マイスターです。
あまりにも募集停止が続くので、
■募集停止する大学と、その定員充足率:分かれる「経営判断」
……という記事を書いた翌日に、また募集停止。
【今日の大学関連ニュース】
■「愛知新城大谷大と短大部、来年度から学生募集停止」(Asahi.com)
愛知新城大谷大学と短期大学部(愛知県新城市)が10年度から学生募集をしないことが12日、分かった。学生が集まらず経営が成り立たなくなっているのが原因。在学生は卒業まで学んでもらうという。別の法人への譲渡など大学の存続を図るという。
(上記記事より)
昨日の記事で、
定員充足率が半数に満たない29校は言わずもがな、7割を切っている大学も97校あります。
三重中京大学以上に見通しが厳しいけど、募集停止の判断にはまだ至っていないという状態の大学が、まだ100校近くあるのです。
……と書きましたが、書いたそばから96校に。
また昨日は、撤退のタイミングは自分達で決めるしかなく、すべては当事者達がどう判断するかだとも述べました。実際、「もう十分にマズイ、後は決断するだけ」という大学は少なくないはず。
ここしばらく、有名大との統合やキャンパス移転、募集停止などを発表する大学が増えてきた中、大学関係者の方々の間で
「自分達の大学の行く末はどうなのか? 現在はどうなのか?」
……ということを、よりリアルに考える流れが広まってきたのかもしれません。
こうした動きは、今後も伝播していくような気もします。
今回、新たに募集停止を発表したのは、愛知新城大谷大学です。
■「愛知新城大谷大学」
「地方にある」「小規模の」「単科大学」の経営があぶない……と指摘する声が業界内にはありますが、愛知新城大谷大学はその条件をすべて満たしています。
(これまでに募集停止を発表した三重中京大学、聖トマス大学、神戸ファッション造形大学も同様)
同大学によると、社会福祉学部の単科大学で1学年の定員は100人だが、09年度の入学者は13人にとどまった。
(冒頭記事より)
……というわけで、2009年度の新入生定員充足率は13%。
先日の3大学よりも危機的な状況にあるようです。
(短期大学部は26%)
1999年、愛知新城大谷短期大学設置
2004年 愛知新城大谷大学設置。愛知新城大谷短期大学は、同大短期大学部に。
2009年 大学・短期大学部ともに、2010年度からの学生募集停止を発表。
上記のように、同大の歴史は長くありません。
冒頭の記事によれば短大は2001年から、また大学は設置当初から既に定員割れしていたとのこと。
新しい大学が成功するかどうか、やってみなければわからない部分もあるでしょう。
ただこの愛知新城大谷大学および短期大学の場合は、設立時の計画不足、マーケティング不足が、募集停止の原因として小さくないように思われます。
それだけではなく、
3年目にして既に短大が定員割れ。
その状況で、その後すぐに大学を設置。しかも、短大は廃止せずそのまま。
……と、経営展開もなんだか不思議。
経営計画が完璧な組織なんてどこにもありませんが、それにしたってちょっと不自然な行動のように思われます。
冒頭の記事を見ると、
経営する学校法人尾張学園が08年2月に学生募集停止を決めたが、新城市との協議で09年度の募集は実施していた。
(冒頭記事より)
……という記述。
新城市との協議? ……と不思議に思って調べてみたら、そのあたりの事情がかいま見える記事が、いくつか見つかりました。
大学誘致を重点施策の一つにかかげた山本芳央市長(当時)のもとで、平成11年4月、愛知新城大谷短期大学(運営法人・尾張学園)が開学しました。
新城市は同校を「公私連携大学」と位置づけて、開学に際して、キャンパス用地を取得、造成して校舎等の敷地部分を無償譲渡し、周辺の山林を無償貸与するなど、およそ21億円を負担しました。この予算を捻出するために多額の借金をおこし、現在なおその返済の中途です。
その後、同校は平成17年に4年制の社会福祉学部(社会福祉学科定員100人)を開設しましたが、この時も新城市は校舎建築費補助金として8000万円を大学の求めに応じて支出しました。
同校の定員は短大が1学年50人(介護福祉学科)、大学が1学年100人(社会福祉学科)ですが、21年4月の入学生は短大13人、大学14人の計27人と、定員を大きく割り込みました。
(略)一昨年の秋、開学の当初から定員割れとなって経営難に陥っているところに、いっそうの少子化と介護福祉分野への就職希望の減少傾向が強まるなど、将来に展望が開けないと見た、大学運営法人・尾張学園理事会は、一昨年、翌年度(20年度)の学生募集を停止する方針を決め、新城市にその旨を伝えました。
これを受けた穂積亮次市長は、昨年11月27日開いた市議会への市長報告会で、要旨『新城市民の期待と支援を受けて開学した大学であり、現在なお開学に際して新城市が補助した資金の借金返済が続いているとして、大学の存続を強く要望した』として、今後の対応として、尾張学園と大学、市の三者協議の場を設け、市としては全力で大学存続をめざすとして、今後の進め方を次のように明らかにしました。
