マイスターです。
昨日、東京工業大学の大岡山キャンパスに行く用事がありました。
マイスターがキャンパス内でいつも歩いている道は、ちょうど「鳥人間コンテスト」用の人力飛行機が製作されている工房の前を通ります。
鳥人間コンテストファンであるマイスターは、いつもここを通る度に、心の中で「がんばれ!」と応援しています。
(ちなみに東工大の鳥人間コンテストチームは、いつも優勝を争う強豪。個人的にちょっと親近感のわく名前です)
ただ、ちょうどその翌日である今日、「ウソ!?」と思う報道がありました。
【今日の大学関連ニュース】
■「『鳥人間コンテスト』休止 制作費削減で」(産経新聞 Yahoo!NEWS掲載)
読売テレビは16日、同社の人気番組「鳥人間コンテスト」の今年の大会を休止すると発表した。同番組は1977年に始まり、毎年一度、琵琶湖を舞台に人力飛行機で飛行距離を競う内容で人気を集め、昨年までに32回を数えていた。>
(上記記事より)
そんなわけで、今年の「鳥人間コンテスト」は休止だそうです。
↓こちらが、番組公式サイトによる発表です。
■「鳥人間コンテスト」(読売テレビ)
2009年の大会ですが、残念ながら休止することが決定しました。
昨今の厳しい経済環境はテレビ業界も同様で、番組制作費の見直しが検討されております。その中で、「鳥人間コンテスト」は参加者の安全な飛行を重視して大掛かりなセットや救助システムを組んでおり、予算削減を理由に安全面を軽視することは考えられません。事務局としても、大会開催にむけて検討を重ねてまいりましたが、上記の理由で09年の開催休止を選択しました。バードマン、また関係者の皆さまには、何とぞご理解を承りたくお願いいたします。
なお、2010年は例年通りの開催を予定しております。
また、例年行われております「出場希望者説明会」ですが、今年も下記日程で、大阪・東京にて開催いたします。その場で改めて、09年開催休止と来年の開催に関してご説明をさせていただきます。
(上記ページより)
「番組制作費の見直し」が理由であるとのこと。
視聴率の高い番組であれば、制作費もそれだけ多く出るでしょうから、つまり「大会当日の運営も含めた番組制作費の大きさに対して、満足のいく視聴率が稼げていない」ということでしょうか。
毎年この大会のために人力飛行機を開発している全国の方々にとっては、ショックが大きいと思います。
(この報道を見た瞬間、東工大の工房にいつも夜遅くまで点いている明かりが思い出されました……)
2010年には開催を予定しているとのことですから、今後、ずっとなくなるというわけではありません。
ただ今回、「コストが回収できないのなら、番組制作を続けられない」という厳しい現実が突きつけられたわけです。
2010年以降の大会だって、いつまで続くかわかりません。
確かに、鳥人間コンテストの大会は、滑走路になる土台部分を高く組み上げたり、着水した人力飛行機やパイロットをその都度ボートで回収したりと、コストがかかっていそうです。
安全面は軽視できないというのが番組側の発表で、確かにそこは非常に大事。コストを下げられない以上はやむを得ない、という苦渋の決定なのだろうと思います。
もともと人気のある同番組ですが、そんな状況の中、これまで大会を続けてきたという点でも、評価されて良いのかもしれません。
昨今では、テレビのCMに対するスポンサー側のコスト感覚も、厳しくなってきています。
高いCM放映料に見合う広告効果が本当に得られるのかどうか、という意見もしばしば耳にしますし、実際、企業の中にはテレビからネットに宣伝・広報の軸足を移しつつあるところも少なくありません。
社会的には非常に大きな意義があるし、番組を目にした、あるいは大会に参加した人達はファンになっている。だけど、利益を出せない。だから、継続することが許されない……。
似たようなことは、社会の至るところで起きているのだと思いますが、鳥人間コンテストもそういった地点に追いやられているのでしょう。
