軍事転用可能な技術情報を管理する部門の設置が義務づけられる?

マイスターです。

物々しい報道を見つけました。

【今日の大学関連ニュース】
■「軍事転用可能な技術情報、大学・企業に流出監視を義務付け」(読売オンライン)

政府は、大量破壊兵器の開発など軍事転用の恐れがある技術や情報の管理を強化することを決めた。
大学や企業、研究機関に対し、技術情報を管理する部門の設置を国の規則で義務づける。核開発を進める北朝鮮などの国への不正な物資の輸出が問題となる中、先端研究を行う大学などからも不正流出が起きる可能性を踏まえ、規制強化が必要と判断した。安全保障上の理由による科学分野への情報規制は初めてとなる。
この規制は、今国会で改正された外国為替及び外国貿易法(外為法)が、経済産業省に対し、技術情報の流出防止の基準を設けるよう求めたのを受けたもの。経産省は、特定分野の情報流出をチェックする管理部門の設置を関連省令で義務づける。
管理部門の監視対象となるのは、核や生物・化学兵器につながる原料と装置、ミサイルや無人飛行機に必要な航法・推進装置など15分野。これ以外でも、安全保障にかかわると判断される場合は対象になる。
(略)規制強化を受け、文部科学省は、有識者を招いた「安全・安心科学技術委員会」で、大学などの技術情報管理のあり方について検討を始める。
(上記記事より)

■「安全・安心科学技術委員会」(文部科学省)

国の先端技術が海外に流出し、それが危険な兵器の開発など、日本や他国の安全を脅かす用途に使われる。だから、そういった技術の管理には細心の注意を払わなければならない。
新聞の社説などでしばしば、耳にしますね。

一般生活者の方々には縁遠い話題ですが、研究機関である大学には、こうしたトピックが直接、関係してくることになります。

ちなみに2008年1月にも政府は、研究機関や大学を対象にした情報管理の指針「安全保障貿易に関する技術管理ガイダンス」をまとめ、公表しています。
軍事転用可能な技術の流出対策は、年々、強化されているのでしょう。

この「安全保障貿易に関する技術管理ガイダンス」は、経済産業省 貿易経済協力局貿易管理部 安全保障貿易管理課のサイトからダウンロードすることができます。
ご興味のある方は、ご覧になってみてください。

■「大学・研究機関の皆様へ」(経済産業省・安全保障貿易管理)

■「産学官連携ジャーナル Vol.5 No.3 2009:大学における安全保障貿易管理 ?自主管理体制整備の促進?(PDF)」(経済産業省 貿易経済協力局 貿易管理部 安全保障貿易検査官室)

Ⅰ.本ガイダンスの目的
近年、我が国の重要な先端技術情報が海外へ不用意に流出し我が国の産業競争力等に影響を及ぼしているとの指摘や報道等が数多く見受けられます。他方、安全保障貿易管理の観点からも、不注意な技術の漏えいにより、大量破壊兵器等(注)の開発、製造又は使用(以下「開発等」という。)に係る技術が懸念国やテロリストに渡れば、我が国や国際社会の平和及び安全の維持に多大な影響を及ぼしかねないため、安全保障上の機微な技術を保有する者には、慎重な対応が求められます。
そこで、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)に基づく技術提供管理等を効果的に行うため、大学・研究機関(以下「大学等」という。)が実施すべきことをとりまとめ、大学等における技術提供管理等の参考に資することを目的として本ガイダンスは作成されました。
(注)「大量破壊兵器等」とは、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置又はこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機をいいます。
「安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス(大学・研究機関用)(PDF)」(経済産業省)記事より)

「大量破壊兵器」や「テロリスト」等、国際政治の報道で何度も耳にした言葉が並びます。
核兵器、化学製剤、細菌製剤など、物騒なワードもずらり。

↓こんな記述も。

該当する技術分野の研究者の皆さんには、自らの研究が我が国や国際社会の安全保障と密接な関係を有しているとの認識をもっていただくことが必要です。
これらの法令からみて、外為法の規制に関係深い技術分野は以下の通りです。
◎ 原子力技術(原子核反応、中性子工学等)
◎ エネルギー・環境技術
◎ 精密機械技術、精密加工技術、精密測定技術
◎ 自動制御技術、ロボット技術
◎ 化学・生化学(特に人体に有害な化学物質、解毒物質)
◎ バイオテクノロジー・医学(特に感染症・ワクチン)を含む生物学
◎ 高性能・高機能材料技術(耐熱材料、耐腐食性材料など)
◎ 航空宇宙技術、高性能エンジン技術
◎ 航法技術
○ 海洋技術
○ 情報通信技術、ICT技術、電子技術、光学技術
◎ 上記の設計、開発、使用に係るプログラム開発技術
○ シミュレーションプログラム技術
◎の表記がある技術分野は、大量破壊兵器等と関連が深く特に留意が必要です。
これらについてより詳細に見て頂くためには、外為法の輸出貿易管理令(政令)の別表第1や外国為替令(政令)の別表等に具体的な対象貨物や技術として記載されていますので、経済産業省の安全保障貿易管理ホームページ(HP)などで確認してください。
「安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス(大学・研究機関用)(PDF)」(経済産業省)記事より)

