マイスターです。
大学関係者以外の方から注目を集めそうな記事がありましたので、ご紹介します。
【今日の大学関連ニュース】
■「東大、会議は午後5時まで 仕事と生活の調和目指す」(Asahi.com)
東京大学は3日、新年度から、原則、午後5時以降の公的な会議を行わないことを決めた。この日定めた「男女共同参画加速のための宣言」の中の一項で、教員に、仕事と生活のバランスを考えてもらい、特に女性研究者の活躍を促すのが狙いだ。
東大によると現在、事務部門は午後5時以降の会議を行っていないが、教員の会議は授業終了後に始められたり、予定が延びたりして、終了が午後5時を回ることもある。今後、開始時間を早めたり、会議のスピードアップを図ったりして、午後5時終了を徹底したいとしている。
(上記記事より)
学生の立場ではあまり気づかないことですが、大学では、様々な会議が行われています。
理事の皆様による、経営に関する会議。
全学、学部別、学科別など、様々な規模で行われる「教授会」。
入試や広報、教務や総務など、各種の業務を担当する教職員が集う「○○委員会」の会議。
その他、細々としたものまで、非常に多くの会議が実施されています。
大学教員の方々のブログなどを拝見すると、必ずと言っていいほど、会議に対する不満の記述が見られます。日本の大学教員というのはそのくらい、長い会議を、たくさん行っているのですね。
そんな大学の会議のあり方を、問題だと指摘する関係者は、実は少なくありません。
どんなことが問題になっているのか、マイスターが様々な大学関係者から聞いた意見をもとに、ちょっと書き出してみます。
【会議が多い】
教員の方々からすると、参加しなければならない会議が異様に多いのです。
理由は単純で、「学内のことは、何でも教員が議論で決めなければならない」……とされているから。
広報や総務の決定事項など、「それは職員が考えることでは?」と思うようなことも、教員による「○○委員会」などが議論して決める。そして職員は、会議ではメモ役に徹して発言をほとんどせず、会議で決められた決定事項に従う実行部隊となる。
これが、多くの大学で実際にしばしば行われている、業務の現状です。
そして教員は、助教→准教授→教授と昇進するごとに、出なければならない会議が増えて研究の時間が減るという、皮肉なシステムになっています。
こうした会議の数々が、貴重な研究や教育のための時間を奪っている元凶の一つなのは、間違いありません。
こうなってしまう原因は色々です。
教員が「事務なんかに自分たちのことを決定させられるか!」と主張し、結果的に、不要な会議を自分たちで作り出していることもあるでしょう。
逆に、そういった長い慣習にどっぷり浸かった職員の側が、「そういったことはセンセイ方のご判断を仰がなければ」と言って、自分たちが担うべき決断責任を教員に転嫁しているという側面もあると思います。
多くの場合、どちらにも原因があるのだと思います。
そして不幸なことに、一部の方がこういった現状を変えようと動いても、慣習だしとか、面倒くさいしとか、それはあちらの仕事だしとかいった理由で、変えられないことが多いようです。
【会議が長い】
これも理由は明らかです。
大学で行われる会議の多くは、「議論のための会議」だから。
大学で決定される物事の多くは、合議制で進められます。一番わかりやすい例は教授会ですが、上述したようにそれ以外にも、大小様々な会議が行われ、色々なことが判断・決定されています。
そして大抵の会議は、「各学部の代表」や、「各学科の代表」のように、各組織が代表者を出しあう形で行われます。
こうした会議の参加者達のミッションは、
「自分が所属する学部や学科の意見にもとづいて意見を出す」
「議論した結果を、また自分の学部や学科に持ち帰り、そこで全員の判断を仰ぐ」
この2点です。
つまり誰も、その場での決定権を持っていない会議なのです。
これを延々繰り返すから、会議がいつまで経っても減りません。
会議のために会議をする仕組みになっています。
議事録を見れば明らかです。
通常、企業などが行う会議の議事録には、
■スケジュールについて
・○月○日までに、○○社の○○が、○○社の○○に対してメールで企画案を提出する。
■企画の内容について
・○○のイベントの告知を盛り込む。
・○○の日程を、○○が○○に、○日までにメールで提案する。
■次回の会議について
・○月○日、○○社にて行う。
以上
……といったように、基本的には決定事項しか書かれていません。
議論の過程を記述したところで、今後の展開には意味がないからです。
逆に言えば、然るべきメンバーで物事を決定するために、会議を行っているのです。
これに対し、大学の会議の議事録は
■○○のあり方について
・○○委員から、「○○」といった提案が出た。
・○○委員からは、「○○」といった発言もあった。
・○○委員から、○○に関する資料を次回までに用意するよう、意見が上がった。
→○○課の事務局が対応することとなった。
:
(略)
:
・○○については、再度各学科に持ち帰って意見を検討することとなった。
■次回の会議について
・事務局が各委員から予定を集約し、メールにて連絡することとなった。
以上
……等々、議論の過程に関する記述がびっしりと入っています。
