マイスターです。
明治5年の「学制頒布」以降、日本の学校制度は、様々な変遷を経て現在のシステムに辿り着きました。
■「文部省局課変遷・学校系統等図表 学校系統図」(文部科学省)
かつては中等教育の段階から、多種多様な学校システムが複線式に存在していました。
現在の学校システムは、昔に比べればかなり整理統合されたと思われます。
とは言え、上の学校に進学すればするほど、やはりその教育目的にあわせて分化はしていきます。
全国民に共通の基礎を学ぶ初等教育に比べて、中等教育、高等教育では内容が高度化するにともない、それぞれの学校の目的も違ってくるわけです。
さて、今日はこんな話題をご紹介します。
【今日の大学関連ニュース】
■「高校『専攻科』卒業生、大学編入可能に 文科省が方針」(Asahi.com)
高校3年間の学習を終えた後、さらに技量を高めたり、資格を取ったりするために看護科や水産科などに併設されている2年制の「専攻科」について、文部科学省はこれまで認めてこなかった修了者の大学への編入学資格を認める方針を固めた。早ければ11年度から実施するとみられる。
「大学でさらに専門性を高めたい」という希望が多いことを踏まえ、専攻科で学んだことを大学の前期課程などと同等とみなせるよう、学校教育法などの関係法令を改正する考えだ。これにより、専攻科を終えた生徒は大学入試を受けて学部の1年生から始めなくても、編入学が受け入れられれば3年次からスタートできるようになる。
(略)大学への編入学は、短大や専修学校の専門課程などで認められている。専攻科で実現すれば、すべての学校種から大学への編入が可能になる。
(上記記事より)
小学校から大学まで、いわゆる「6・3・3・4」制に則って進学をしてきた方、特に普通科しかない高校を卒業された方にとって、「専攻科」というのはあまり、馴染みのある言葉ではありません。
↑こちらは、現在の世界各国の学校系統図ですが、日本の図を見てください。
ちゃんと、「専攻科」という表示があります。
【学校教育法】
第58条 高等学校には、専攻科及び別科を置くことができる。
2 高等学校の専攻科は、高等学校若しくはこれに準ずる学校若しくは中等教育学校を卒業した者又は文部科学大臣の定めるところにより、これと同等以上の学力があると認められた者に対して、精深な程度において、特別の事項を教授し、その研究を指導することを目的とし、その修業年限は、1年以上とする。
(「学校教育法」(法令データ提供システム)より)
学校教育法によれば、専攻科とは、「精深な程度において、特別の事項を教授し、その研究を指導すること」を目的として設置される課程のことです。
この「専攻科」を設けることができるのは、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、短期大学、高等専門学校。いわゆる、「後期中等教育」以降の学校ですね。
今回の報道は、特に高校の専攻科に関する内容です。
高校の場合、高校の本科を卒業した方が、専攻科の入学対象。
本科の卒業生が、より専門的で高度なことを学ぶために在籍しているのが、専攻科なのです。
看護科や水産科、農業科、工業科、福祉科などを持つ高校では、専攻科が設置されているケースが少なくありません。
例えば看護科の場合、高校3年間では「准看護師」になるためのカリキュラムしか学べません。
本科を卒業後、2年間の専攻科で看護師養成課程のカリキュラムを修了することで、看護師の国家試験を受験する資格が得られる仕組みになっています。
水産科も同様で、本科の後、専攻科を終えることにより、様々な資格試験に有利な条件を得られるなどのアドバンテージが得られます。
逆に言えば、それだけ専門に特化した内容を学んでいるということでしょう。
このように、それぞれの領域において、専門の業務にあたる職業人を養成してきた高校の専攻科ですが、大学への進学という点では、高専や短大、専門学校などよりも不利な状況に置かれてきました。
例えば高校と専攻科で、計5年間、看護の勉強をした方がいらっしゃるとします。
この方が、「さらに高度な内容を学びたい」と考えて看護系の大学に進学しようとしたら、受験をして入学し、1年生から学び直さなければならないのです。
短大や専門学校からは、大学に編入するルートが整備されてきていますが、専攻科だけは、大学への編入が認められていませんでした。
それが、「早ければ11年度から」編入資格を得られるようになるそうです。
記事によれば、「高校に専攻科を設けているのは看護科、水産科、工業科など全国で142校で、生徒数は約9千人」。
特に看護の専攻科では大学編入を求める生徒が少なくないとのことで、こうした要望が今回の方針につながったとのこと。
大学進学者が増えている昨今、専攻科の修了生の間で進学意識が高まるのは自然ですし、歓迎されることだと個人的には思います。
……というか、今の状況を考えるに、「専攻科からは大学に編入できない」という状態をこのまま維持し続ければ、専攻科に進学する生徒が減ってしまいそうな気もします。
専攻科を修了しても結局、受験をして大学1年生からやり直すのであれば、専攻科に行かずに高校から大学に進学した方が早い。そう考える人は少なくないのではないでしょうか。
専攻科の社会的意義を残しつつ、生徒数を維持するためには、いつかは大学への編入を認めるしかなかったのかもしれません。
学生獲得に悩む大学の方としても、専攻科の学生が大学に編入してくれるのは、嬉しいところでしょう。
専攻科に進学している生徒達は、もともと専門職を目指す意欲がある方々でしょうから、大学としてもぜひ教えたい人材だろうと思います。
また、入学生が定員に届かなかったり、退学者が出てしまったりしても、途中の編入者でそれを穴埋めすることができますから、経営的にも大歓迎なのではないでしょうか。
もともと人気のある看護系などはともかく、「工学部離れ」に苦しむ工科系の大学などにとっては、工業の専攻科からの編入解禁は、良いニュースになるのかも知れません。
高校卒業後、2年で専門的な知識や技術を身につけられる専攻科には、まだまだ多くの社会的意義があると思います。
その意義を残しつつ、一方で、より高度なことを学ぶ「大学」という教育機関に学びを繋げるという点で、編入の仕組みはあっても良いのではないでしょうか。
(もちろん、専攻科の2年間と大学の前半で学ぶカリキュラムとは、内容に違う部分も多いでしょうから、接続のための工夫が必要だろうと思いますけれど)
ただ、将来的には、こうした複線式の進学コースも、どうなるかはわかりません。
例えば看護教育では、看護師養成課程を大学に一元化するかどうか等、今も議論が行われている最中です。
(過去の関連記事)
■「中心は4年制大学に? 変わりつつある、看護師養成教育」
他の分野も同様で、専攻科が今後どのような位置づけになるかは、誰にもわかりません。
世の中の状況が変われば、役割を大学や短大などに引き渡し、廃止される専攻科だって出てくるかもしれません。
そう言う意味で専攻科は、社会制度や市場状況など、世の中の動きから影響を受けやすい位置づけにあるのかもしれませんね。
というわけで、専攻科の今後の動きにどうぞ、注目してみてください。
以上、マイスターでした。
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※ちなみに、短大や高専の専攻科の中には修了後、学修成果を独立行政法人「大学評価・学位授与機構」に提出・申請し審査を受け合格することによって、学士の学位が授与される「認定専攻科」というものがあります。
■「短期大学及び高等専門学校の専攻科認定の流れ 」(大学評価・学位授与機構)
この場合、大学に編入することすら不要です。
様々なニーズによって、様々なルートが整備されているのですね。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。