マイスターです。
大学の新入生も、新社会人も、期待と不安の中、新しい生活に向けて準備をしている時期。
……のはずですが、今年はこの不況の中、内定者に対して「内定取り消し」を通達する企業が全国で発生。不安を抱えたまま、春を迎える方々もいらっしゃるようです。
現在も、状況は良くなる気配がありません。
そんな話題を、ニュースクリップ形式でいくつかご紹介したいと思います。
【内定取り消し企業、厚生労働省が公開。】
■「内定取り消し企業名公表 大学関係者『氷山の一角』」(NIKKEI NET)
採用内定の取り消し問題で、厚生労働省が31日、初めて企業名公表に踏み切った2社はいずれも学生・生徒の内定を取り消しながら新たな就職先を確保できなかった点が悪質とみなされた。
(略)ただある大学の就職担当者は「2社は氷山の一角にすぎず、もっと悪質な企業もある」と指摘。厚労省は調査中の企業についても、悪質だと判断されれば4月以降に公表するとしている。
(上記記事より)
社会的に問題視された「内定取り消し」対策の一環として、厚生労働省は、悪質な企業名を公表する方針を打ち出していました。
(過去の関連記事)
■ニュースクリップ[-12/14] 「内定取り消し対策…助成金や企業名公表 厚労省あの手この手」ほか
今回、2社の社名が明らかにされたようです。
公表にあたっては、「新たな就職先を確保できなかった」という点で線引きをした模様。
実際には、この2社だけではないでしょう。
これまでにも、メディアが大きく報道を行った事例はあります。
取り消された学生の側からしたら、取り消しを行う際の対応や、企業の姿勢など、「悪質」と感じる企業はもっとたくさんあるのでしょう。
【3月に大量の内定取り消し。学生の責任にする例も?】
■「学生ら98人の内定取り消し 卒業直前、SE派遣会社」(47NEWS)
システムエンジニア(SE)を派遣するゲイン(東京)が業績悪化から、4月と7月に入社予定の大学4年生ら118人のうち98人の内定を取り消していたことが28日、分かった。厚生労働省によると、昨年秋以降の内定取り消しでは、経営破綻企業を除くと最大規模。
3月に実施した再面接の結果が悪かったことを理由にされた学生もいた。大学関係者からは「卒業直前に、しかも学生側に責任を押しつける取り消し方は悪質だ」との声も出ている。ゲインは「学生には申し訳ないことをした。補償金など今後の対応は慎重に検討を進めている」としている。
同社などによると、98人は関東近辺の学生ら。昨年4月以降、内定をもらい、SEとしての技術研修を受講。同年12月にはグループ内での配属先も決まっていた。
SEを正社員として雇い顧客企業に派遣する同社は今年2月末、電機、通信産業など業績不振の顧客から解約が殺到したため、取り消しを決定。3月になって学生らを個別に呼び出し、「入ってもらっても仕事はない」などと通知した。
(上記記事より)
3月になっての内定取り消しは、学生にとっては、目の前が真っ暗になったような衝撃でしょう。
実際、入社しても厳しい状況だったのだろうとは思いますが、それにしても内定者達が気の毒です。
また、
一部学生には同月4日、プレゼンテーション能力などを試すとして面接を実施。大学側によると、「君の技術力では顧客先に売る自信がない」などと言って、内定を取り消したという。
(上記記事より)
……と、学生側に責任があるという形で内定を取り消したことも、報道されています。
実際には本人の責任というより、顧客から解約が殺到したことの方が直接的な要因なのではと思われますが、一連の採用試験を受けて内定を出し、研修まで受けさせていたわけですから、これはないでしょう。
企業の姿勢として悪質だという声が、大学関係者からもあがっているようです。
でも、さらに隠れた、ショッキングな例があるようです。
【「内定取り消し」ではない?】
■「『新入社員各位、自宅待機を』入社直前、通告相次ぐ」(Asahi.com)
「4月2日以降、自宅待機を願います」。3月下旬、卒業式を終えたばかりの関東地方の私立大生に、内定先の中堅人材会社から封書が届いた。業績悪化で配属先が決まらず、4月1日の入社式の翌日から自宅待機となり、賃金の6割しか支払えないと記してあった。手紙は「入社辞退を希望される方は御連絡を」と結ばれていた。
この学生は「内定辞退を勧告されたようなもので、納得がいかない」と話す。就職活動を再開したが、新たな就職先は決まっておらず、「自宅待機をしながら活動を続ける」と言い切る。
(略)採用担当役員は「採用を決めた昨秋の段階では、急激な受注減は予測できなかった」と説明。「自宅待機は、内定取り消しを回避する努力を尽くした結果だ」と話すが、学生にとっては内定段階での条件が大きく変わってしまう。
技術者派遣大手「シーテック」は3月初旬、新卒内定者250人全員に、初任給が数万円低い関連会社への転籍を求める「転籍同意書」の提出を求めた。すでに1万6千人の正社員のうち4千人の削減を発表している。
