マイスターです。
「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」という法律があります。
簡単に言ってしまえば、名称の通り高齢者や障害者の方が、生活の中で様々な施設や交通機関を利用したりする際、困ることがないような社会をつくるために策定された法律です。
バリアフリー社会を促進するための法律ということで、通称、「バリアフリー新法」。
この法律では、バリアフリー化をする建物や施設を、以下のように2段階で指定しています。
【高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律】
(特別特定建築物の建築主等の基準適合義務等)
第十四条 建築主等は、特別特定建築物の政令で定める規模以上の建築(用途の変更をして特別特定建築物にすることを含む。以下この条において同じ。)をしようとするときは、当該特別特定建築物(次項において「新築特別特定建築物」という。)を、移動等円滑化のために必要な建築物特定施設の構造及び配置に関する政令で定める基準(以下「建築物移動等円滑化基準」という。)に適合させなければならない。
(特定建築物の建築主等の努力義務等)
第十六条 建築主等は、特定建築物(特別特定建築物を除く。以下この条において同じ。)の建築(用途の変更をして特定建築物にすることを含む。次条第一項において同じ。)をしようとするときは、当該特定建築物を建築物移動等円滑化基準に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(法令データ提供システム)より)
わかりにくいかもしれませんが、つまり
■「特別特定建築物」は、基準で定められたバリアフリーの仕様に適合させなければならないという義務がある
■「特定建築物」は、基準で定められたバリアフリーの仕様に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない
……という点。
前者がバリアフリー化を義務づけられているのに対し、後者は努力義務に留まっているというところが違うのです。
そして、「学校」は、(特別支援学校を除き)後者の「特定建築物」に入ります。
↓具体的な指定の内訳は以下の施行令の第四条、第五条にありますので、ご興味のある方はご覧下さい。
■「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律施行令」(法令データ提供システム)
今のところ学校の建築物は、バリアフリー化を義務づけられてはおらず、「努力義務」だけを課せられている状態です。
ちなみにマイスターは、法律策定の議論に関わった研究者から、「個人的な想いとしては、できれば学校も特別特定建築物に入れたかった」というお話を伺ったことがあります。
ただ、「学校」となると、全国津々浦々の小中学校や高校、そして大学などなどが含まれますから、いきなりすべてにバリアフリー化を義務づけるのは影響が大きすぎる、ということで実現はしなかったようです。
したがって大学においても、どの程度キャンパスや研究施設のバリアフリー化を進めるかは、大学ごとの裁量に任されているのが現状です。
だからこそ差が付きやすい……と言えるかもしれません。
前置きが長くなりました。
ここ最近、バリアフリーに関する大学関連ニュースをいくつか見かけましたので、ご紹介したいと思います。
【今日の大学関連ニュース】
■「京大、バリアフリーの案内図作製 吉田キャンパス構内の情報網羅」(京都新聞)
京都大身体障害学生相談室は、車いすを利用する学生や来訪者のための構内案内図「京都大学フリーアクセスマップ」を作製した。
京大病院をのぞく吉田キャンパス(京都市左京区)の、車いす対応のエレベーターやトイレ、建物入口のスロープや段差、坂道や悪路などの情報を盛り込み、目的地までの道筋がよく分かる。
3000部作製し京大正門インフォメーションセンターなどで配布し、ホームページにも掲載する。今後は利用者の意見を踏まえて内容を充実させるとともに、病院や宇治と桂の両キャンパスの地図も作る。
(上記記事より)
京都大学の取り組みです。
以下から、実際の「フリーアクセスマップ」を閲覧できます。
■「フリーアクセスマップ(バリアフリーマップ)」(京都大学)
こういった取り組みは、以前から全国の大学で行われています。
バリアフリー委員会やバリアフリー推進室といった機関を学内に設けている大学は多いですし、その一環として、バリアフリーマップを作成・配布している大学も珍しくはありません。
歴史のある大学のキャンパスにお邪魔すると、建物自体はレンガ造りでかなり古いのに、押さえるべき部分はちゃんとバリアフリー化されていて、感心させられることが良くあります。
例えば大学に問い合わせをして、バリアフリーマップなどがすぐに出てくるかどうかで、その大学の取り組みの浸透度合いが測れそうです。
「バリアフリー新法」の特別特定建築物にはならなかったとはいえ、本来であれば大学キャンパスは、不特定多数の方に訪れて欲しい場所。
ぜひ、積極的に対応を進めていただければと思います。
続いての話題はこちら。
■「富山大公開研究会:学業現場のバリアフリー目指し、障害学生の支援を議論 /富山」(毎日jp)
障害がある学生への支援のあり方を考える富山大の公開研究会が28日、富山市の「名鉄トヤマホテル」で開かれた。研究者や教育関係者ら約70人が参加。障害者の学生を受け入れるために必要な取り組みや課題、大学、社会にもたらす効果について考えた。【蒔田備憲】
