「青年海外協力隊」が、大学生の新たな「進路」に?

マイスターです。

JICA(国際協力機構)が実施している「青年海外協力隊」。
現在も数多くの国に、隊員を派遣しています。

■「青年海外協力隊とは?:派遣実績」(JICA)

途上国で技術や教育、開発などの支援を行うために派遣され、現地で活躍しているボランティアの隊員達。
青年海外協力隊、および隊員達の存在は、非常に大きいです。

しかし2年間という派遣期間と、その間のキャリアがストップするという点が敬遠され、派遣する隊員を集めるのに苦労している……という話を聞いたことがあったのですが、最近では、ちょっと様子が異なるようです。

【今日の大学関連ニュース】
■「新たな就職先?青年海外協力隊の説明会盛況」(Asahi.com)

草の根ボランティアとして途上国で汗を流す青年海外協力隊の説明会が今期、盛況だ。近年、受験者は減る一方だったが、不況で企業の新卒採用が抑えられる中、もう一つの「就職先」ととらえる学生も出てきた。事業を展開する国際協力機構(JICA)は「優秀な人材確保の好機」と売り込みに懸命だ。
パラグアイでの植林、インドネシアでの理数科教師、ニジェールでの公衆衛生。今春の協力隊の募集要項には、農林水産や教育文化、保健衛生など8分野約120種類の職種が並ぶ。途上国への派遣件数は1千を超える。
説明会は6日現在、全国で157回開かれ、昨年同期より3割多い8057人が来場した。東海地方でも、岐阜県大垣市の会場(4月8日)が昨年同期の17人から30人、津市の会場(同12日)も22人から38人にそれぞれ増えた。愛知県岡崎市の会場(同13日)も昨年同期より6割多い59人。名古屋市の会場(同18日)も164人が来場し、昨春の県内最多(125人)を3割上回った。
1次試験の受験者数は昨年まで減少傾向にあった。過去10年のピークだった03年度の6905人と比べ、08年度は3809人。説明会を開いても、参加者が10人に満たない場合もあった。
そのため、JICAは昨春から、広報戦略を変えた。ポスターの誘い文句は「世界も、自分も、変えるシゴト。」とし、協力隊での経験がキャリアアップにつながると訴える。従来はボランティアの側面を強調していた。
(略)JICA中部・市民参加協力課の矢部優慈郎課長は、協力隊員の9割近くは帰国後1年以内に進路が決まっている、と指摘する。「不況との関係は不明だが、キャリア形成の一環という訴えが、若い世代の興味を引きつけているのでは」と話す。
(上記記事より)

一時期は説明会に閑古鳥が鳴いていた、青年海外協力隊。
それが、今では上記のように大人気だそうで、就職活動中の学生も説明会に訪れているとのことです。

もともと青年海外協力隊には、大学生や、大学卒業直後の方々の参加が少なくなかったと思いますが、就職活動と並列で検討される「進路」のように認識されているというのは、新しい流れかもしれません。
国のサポートを受けながら、海外で働く。そんな経験を「キャリア」として認識し、改めて魅力と感じる方が増えているみたいです。

■「ボランティア 青年海外協力隊」(JICA)

↑この通り、「世界も、自分も、変えるシゴト。」がキャッチコピー。
「ボランティアで2年間、海外へ」と言われると、自分のキャリアを止めてしまうような印象ですが、それを逆に、「他では得られないキャリア」という見せ方にしたJICAの広報戦略が奏功した様子。

もともと青年海外協力隊の活動に共感し、参加したいという想いを持っていた方は少なからずいらしたのだと思います。
でも、「2年間、ボランティアに打ち込む」という行為を、なんだか社会に取り残されるような感覚で受け止めて、二の足を踏んでいた方も多かったのではないでしょうか。
打ち出しを変えることで、そのあたりが少し改善されたのかもしれません。

さらにwebサイトには、活動に関する詳細情報のほか、体験者の声なども掲載されています。
海外でのボランティア活動に興味を持っていても、「自分で大丈夫なのかな」とか、「治安は大丈夫なのかな」といった不安に応えるようなコンテンツが用意されていて、親切です。
こうした丁寧な工夫も、説明会の盛況ぶりに関わっているかもしれませんね。

