マイスターです。
早稲田塾のスタッフとして、塾生の進路指導に関わる機会があります。
大学で働いていたときにも、いち教務課スタッフとして進学説明会に派遣されたりはしていましたが、ひょんなことから、「学部学科選び」や、「大学選び」を高校生と一緒に考える立場になりました。
「どうしたらウチに来てくれるのか?」と考える側から、「どんな大学がこの子にはあっているか?」と考える側にまわるというのは、非常に新鮮。
この両方にまわったからこそ「そういうことか」とわかってきたことも、少なくありません。
さて、進路指導について、興味深い調査結果が発表されました。
【今日の大学関連ニュース】
■「進路指導『難しい』91% リクルートの高校調査」(47NEWS)
進学や就職など高校生の進路指導について「非常に難しい」「やや難しい」と感じている学校が91%に上ることが21日、リクルートの調査で分かった。家庭や雇用環境の悪化など不況の余波を指摘する回答も目立ち、同社は「社会情勢の変化が指導にも影響している」と分析している。
調査は昨年10月、高校の進路指導主事の教員を対象に実施。全国の国公私立910校が回答した。難しさの要因(複数回答)で最も多かったのは、生徒の「進路選択・決定能力の不足」で65%。次いで教員の「時間不足」が62%、「入試の多様化」が61%だった。
2006年調査で57%あった「学力低下」は45%に下がったが、「家庭・家族環境の悪化」が44%から50%に、「産業・労働・雇用環境の変化」が33%から46%にそれぞれ増えていた。
(上記記事より)
リクルートの調査結果。
リクルートによるレポートは、以下で閲覧することができます。
■「高校の進路指導に関する調査 [PDF document 315Kb]」(リクルート)
【進路指導の難しさの要因(上位5つ)】
・進路選択・決定能力の不足<生徒>65.0%
・教員の進路指導に関する時間不足<教員>62.1%
・入試の多様化<進路環境>60.8%
・学習意欲の低下<生徒>60.0%
・進路環境変化へ認識不足<保護者>52.2%
(「高校の進路指導に関する調査 [PDF document 315Kb]」(リクルート)より)
このように、生徒に進路選択・決定の力が欠けているのが一番の原因、という結果になりました。
確かに、現場で生徒と接している感覚として、そう感じる先生方が少なくないなのかも知れません。
これに関連して、個人的に普段から感じているところを、書かせていただきたいと思います。
おそらく、もともと大多数の高校生にとって、進路を選択したり決めたりするのは、極めて難しいことなのです。
これまでは、今ほど進学の選択肢もありませんでしたし、「偏差値の高い大学に行けば間違いはない」という価値観が、周りの環境(家庭や学校)に蔓延していましたから、それに沿って選ぶ人も多かったと思います。
(それが良いか悪いかはともかく)高校生を取り巻く大人の意見や、社会環境の状態などによって、ある部分までは「こう選べば問題はない」というガイドが自動的になされていたのではないでしょうか。
大学の方にも、今ほど選択肢はなかったと思います。
ですから、進路指導を行う側も、今ほど大変ではなかったでしょう。
ただ、現在はそうではありません。
大学での学びも、あるいは大学の先にある働き方や生き方も、ずいぶんと多様になりました。
もう、世間的に聞こえの良い大学に進学したことが、自動的にその後の人生の安定をもたらしてくれるとは限りません。
親の世代が持っている「進学」のための前提条件は、かなり変わってしまったと思います。
はっきりいって、進路選択の幅は、親世代と比べて比較にならないくらい広くなっています。
これはマイスターが思うには、非常に良いことであり、喜ばしいこと。
高校生を含め、多くの方は、こうした変化を歓迎していると思います。
ただ、進路指導を担う学校の教員の皆様にとっては、相当に大変なことでしょう。
「進路指導が難しくなった」と高校教員の方々が思う要因のひとつは、進路選択のための様々な制限・制約が外れ、高校生の選択肢が大きく増えたことなのではないかと、個人的には思います。
そして、上記の調査項目の2番目にもあるように、日本の高校教員は、とにかく多忙です。
進路指導だけをやっていればいいわけではありません。ここに使える時間はかなり限られている、という方が正確かも知れません。
授業や各種の学務に追われながら、毎年のように増えつづける大学情報のすべてを把握し、担当する高校生達全員に対してアドバイスをしていくというのは、きわめて困難。
というか、独力では、ほとんど不可能なのではないかとすら思えてきます。
大学への要望(複数回答)では、論文や面接などを重視する「アドミッション・オフィス(AO入試)・推薦入試の実施時期のルール化」が56%でトップ。一部で「青田買い」とも言われる早期実施に批判が集まった。
「分かりやすい学部・学科名称」は35%で、名前だけでは何を学ぶのか分かりにくい学部、学科が増えていることへの戸惑いをうかがわせた。
(上記記事より)
