マイスターです。
先週は箱根駅伝のことをお伝えしましたが、ぜひ一緒に読んでみていただきたいニュースがあります。
それは年末から朝鮮日報が掲載していた大型特集、「部活と学業」。
日本語版でも読むことができます。
ちょうど箱根駅伝をむかえるにあたり、スポーツと大学の関係を考えていたときに読んだので、マイスターは衝撃を受けました。
【今日の大学関連ニュース】
■「部活と学業:将来に不安を感じる大学生選手(上)」(朝鮮日報)
■「部活と学業:将来に不安を感じる大学生選手(下)」(朝鮮日報)
「大学に入って最初に学んだのは、テスト用紙を使って担当教授に手紙を書くことだった。最初はよく理解できなかったが、先輩たちが“白紙で出すなら手紙でも書いた方がマシだ”とアドバイスしてくれた。テストの代わりにレポートを書こうとしても、周りは運動選手ばかりで、手伝ってくれそうな友人は一人もいなかった。みんな空き缶のようなものだから」
「デパートで“何割引き”と言われても、運動部の奴らはよく分からない。掛け算の九九を正確に覚えているのは何人いるだろうか」
「大学に入っても授業にはほとんど出席できない。2学期でF(不可)が一つしかなければいい方だ。実際、自分たちは卒業さえできればいいのだから。誰もが卒業証書だけに意義を見出している」
「運動部の合宿所生活は、離れ島で暮らすようなものだ。一般の学生と交流することはほとんどない。サークル活動など考えたこともない」
「授業に出席すると、一般の学生たちと一緒にグループ分けされることがある。本当につらい。そのために講義室に入るのをためらい、引き返したことも何度かある。教養科目では授業の内容が理解できず、ボーッとしながら座っているだけだ」
「勉強の習慣がないため、意を決して本を開いてもすぐに挫折する。勉強したくても、地方での大会に出場すれば、本を読む暇などないのが現実だ」
「卒業できるか考えると、目の前が真っ暗だ。プロに進むのも難しいし。大学を中退した仲間も多い。“元スポーツ選手に会いたければ東大門に行け”という言葉もある。実際に服を売っている人も多い」
(以上、すべて上記記事より)
衝撃的なこれらの記述は、韓国で運動部に所属する大学生達のコメントです。
身分は「大学生」でありながら、大学生レベルどころか、一般的な常識レベルの学力すら身につけていない彼ら。
↓その学力に関する調査結果も掲載されています。
■「部活と学業:大学生選手の学力は?」(朝鮮日報)
いったいどうして、こんなことになってしまったのでしょうか。
■「部活と学業:スポーツ部所属は全体の1%、10万2899人」(朝鮮日報)
2007年末の時点で大韓体育会に登録された小・中・高校生および大学生のスポーツ選手は1万7471チームの10万2899人だった。これは児童・生徒および学生総数1064万人の約1%に当たる。内訳はサッカー部に所属する数が2万2793人で最も多く、続いてテコンドー9169人、野球 6145人、陸上5782人の順となった。
これら10万人以上の登録選手は、学生でありながら勉学を行う機会がほとんどないまま放置されている。1986年にソウルで行われたアジア大会や88年のソウル五輪を契機として、競技力の向上に向けた施策が国家レベルで推進された。そのためスポーツ選手が勉学を行う機会はほぼ失われ、それが今に至るまで続いている。学校体育振興研究会の黄水淵(ファン・スヨン)会長は「現在の学校体育の構造は、事実上80年代の延長とみることができる」「学生選手の90%が社会生活に必要な最低限の知的レベルも満たしていない」などと指摘した。現在、教育科学技術部内での学校体育担当はわずか一人の研究者がいるだけだ。
学生選手たちの合宿所は教育の死角となっている。合宿所は各地からやって来る学生選手たちの住居問題を解決するために設けられたものだが、現在は選手を運動のための機械に養成するための施設に変質してしまっている、という非難が相次いでいる。学生選手たちは「合宿所は軍隊と変らない」「合宿所で勉強すると変わり者扱いされる」などと語る。
(上記記事より)
日本の「部活動」は教育の一環として位置づけられており、多くの児童生徒や学生が参加しています。
一方韓国のそれは、ごくごく一部の限られた人を「選手」として鍛えるためのもの。
朝鮮日報の記事の表現を借りると、「スポーツマシンをつくっているだけ」なのだとか。
授業が行われる学期中に、何日もかかる大会が開催されることも多いそうで、本当に「勉強は二の次、まずは練習」という環境なのですね。
そんな生活を子どもの頃から大学、あるいはその先まで送った結果、上述したように必要な教育を受けられなかった選手が大勢生まれてしまっているというのです。