広報担当者は「内定者の派遣先がなかった場合でも雇用を確保するための措置で、最長1年程度を想定している」と話す。ただ、シーテックに籍を残す「出向」ではなく、関連会社と新たに雇用契約を結ぶ「転籍」のため、元の会社に戻れる保証はない。同社は「同意書を出さなくても入社できる」と説明するが、関係者は「転籍しない場合、希望退職や整理解雇の対象になる可能性が高い」とみる。
(上記記事より)
このように、「内定取り消し」ではないが、学生側にとってはそれに近い扱いを受ける事例が発生しているようです。
内定を出した時点では予測できなかった受注減や売り上げ減が原因だというのは、内定取り消しと同じ。
現時点で、内定者達を雇用する余裕がないという点も同じです。
では、なぜわざわざ入社をさせるのか。
企業側の、「内定者の雇用を確保するため」というのも、理由の一つでしょう。
ただ、
合意のうえでの自宅待機や転籍は、「内定取り消し」にはあたらず、行政指導の対象にはならない。内定を取り消すと学生に社名が知られ、次年度以降の採用活動に悪影響が出たり、取り消した学生に補償金を求められたりする可能性がある。こうした事態を避けるための例もあるとみられる。
(上記記事より)
……という指摘もあるようです。
行政指導の対象にならないということで、規則の穴を狙ったような対応。
もちろん、悪意による措置という事例ばかりではないのだろうと思います。
ただここまで来ると、学生側にとっては、内定取り消しと比べて良かったのか悪かったのか、微妙なところです。
【次の春以降も、厳しい状況は変わらない?】
■「新卒採用『減らす』41社…100社読売新聞アンケート」(読売オンライン)
読売新聞社は主要100社を対象に2010年春の新卒採用計画(大学、大学院、短大、高専、高校)についてアンケート調査を実施した。
09年春より採用を「減らす」と回答した企業は前年調査の6社から41社に急増し、「増やす」は31社から7社に激減した。学生にとっては厳しい就職戦線になりそうだ。
新卒採用の削減が目立ったのは、海外での売り上げが急激に落ち込んでいる自動車と電機、精密業界だ。高卒などを含めた採用予定数全体で、トヨタ自動車はほぼ半分の1080人に、NECは約9割減の100人に、それぞれ減らす。3業界の調査対象16社のうち12社が「減らす」と回答し、「未定」は3社だった。
「横ばい」は09年3月期連結決算で黒字を確保する見通しの三菱電機だけだった。
世界的な金融不安のあおりを受けた金融業界では、三菱東京UFJ銀行が57%(850人)減らすなど、3メガバンクが大幅に縮小する。また、10年春の採用を「減らす」とした全業種41社のうち、採用予定数が決まっている31社の採用予定人数の合計は約1万2500人で、09年春のほぼ半分の水準に落ち込む。
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(上記記事より)
このように、来年以降も、採用が厳しい状況は変わらない様子。
むしろ、より悪化する可能性も高いです。
今年度に報道された「内定取り消し企業」のリストや情報が、進路指導の現場で実際に活用されるのは、次の春に向けての動きの中でしょう。
今回、多くの学生の内定を取り消した企業の中にも、「優秀な数人」程度の採用はしたい、というところがあると思います。
(実際、報道を見ると全員の内定を取り消すのではなく、数名を残している企業が結構あります)
そうした企業は、これから困るかもしれません。優秀な人材ほど、わざわざそんな企業にはいかないだろうと思われます。
ちなみに、上記の記事で「横ばい」と回答している企業が、実際にその通りに採用を行うかどうかの保証はありません。企業が発表する採用予定者数というのは、必ずしも事実とは限らないからです。
「予定通り採用したかどうか」なんてことが検証されることもありませんし。
企業イメージが崩れ、就職活動での人気が下がることを恐れて、横ばいと答えている企業もあると思います。
ですので、横ばいと言いつつ、実際には採用を減らす企業もごまんとあるでしょう。
厳しい状況は、まだしばらく続きそうです。
……と、暗い話題ばかりご紹介してしまいましたが、実際にはこうした状況の中で、むしろ業績を伸ばし、採用数を増やしている企業があるのも事実です。
大手ばかりではなく、隠れた優良企業などもそれに含まれます。
学生の皆さんはどうか、TVCMをやっているかどうかといった知名度や、外向けのイメージ、聞こえが良い企業かどうかといった点に惑わされず、その企業の「真の実力」を見て、入社先を選んでくださいね。
(あ、これって高校生に大学選びの話をするときと同じだ)
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。