↑このあたりの回答も、いかに学校の教員の方々が、進路指導に時間をかけられていないかを端的に示しているように思います。
「分かりやすい学部・学科名称」を望む教員が多いというのは、逆に言うと、
「何を学べる学部学科なのかということを、名前だけで判断している高校教員が少なくない」
……ということに他なりません。
確かに、耳慣れない名称の学部学科が増えています。かつては、どの大学にも同じような名称の学部学科しかなかったのですから、とまどうのもわかります。
ただ、事実を言ってしまうと、そもそも名称だけで大学や学部学科を選ぶ方にかなり無理があるのです。
名称を頼りに進路を選ぶのは当たり前……ではありません。本来なら学部学科名称は、その大学の学びを知るための最初の一歩、ほんの入口程度の役割でしかないのです。
実際、同じ名称でも、実は内容が大きく異なることなんて、たくさんあります。
わかりやすく言うと、同じ「経済学科」でも、大学によって学習環境やカリキュラム、担当教員の専攻が違うなんてことは当たり前。今も昔も、これは変わりません。
まして、新しいコンセプトの元で立ち上げられたカタカナ学部なんてのは、なおさらです。
学部学科名称は看板に過ぎません。
看板は大事な情報の一つですが、一生モノの重要な選択をするのであれば、看板以外の中身も見るはず。少なくとも大学関係者の皆様は、そんな風に期待しているのではないでしょうか。
でも実際には、看板を目新しくしただけで、進路指導の現場が困惑してしまう現状があるのです。
理由は単純で、高校の教員に、膨大な大学情報を把握するだけの時間的余裕がないからです。
現状を考えたら、看板を追いかけるだけでも精一杯でしょう。
これは、AO入試の指導に対して(時期も含め)色々と難しさを感じている高校教員が多い、隠れた理由の一つでもあるように思います。
AO入試の指導を本気でやろうと思ったら、通常の一般入試の指導に比べ、ずっと手間も時間もかかります。なぜなら、その大学や学部学科のこと、学問の中身のこと、さらには現在の社会状況まで、様々なことを理解しなければならないから。
真面目で熱心な教員ほど、一人だけでこれにつきあっていたら、倒れます。
「一人ひとりに対し、本当の意味での進路指導を十分に行うのは、多くの高校の現場では、難しい」
……というのが、マイスターの印象です。
ちなみに、早稲田塾には、各校舎で日常的に塾生と接している「ケア・スタッフ」というスタッフ達がいます。
このケア・スタッフは、言わば進路指導のスペシャリスト。
受験以前の「そもそも何故そこなのか」、「自分は何がやりたいのか」といったところから、最終的な出願、および合格までを一緒に伴走しながら考える、プロ中のプロです。
授業を担当する講師陣と連携しながら、塾生一人ひとりの興味関心、目的意識、それに現在の状況を把握して、アドバイスをしています。
この業務は明快なコンセプトや、知識、キャリアを持っていないとつとまりません。トレーニングも必要ですし、指導には当然、かなりの時間と手間をかけてもいます。
加えて、大学の学問や教授などに関する情報を収集・分析するスタッフもいます。
「教えるプロ」である講師や、情報面でサポートを行うチームとうまく役割分担しているからこそ、一定以上のクオリティでこの業務ができるのです。
高校の教員は、このすべてを担おうとしているわけですから、そりゃあ無理があるのも当然です。
大学の関係者は、
「高校の進路指導の現場では、大学の学びについて詳しく高校生に伝えていない!」
……という不満を抱きがちです。
かくいうマイスターもそうでした。
ただ実際には、「伝えたくても伝えきれない」、「あふれ続ける大学情報を追いきれない」という方がきっと正確なのだろう……と思う今日この頃です。
ちなみにアメリカの高校には、教員とは別に、進路指導を担当するための「カウンセラー」と呼ばれる専門スタッフがいるのが一般的だと聞きます。
教員と連携し、ときには大学の担当者と相談しながら、生徒一人ひとりと一緒に適切な進学先を考えていくのがこのカウンセラーの役割です。
実際、大学のwebサイトを見てみると、入学に関する情報を提供するページには、「for Counselors」という記述があることが少なくありません。
(例)
■「High School and Community College Counselors」(UC Berkeley)
■「Information For Counselors & Teachers」(MIT)
そもそもアメリカの場合、大学ごとにミッションが異なります。
「良い大学に入れれば入れるほど、本人にとって良い」
「優秀な学生であればあるほど、受け入れる大学にとっては喜ばしい」
……というものではなく、ときには
「その子が入学しても、本学が提供している教育では満足しないだろう。
他の大学に進学した方がいいのでは」
……なんて提案を、大学側がすることもあると聞きます。
日本よりもいっそう進路選択が重要な意味を持っており、それだけに関わる方もきっと大変です。
授業も進路指導もすべてひとりで把握できたら一番良いのでしょうが、実際にはそれは不可能。