○学生募集停止を1年間延長するよう要請し、これは承認された。
○今後は大学運営法人を尾張学園から分離し、新たに学校法人を設立し大学を存続するよう検討する。そのための「新学校法人設立準備室」を設置し、市職員を配置する。
○市としては追加的な財政負担は行わない。
○新学部・学科構想などについても協議を詰め、存続の方向でまとまれば、来年5月末の文科省大学設置審議会の新設申請締め切りまでに、手続きを進める。
○尾張学園には新学校法人の設立資金(3億5000万円)を拠出していただくよう協議する。
これとは別に、大学側は昨年スポーツ特待生(野球部)を受け入れて、これをテコに、体育教員を養成する学部新設を目指していましたが、不思議なことに市側はこの動きにまったく反応しませんでした。
(「新入生は大学14人、短大13人 大谷大学って、どうなの」(日本共産党新城市議団/新城民報WEB版/2009年4月26日)記事より)
↑こちらは、新城市の共産党市議団による情報。
野党ですから行政批判のトーンが強く、客観的な報道とは言えませんが、市議会でのやりとりがわかるという点では興味深い資料です。
当時の市長である山本芳央氏を中心に、新城市が大学の誘致に力を入れていたことや、愛知新城大谷短期大学、およびその後にできた大学のために市が多額の財政負担をしていることなどがわかります。
また1年間の学生募集停止延期が、「借金を返済していないのに、つぶれられては困る」という市側の要請による決定であったことも、わかります。
大学運営法人を尾張学園から分離し、新たに学校法人を設立し大学を存続する
そのための「新学校法人設立準備室」を設置し、市職員を配置する
……なんていうことも計画されていた様子。
ここまで定員割れした大学が、これでそう簡単に持ち直すとはあまり思えませんが、市側には、「経営がうまくいかないのは、尾張学園のやり方がマズイからだ」という思いがあるのかもしれません。
しかしその後、この「新学校法人」設立の計画も、頓挫します。
新城市は16日、同市が誘致した愛知新城大谷大学の赤字経営問題で、大学を存続させるために必要な新たな学校法人の今年度の設立が、資金不足のため困難であることを明らかにした。このため、5月までに行う予定だった文科省への設立認可の申請を見送る。
同大は、同市が土地の無償提供(約7万平方メートル)と21億円の助成金を出して誘致し、1999年に設立された。しかし、毎年定員割れが続き、累積赤字も約12億円に上り、経営母体の学校法人尾張学園(名古屋市)から独立させ、新たな学校法人を設立して、大学運営を図ることを決めた。
しかし、文科省は、尾張学園が新たな学校法人のため、最大で3億5000万円を寄付する資金計画は経営状況から困難で、同学園の別の学校経営に影響が出ると判断。6000万円の設立基本金しか認めなかったことから、同市などは、今年度の学校法人設立を延期することを決めた。
同市の穂積亮次市長は「大学運営のために市はこれ以上の資金の追加負担はしないが、大学存続の支援をしてくれるスポンサーを捜すなど最大限の努力をしたい」と話している。
(「愛知新城大谷大の新学校法人、資金不足で設立困難 申請見送り(愛知)」(読売オンライン)
記事より)
地域振興を謳って地元政治家が大学誘致を掲げ、行政が多額の税金や土地を提供。
しかし学生が集まらずに大学経営が短期間で破綻し、行政の責任が問われる。
つまるところ、三重中京大学および短期大学部や皇學館大学社会福祉学部、東海大学開発工学部と同じ流れですね。
(過去の関連記事)
■「三重中京大学、および短期大学部が募集停止」
■「皇學館大学社会福祉学部が募集停止・キャンパスも撤退」
■「東海大学開発工学部が募集停止」
新城市の場合、市長によって誘致された大学は、3年で学生が集まらなくなり、10年で破綻しました。
人によっては、「事実上とっくに破綻していたのに、7年延命させていた」と見る方もいるかもしれません。
地方自治体が誘致した大学の中にも、特色を打ち出し、順調に運営されている素晴らしい大学はあるので、やはり最初の計画がまずかったのかもしれません。
行政、政治、大学。誰かだけに責任があるというわけではないでしょう。ただ、それぞれの思惑があれこれと絡み合った結果、不要なお金を使ってしまったような印象もあります。
募集停止に追い込まれた大学からは、様々なことが学べます。
>大学の皆様
誘致のときには優遇されても、自治体は、学生を集めてくれはしません。
「大学を誘致する」という事実自体が目的になっている政治家もいます。
声がかかったときは、どうぞご慎重に。
>大学誘致をお考えの、自治体の皆様
「皆さんの街に大学が必要なのか」の前に、「その地域の子ども達が、新しい大学を必要としているのか」を先に考えてみてください。
「つくったら数十年はもつ」と思われていた大学の寿命は案外短く、今ではあなたが在職・在任中に募集停止になる可能性も大。その際はあなたの責任問題になります。ご利用は計画的に。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。