隊員として2年の派遣期間を終えた後の、「帰国後」の情報も充実しています。
青年海外協力隊に参加しようか迷っている方にとって、「普通のキャリア」ではない2年間を送ることは、大きな不安要素でしょう。
そのあたりの不安を解消するための情報が並んでいます。

■「ボランティア 青年海外協力隊:応募を考えている方へ:よくある質問:帰国後の進路」(JICA)

Q&Aには、

「就職先は紹介していただけるでしょうか?」
「就職状況はどのようになっているでしょうか?」
「帰国後の進路開拓支援にはどのようなものがあるでしょうか?」

……といった質問が。
実際、JICAもその辺りのサポートに力を入れており、↓こんなコンテンツも用意されています。

■「変わる、つながる、私の未来。JICAボランティア OB/OGストーリー」(JICA)

「教員や地方自治体職員の採用に、『JICAボランティア経験』が評価されています!」といった打ち出しも……。

終了後の進路をサポートしながら受験生を募集しているあたり、まるで大学のよう。
青年海外協力隊のサイトを見ているとなんだか、大学の公式webサイトを見ているような錯覚にすら陥ります。

不況時には、大学院に進学する学生が増えると言いますが、青年海外協力隊の人気ぶりにも同じようなものを感じます。

途上国支援への共感や、知らない世界への挑戦といった動機に加え、

「厳しい経済状況でも生き残れるよう、差別化がはかれるようなキャリアを身につけたい。
でも大学院への進学や、海外留学にはお金がかかる。
そもそも進学をして、投資に見合うだけの評価を得られるかはわからない……」

……といった、「自分を成長させるための良い機会」という視点が加わったのが、今の青年海外協力隊の人気のベースにあるのかな、なんていう気はします。

<青年海外協力隊=ボランティア=無償の奉仕活動>……といったイメージを持っている人は、上記のような協力隊の人気ぶりは、「不純な動機」での参加と思われるかもしれません。

ちなみに、あまり知られていませんが、青年海外協力隊の参加者は、派遣されている2年間も、まったくの無給というわけではありません。
現地での生活費や住居の手配などに加え、少しずつ「積立金」が支払われており、2年の派遣期間を終えて帰国すると、口座には総計200万円ほどのお金が振り込まれています。
青年海外協力隊の活動を終えたあとの仕事探しなどを行うにあたり、この200万円が当面の生活費などになるわけです。

そんな(あまり知られていない)仕組みがあることもあって、青年海外協力隊の位置づけは、途上国支援に関わっている方々の間でも色々と賛否両論あるようです。

(例)
■「青年海外協力隊の良し悪し 5,455字 」(山本敏晴の日記)
■「海外青年協力隊ってボランティアだと思っていたら……」(Yahoo!知恵袋)

大多数の隊員は、意義のある活動をされていることでしょう。
しかし中には、軽い気持ちで参加して現地であまり役に立てていない隊員や、「本当にそれは日本から人を派遣してまで行う業務なの?」ということしかしていない隊員などもいらっしゃるようです。
意義やメリットは数多いけれど、こうした隊員が増えてしまうのは、確かに困るでしょう。
そういう意味では、安易な参加者が増えることを危惧する声が出るのもわかります。

ただ個人的には、参加される動機はそれぞれでしょうし、入口は広くてもいいのでは、と思います。
青年海外協力隊員として過ごす2年間は、色々な意味で実際、立派なキャリアになるでしょう。
大学院に進学するよりも、大きな成長を果たす人だっていると思います。
キャリアアップのための1ステージとして考える人がいても、それを悪いとは思いません。

それに、実際に現地に行って、初めてわかる意義や目的もあると思います。
「ボランティア」という点を強調して参加を敬遠されるよりも、まずは飛び込んでみて、そこで様々な視点を得てくれる方がずっと建設的ですし、大きな成果を生むことになるでしょう。

特に大学生の方には、青年海外協力隊のような体験をしていただきたいです。
ですから、少なくともとりあえず説明会に行ってみようと思う方が、学生を中心に増えているのは、個人的には悪くない流れだと思います。

むしろ不況時だけの一過性の動きに終わらせるのではなく、ポピュラーな「進路」のひとつとして、青年海外協力隊員としての2年間が大学生の間で認知されることを期待します。

以上、冒頭の記事を見てそんなことを考えたマイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。