退寮式(卒寮式)&入寮式 知られざる大学生活のひとコマ、学生寮

マイスターです。

卒業、そして入学の季節。
桜が咲き乱れる下で、大学でも、様々な公式行事が大々的に執り行われています。
メディアの取材も入り、webサイトにも大きく掲載されることが多いようです。

その裏で、一部の学生および教職員しか参加しない、しかし参加した方々にとっては一生の記憶に残るイベントが、毎年、静かに行われているのは、あまり知られていません。

【今日の大学関連ニュース】
■「鶴見大学女子寮退寮式に出席して」(鶴見大学 文学部長ブログ)

春の入寮式に参加させていただいてから、早くも1年近くになろうとしています。新入生の皆さんも、はや、一年目が終わりに近づいて学期末を向かえています。大学あるいは短大の学生として、多くの楽しみ、あるいは困難に遭遇し、それらを乗り越えるなかで成長されてきたことでしょう。
大学や短大の時期は、皆さんの人生の中でも多くの新しいことに出会い、成長する時期であろうと思います。大学や短大での授業を通じて、多くの知識や技能を身につけられたと思います。また、クラブやサークルなどで楽しくも苦しいなかで得られたことも多いでしょう。
大学や短大の時期を学生寮で過ごされた皆さんは、自宅から通学あるいは下宿している学生には体験しにくい、学生寮での集団での生活の中で、多くの友人に出会う機会に恵まれたのではと思います。
ぜひ、退寮されても今後も永くお互いの友情を温められ、より豊かな人生を送られるように期待しています。
(上記記事より)

学生寮を持つ大学にとって3月は、「退寮」の季節でもあります。

学生寮での共同生活は、授業とはまた異なる、様々な物事を学ぶ場です。
寮生同士は距離が近い分、日常的に深く関わらざるを得ません。
他人と一緒に暮らすわけですから、ときには衝突もするでしょうし、ストレスを感じることもあるでしょう。
そうしたぶつかり合いを通じて、人間的に大きく成長できるのが、学生寮の良いところです。

また、ぶつかり合う分、深くお互いを理解しあい、強い友情で結ばれた友人もできると思います。
学生の間にしか経験できないような、様々な思い出もきっと、たくさんできるでしょう。
学生寮は、文字通り、青春の舞台そのものです。

旧制高校を始め、かつては学生寮での共同生活を教育の重要な要素と考えていた学校が多くあったようです。
その後、大学を取り巻く環境が変化していくにつれ、従来の学生寮のようなシステムは残念ながら廃れてきましたが、そんな中で現在も寮を維持している大学はあります。

そんな寮で暮らした学生にとって、退寮式(卒寮式)はおそらく学位授与式と同じか、それ以上に感慨深いものでしょう。
寮を持つ大学の関係者の方は、「卒業式では笑っていたのに、退寮式では涙を流す学生もいますよ」なんて仰っていました。
マイスターは寮暮らしを経験できなかったのですが、その気持ちはなんとなく、わかります。

■「橘寮(女子寮)の卒寮式が行われました【2008/2/12】」(奈良教育大学)

↑こちらは、奈良教育大学のページ。
卒寮式の写真が貼られていますね。

壇上に並ばれているところを見ると、寮でお世話になった皆さんや後輩達に囲まれ、巣立ちの挨拶などをされているところでしょうか。
いかにも大学生活の一コマらしい、いい光景だと思います。

意外にも各大学の公式ニュースには、こうした寮関連の話題はあまり登場しません。
教員や学生の方々のブログなどからは、その端々がうかがえます。

上でご紹介した「鶴見大学 文学部長ブログ」もその一つ。
式に参加された方にとっては、印象に残るイベントなのだと思います。

■「退寮式 」(中部大学 学長ブログ)

先週、学生寮の退寮式を行いました。4月に入学した新入生が1年間の寮生活を終え、その巣立ちを祝う会でした。昨年の4月、入寮式で寮生活の楽しみ方や効用について、特に、同僚との集団生活の奥の深さについて話をしました。みんな真面目に話を聞いてくれました。あの時のあどけなさが印象に残っていたので、本当にあの寮生の退寮式かと、一瞬、疑いました。ネクタイ姿が様になり、一年前の着せ替え人形的な出で立ちとは比較にならない重量感を感じました。そして、同じ折りたたみ椅子への座り方もどっしりとして大人の風格を蓄えていました。姿形の変化だけではなく、心身の内実の成長・発達は言うに及ばず、社会的にも長足の進歩の跡が見られた。若さとは変化すること、成長すること、発達することだと、改めて羨ましく感じました。
(上記記事より)

■「退寮」(Soai☆AIU(国際教養大学))

3月15日、退寮日の朝。
4月4日から住んだこの寮ともお別れだ。
1年間過ごしたこの寮でいやなことも楽しいことも
たくさんあったけど、全部自分の人生の貴重な
経験や思い出になったんだと思う。
(上記記事より)

↑上は、中部大学の学長ブログ。
下は、国際教養大学の学生さんが書かれたブログです。

学生寮で過ごす日々って、すごく密度の濃い時間なのでしょうね。
卒寮を迎え、送り出す方も送り出される方も、そんな日々を経て、学生の皆さんが人間として一回り成長したことを実感されているようです。

3月は全国の大学の学生寮で、こんな光景が展開されていたことでしょう。
大学の広報部門の方はぜひ、こういった瞬間の様子を、写真か映像におさめて、webなどで公開してみてください。

