法科大学院「適性試験」で、一律に入学者の足切りを実施するのは適切か?

マイスターです。

先週の話題ですが、司法試験および法科大学院に関連し、こんな記事が出ておりましたので、ご紹介しておきたいと思います。

【今日の大学関連ニュース】
■「法科大学院、入学適性試験厳格化 下位15%を最低ラインに」(47NEWS)

定員割れや新司法試験の合格率低迷が問題となっている法科大学院の質向上策として、中教審法科大学院特別委員会の作業グループは19日、入学する際の適性試験について、受験者全体の下位から15%程度の人数を目安に、入学最低基準点を設定すべきだとする素案をまとめた。
素案は、優秀な学生を確保するために定員削減とともに、適性試験に合格最低基準を設けるべきだとした同特別委の中間提言を受けてまとめた。
(略)素案の基準を昨年の試験に当てはめると、大学入試センター実施の試験では約1万1800人の受験者中約1800人が、日弁連法務研究財団実施試験では約8900人の受験者中約1300人が、基準に達しない計算になる。
(上記記事より)

■「下位15%を最低ラインに 法科大学院の質向上へ素案」(MSN産経ニュース)

適性試験は、法科大学院での教育に必要な判断力や思考力、分析力といった基礎学力をみるための1次試験で、大学入試センターと日弁連法務研究財団がそれぞれ実施している。しかし、学生数確保のため、非常に低い点でも合格させる大学院があったという。
このため、案では、非常に低い点数の受験生を入学させないため、平均点などを考慮しながら、総受験者数の下位から15%程度を目安に「最低基準点」を設定するなど、適性試験の厳格な運用を求めている。
さらに、試験の公正さを図るため、現在2団体で実施している試験も、統一する必要があるとしている。
(上記記事より)

法科大学院に入学を希望する方は、各大学院が実施する個別試験の他に必ず、統一の「適性試験」を受験しなければならない……ということは、あまり知られていないかもしれません。

そして、その適性試験は現在、以下の2つの団体が実施しています。

■「法科大学院統一適性試験」(日弁連法務研究財団)
■「法科大学院適性試験」(大学入試センター)

どちらを受けるかは、大学院が指定しているそうですが、昨今では「どちらを受験しても良い」という大学院が増えているそうです。

さて。

当初は合格率を7~8割にし、法曹人口の大幅な増加を図ると謳われていた法科大学院。
しかしふたを開けてみると、合格率は法学既習者のコースでも平均4~5割、法学未修者では3割程度に留まっています。

その原因は、司法制度改革構想時の政府の思惑に反し、法科大学院がたくさん設立されたためです。

(過去の関連記事)
■受験者減 揺れる法科大学院
■平成20年新司法試験の結果が明らかに 各法科大学院の合格率は?
■「Aが多すぎる」 大阪市立大学法科大学院の成績評価に、文部科学省が懸念?

合格率が低迷する法科大学院は、定員を確保するのにも苦労している様子。
そのため、自主的に定員を縮小したり、統廃合を検討したりといった大学院も出てきています。

そして政府の方針も、おそらく法科大学院の削減に向かっています。
今回の報道にある中央教育審議会の議論もおそらく、そういった政府の方針をある程度、反映したものでしょう。

■「中央教育審議会:法科大学院特別委員会」(文部科学省)
(↑まだ当日の議事録がアップされていないため、詳細は不明)

すでに定員割れを起こしている、あるいはかなりギリギリの入学者確保を強いられている法科大学院にとって、この「15%ルール」は大きな影響を与えるでしょう。
かなり学生を減らすことも予想されます。

「15%ルール」が適用されたら、統廃合を検討している法科大学院にとっては、決定を促すきっかけになるかもしれません。

実質的には、政府による、「法科大学院削減のための一手」なんじゃないかと思います。

もっとも、法曹の水準を維持することは国策として大事ですから、ときにはこのように介入をする必要もあるかもしれません。
個人的にも、法科大学院は多すぎると思いますし、「法学部がある以上、法科大学院がないと沽券に関わる」と、安易に設立をしたところもなかにはあるでしょう。
法科大学院は、もう少し減ってもいいようには思います。

ただ、「適性試験」の点数でそのコントロールを行おうという方針には、ちょっと疑問を覚える部分もあります。

例えば、ある報道には、以下のような衝撃的な(?)記述がありました。

適性試験は、入学試験の際に小論文や面接とともに行われている。司法試験の成績との間に相関関係はみられず、配点を下げる法科大学院が増えているが、思考力や分析力など見るうえで重要だと指摘。受験者の下から15%程度は門前払いにすべきだとした。
「法科大学院適性試験、下位15%門前払いへ…中教審特別委報告案」(読売オンライン)記事より。強調部分はマイスターによる)

法曹の能力を測るために、国として実施しているのが、司法試験。
でも、その司法試験の成績と、適性試験の成績との間には、相関関係がないのだそうです。

それって、適性試験になっていないのでは……と思うのは、マイスターだけでしょうか。

だって、適性試験の点数が低くても法科大学院をちゃんと修了し、司法試験に合格している人が大勢いるということでしょう。
それなのに、この適性試験の点数で、一律に足切りをしていいのでしょうか……?

この場合、相関がないということはつまり、適性試験として機能していないということでしょう。
にも関わらず、「思考力や分析力など見るうえで重要だと指摘。受験者の下から15%程度は門前払いにすべきだ」……と審議会の方々が自信満々で断言してしまうのは、なぜでしょうか。
なんだか、ちょっとよくわかりません。

法科大学院の学生を絞るために使えるのであれば、何でもいいんじゃないだろうか……と、思わず邪推してしまいます。

ちなみに大学入試センターが実施する適性試験については、過去問題がネットで公開されています。
よければぜひ、実際に問題をご覧になってみてください。

■「平成19年度法科大学院適性試験 試験問題・正解(本試験)」(大学入試センター)

言語や数理など、様々な面から受験者の論理的思考能力などを測る問題が並んでいるようですね。
司法試験とは、確かにあんまり、直接の関連はなさそうです。

「法科大学院での学びに耐えられるかどうか、を測る試験」

なのかな……と思いつつ、でも、だとしたら大学院によって一律に「15%」って決めちゃうのも適切なのかな~、なんて、個人的には色々思ってしまいます。
下位15%の人を丁寧に鍛える大学院だってあってもいいじゃない、と思うタイプなので。

最終的に「司法試験」という、水準を測定する試験がある理由を、改めて考えてしまいます。

あと冒頭の記事は、現在2つの団体が実施している適性試験を統一する必要性についても触れられていますが、

担当の永田専務理事より、大学入試センターが2010年を以て適性試験実施を取り止める予定であるが、今後の実施主体をどうするかについて2009年3月の総会に具体的な案を示す方向で作業中であること、目下のところ、当協会又は当協会が主導する委員会が主体となり試験実施について業務委託する方向で検討中であるが、財政面の問題、及び、大学入試センターが実施している適性試験を継承し得るか等の問題があることが報告されました。
「News letter No.21(2009年1月13日)」(法科大学院協会)より)

……なんて、法科大学院協会の会報に書かれているのを見つけてしまいました。
既に裏で結論は出ていて、それに合うように議論の途中経過を報告しているだけなんじゃ、という気もするのですが、実際のところどうなのでしょうか。

以上、何かとつっこみどころの多い、法科大学院関連の話題をご紹介させていただきました。

マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。