていたことなどが画期的でした。
そのため中国全土から受験生を集め、複数の選抜段階を経て実施され、大変な競争倍率であったことは有名です。
ここまでは皆さんもご存じの通り。
明代および清代の科挙制度によれば、科挙試験は、第1段階の“院試”(府・県レベル、合格者は“秀才”)、第2段階の“郷試”(省レベル、合格者は “挙人”)、第3段階の“会試”(中央レベル、合格者は“貢士”)、第4段階の“殿試”(皇帝レベル、合格者は“進士”)の4段階に分かれていた。
科挙試験の受験生は各段階を経るごとに篩(ふる)い落とされるが、“挙人”から“貢士”になるのは難関であり、“貢士”から“進士”になることは至難であった。
その最難関である“殿試”に合格した“進士”の成績優秀者上位3人は、それぞれ第1位を“状元(じょうげん)”、第2位を“榜眼(ぼうがん)”、第3位を“探花(たんか)”と呼ばれて称賛され、“三甲鼎”と総称された。
“三甲鼎”となったことは高級官僚としての将来が約束されたことを意味するもので、本人の栄誉のみならず、両親への孝行、家族や一族の名誉でもあり、繁栄を保証するものでもあった。
“三甲鼎”の合格者はそれぞれ“状元”“傍眼”“探花”と大きな文字で書かれたプラカードを押し立てて行列を連ねて生まれ故郷へ錦を飾るのが慣例であった。
(上記記事より)
……ということで、超難関の科挙でも、全国1、2、3位の成績を修めた「状元」「傍眼」「探花」には、一族の繁栄が待っていました。
「科挙」最優秀者を意味するこの「状元」という言葉が、現代の中国の大学入試「全国統一考試」でも生きている、ということは、ご存じなかった方が多いのでは。
マイスターも今回、初めて知りました。
「全国統一大学入試の実施区画である一級行政区の省・自治区・直轄市ごとの成績最優秀者」が、「状元」なのだそうです。
今回、ご紹介したいのは、この「状元」の進路先を調べた結果です。
2009年の調査報告の概要は以下の通りである。
(1) 大学入試“状元”が進学した大学(1999~2008年)
第1位:北京大学 385人
第2位:清華大学 255人
第3位:香港大学 18人
(香港大学は2005年から中国本土の学生の募集を開始)
中国の最高学府の双璧である北京大学と清華大学に状元たちが集中するのは当然なことかもしれないが、それにしても第3位以下との格差が激しい。2008 年に発表された「中国大学入試状元調査報告」の1999~2007年の調査結果と比較すると、2008年に北京大学へ入学した状元は38人、清華大学は 22人、香港大学が5人という結果になっている。
(上記記事より)
……というわけで、北京大学と清華大学が圧倒的。
香港大学も最近では評価が高まってきたと聞いていましたが、これを見る限り、「故郷に錦」の典型例はやはり伝統の2大学みたいですね。
でも日本で同じ調査をやったら、もっと極端な偏りが出そうですから、これはバランスが取れている方なのかも。
より詳細に、文科系「状元」と理科系「状元」に分けた数字があります。
文科系「状元」
1 北京大学 264
2 清華大学 39
理科系「状元」
1 清華大学 222
2 北京大学 109
(上記記事より)
「文科」に強い北京大学、「理科」に強い清華大学という、わかりやすい結果となりました。
世間的なイメージの通りかもしれません。
逆パターンで進学する学生達もちゃんといますし、これくらいのバランスが色々と理想的かもしれませんね。
「文科」「理科」の内訳がどうなっているのか、気になりませんか?
そこで今度は、「状元」が大学で専攻した分野のトップテンを見てましょう。
表1 大学入試“状元”が大学で専攻した分野 (1977~2008年)
順位 専攻した分野 “状元”の人数
1 経済管理 268
2 数学・物理学・化学 122
3 電子情報 59
4 生命科学 58
5 法学 44
6 コンピューター 43
7 土木建築 27
8 自動化 26
9 外国語 14
10 ジャーナリズム 8
(上記記事より)
1位の経済管理も圧倒的ですが、それ以上に、理工系の人気が目立ちます。
まさに、「高度経済成長」を達成するための条件がここに。
日本では物理の履修者減少が問題になっていたり、工科系の大学が受験者集めに苦労していたりします。上記の数字を見て、焦りを覚える日本の方も少なくないのでは。
中国では国家の指導者層に理工系を専攻した方が少なくありませんが、日本は逆で、「理系」出身の政治家や事務次官が稀。生涯年収でも、「理系」は「文系」より5,000万円少ないという結果が出ています。
大学生の専攻に違いが出てくるのも、当然と言えば当然なのかもしれません。
色々と、考えさせられる結果です。
ちなみに、
大学卒業後は“状元”たちの40%近くが海外留学を選択し、さらに学問の造詣を深めている。一方、業務分野で見てみると、教育界が約20%を占めて最大、これに次ぐのが政府機関や公的企業である。これ以外には自主創業や企業の経営管理。さらには証券や金融、メディアに従事する人たちも少なくない。
(上記記事より)
……なんていう記述も。
受験時に優秀だった学生の4割が大学卒業後に留学するという点も、日本とは違っているようです。
このように、なかなか興味深い調査結果。
日本ではどうなっているのか知りたいところですが、
「残念ながら日本では個人情報保護法による規制を受けて調査は到底不可能である」
……と、冒頭の記事では書かれています。
例えば「センター試験で○○点以上とった受験生の進路」なんてことを、大学入試センターが調べたら興味深い結果になりそうな気がするのですが、いかがでしょうか。
最後に、もうひとつだけ中国のデータから。
2005年から2007年まで、「状元」の過半数はずっと女子学生だそうです。
2007年度は、実に状元の62.79%が女子。
文科系では、女性79.07%に対して男性は20.93%。
理科系では、男性53.06%に対して女性46.94%だそうです。
「女性の方に勢いがある」という点は、日中で共通のようですね。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
中国では、政治的な理由から理工系に進まざるを得ないことが多い、という事情についての考察もお願いしたいところです。