マイスターです。
突然ですが、大学改革というのは大変です。
本来、短期的な流行に左右されないことをやるのが大学であり、「変わらない」ことはある意味、大学らしさでもあります。
しかしそうはいっても時代や、社会環境の変化に合わせ、ときには大学も変わっていかなければなりません。現在は、そんな数十年に一度の変化のときなのだと思います。
そんなわけで、学部や施設をいくつか立ち上げるようなレベルだけではなく、各種のシステムや構成員の意識を含め、組織の体質そのものを変えていくことも大事です。
システムを大胆に変えると同時に、地味な取り組みも少しずつ重ね、教員や職員が時間をかけて変わる。その過程で、ようやく大学と、そこで学ぶ学生も変わっていくのかな、と思います。
それは、学部を作り替えたり、建物を整備したりするより、ずっと大変なことです。
さて今日は、こんな取り組みをご紹介したいと思います。
【今日の大学関連ニュース】
■「『結城プラン2009』公表 山形大学長、多彩な目標」(山形新聞)
山形大の結城章夫学長は6日、2009年に取り組む課題と目標をまとめた行動計画「結城プラン2009」を公表した。全国でも珍しい一定の期間を決めた学生アルバイトの採用や、新たな教養教育の組織づくり、有機EL研究の拠点整備など、さまざまな目標を盛り込んでいる。
プランは、山形大版の学長マニフェストで、08年に初めて作成した。その検証では、153項目のうち約82%となる125項目の目標を達成。残りは検討継続課題とし、そのうち、科学研究費補助金獲得など14項目を09年版に再掲載した。
09年のプランは、53項目の課題と達成目標で構成している。教育分野では、新たな教養教育を10年度入学生から行うための準備に入る。「少人数クラス編成で導入教育を行うほか、山形大ならではのコア科目の設定などを考えている」と結城学長。併せて、組織の一元化をはじめ、付属図書館や学術情報基盤センターなど教育研究施設の見直しも図る。
(上記記事より)
最近、大学業界で注目を集めている、山形大学の話題です。
報道されているこの「結城プラン」は、以下で公開されています。
■「結城プラン2009」(山形大学)
他の大学でも、五ヵ年計画などの形で中長期の将来構想をまとめたり、あるいは年間の事業計画を示したりという取り組みは、行われていると思います。
ただ、それが成果につながっている、という実感を教職員一人ひとりがが得られているかというと、必ずしもそうではないようです。
なんだか突然学長名でプリントなどが配られ、「ふーん」と思っているうちに忙しい日常が始まり、いつの間にか記憶から消えてしまう……なんてこともあるのでは。
それを防ぐためにも、こうして毎年わかりやすい形でまとめて、
「昨年のプランのうち、実現させたのはこれとこれ」
「今年一年で実現させたいのはこれとこれ」
……と確認するというのは、地味なようですが、大事なことだと思います。
組織の内部のモチベーションを上げ、目的意識を共有し、「今年はこれをやるぞ!」と意思を統一する。
それでこそ、組織を変え、成果を上げるということが可能になってくるのでしょう。
また、こうした計画が(地元の地方紙とはいえ)メディアで取り上げられるなんてことは、大きな大学でも、あまりありません。
上述のように、大学の公式webサイトで外部向けに発信をしているということも大きいと思いますが、様々な取り組みを経て、山形大学が地元の注目を集める存在になったということも、報道される要因の一つでしょう。
気づけば本ブログでも、山形大学関連の話題を結構、ご紹介していました。
<山形大学関連の記事>
大きな企業は「Annual Report」のような形で毎年の業績をまとめて公開しますが、それはIR、つまり投資家に対して業績を説明するためという意味合いが大きいです。
国立大学法人である山形大学の場合、投資家にあたるのは、学生や保護者、地域社会の方々、あるいは税金という形で間接的に大学に関わっている国民一人ひとりでしょうか。
社会に対する説明責任を果たすという点でも、評価できる取り組みだと思います。
ところで記事でも紹介されていますが、この結城プランで目を引くのは、「アドミニストレィティブ・アシスタント(AA)制度」の仕組み。
山形大の結城章夫学長は6日、記者会見し、今年の大学の行動計画となる「結城プラン2009」を発表した。学生がアルバイトで大学運営スタッフの一員として働く「アドミニストレィティブ・アシスタント(AA)制度」などを盛り込んでいる。
(略)AA制度は学生の修学支援が目的で、学生が大学の企画、運営、社会連携などの補助スタッフとして働き、奨学資金を得る仕組み。賃金はほかのアルバイトの例を参考に決める方針で、約200人を採用する。
結城学長は「ホームページの管理や高校訪問などいろいろな仕事が考えられる。一種のインターンシップ(就業体験)で、教育的な側面もある」と話す。
(
「学校運営で就業体験 山形大学長が行動計画発表」(河北新報)記事より)
インターンシップとして整備すれば、教育的にも良い効果を発揮しそう。
学生支援の意図で、個別に学生を雇用している大学は全国にあると思いますが、これだけ大規模に、かつ全学的な取り組みとして制度化し、教育に組み込むという例はあまりないのでは。
大学の活性化にもつながると思います。これはいいですね。
インターンシップですから、そこで働く教職員の仕事ぶりを見て、学生が社会を学ぶわけです。
教職員にとっても、非常に良い刺激になることと思います。
様々な報道から、山形大学では、色々なことがプラスのサイクルになってまわっているという印象を個人的には受けています。きっと、同じように感じている人は少なくないでしょう。
その背景には、こうして大学が着実に学内の意識を高め、かつ自ら情報を発信しているという事実があるのではないかと思います。
もともと有名な大学や卒業生の多い大学、東京などの大都市圏にある大学などは、それだけでもメディアの注目を集めます。わかりやすい派手な取り組みを行うと、なおさらです。
しかし大学を選ぶ側が本当に「良いなぁ!」と思うのは、実はこの山形大学のような取り組みだったりするかもしれません。
参考になりそうな事例だと思います。
以上、マイスターでした。
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。