これだけ読むと、なんだかものすごく広い範囲の研究者の方が該当することになりそう。
情報通信技術や各種の制御技術を始め、深く考え出したらほとんどが該当しかねない学問分野も、少なからずあるような気がします。

安全保障上の機密に相当する研究成果は非常に重要で、慎重に扱わなければならないということは分かりますが、安全保障に関係しそうな技術の線引きが、けっこう難しそうです。
日本で市販されているゲーム機の演算装置は非常に高性能で、これがテロ組織などに悪用されかねない、という脅威論すら、しばしば耳にするくらいですし。

ちなみに、↓こんなリストも政府によって作成されています。

■「輸出者等が自主管理を行う際の参考として、大量破壊兵器の開発等を行っている疑いのある機関等についてリストとして公表しているもの(PDF)」(経済産業省)

見てみると、イスラエル、イラン、インド、北朝鮮、シリア、台湾、中国、パキスタン、アフガニスタンという国名と研究機関名が、化学や核などの「懸念区分」表示を添えて、具体的に記されています。

これによると、例えば中国の北京航空航天大学は、「ミサイル」の研究開発を行っている疑いがあるとのこと。パキスタン、インド、イランに「核」の表示が多いのは、従来から報道されている情報の通り。北朝鮮は「生物、化学、ミサイル、核」。
個別の研究機関名が並んでいることもあり、なんだか、どきっとしてしまいます。

北京航空航天大学のような有力大学と合同で研究している日本の研究グループなんて、実際には既にたくさんあると思います。
また、「誰がどう考えても重要」といった、安全保障政策に関わる重要なプロジェクトを除けば、よほどのことがないかぎり研究者の方々は、ご自身の研究成果を公表したいと思うのではないでしょうか。
いったいどのレベルまで公開に気を遣えばいいのか、考え出したらわからなくなりそう。

経産省は、特定分野の情報流出をチェックする管理部門の設置を関連省令で義務づける。
(略)研究機関などに置かれた管理部門は、海外への情報提供が法令に違反していないか確認を行う。提供先の入手の意図も確認事項に含められる見込み。不正な流出が発覚しながら放置するなど、改善命令に従わない機関の責任者には、6か月以下の懲役か50万円以下の罰金が科せられる。
研究機関では、留学生や外国人研究者が安全保障上問題のある情報に触れる機会を制限する可能性もある。また、管理部門が職員らの電子メールを閲覧した場合に、個人情報の保護や研究の公開性と、どう整合性を持たせるかなど、制度面の課題は多い。
「軍事転用可能な技術情報、大学・企業に流出監視を義務付け」(読売オンライン)記事より。強調部分はマイスターによる)

↑冒頭の記事では、上記のように報じられています。
「特定分野の情報流出をチェックする管理部門」を、大学は設置しなければなりません。

大学の場合、誰がどのようにこのチェックを行うのか。
これってとても、大変で難しそうです。

記事では、メールの閲覧などについても言及されています。
ただ、英語で書かれたメールのやりとりを見つつ、そこでやりとりされている研究についての会話が安全保障上のハードルに抵触するものかどうかを判断するのに必要な知識やスキルが、既に結構、高い水準にあるのでは。
誰でもできるような業務ではなさそうです。

少し考えてみましたが、メールを送るときは必ず同僚の研究者仲間にもCCをつけることを義務づける……とか、そういった対応くらいしかマイスターは頭に浮かびませんでした。
あとは、データ持ち出し禁止の徹底、とか。

どういった方がこの業務にあたられるのでしょうか。
いくつか、実践事例を知りたいところです。

以上、色々と資料を見ながら、今は政府がこうした方針を強化するような世界情勢なんだなぁ……と、改めて感じさせられたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。

3 件のコメント

  • 平たくいうと、輸出管理をちゃんとやるべしということでしょうね。企業なら当たり前の話なので、大学でも同様にやればよいかと思います。必要なら企業から実務経験者をヘッドハントすれば足りるでしょう。
    なお、個々の技術が管理すべき項目に該当するか否かは、結局は当事者(大学の場合は研究者)が判断することになるでしょう。スタッフは法律面、運用面でそのサポートをするというのが現実的かと思います。