その写真一枚や短い映像レポートが、「あっ、なんかいいなぁ、この大学」と、見る人に思わせます。

「本学には寮があります」とパンフレットでPRしても、もともと実家暮らししかしたことがない高校生にとっては、あまりピンと来ないかもしれません。
それより例えば、退寮の瞬間に、送り出される方も送り出す方もみんな泣いている、みたいな様子をビジュアルで見せた方が、高校生達の心を揺さぶれるのではないかとマイスターは思います。
そんな体験を我が子にさせたい、と感じる保護者の方々も、少なくないでしょう。

退寮の瞬間に限らず、寮生活の様子というのは、大学の良さや暖かさを伝える良い素材になりうるはずです。

そして4月。
別れの後には新たな出会いもある……という訳で、今度は入寮式です。

■「日々折々 駒澤大学仏教研修館 竹友寮 入寮式 」(仏事を考えるー仙台 新寺の曹洞宗洞林寺)

入学式に引き続き、竹友寮の入寮式に出席する。
竹友寮は宗門徒弟だけを対象とした学生寮です。昨年までは大学キャンパスのすぐ隣にありました。
(略)寮監先生の導師で、上香普同三拝、献茶湯、般若心経、回向、普同三拝という差定でした。上級生たちが維那・堂行・副堂・両班・侍者・侍香・知殿・殿行・鐘司を務めていましたが、立派な法要でした。見事な進退でした。現在寺の住職をしている私共がこれだけの緊張感と真摯さをもって法要を務めているだろうか?真摯な気持ちで行じていると自負しているつもりですが、慣れという中で緊張感を欠いている部分は無きにしも非ずかもしれません。寮生の行う法要を見て、反省させられました。
わが弟子もこの寮を拠点に行学共に精進して欲しい、と願っております。 
(略)昌平坂学問所は、朱子学を根本に置き学問知識を習得するところであった。吉祥寺栴檀林は、仏法を学び仏道を行じる学林であった。その栴檀林の伝統を今日受け継いでいるのが竹友寮である、と言えるでしょう。現代の大学生たちから見れば、アナクロニズム的な寮に思える部分も多いでしょう。でも、駒澤大学の建学の精神である「行学一如」を実践しているのは、竹友寮の寮生だけかもしれません。
(上記記事より)

大学のブログではないのですが、曹洞宗の関係者の方が、駒澤大学の学生寮の入寮式の様子をつづっておられました。

宗門徒弟の学生だけを対象とする寮ということで、寮生活がより深い教育の場にもなっているという様子が、このブログから伝わってきます。
寮生達には、大きな期待がかけられているのでしょう。

こちらは寺院や卒寮生を始め、曹洞宗の関係者の方々などによる寄付・援助によって建設された寮のようです。こうして宗門の先輩方をご招待されているのは、そのあたりにも関係しているのかもしれません。

でも、大学教職員だけのイベントではなく、このように多くの方々に見守られながら寮生活をスタートさせるというのも、良い意味での緊張感があって良いかもしれませんね。

最後に、↓こちらの話題を。

■「山口大:工学部に女子寮完成 /山口」(毎日jp)

宇部市の山口大工学部敷地内にこのほど、国立大工学系では国内初となる女子寮「山口大学常盤台女子寮」が完成した。
女子学生の増加や、保護者の要望を受けて建設した。(略)入寮資格は、同市外の学生。すでに留学生3人を含む41人が入居している。完成式では丸本卓哉学長や入寮生代表らがテープカットし祝った。
(上記記事より)

山口大学が新設した寮の完成式典が、このほど行われたそうです。

寮が廃れていると先ほど書きましたが、ここ数年で、その状況は変わりつつあります。

遠方からの入学生受け入れに力を入れる、
寮生活を教育の柱の一つとして位置づける、
留学生の増加を狙う、

……などなど、様々な理由により、多くの大学が寮の整備に力を入れてきています。
教育的な狙いから、入学後、必ず全学生が寮生活を経験するようなシステムを持つ大学も、増えてきました。

そんなわけで山口大学では、国立大工学系では国内初となる女子寮を建設。

■「学生生活:学生寮」(山口大学工学部)

「理系の女子を増やしたい」というのも、
「遠方の学生に受験して欲しい」というのも、
大学関係者の方から良く聞く言葉です。

しかし、その解決法の一つである

「女子寮の建設」

……という具体的な行動をとる大学は、そう多くはないでしょう。
なにしろ投資額が大きいので、無理もありません。

でも山口大学の寮建設によって、他の大学でも同様の動きが起きていったなら、多くの高校生の進路選択の幅はひろがると思います。
そういう意味で、こういった寮の新設ニュースは、要注目だと思います。

今回の完成式典には、「全国から、優秀な理系の女子学生、来たれ!」という願いが込められていたのではないでしょうか。
この寮から、優秀な女性研究者やエンジニアが多数、生まれると良いですね。

以上、今日は学生寮の話題をいくつかご紹介しました。

寮生や学生部の教職員でもない限り、同じ大学内にいてもあまり接点を持つことがない、学生寮。
しかしそこには実は、最も大学らしい、大学の姿があります。
そこに惹かれる方は、少なくないと思います。広報関係者の皆様はぜひ、そんな寮の一コマにスポットをあててみてください。

マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。