まさに教育の死角。
↓そのあたりの詳細は、これらの記事でレポートされています。ご興味のある方はどうぞ。
■「部活と学業:高1選手の半分が学業成績下位10%」(朝鮮日報)
■「部活と学業:大韓民国の悲しい運動部員たち」(朝鮮日報)
■「部活と学業:『今は“スポーツマシン”を作っているだけ』」(朝鮮日報)
■「部活と学業:勉強禁止!? 練習漬けの子供たち」(朝鮮日報)
■「部活と学業:韓国の高校運動部、合宿所の実態とは」(朝鮮日報)
■「【コラム】勉強すると仲間はずれにされる運動部員」(朝鮮日報)
マイスターは各国のスポーツの成績についてはあまり詳しくありませんが、例えば韓国のサッカーが強いということはよく耳にします。
他にもおそらく、国際的に高い水準を持つ競技があるのでしょう。
ただ、その背景にこんな大変な問題が隠れていたということは、知りませんでした。
プロとして大活躍している選手のことは、日本や他の国でも知られていると思いますが、そこまで行けなかった選手がどうなったかということは、日本のスポーツファンも知らないのではないでしょうか。
日本のスポーツ推薦にも問題がないとは言えないと思いますが、こうした韓国の事情を知ると、あまりのことにびっくりします。
選手達の「学ぶ権利」がどうなっているのかとか、色々と気になります。
そんな韓国スポーツのあり方に対して問題意識を持っている方は国内でもやはり少なくないようで、今回の一連の特集も、現状に警鐘を鳴らす意味があるのだと思います。
さて、この特集で引き合いに出されているのが、日本です。
■「部活と学業:勉強しないと部活動ができない日本(上)」(朝鮮日報)
■「部活と学業:勉強しないと部活動ができない日本(下)」(朝鮮日報)
自律性を尊重する大学でも事情はあまり変わらない。早稲田大は43の運動部に2300人の部員が加入している。ほとんどの種目で大学ランキング1、 2位を占めている強豪チームだが、運動ばかりしていては卒業することができない。早稲田大は毎年80人を推薦入学制度を通じて特待生で募集するが、一般の学生らと同じように管理する。留年したり5年以内に卒業ができなかったりする場合は部活動を行うことができない。規定を守らない学生が出た運動部は、推薦入学の割り当てが縮小または廃止となる。
理工学部4年でボート部の杉山君は「運動部だからといって特別扱いしてくれる教授もいないし、単位で優遇措置を受けたこともない。自分が好きでやっていることだから、大変でも勉強とスポーツを両立させたい」と語った。日本でも、スポーツの推薦入学制が運動部の学生らの学力を低下させ、大学で実施されている授業料免除などの特別待遇制度が大学本来のあるべき姿を喪失させているという指摘がある。しかし日本の学校スポーツは、勉強とスポーツが自然に調和を成すことができるシステムの上に成り立っている。
(上記記事より)
↓このような記事も。
日本のメディアが敢えて取り上げないようなことまで丁寧に取材されています。
(敢えて取り上げないほど、日本では常識になっている、という部分も大きいかとは思いますが)
■「部活と学業:『第二の人生』のためJリーガーも勉強」(朝鮮日報)
■「部活と学業:名門大卒の『フェンシング王子』太田雄貴」(朝鮮日報)
■「部活と学業:『日本語能力が日本サッカーを変える』」(朝鮮日報)
フェンシングの太田雄貴選手って、大学の成績も立派ですね……。
みんながみんなこの大田選手のようではないと思いますが、それはさておいても、日本のスポーツ界が選手の学業を守るため、様々な工夫をしているということはよくわかります。
Jリーグの取り組みについては、↓以前の記事でも取り組みの一端をご紹介させていただきました。
(過去の関連記事)
■ちょっと画期的な、早稲田大学の推薦制度
こうして外国のメディアで、外国の現状と比較されてみると、日本のスポーツの見方もまたちょっとかわってくるのではないかな、と思います。
以上、マイスターでした。
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※韓国でも、現状に対する問題意識のもと、様々な改革が試みられているそうです。
こちらもご参考にどうぞ。
■「部活と学業:専門家ら『学習支援、レベル別授業で』」(朝鮮日報)
■「部活と学業:勉強する選手を育成、竜仁大の試み」(朝鮮日報)
■「部活と学業:合宿所が選手らの休息空間に」(朝鮮日報)
※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。