だからこそ、教員とカウンセラーが分業体制を敷いているのかなと思います。
では、日本はどうでしょうか。
日本の大学も、高校側に対して、かなり親切・丁寧に、情報を提供するようになりました。
ただ、上述したような日本の現状を考えると、「高校に対して情報を提供する」だけでは不十分なのかな、という気もするのです。
冒頭の調査結果に関する話、次回に続きます。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。
ご無沙汰しております。いつも楽しみに拝読しています。2007-2008年に在外研究でアメリカに次男を同行し、現地の高校に編入させたため、カウンセラーの方とも接触する機会がありました。確かに、アメリカの高校では教員とは別に専門のアカデミック・カウンセラーがいて、進路指導をしています。息子の高校の場合には、4名のカウンセラーが全校生徒を分担していました。担当者は苗字のアルファベットで入学と同時に機械的に決まり、選ぶことはできません。また、進路指導だけではなく、入学から卒業までどのような科目を履修するか(これが将来の進路と密接に関係します)ということについてもカウンセリングを行います。つまり、入学から卒業までの履修指導・進路指導が一体となっていて、ここが日本の進路指導との大きな違いではないかと思いました。
医者という「職業」を選択する前に、命を救うことが本当にやりたいのかを問いかける。本当に命を救いたいのであれば、医者という職業しかないの?そういうことを問いかけて、生徒に考えさせるのが本来の進路指導ではないかと思います。今の「進路指導」は、「受験業界」を支えるために存在しているとしか思えません。高校の先生方も全身全霊をかけて、生徒の指導をしておられます。しかしながら、ブランド大学への「合格」実績のみが評価基準である風潮を改めない限りにおいては、先生方を責めることは出来ません。「生徒の決定力不足」は、生徒の責任ではなく、我々大人(自称)が子供達に選択させる力をつけてこなかった結果でしょう。経済危機は良い機会です。世界地図を広げて、この国の次世代のことをみんなで考えましょう。
こんにちは。この進路指導についての話はとても興味深い話題です。私は進路指導にいるのですが、マイスターさんもおっしゃるように、うちの学校では
「高校の進路指導の現場では、大学の学びについて詳しく高校生に伝えていない!」
というのが現状です。春や夏に行われるオープンキャンパスに必ず参加すること、ただ行くだけではなく自分のやりたいことが学べるか聞いてくること、などをアドバイスし、あとは個別で対応するのがいっぱいいっぱいです。
あと、もう1つ悩むのが入試対策です。AOや推薦、その他自己アピール入試?などなど、色々な入試形態あり、高校はどちらかというとそうした入試の手続きや事後指導に振り回されるところもあります。昔ながらの先生は推薦=×、という印象を持っている方も多いと思います。(かくいう私もどちらかというと推薦やAOについてはひっかかる部分もありますが。)
以前とある高校の進路指導部の発表を聞いたことがありましたが、その学校の方は「本校では推薦入試を推進していません、一般入試でギリギリまでチャレンジさせる、ということを徹底しています!」とおっしゃっていて、データを見たら上は北海道から下は九州までの国公立がちらばっていました。
生徒にどのようなアドバイスをした、とかそういう話よりも入試へ立ち向かう姿勢の作り方の話がメインでした。私は12年前高校3年生でしたがそのときも同じような指導をされていたのでちょっと複雑な気持ちです。
さて、進路指導の仕事と少しそれますが、進路に関わる話としては非常に重要なものをもっている総合学科の話をさせてください。10年ちょっと前に普通科、専門学科の2学科から「総合学科」という新しい学科が立ち上がりましたが、その総合学科では「産業社会と人間」という科目(必須科目です)で自分の将来を考える、ということをさせています。先生方がああでもないこうでもない、と生徒の将来のことや生徒の嗜好を考えて授業を作る、すばらしいものです。ただ総合学科は普通科に比べると進学志向が多少低い(もしくは進学実績、というものが目立たない)学校が多いせいか、普通科でもやれば、という話はあまり出てきません。「キャリア教育」というコトバを使ってリクルートさんやベネッセさんが教材を作られているので、総合学習の時間で利用されている学校もあるようですが、見ていると「キャリア教育=進学教育」で、キャリア教育をきちんとすれば「進学実績」が上がるからやろう、と考えている先生もいるように感じます。特に普通科に感じます・・・。
私個人としては、今目の前にいる生徒に何が足りなくて何が必要なのか、学校の教員みんなで話し合って教材作りから考える学校が良いと思います。私は総合学科の担任を持ちながら普通科も教えていますが、普通科でももっと自分の生き方について考える時間があったらなあと思います。逆に総合学科でもこうしたらいいな、と思うものがありますが、長くなりますのでこの辺で。失礼しました。