2010年以降の大会がどうなるのか、とても気になります。
工学系大学の関係者は、色々な意味で、今回の報道にショックを受けているのではと思います。
技術者を養成する工学系の大学が大切にしているのが、ものづくり体験。
授業ではもちろん、課外活動としても、学生が様々なものづくりに挑戦することが奨励されています。
・ロボコン
・鳥人間コンテスト(人力飛行機)
・ロボサッカー
・エコカーやソーラーカー
・各種のソフトウェア
・建築構造物
……などなど、大学生がものづくりの腕を競える場も、現在ではたくさん用意されています。
おかげで学生は様々な取り組みに挑戦できるわけですから、ものづくり大国の看板を掲げる日本にとっては、悪くないことだと思います。
こうしたものづくりは、チームを組んで行うグループワークでもあり、非常にわかりやすい形で進められるプロジェクト活動でもあります。教育的に見ても、あらゆる面で、非常に良い体験になっていることでしょう。
ちなみにマイスターが子供の時に見ていた鳥人間コンテストでは、長距離飛行を目指す人力プロペラ機の部門でも、せいぜい数百メートル飛べば凄い方でした。
今は30km以上飛ぶのですから、つくる方の技術レベルも相当、向上しているのだと思います。
大学のサークルなどで、先輩から後輩に引き継がれている技術やノウハウなどもあるでしょう。
だからこそ、こうした実践の場が減っていくのは、現場で学生を見守り指導している教職員の方々にとっては、残念なことだと思います。
そしてもちろん、学生の皆さんの落胆ぶりは、言うまでもありません。
いくつかの大学の人力飛行機サークルのサイトにアクセスしてみましたが、今回の決定に対するショックを表明しているところがいくつかありました。
何しろ、毎年行われるという前提で、活動をしているのです。中には、このコンテストに出るためだけに生まれたサークルだってあるでしょう。鳥人間コンテストを学生時代の目標にして、大学に入学してきた方も少なくないはずです。
それに、大会のためにチームを編成し、設計を行い、パーツを購入して準備を進めていたのに、中止と言われたら、年間の計画も狂うことでしょう。
人力飛行機を操縦するパイロットを担当する学生さんなどは、ずっと前からこの大会のために自転車などをこいでトレーニングに励んでいると聞きますから、そういった方々も気の毒です。
大学の広報・PRに関わる方々にとっても、大会の中止は痛手でしょう。
先述したものづくり競技大会の中でも、ロボコンと鳥人間コンテストの知名度は抜群です。
ロボコンはNHK、鳥人間コンテストは読売テレビの番組ですが、これらの放送を小さい頃から楽しみに見ていたことがきっかけとなり、結果的に工科系の大学に進学したという人達は、少なくないと思います。
実際、工科系大学のパンフレットでは、必ずと言って良いほどロボコンか鳥人間コンテストについての、学生達の取り組みが紹介されています。
こうしたものづくり競技は、普段学んでいる知識や技術を実践する場でもあります。
大学の教育・研究レベルに関わる競技であるだけに、自校の学生達が活躍すれば、それは結果的に、大学のイメージアップにも繋がるのですね。
ですから工科系大学のオープンキャンパスでは、学生が大会のために制作した人力飛行機やロボットがよく展示されています。
また、こういった大会で自校のチームが好成績を上げれば、大学のTOPニュースとして紹介されますし、ことによると翌年の受験生向け大学案内の表紙を飾ってしまったりもします。
テレビで学生の活躍ぶりが放映される鳥人間コンテストのような場が減ってしまえば、それだけ世間一般に大学をアピールする場が失われるということになります。
パンフレットやwebサイト、オープンキャンパスなどで大学を紹介する素材も、一つ減ってしまうわけです。
……というわけで、誰にとっても残念なニュース。
1ファンとしては、2010年以降も続くように祈るばかりです。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。