テーマは、「理系の大学院の障害学生支援を、今、変える」。同大大学院生命融合科学教育部(博士課程)が今春、障害者の特別選抜枠を開設したことを受け、開催した。
初めに、全盲学生が全国で初めて大学の理系学部に進学するのを支援した、鳥山由子・筑波大障害学生支援室副室長が基調講演。理系の障害学生支援に必要な配慮について、実際の授業風景をスライドで紹介しながら、「専門用語の文字・音声情報が不足している」、「実験器具を工夫して使いやすいようにする」などと説明。「『これはできないだろう』と決めつけをせず、その学生がどうすればできるのかをきちんと見てあげてほしい」と訴えた。
続いて、視聴覚に障害がある「盲ろう者」として、日本で初めて博士号を取得した東京大先端科学技術研究センターの福島智教授が講演。盲ろう者で初の大学教員になるまでの経験を紹介しながら、「障害がある学生、教員を受け入れることは、大学の多様性を生み活性化させる。さらに『大学から社会を変えていく』というメッセージを発信する力にもなる」と呼びかけた。
(上記記事より)
「理系の大学院の障害学生支援を、今、変える」というのは、非常に興味深いテーマです。
大学には様々な施設・設備があります。
授業で使用される普通教室については、バリアフリー化や、各種の視線環境の整備も比較的進んでいると思います。
ただ、「研究環境」となると、また大学によって大きな差が出てきそう。
研究に使われる建物や設備機器なんて、それこそ膨大です。すべてをバリアフリー化している大学なんて、果たしてあるのかどうか。
少しずつ、現在、そしてこれから、対応が進められていく分野かもしれません。
この記事を読んでマイスターは、最近、『日本でいちばん大切にしたい会社』という本で紹介されたことでも話題になった、「日本理化学工業株式会社」という会社を思い出しました。
障害者を工場の製造現場などで雇用するにあたり、彼らを環境にあわせるのではなく、製造ラインの機器や環境を彼らに合わせるように工夫したという企業です。テレビなどでもよく紹介されていますので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
あれの「研究版」が求められている、ということなのかなと思います。
最後は、こんな話題を。
■「『無関心からの脱却を』 大学周辺のバリアフリー度調査 西南大生が研究発表会」(西日本新聞)
西南学院大(福岡市早良区)の学生が大学周辺のバリアフリー度を調査し、暮らしやすい街づくりについて住民と話し合う研究発表会が28日、同大で開かれた。
調査は、主に社会福祉学科の3年生が受講するゼミの現場実習の一環として実施。歩道や商店街、地下鉄の駅などを目隠しや車いすで通行した。
歩道と入り口が同じ高さに設けられた店舗がある一方で、坂道の傾斜が急で車いすが進みづらかったり、点字ブロックが途切れた場所があったりし、学生らは写真を見せながら問題点を指摘。多目的トイレを多く設置するなどの対策を提案した。
(上記記事より)
西南学院大学の学生達による取り組みです。
キャンパスの中に限らず、地域のバリアフリー化の状況を調べ、住民と話し合うというもの。
実際に使う立場になってみると、法的な一律対応などだけではなかなかカバーし切れていない部分もあるのですよね。それを、学生が実際の体験調査をふまえて街づくりにつなげていくというのは、非常に意義のある取り組みだと思います。
社会福祉学科の学生さん達による取り組みだとのことですが、街に関わる様々な学科・専攻の方に関わっていただくといいですよね。
ちなみにマイスターも、建築学科で学ぶ学生だったとき、授業の一環として雑誌に載っているような話題の建物を自分で選び、車いすで訪れるという課題に挑戦したことがあります。
実際に体験してみて、初めてわかることがたくさんありました。
マイスターはある美術館で実験をしたのですが、その美術館の関係者には実験であるということを教えぬまま、いきなり車いすで訪れたので、施設の方々を含め、周囲の人がどのように接してくるかということも知りました。非常に参考になりました。
また、出入り口とかエレベーターとか、誰にでも思い当たりそうな部分はわりと対策が採られているのですが、「美術館の中のカフェのカウンターが高くて見えない」とか、「公衆電話をかけようとしても車いすが邪魔で届かない」とか、意外なところがハードルになっていたりすることに気づきました。あと、スロープがついているのは良いけれど、あまりに長くて、上っている間に途中でバテたりもしました。
一見バリアフリーなようで、実際には健常者の設計だという事例は山ほどあると思います。
でも、こういったことはアタマで理解しただけではなく、実際に体感してみなければ、なかなか気づけないでしょう。
大学には様々な知が結集していますし、それこそ様々な学生さんがいます。障害のある方も学んでいます。こういった方々が集まったら、色々な改善案が浮かんでくるかもしれません。
以上、バリアフリーに関する3つの話題をご紹介しました。
こういった取り組みの根底にあるのはノーマライゼーション、つまり、「障害者とか健常者とかいった特別な区別なしに、社会生活を共におくるのが正常(ノーマル)」だと考え、またそのための社会の実現を目指すという考え方です。
世の中には様々な個性があり、それが共存しているのが私達の社会。
学びを通じて、そんなことが実感できるような大学は、素敵だと思います。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。