大学人が企業の会議の議事録を見たら驚くでしょう(逆もまたしかり)。
この議事録を事務局(職員)がまとめて委員(教員)に届け、その議事録を教員は、自分の学部や学科の同僚達にメールで共有したりします。
(その後、「私が○○という意見を言ったはずだ。ちゃんとあの発言も、議事録に入れてくれないと困る」という主張が出て、修正版の議事録がまわったりするのもたぶん、大学ならではの光景です)
このように、「結論を出す」というゴールが明確でないから、会議は長くなりがち。
何時間もかけて延々と意見を出し合う、長~い会議が大学に多いのには、上記のような事情が関係しているのではないかとマイスターは思います。
※ついでに言うと、こうした会議の議事録をつくっているのは、職員の中でも、管理職クラスの方です。
なぜかというと、教員の会議には、「教員と同席して然るべき」職員が出席するのが当たり前と思われているから。
このため大学では、非常に年収の高い課長級の職員が、テープを起こして議事録を作成するために多くの時間を費やしている風景がしばしば見られます。
【会議の議題が、ときに、しょうもない】
「学内のことは、何でも教員が議論で決めなければならない」という考え方が行き過ぎると、教員、職員ともに不幸なことになります。
マイスターがこれまで聞いた中で一番ひどい会議の例は、
「教員達の駐車場の並びを決めるために、教授達が集まって議論する会議」
です。
そんなこと、一気に決めてしまえば、誰にだって1人で決められるのです。
ただ、そうした決定事項に、「誰が決めたんだ! ワシは聞いてないぞ!」……と主張される方がひとりでもいるから、会議が減らないのだろうと思います。
結果、時間が無駄に費やされますし、それは教職員の人件費など、コストの浪費にもつながります。
会議のあり方を見直すことが大学を変える第一歩ではないか、という意見すら聞かれますが、マイスターも同意見です。
以上、マイスターの独断と偏見が多分に混じっていると思いますので、
「ウチの大学は違うぞ!」
……という方、お許しを。
でも、マイスターは教員にも職員にも、多くの大学関係者からお話しを伺いましたが、こういった現状は、少なからぬ大学で起きているのではないかと思います。
さて、会議を午後5時以降は行わないことにするという、東京大学の方針を報じる冒頭の記事です。
夕方以降に会議を行わないという方針は、優秀な教職員(特に女性)を集める上でも、一定の効果を発揮しそうです。
「ワークライフバランス」という言葉もありますが、男女限らず、こうした環境に魅力を感じる人は少なくないと思います。
でも、それ以上にこの方針には、ルールという強制力によって
「無駄な会議を極力減らす」
「会議を極力、短くする」
……というミッションが秘められているのではないか、とマイスターは感じました。
上述したような、大学の会議の多さ、長さがこういったルールによって改善されるのだとしたら、他大学にとっても参考になるかも知れません。
ちなみに、アメリカの大学で勤務した経験がある教員の方に伺ったところによると、あちらでは、教員同士の会議は、授業が始まる前の早朝に行うことも少なくないのだそうです。
(例えば、AM8:00からとか)
大学に限らず、日本社会では、会議は後ろの方に設定されがちですが、いっそ早い時間にすれば、終了時間も自動的に決まるし、良いかもしれませんね。
会議のマネジメント。
単純なようで、実は非常に大きな意味を持っているトピックだと思います。
以上、冒頭の記事を読んでそんなあれこれを考えた、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
大学の会議が長引きがちなのは、「ゴール」が明確ではないということがあるのではないかと思います。人文系の場合などは、卒業後10年以上経たないと教育効果が卒業生に自覚してもらえないということもあります。
その為、何らかのアクションを起こしたとしても、その結果を確認することができずに次のアクションを起こさねばならなくなります。
先のアクションの硬貨が分からないままに次のアクションを起こすのですから、闇雲にならざるを得ません。だからこそ、なかなか思い切ったことはできないし、様々な可能性を考えるためにも議論の過程は重要なものになります。
もっとも、おっしゃるように、大学のミッションは何かということを脇に置いたような会議が多いことも事実ですが。
なお、ご紹介いただいた記事などは、教員の人数が多い大学だからこそ可能であろうと思われます。私が勤務する小規模大学では、時折、日付が変わってから始まるような会議もあります。
これに出席する事務の方はみな管理職ですが、それは「時間外手当」の問題から管理職が出席することになっているのだそうです。
これも、それぞれの役職のミッションを無視した人選ですね。
纏まりのないコメントで失礼いたしました。
私が大学に来て驚愕したのは、議事録の確認を次の回に行うということ。ったくアホの集まりだねえ。
事ほどさように全てが後手後手。今年の18歳人口は18年前にわかってるのになあ。せめて賞与くらいは業績連動にしないと、現状をリアリティを持って感じることはできないのだろうと思う。