マイスターです。
英国・リヴァプール出身の世界的な有名人、ビートルズ。
そんなビートルズの名前を冠した非常に珍しいコースが、地元の大学にできたそうです。
【今日の大学関連ニュース】
■「『ビートルズ学』で修士号 リバプールの大学、世界初」(47NEWS)
英ロックバンドのビートルズの故郷、中西部リバプールにあるリバプール・ホープ大の大学院はこのほど、ビートルズ研究で修士号が取得できるコースを開設した。大学側は「おそらく世界で初めて」のコースだとしている。
学位の名称は「ビートルズ、ポピュラー音楽そして社会学修士」。学生はビートルズの楽曲だけでなく、ビートルズを生んだリバプールの街や時代背景などの研究ができ、講義と論文審査で学位が得られる。
このコースで音楽の講義をする教員マイク・ブロッケン氏は「ビートルズについては8000以上の本が書かれているが、学問として真剣に研究されたことはない。それでわれわれが取り組むことにした。リバプールはビートルズ研究にふさわしい場所だ」と話している。
(上記記事より)
というわけで、以下が大学による公式発表です。
■「Hope Launches World’s First Beatles MA」(Hope University)
ビートルズを絡めた卒論を書いた学生は世界中に数え切れないほどいると思いますし、独自に研究をされている研究者も多いと思いますが、正式なコースというのはなかったのですね。
古典に分類される作家や芸術家などがこのように扱われることはあるかもしれませんが、近代のミュージシャンというのは珍しいように思います。
時代を象徴する存在なのは間違いないでしょうから、研究したら面白いかもしれませんね。
ビートルズの楽曲だけでなく、当時の社会のあり方なども含めて研究するということであれば、確かにリヴァプールほどそれに向いている場所はないのだろうと思います。
既に英国内はもちろん、海外からも問い合わせが来ているとのことです。
ところで、このコースの名称は「The Beatles, Popular Music and Society」。
MA、つまり「Master of Arts」の学位になります。
正式に学位を表記するとしたら、学位の名称に専攻分野を添えて、「MA in The Beatles, Popular Music and Society」みたいになるのでしょうか。
極めて珍しい(というか世界に一つしかない)学位表記だと思いますが、どんなことに関心を持ち、どんな領域について学んでいたのかは一目瞭然ですね。
学位というのはもともと、その人がどのような学問を修めたか――つまり、どのような能力を持っているか――を証明する存在。
したがってどんなに珍しい研究分野でも、学位表記にする場合は、わかりやすさが命です。
「何を勉強していたんだか、まったくわからん」みたいな学位名称では、その証明の役割を果たさないことになってしまいます。
このビートルズのニュースを見てマイスターは、日本の学位表記の話を思い出しました。
日本の大学は、学位を授与する際に付記する専攻分野の名称を、どのように記載しているか。
「大学評価・学位授与機構」が2005年に、そんな調査をした結果があります。
■「学位に付記する専攻分野の名称」(大学評価・学位授与機構)
上記から、学士、修士、博士それぞれの名称一覧を閲覧することができますので、ご興味のある方はぜひご覧下さい。
全国の大学に郵送で調査用紙を配布し、回答を依頼するという形式で調査は実施されており、回答率は100%ではないため、完全な数字とは言えません。
ただ少なくとも、学士号だけでも580種類はあることが、この調査で分かっています。
そしてその6割は、「全国で一箇所の大学しかその専攻名称を使っていない」という、オンリーワン学位になります。
オンリーワンであっても、「名称を見れば内容は想像できる」というケースもあれば、「何を学んだのか全然わからない」というケースもあります。
(あと、日本語ではかろうじて意味がわかっても、英語表記にした途端、全然わからなくなる学位も多いように思われます。
「MA in The Beatles, Popular Music and Society」は、研究領域の内容を簡便な言葉で普通に説明しているだけですが、日本の学部学科名称には完全な「造語」「新語」も多く、それを無理矢理、直接的に英語にするから、ややこしくなるのかもしれません)
文部科学省には、カタカナのものを含め様々な名称の学部・学科設置申請が届けられています。
学科名がちょっと変わっていても、実際に授与される学位は「学士(工学)」だったり、「学士(経営学)」だったりすることもあるでしょう。
その一方で、学部名称をそのまま学位の名前にするところも、少なくないのです。
1991年の大学設置基準の大綱化により、それまで「文学士」や「工学士」など、29に限られていた専攻名の制限がなくなりました。
ちょうど少子化が進む中で、受験生にウケが良さそうな目新しい名称や、カタカナを駆使した長い名称を学部・学科名に採用する大学が増え、それがそのまま、こうして学位の専攻名称の急増に繋がったものと思われます。
全国で一つしかない学位なのだから、当然、持っている人、知っている人はほとんどいません。
オンリーワン学位には、その学部・学科をつくった関係者達の
「これは新しい学問なんだ。それを修めた誇りを持って欲しい」
という熱い想いが秘められています。
新しい学問分野を生み出すことは、悪いことではないと思います。
「スペシャルなことを学ぼう」という意欲にあふれた学部学科名称も、それ自体には問題はありません。
しかし学位表記においては、話は別です。
「一体どんな学問を修めたんだか、世の中のほとんどの人にわかってもらえない」というのは、その人の学問的な知識やスキルを証明するためのものとして、何かと都合が悪いこともあるでしょう。
特に、海外に行った場合は、それが顕著です。
例えば海外に行って、自分のバックグラウンドを説明するような場面では、「どんな学位を持っているか」という点が、それなりに重要になってくることもあるはずです。
具体的な例を挙げると、例えば留学などで海外の大学に編入したりする際、日本で学んだ単位を認可してもらうのに、苦労したりします。
一方、日本国内において、学位名称であんまり困ったという話を聞かない理由は単純です。
ひとつには、日本の社会は、学位がその人の能力を証明するものだとほとんど思っていないから。
もうひとつには、日本では一度その大学に入学したら、取得した単位を持って別の大学に移るということはまずなく、単位認定などの仕組みがほとんど活用されていないからです。
逆に言うと、こういった現状が今後変わっていくとしたら、その時に困った事態が様々なところで起きるかもしれません。
こういった専攻名の急増ぶりについては問題視する声も多く、中央教育審議会などからも、一定のルール作りが必要だという意見が過去、何度かあげられています。
個人的には、統一する必要はないけれど、わかりやすさは大事なんじゃないか、という意見です。
「The Beatles, Popular Music and Society」の例のように、オンリーワンでも、見ただけで何を研究したか伝えられる名称もあるでしょう。
そして、こういった名称が、その人のオリジナリティを証明する役割を果たすこともあると思います。
学位の果たす役割をもっと社会的に認知してもらうためにも、新しい学部学科をつくる際に、関係者の方々には、学位の影響力や認知のしやすさについて、ぜひ考えてみて欲しいと思います。
以上、自分も、何をやったのか名前からは全然分からない学位を持っている一人の、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。